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ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level6

1 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/07(火) 00:55:57 ID:OAaZA+Uv0
DQツンデレスレへようこそ。
ここは職人方が書いてくれるDQ関連のツンデレなSSに萌えるスレです。
新しい職人さん大歓迎です。SS題材はDQであれば3以外でもおKです。
DQ3の攻略等に関する質問は専用スレでどうぞ。

前スレ
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜  Level5
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1157354640/

過去スレ
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1132915685/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Part2
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1138064814/
ドラクエ3〜そしてツンデレへ〜 Level3
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1142515071/
ドラクエ3 〜そしてツンデレへ〜 Level 4
http://game10.2ch.net/test/read.cgi/ff/1144425198/

まとめサイト
http://www.geocities.jp/game_trivia/dq3/
CC氏まとめサイト
http://www.geocities.jp/tunderedq3cc/

2 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/07(火) 00:58:56 ID:5esJQ4u00
                     . ’      ’、   ′ ’   . ・ 
                    、′・. ’   ;   ’、 ’、′‘ .・” 
                               ’、′・  ’、.・”;  ”  ’、 
                    ’、′  ’、  (;;ノ;; (′‘ ・. ’、′”;
:::::::::::::::::::::::: , -, - 、             ′・  ( (´;^`⌒)∴⌒`.・   ” ;  ’、′・
:::;;;;;;;;;::::::,イ!〃 , ='‐ \__ト,__i、_     ’、 ’・ 、´⌒,;y'⌒((´;;;;;ノ、"'人      ヽ
:::l::::::::Tl'lT_-r-、ィ_‐_7´ l l! l!  |      、(⌒ ;;;:;´'从 ;'   ;:;;) ;⌒ ;; :) )、   ヽ
:::l、:::::::` lヽ_lー〈!_,. - ´j  _ -, !     ( ´;`ヾ,;⌒)´  ⌒ ;) `⌒ )⌒:`.・ ヽ    
:::::\:::::::::!;;l  ̄ l /,ィ ´  /  ;゜+° ′、:::::. ::: >>1 ´⌒(,ゞ、⌒) ;;:::)::ノ 
:::::::::::\::::i、!  ̄ l´ ,ィ ヽ/          `:::、 ノ  ...;:;_)  ...::ノ  ソ ...::ノ  
::::::;;;;;;:::;;;.l:::lヽ‐_7´ ll   ゝ- .,, _ ,,,,,,,,_
;;;;;´//:::(! l!:::::ll   ll ノ  //  :::::::::   ``丶、
:::::,','::::::: ヽ;;;::::!l__,.,. -'´  //   /::::::::      ヽ
::::i l::::::::::::::::::77 ̄      //  ,':::::::          ',
::::!l::::::::::::::::::::l !      ,','   l::::::::::  ,. -―- 、l
::::!l:::::::::;;::::::::::!l   _    !l     '::::::::::::/ , _,、'" ト=、ヽ
::::!l:::: ●.)  !l  (O.)  l !   _. ヽ / /ヽ ', '、 !〈

3 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/07(火) 01:00:35 ID:S5ueFg1w0
>>1乙!
いきなりジーグが来てるwww

4 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/07(火) 02:00:54 ID:7BZ7iHei0
>>1 乙です!!
ありがたや〜

5 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/07(火) 02:05:47 ID:jSfVoBz/0
           ''';;';';;'';;;,.,
             ''';;';'';';''';;'';;;,.,
              ;;''';;';'';';';;;'';;'';;;
             ;;'';';';;'';;';'';';';;;'';;'';;;
          vymyvwymyvymyvy、
      ヽ(゚д゚)vヽ(゚д゚)yヽ(゚д゚)v(゚д゚)っ
 ⊂( ゚д゚ ) と( ゚д゚ ) 〃ミ ( ゚д゚ )っ ( ゚д゚ )つ
   ゝηミ ( ゚д゚ )っ ミ) ⊂( ゚д゚ ) .(彡η r
    しu(彡η r⊂( ゚д゚ ) .ゝ.η.ミ) i_ノ┘
.       i_ノ┘  ヽ ηミ)しu
           (⌒) .|
            三`J
        新スレはここか!

6 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/07(火) 12:00:24 ID:uWjc5HN10
>>1
乙んでれ

7 :YANA:2006/11/07(火) 22:54:02 ID:UGhkEmiq0
あと10ツンデレだけ待ってやらァ
ツンデレ!ツンデレ!ツンデレ!…ヒャア がまんできねぇ >>1乙 だ!

>>2
氏ねぇ!

8 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/08(水) 23:05:25 ID:iCsEbspv0
そろそろ続きが読みたい保守

9 :パイナップルVer1.1 ◆i8W.ORQisc :2006/11/09(木) 18:56:17 ID:jBHH2ARR0
  ∧_∧   ∧_∧   ∧_∧   ∧_∧     ∧_∧
 ( ・∀・)   ( `ー´)  ( ´∀`)  ( ゚ ∀゚ )    ( ^∀^)
 (    つ┳∪━━∪━∪━━∪━∪━∪━┳⊂     つ
 | | |  ┃ この糞スレは終了しました   .┃ | | |
 (__)_) ┻━━━━━━━━━━━━━━┻ (__)_)

10 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/09(木) 20:23:11 ID:MnWu1TzUO
−−−−−ここから良スレ−−−−−

11 :リカルドマルチネス ◆i8W.ORQisc :2006/11/09(木) 21:48:22 ID:Dx/tQmD/O

すぐに落ちそうですね




12 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 00:14:01 ID:RMUYhIuG0
落としはせんですよー
あーうーもういいかー

13 :YANA:2006/11/10(金) 00:22:55 ID:b720aMew0
ああこら勝手に電源落ちるんじゃねぇ相棒保守

14 :CC 10-1/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 02:59:18 ID:RMUYhIuG0
10. Sexuality

 ノックをしても、返事が無かった。
「マグナ、俺だ。いないのか?」
 声をかけてから、扉が薄く開かれるまで、かなり時間がかかった。
 隈を作ったマグナの目が、隙間から覗く。
 カーテンを閉じていて、部屋の中が薄暗い所為もあるんだろうが、ヒドく疲れて見えた。
「ごめん……すぐ出なくて」
「いや、いいよ。リィナは?」
 マグナは、力無く首を横に振る。
 今はまだ午前中だが、このまま午後まで目を覚まさなかったら、もう丸二日眠り続けていることになる。
「シェラは?」
 マグナは、また首を横に振った。
 シェラは一旦起きたらしいのだが、眠り続けるリィナを目にして、再び取り乱してホイミをかけ続けて昏倒してしまったそうだ。それが、昨日のことになる。
 やれやれ、なんとも空気が重苦しいね。
「そっか。お前も、ちゃんと休めよ。どうせ寝てないだろ。看病たって、出来ることに限りがあるんだしさ」
「……分かってる」
 疲れた声出しちゃって、まぁ。
「大丈夫だって。シェラはちょっと無理しただけだし、リィナだって、その内ケロッと起き出して『ご飯〜』とか言うに決まってんだからさ」
「……うん」
「それに、お前まで倒れちまったら、誰がこの部屋の面倒見るんだよ。そん時は、俺が付きっきりで看病しちまうぞ?」
 やらしい手の動きとかしてみせたのだが。
「うん……そうなったら、お願い」
 あっさり肯定されちまった。
 こりゃ、相当まいってるな。
「とにかく、ちゃんと休めよ」
「うん……ありがと」
 パタン。
 扉の閉まる音も心許ない。
 ホントに寝不足と心労で倒れなけきゃいいけどな。やれやれ。

15 :CC 10-2/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:01:17 ID:RMUYhIuG0
 帳場で鍵を預けて、宿屋を出る。
 おととい宿をとった時は大変だった。幸い、おばちゃんが顔を覚えていてくれたので、危惧していた程には不審がられずに済んだが、なにしろ、俺はリィナを、マグナはシェラを背負っていたのだ。
 これでマグナまで気を失ってたら、俺はまるきり少女をかどわかした悪人にしか見られなかったところだ。
 二人をベッドに寝かせて、すぐに良くなるなどと気休めを言い残し、俺が部屋を出ようとした時、マグナが呟いた。
「カンダタ……魔物と組んでたよね」
「……みたいだな」
「あいつ、あれでも人間でしょ?なのに、なんで……」
「そりゃ……金、だろ。あの変態が自分で言ってたじゃねぇか」
 マグナは、急に激した。
「なんでよ!?ホントにそんなことで!?あたしには、魔物を、魔王を倒せってさんざん言っておいて、自分はちょっとお金が欲しいからって、平気でその魔物とツルむの!?」
「いや、おい……」
「なんなのよ……そのせいで、リィナはこうして今も目を覚まさないのよ!?ヴァイスだって……なんなのよ、それ……」
 マグナは手で額を押さえて俯いた。
「ごめん……分かってる。同じ人が言った訳じゃないよ……でも……」
 顔を上げて何かを言いかけて、マグナは首を振った。
「なんでもない。あたしにはもう、関係ないから……」
 それきり、言葉を発さなかった。
 俺もそれ以上は声をかけずに、部屋を後にしたのだった。
 マグナにとって、おとといの戦闘は色々な意味で堪えたらしい。
 先に落ち込まれてしまったが、俺も、なんだか胸の辺りにモヤモヤしたものを抱えていたりする。けど、あんな状態のマグナに、俺まで不景気な面を見せても仕方ないしな。
 自分のウサくらい、自分で処理するさ。

16 :CC 10-3/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:04:17 ID:RMUYhIuG0
 そんな訳で、宿を出た俺は酒場へ向かった。
 ありがたいことに、酒場は昼間から開いていたが、流石にこの時間だとガラガラだ。埋まっているテーブルはふたつだけ。
 一方には、地元の村人と思しき男女が向かい合って座っていた。う〜ん、こっちじゃねぇな。
 俺はカウンター越しに酒場の親父に適当な地酒を頼み、コップを片手にもう一方のテーブルに歩み寄った。
「相席していいか?」
 返事を待たずに、構わず席につく。酒を嘗めながら、反対側に座っている三人を眺めた――この酒、結構強ぇな。
 店に入ってちらりと見た時は、テーブルのこっち側に、もうひとり誰か居たような気がしたんだが、どうも勘違いだったらしい。
 反対側の連中は、恐ろしく怪しげな一行だった。
 俺の左斜め前の席では、呆れるくらい大柄な、ちょっとした山みたいな奴が料理をがっついている。あのカンダタよりも、さらにふた回りくらいデカい。
 全身を厚手の貫頭衣で覆っていて、頭にもフードをすっぽりと被っているので、中身が全く見えないが、こんな大柄な女はいないだろうから、おそらく男で間違いないだろう。
 ご丁寧に、皿を押さえるぶっとい指まで、包帯でぐるぐる巻きにされている。なんかの病気じゃねぇだろうな。
 そいつは皿に顔をつけて喰う、いわゆる犬食いで意地汚く料理を撒き散らしていた。まるで獣だな。そういや、なんか臭いも獣臭ぇ気がするぜ。風呂入れよ。
 右斜め前には、こちらはやたらと小柄なヤツがちょこんと座っていた。同じく貫頭衣とフードで全身を包み、やはり中身は窺い知れない。笑っちまうほど怪しいぞ、こいつら。
 そして、俺の正面には、ひとりだけ顔を出した女が腰掛けていた。
 短い銀髪――というより、間近で見ると、こりゃ白髪か?――の女は、体つきこそやぼったい貫頭衣でよく分からないものの、顔立ちは向こうのテーブルの女より俺の好みだ。
 この女がいなきゃ、こんな奇怪な連中のテーブルには、まず近寄らなかったぜ。

17 :CC 10-4/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:07:07 ID:RMUYhIuG0
「それ、旅装だろ?あんた、地元のヤツじゃないよな。やっぱり旅してんのかい?」
 俺が話し掛けても、女は無表情のまま何も言わなかった。視線はこっちを向いてるから、無視されてる訳じゃないと思うんだが。
「奇遇だな。俺もそうなんだよ」
 やはり返事はない。
 俺は、わざとらしく溜息を吐いた。
「なんとか言ってくんねぇかな。迷惑だったら、大人しく退散するからさ。それとも……誰かに余計なことは喋るなって命令されてる、とか?」
 俺の大胆な予想――というか、空想によると、女の両脇の変人共は人買いの類いだ。
 ちょいと助けてやれば、この女とイイ事できるかも知れねぇ。そんな風に、俺は期待しているのだった。
 スティアみたいないい女の据え膳をバカみたいに辞退しておいて、自分でもなにやってんだと思うが。
 そもそも、こんな空想自体、普段だったら歯牙にもかけないというか、思いつきもしないんだが。
 俺は今、ちょっとオカシイのだった。
 カザーブに戻ってからこっち、性的欲求が異常に高まっている。
 おそらく、死にかけたせいだと思う。自分でも意識できない部分で精神がヒドく昂ぶっているのか、それとも死なない内に子孫を残せと本能がせっつくのか。
 前に死にかけた時も、こんな感じだった覚えがある。
 放っておいても、じきに落ち着くと思うから、俺の妄想がまるで見当違いだったとしても、別にいいのだ。というか、むしろ当たったら、そっち方が吃驚だ。
 けど、どういう筋書きであれ、思いがけずに上手くいって、名前も知らないこの女とちょっと愉しむことになったとしても、それはそれで構わない、と考えてしまう自分を、今日は抑えられなかった。
「なぁ、あんたら。この子、ちょっと借りてもいいかい」
 両脇の奇人は、俺を完全に無視した。大柄なヤツは料理をがっつくだけだし、小柄な方もぴくりとも動かない。
 どうにも話になんねぇな。壁に向かって話し掛けてんじゃねぇんだからさ。
「文句ねぇなら、連れてくぜ。ちょっと場所変えて話でもしないか」
 俺が促しても、女は無表情のまま動こうとしなかった。

18 :CC 10-5/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:09:38 ID:RMUYhIuG0
「こいつらが邪魔なら、俺が追っ払ってやるからさ。なんとか言ってくんねぇかな」
 しかし俺も、相当勝手なこと言ってんな。
 それでも、女は何も反応を示さなかった。
 視線はこっちを向いているが、俺を見てるのかどうかすら怪しい。
 なんか、面倒臭くなってきた。両脇のヤツらにメラでも喰らわせて、女を攫っちまうか。って、そんな訳にはいかねぇよな、さすがに。どんだけ無法者だよ。
「なぁ、おい――」
「すみませんね。ルシエラさんは、あまりお喋りが得意ではないんですよ」
 いきなり横手から話し掛けられて、俺は驚いて椅子からズリ落ちそうになった。
 俺の左隣りの席に、それまで確かに存在しなかった男が、唐突に出現していた。フードの下で、にこやかな笑顔を浮かべている。俺の慌てふためく様が、そんなに面白かったか、この野郎。
「なんだ!?あんた、いつからそこに――」
「はい?さっきから、ここにずっと居ましたよ」
「嘘吐けよ」
「いや、本当なんですけどね。信じられないのでしたら、では、そうですね。厠に行って席を外していたということで、ご納得ください」
 納得できるか。そんな気配は、微塵もなかったぞ。
「冗談ですよ、冗談」
 にこやかな表情そのままに、男は笑い声をあげた。何が冗談なんだか、さっぱり分からねぇ。
「ところで、少々お尋ねしたいのですが」
「……なんだよ」
「ああ、いえ。これは、お会いした皆さんに伺っていることなんですけどね」
「だから、なんだよ?」
「シャンパーニの塔に巣食うカンダタという悪党を退治した人達について、何かご存知ありませんか」
「知らないね」
 即答してやった。
 だが、こいつ誰だ?俺達に、何の用だ?何が目的だ?
「そうですか。なら、ロマリアの方に居るのかな」
 つか、なんでこいつが、その話を知ってやがるんだ?
 まさか、カンダタ自らが俺達に背を見せたことを喧伝したりはしないだろう。ああいう連中は、面子を何より重んじるもんだからな。
 しかし、俺達がカンダタの元に向かったのを他に知ってるのは、ロラン達ロマリアのお偉いさんと、子飼いのスティア達くらいな筈だ。そこから噂が立つというのも、考え辛い。

19 :CC 10-6/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:12:39 ID:RMUYhIuG0
 俺は、ちょっと探りを入れてみることにした。
『どこで、その話を聞いた?』
 だと、こっちも事情を知ってることになっちまうな。
 なら――
「……なんで、そいつらを探してるんだ?」
 韜晦されるかと思ったが、男はあっさりと答える。
「いえね、私は――そうですね、言わばスカウトのような仕事をしておりまして。さるお方の為に、強い方々を探して集めているのです。それなりに名の通ったカンダタを退けた人達であれば、かなりの実力者に違いありません。それで、是非ともお会いしたいという訳です」
「ふぅん。その、さるお方ってのは?」
 気の無い素振りで聞いてみたのだが。
「それは、言えません」
 男はにやにやしながら、返答を拒否した。
 こいつ、表情が全然変わらないから、まるで腹の内が読めねぇな。胡散臭い野郎だ。
 会話が少し途絶えて、後ろのテーブルの話し声が、聞くともなしに耳に届く。
「だからね、その村はエルフを怒らせちゃったから、村中眠らされたわけ!」
「それは、もう何度も聞いたよ。でも、どこかに眠りの村があるなんて、僕にはやっぱり信じられないよ」
 かなり興奮している女の様子に、男の方はうんざりしているようだった。
「あ〜ヤダ。あんたって、ホントに夢がないわ。なんでこんなのと一緒になっちゃったんだろ」
「そんなこと言うなよ。それとこれとは関係ないだろ。大体、しつこいんだよ、お前は」
「しつこいって何さ、しつこいって!」
「だって、そうじゃないか。最近は、いつもこの話で喧嘩になってるってのに、一向に止めようとしないんだから」
「分ぁかったわよ。もうあんたには喋んない。どうせ、いっつも同じことしか言わないんだから、面白くないったらありゃしない」
 どうやら夫婦者みたいだな。向こうの女を引っ掛けないでよかったぜ。
「今の話、本当だと思いますか?」
 にやけ面が、不意に俺に問い掛けた。
「エルフがどうのってか?世迷言だろ」
「そうでしょうか。その存在は、多くの伝承に散見されますよ。吟遊詩人の歌にも、よく登場するじゃありませんか」

20 :CC 10-7/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:16:09 ID:RMUYhIuG0
「連中の戯言なんか、当てになるかよ」
「かも知れませんが――彼らの語り継ぐところによれば、エルフは寿命が尽きるという事が無い程の長寿のようです。それが本当ならば、さぞかし物知りなのでしょうね。ひとつの村の住人を丸ごと眠らせてしまう不思議な術も、長寿が培った知識の賜物でしょうか」
 おばあちゃんの知恵袋に、そんな知識が入ってるとも思えないが。
「それに伝承ではなく、こうして彼らの存在を示唆する噂が実際に流れているのです。実在する可能性は高いと思いますよ。長寿ひとつ取っても、人間以上の存在といえる彼らが、もしどこかに居るのなら、是非ともお会いしたいものですね」
「仲間に引き込もうってのか?まぁ、万が一見つけた時は、あんたも眠らされないように、せいぜい気をつけるこったな」
「ご忠告、痛み入ります――さて、食べ終わったようですね。では、そろそろ行きましょうか、みなさん」
 男が立ち上がると、反対側に座っていた連中も全員腰を上げた。
 結局、俺の空想は大外れか。怪しげな連中には違いないが、人買いという訳でもなさそうだ。いや、元から当たってるとは思ってなかったけどさ。
 カウンターの向こうの親父に金を払って、男は胡散臭い笑みを顔に貼り付けたまま、俺に軽く会釈して店を後にした。
 他の連中は、こちらに目もくれない。ルシエラとかいう女もだ。
 まぁ、欲情に任せて暴走せずに済んで、良かったかな。ヘンなことしてたら、その後マグナ達と顔を合わせる度に、妙な罪悪感を覚えちまいそうだ。なんで罪悪感なんて覚えるのか、自分でも納得いかないんだが。
 後ろのテーブルでは、なにやら喧嘩が起こっていた。旦那の方が、乱暴に椅子を鳴らして席を立ち、足音も荒く店を出て行く。
 ほどなく、親父と少し世間話をしてから、女房の方も出ていった。
 俺は、ほっと胸を撫で下ろす。今日の俺は、夫婦者と分かってても声をかけ兼ねないからな。いくらなんでも、それはマズいだろ。
 それにしても、憂さ晴らしに来た筈が、新たな悩みの種を抱え込んじまった。あのにやけ面は、一体何者だ?なんだか面倒な事にならなきゃいいんだが。
 まぁ、もしまた会っても、無視すりゃいいだけの話か。
 全然胸のモヤモヤが晴れないまま、他に誰も居ない淋しい酒場で、俺はちびちびとコップの酒を嘗め続けた。

21 :CC 10-8/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:18:14 ID:RMUYhIuG0
 酒場を後にすると、こんな辺鄙な山村に他に時間を潰すような場所はない。
 今日はやっぱり、宿屋で大人しくしてた方が良いかな。女と見れば、手当たり次第に声をかけちまいそうだ。後でマグナ達に知れたらバツが悪い。
「お兄ちゃん、ちょっといいかい」
 元来た道を引き返す途中で、道具屋の親父が、俺に声をかけてきた。
「あんた、酒場に行ってきたんだろ。若夫婦がいなかったかい?」
 さっき喧嘩してた奴らのことか?
「ああ、夫婦モンは居たぜ」
「やっぱりな。いつも昼時分は、あすこで飯を食うんだ、あの夫婦」
 知らねぇよ。
「それであの二人、何か話してなかったかい?エルフがなんだとか」
「ああ、そんなこと喋ってたな。よく聞いてなかったけど」
「やっぱりなぁ。ジツはね、その話はアタシがあすこの奥さんに教えたんだけどね、それであの二人がしょっちゅう喧嘩してるみたいで、困っちゃってんのさ」
 ははぁ。あの世迷言は、あんたの入れ知恵か。
「少し前までは、近所でも評判のおしどり夫婦だったもんだから、アタシも責任感じちゃってさ」
 だから何だ。
「それでさ、あんた、旅の人だろ?」
 つまるところ、親父の話はこうだった。このカザーブから、さらに北に上がった何処かに存在すると伝えられる、村人全員がエルフに眠らされた『眠りの村』とやらがあるのかどうか、確かめてきて欲しいと言うのだ。
「もちろん、タダとは言わないよ。あんたも旅の人なら、道中じゃ魔物に苦労してるだろ?」
「そりゃ、まぁな」
「そこでだ、『眠りの村』のことを確かめてきてくれたら、ウチのとっときの商品を、あんたにあげようじゃないか」
「とっておき?」
「そうそう。どんな魔物も一撃で倒すって代物だよ」
「一撃だと?そんな都合のいいモンあるのかよ」
「それがあるんだわ。その名も『どくばり』」
 毒かよ。
「もっとも、正確に急所を突かなきゃ、まるで効かないんだけどね。でも、役に立つと思うよ」
 毒針ねぇ。剣も振れない魔法使いの俺には、うってつけかも知れないが。
「ま、考えとくわ」
 俺は親父に片手をあげて、その場から離れた。この先どうするかは、俺の決めることじゃねぇしな。
「頼んだよ〜」
 親父の声が追ってくる。考えとくって言っただろうが。俺は、頼まれた覚えはねぇからな。

22 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/10(金) 03:20:35 ID:e6U5AavRO
見てるよ支援

23 :CC 10-9/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:20:41 ID:RMUYhIuG0
 宿屋に戻った俺は、建物の脇に慣れ親しんだ顔を見つけて、思わず駆け寄った。
 リィナだ。ほらな。あいつが、あれ位でどうにかなる訳がねぇんだ。
「おい、リィナ……」
 呼びかけようとして、途中で止めた。
 集中している様子なので、邪魔をするのが憚られたのだ。
 リィナは、ヒドくゆっくりとした動作で、深く息を吸ったり吐いたりしながら踊っていた。
 いや、踊りじゃないんだろう。緩慢に流れるような一連の動作は、武術の動きを確認しているみたいに見える。
 手足の指先まで神経の通った、それでいて固く緊張するでなく、柔らかく流麗な動き。
 見ていて、なんだか心地良い。
 最初は、純粋に感心していたのだが。
 無意識の内に、俺の視線は、ある一点に釘付けにされていた。
 いや。その、さ。リィナがゆったりと身を動かす度に、たゆんたゆん揺れるのだ。豊かな胸が。上半身は丈の短い肌着だから、またそれが良く見えるんだ。
 湯浴みでもしたのか、下ろしたままの黒髪がまだ乾いておらず、肌着が水気を吸って上の方が微妙に透けていたりする。
 ヤベェよ、コレ。今の俺には目の毒だ。
 なんとか視線を引き剥がそうと努力していると、リィナが急に素早く動いた。
 空中で左右の蹴りを繰り出し、着地と同時に胸を掌で押さえる。
「あいたた、やっぱサラシ巻かなきゃダメだ」
 俺は、唾を飲み込んだ。だって、お前、すげぇ柔らかそうな胸に指が食い込んで――いやいや、何考えてんだ。
「よう、もういいのか」
 ごく普通な感じに発声できた――と思う。
「うん、お陰様で」
 俺の存在にはさっきから気付いていたらしく、驚いた様子もなくリィナは答えた。
「なにしてたんだ、今の」
「ん?ただの腹ごなしだよ」
 やっぱり、起きてすぐ飯を食ったんだな。
「ボク、二日も眠ってたんだって?どうりで、あんまり体がいうこと聞かない筈だよね〜。ちょっと床擦れもしちゃったよ」
 背中に手を回したリィナは、小首を傾げて俺を見た。
「……どうしたの?ヴァイスくん、なんか今日は目つきが怖いよ?」
 うぐっ。
 こいつなら、頼めば揉ませてくれるかも、とかチラと頭の片隅で考えちまった自分を、ぶん殴りたくなる。

24 :CC 10-10/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:24:07 ID:RMUYhIuG0
「そ、そんなことねぇよ。それは、ほら、お前のことが心配で、あんま寝てなかったから……」
「ホントにぃ〜?」
「いや、ホントだって。部屋も違うから、具合もいまいち分かんねぇしさ。ひとり不安で眠れない夜を過ごしてた訳よ」
「なんかヴァイスくんの言うことって、ウソっぽいんだよね〜」
 仰る通りだが、今回は嘘じゃねぇぞ。
「ホントに心配してたって。まさか、お前が二日も寝込むような怪我を負うなんて、想像したこともなかったしさ」
 リィナは、丸出しのヘソの辺りを触った。だから、もっとちゃんとした服着ろっての。ついじっくり見ちゃうじゃねぇか。
「怪我自体は、シェラちゃんのお陰で、とっくにすっかり治ってたんだけどね」
「そうなのか?――っていうか、お前、よく大丈夫だったよな。あの時は、真っ二つにされちまったかと思って焦ったよ」
「あー、あれね。普通は、あんな無茶な防ぎ方しないんだけどね」
 頭の後ろに手をやって、リィナはあははと笑った。あんな目に遭っても、相変わらず軽いな、こいつは。
「あの時は、どうやっても斬られるって分かってたから、せめて斬られる場所を誘導したんだけど……上手く弾けたのは、運が良かったよ」
「そう、それ。どうやって、あのニックって奴の剣を弾き返したんだ、あれ?腹になんか仕込んでたのか?」
「別に何も仕込んでないよ――ん〜、どうって言われてもなぁ」
 リィナは、腕組みをした。あんまり考えてる顔には見えなかったが。
「ヴァイスくんも、『どうして呪文を唱えると火が出るの?』ってボクに聞かれたら、困っちゃうでしょ?」
「……まぁな」
 門外漢には理解できないということか。
「ん〜、そうだなぁ……」
 リィナは足元に落ちていた小枝を拾い上げて、俺に渡した。
「ほい。そっちの尖った方で、ボクのお腹を突いてみてよ」
「おいおい、折角治ったばっかなのに、ンなことできるかよ」
「大丈夫だいじょぶ。ほら」
 だから、丸出しの腹を突き出すんじゃない。傷跡が残ってないみたいでよかったが。
 再び促されて、俺は仕方なく、おそるおそるリィナの腹に尖った枝先を当てた。
「もっとぐっと押して。背中まで突き抜けるくらい」
 怖いこと言うな。くそ、どうなっても知らねぇぞ。

25 :CC 10-11/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:27:12 ID:RMUYhIuG0
 食い込んだ枝先を中心に、リィナの腹の皮膚がすり鉢状に陥没して、ぞっとしない感触が枝を握った手に伝わる。
「力ゆるめないで。そのまま強く突いて」
 リィナの台詞を違う意味に脳内で変換したりしながら――どうにもしょうがねぇな、今日の俺は――やけくそ気味に枝を押し込む。
 フッ、と鋭い呼気をリィナが発した瞬間。
 俺の二の腕くらいの長さの枝は、凄い力で押し返されて、真ん中からぐにゃりと曲がると、そのままバキリと折れた。
 枝先を押し付けていた箇所が若干赤みを帯びていたが、リィナの肌に傷はついていなかった。
「まぁ、こういうことができるように、躰を作ってあるんだよ」
 俺は思わず――ホントに無意識にリィナの腹を触った。
 うひゃ、とか言って、リィナは跳び退る。
「くすぐったいってば」
「あ、ああ、悪ぃ」
 こういうこと、って言われてもな。触った感じは、普通の女の肌みたいに柔らかいぞ。なんでそんなこと出来んのか、よく分かんねぇ。
「そんな訳で、剣そのものは弾けたんだけど……ん〜、何て言えばいいんだろ。剣に込められた殺気にあてられちゃったんだよね、簡単に言うと」
「それで、二日も寝込むモンなのか」
「うん。ボクみたいな非力な女の子は特に、体の内側で頑張って力を練らないと勝負にならないのね」
 非力って。お前が非力なら、俺は無力だっての。
「その内側で力を作る流れを断ち切られちゃったっていうか――う〜ん、上手く説明できないなぁ。とにかく、ダメージがシンに残っちゃったんだよ。あのニックって人、凄い使い手だったから。まぁ、次はボクが勝つけどね」
「俺は、次が無いことを願ってるけどな」
 できれば、二度と相手にしたくねぇよ、あんな物騒な奴。
「でも、良くなったみたいで安心したよ」
「うん、もう大丈夫。後は何回かご飯を食べて眠って体動かせば、すっかり元通りだよ」
 動物かよ。こいつらしいが。
「――そういや、マグナは?」
「ボクが起きた時には、もうフラフラだったから、寝かせといた。付きっきりで看病してくれてたんだってね」
「みたいだな。少しは寝ろって、何回も言ったんだけどさ」
「なんか、みんなに心配かけちゃったみたいで、ゴメンね」
「何言ってんだ。こっちは、いつも世話になってんだ。タマには心配くらいさせろよ」

26 :CC 10-12/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:29:44 ID:RMUYhIuG0
 世話になったと言えば。
「そうだ。そういや、お前、あの時――」
 なんで武闘家なのに、ベホイミを唱えることができたのか。リィナは、皆まで言わせなかった。
「あーうん。そっちのことなんだけど……ちょっと待ってくれないかな」
 珍しく視線を下に落として、言い辛そうにする。
「……後で、ちゃんと話すから」
 後って、どのくらい。とは聞かなかった。
「ああ、分かった。お前がそう言うなら」
 こいつが何者かっていうのは、もう分かってる。
 俺の、命の恩人だ。
 それ以上のことは、こいつが自分から話す気になってからで充分だ。
「ありがと。感謝するよ」
 馬鹿野郎、感謝するのはお前じゃねぇよ。
「さてと。ボクはもうちょっと体をほぐしてくけど、ヴァイスくんも一緒にやる?」
「バカ言え。お前の運動に、俺がどう付き合えってんだよ」
「うん?ひとりじゃできない柔軟したりとか。こう、背中合わせでお互いに手を持って、背筋の伸ばしっことかすると、すごい気持ちいいよ」
「……いや、やめとくわ」
 大変に魅力的なお誘いだが、今の俺じゃ別の意味で気持ち良くなっちまいそうだ。
「そう?まぁ、やりたくなったら、いつでも言ってよ」
 ありがたい申し出だね。落ち着いたら、是非ともお願いしたいもんだ。
「ああ、頼むよ――リィナ」
 リィナが身を翻して柔軟をはじめる前に、俺は思い切って呼びかけた。さっきから言おう言おうとしていたのだが、とうとう口に出来ずにいた事を言う為に。
「ん?なに?」
「えっと、あの、さ……」
 お前が二日も寝込んじまうような怪我を負ったのは、俺のヘマの所為なんだ。そして、俺が命拾いしたのは、お前のお陰だ。
 思うように言葉が出ない自分に驚いた。俺は、本気で礼を言うのが、こんなに苦手だったのか。
 リィナは、何も言わずに俺が口を開くのを待っていてくれた。
「その……ごめんな。そんで……ありがとう」
 脈絡の無い台詞だったと思う。これじゃ、何を謝ってるのか、何の礼を言っているのか分からない。でも、リィナは「何が?」とか「どうしたの、急に?」なんて聞き返さずに、ただ一言、こう言った。
「どういたしまして」
 にこっと笑う。
 それは、思わず惚れちまいそうになるほど、いい笑顔だった。

27 :CC 10-13/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:31:30 ID:RMUYhIuG0
 部屋に戻ってベッドに横になった俺は、実際に寝不足気味だったこともあり、いつの間にやらウトウトとしていたらしい。
 忙しなく扉を叩く音に起こされた時には、カーテンを開けたままの窓の外は、もう真っ暗だった。
「ヴァイス!!居ないの!!」
 切羽詰った声。
 手探りで灯りをつけて扉を開けると、マグナがまろび入ってきた。
「やっぱり……ここにも居ない」
「いや、居るけど、ここに」
 俺が見えない訳じゃなかろうに。
「違うの。シェラが居ないの。居なくなっちゃったのよ!」
 なんだと?
「リィナが目を覚まして、安心しちゃって……あたし、寝ちゃったのよ」
「ああ。お前、ちょっと眠った方が良かったんだって」
「でも!起きたら、シェラが居なくて……こんなのが置いてあって……」
 マグナは、握り締めていた紙片を俺に見せた。
『お世話になりました。ありがとうございました』
 そこには短く、そう書かれていた。
「リィナは?」
「まだ、部屋に戻ってないの。どうしよう、シェラまで……」
 真っ青な顔をして、膝をかくんと折ったマグナを、慌てて支える。
「どうしよう……あたし、独りになっちゃう……」
 俺の服にしがみついた手が震えていた。
「落ち着け。独りな訳ないだろ。俺も、リィナもいるじゃねぇか」
 マグナは、呆然として俺を見上げた。
「……そっか。そうだよね。そうだった」
 長い溜息を漏らす。
「お前、疲れてるんだ。だから休めって言っただろ。ほら、ちょっと座れよ」
 俺は、マグナをベッドに腰掛けさせて、隣りに座った。
 マグナは両手で顔を覆って、ふるふると首を振る。
「ごめん……どうかしてた。ヴァイスもリィナも死んじゃったみたいな気がして……」
「ヒデェな」
 俺は笑ったが、マグナはくすりともしなかった。

28 :CC 10-14/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:33:42 ID:RMUYhIuG0
「ホントだよね……ちょっと疲れてたみたい。夢とか頭の中で考えてた事と、現実がごっちゃになっちゃって……」
「大丈夫だ。俺もリィナも、ちゃんと生きてるから」
 マグナは、頭を抱えて小さく頷く。
「そんなに堪えてたのか。この前のこと」
「うん……そうみたい」
 この取り乱し振りは、大半は寝不足が原因なんだろうけどな。少しは眠ったみたいだが、まだフラフラだぜ、こいつ。
「でも、冒険者なんてやってたら、案外当たり前に出くわす場面だぜ。ああいうの」
『つまり、お前には覚悟が足りないんだ』
 遠い記憶から浮かび上がった台詞が、頭の中でリフレインする。
「……あれが当たり前だっていうの!?ヴァイスが、リィナが死んじゃうかも知れなかったのに、それを当たり前に……何でもないみたいに受け止めろっていうの!?」
 マグナは、真っ直ぐ俺を見上げた。
 悪い。考え無しの台詞だった。単なる受け売りだよ。だから、そんな目で見ないでくれ。
 そうだよな。そんな簡単に、覚悟だなんだと割り切れるモンじゃねぇよな。
 多分、お前のが正しいんだ。俺も、そう思う。
「ヴァイスは……なんで、平気なの?」
「へ?」
「だって、おととい……死にかけたばっかりなんだよ?それなのに、すごく普通に見える」
 いや。実際は、それほど普通じゃなくて、昼間は困ってた訳ですが。
「何事にも動じない性格でもないでしょ。なのに、どうして?あたし、あれから色んなこと考えちゃって……凄く嫌なことも思いついちゃったの。聞くつもりなんてなかったんだけど、ダメ、我慢できない。聞いてもいい?」
「ああ」
「あのね、すごく否定して欲しいの。ごめんね、自分が安心する為にこんなこと聞いて。その……ヴァイスは――」
 マグナは自分を落ち着かせるように、一呼吸置いた。

29 :CC 10-15/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:35:56 ID:RMUYhIuG0
「自分はいつ死んじゃってもいいや、って思ってない?」
 俺は、即答できなかった。
 その通りだったからだ。
 別に積極的に死にたいと思っていた訳じゃない。お世辞にも、意気地のある方じゃないからな。ナイフでも突きつけられて脅されれば、見っとも無く命乞いのひとつもしてみせるタイプだ。
 だが、どうしようもない死に直面した時――俺は、何がなんでも生き延びたいと強く願うよりは、諦めたんじゃないかと思う。死んだら死んだで仕方ない。ギリギリの際のキワでは、そんな風に諦める方に傾いた。以前、死に直面した時は。
 何故なら――
「……そうだったかも知れねぇよ」
「ヴァイス!?」
 己に価値を、見出せなかったから。
 いや、価値だとかなんだとか、そんな大層な話じゃないんだ。要するに、自分が存在していようがいまいが、死のうが生きようが、どっちだろうと大した違いはない。そう思っていたのだ。
 どうせ自分は誰にも何も影響を及ぼさない。そんな風に、自分を突き放して見ていたように思う。自暴自棄という感じでもなく、多分、極めて冷静に。
 実際、そうだった筈だ。
 俺とは繋がりの希薄な実家の記憶。そこで学んだ、期待し過ぎないという処世術を、家を出た後も後生大事に抱き続けた。他人と薄っぺらい関係しか作れなかった俺のことなど、一体誰が気にかけるだろう。
 俺は自分を哀れんじゃいない。俺みたいな考えの持ち主は、世に溢れている筈だ。よくある話。ありふれた、普通のこと。
 だが――
「まぁ、待てよ。そう『だった』って言っただろ。今は、そんなこと思ってねぇよ」
 そうなのだ。あれは、自分でも意外だった。
 俺は、あの時――死にたくない。そう願ったのだ。
 俺は、少しづつ変わっているのだろうか。
 もしかしたら、こうして真っ直ぐ俺を見つめるこいつに出会えたのは、とても幸運なことだったのかも知れない。
 なんて、大袈裟だよな。
「本当に?」
「ああ。本当に本当だ」
 柄にもなく真剣な顔をして頷いてしまったことに気がついて、すぐにおどけてみせる。
「それに、勝手に死ぬなんてこと、マグナが許してくれないだろ?」
 マグナは疲れた顔に、ようやく少し笑顔を浮かべた。

30 :CC 10-16/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:37:13 ID:RMUYhIuG0
「そうよ。あんたは、あたしの目の届くところに居なきゃいけないんだから。それが死出の旅路につくなんて、契約違反もいいとこだわ。絶対、許さないんだから」
「肝に銘じるよ」
 横道に逸れた話が落ち着いた途端に、マグナは本来の目的を思い出した。
「――そうだ、こんなことしてる場合じゃないわ。シェラを探さなきゃ!!」
 話が済んだら、もう『こんなこと』呼ばわりかよ。いや、別にいいんですけどね。
 立ち上がりかけたマグナの肩を、俺は押し止めた。
「いいから、お前は休んでろ。どうせ大して寝てねぇんだろ。まだフラフラじゃねぇか」
「でも――」
「いいから。俺に任せとけ。心当たりが無いでもねぇしな」
「そうなの?」
「要するにこいつは、ちょっとした家出みたいなモンだろ?心配しなくても、ちゃんと戻ってくるよ、シェラは」
「……分かった。お願いね。実は、さっきから頭がクラクラして、地面が揺れてるの」
「ゆっくり休んでろよ。お姫様は、俺が連れ戻してやるから」
 部屋から出ていきかけた俺の背中に、マグナが問い掛ける。
「……シェラがお姫様なら、あたしは?」
 なにいきなり軽口に反応してんだ、こいつは。
「そりゃ……女王様、かな」
 マグナは唇をぶーと鳴らした。
「あたしも、お姫様の方がいい」
「いいから寝てろ、お前は」
 それ以上、何かを言われる前に、俺は扉を後ろ手に閉めた。

31 :CC 10-17/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:43:15 ID:RMUYhIuG0
 心当たりと言っても、非常に頼りない、単なる思い付きだったんだが。
 シェラは、その場所で蹲って、抱えた膝に顔を埋めていた。
 肝試しをした時に、俺と並んで話した、墓地の中だ。
 近づいても、シェラは顔を伏せたまま動こうとしなかった。
 俺も、何も言わずに隣りに腰を下ろす。
 あの時と並びは逆だが、星空は同じ。というか、違いが見分けられるほど、星に詳しくない。
 月の位置は、もうちょっと高かったかな。
 ともあれ、軽い既視感に襲われるには充分なくらい、似たような状況だった。
「どうして……ここに居るって分かったんですか」
 やがて、シェラが下を向いたまま呟いた。
「絶対、見つからないと思ったのに」
 あんだけ怖がってたもんな。自分からこんなトコに隠れるなんて、普通は思わないだろうな。
「いやほら、俺って魔法使いだし」
 山勘ですが。
「……なんですか、それ」
 シェラが、微かに笑ったように思えた。
 さて、勘が見事に的中したのはいいが、ここから先は何も考えてない。なにしろ、俺も半信半疑どころか、ほとんど期待してなかったからな。
 まぁでも、シェラの考えてることは良く分かる。と思う。今の俺には。
「なぁ、聞いてくれるか」
 こうなりゃ、出たトコ勝負だな。
「お前にしか、話せねぇんだ」
 返事は無かったが、俺は実際に話したくなっていたので、そのまま続けた。
「シャンパーニの塔で変態共とやり合ってから、ずっとモヤモヤしてるんだ。なんか、ホントに情けなくてな。だって、そうだろ?ウチの女共は体を張って前衛で頑張ってたのに、俺ときたら後ろで呑気に呪文を唱えてただけなんだぜ」
 カンダタに迫られた時の、あの情けない感覚。
「それどころか、俺のヘマの所為で、リィナに怪我まで負わしちまった――まぁさ、魔法使いってのは、前衛に護られてナンボだよ。それを承知でこの職業に決めたんだから、こんな悩みは今さらだよなぁ。それは分かってるんだ」
 冒険者になってから、こんなことで悩んだ覚えは一度たりとてなかったんだが。
「これから武器の扱いを覚えようにも、モノになるまでには随分かかるだろうし、そんな暇があったら新しい魔法を覚える努力をした方がマシだってことも分かってる」
 嫌ってくらい分かってるんだが。

32 :CC 10-18/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:45:37 ID:RMUYhIuG0
「でもさ、やっぱり男としてどうなのよ、とか思っちまうんだ。女の尻に隠れて、こそこそ呪文を唱えるだけってのはさ。だって、いつでも先に傷つくのは――あいつらの方だろ」
 後ろに引っ込んでちゃ、身を挺して守ることすらできやしない。
「俺はさ――本当はあいつらを、カッコ良く守ってやりたいんだよな、多分。けど、現実はまるきり逆だろ。俺が魔法使いとしてもっと成長したとしても、この構図は変わらない。どんなに頑張ったって、魔法使いである以上は無理なんだ」
 それとも、イオナズン辺りを使えるようになれば、少しは話も違ってくるのだろうか。
「もちろん、イチから戦士とかに鞍替えしようだなんて思わねぇよ。向きじゃないしな。魔法使いとして成長した方が、よっぽど役に立つと思うしさ。けど、なんかモヤモヤしてんのは、消えねぇんだ。分かってんだけどさ――まぁ、要するに愚痴だよ、愚痴」
 だから、お前も愚痴があるなら吐き出しちまえ。
 みたいなつもりだったのだが。
 ちょっと失敗だったかも知れない。このまま黙っていられたら、俺が情けないだけじゃねぇか、これ。
 二人して落ち込んで、どうしようってんだ。
 そんな俺のふがいなさに、同情した訳でもないんだろうが。
「……私、あの時、本当はもっと前から気がついてたんです」
 ややあって、シェラは静かに口を開いた。
「でも、怖くて動けなかった……やっと階段を上がったら、ヴァイスさんがやられてて、リィナさんも……」
 シェラは、両手で頭を抱えた。
「私、本当に駄目な人間です。折角、ヴァイスさんにここで励ましてもらって、もっとちゃんとしようって決心したばかりだったのに……本当に、自分が嫌です。なんで、こんななんだろう。いつでも、ずっと誰かに迷惑をかけることしかできないなんて……」
 戦闘に関する事だけを言ってるんじゃない気がした。
「もう自分が許せそうにないです。でも、きっとヴァイスさんもマグナさんもリィナさんも、みんな許してくれちゃうから……だから……」
「家出したのか」
「私なんか、居ない方がいいんです。どこにも居ない方がいいに決まってます」
 とは、穏やかじゃないね。
「でも、最終的にはリィナにホイミかけられただろ。あれには、結構驚いたぜ」

33 :CC 10-19/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:48:07 ID:RMUYhIuG0
「あんなの……もっと最初から、ちゃんとしてれば……」
「いや、どうだろうな。あのタイミングでシェラがいきなり出てきたから、俺達全員が助かったって見方もできると思うけどな」
 本心なんだが、こんな結果オーライみたいな言い方じゃ、慰めにもなんねぇかな。
「まぁ、なんだかんだ言っても、結局は自分に出来ることをやるしかねぇよ。僧侶なんだから、シェラの方があいつらを守ってやれるんだしさ。迷惑かけたくないってんなら、今、僧侶がいなくなる方が、よっぽど迷惑だと思うだろ?」
「それは、他の――」
「他の誰かと入れ替えりゃいい、なんて言うなよ?ウチの僧侶は、お前なんだ。俺も、ウダウダ余計な事は、もう考えねぇから、お前も腹くくれよ。それに、今さら別の奴を仲間にするなんて、マグナが認めねぇよ。もちろん、俺もな」
「……」
「大体、シェラが居なくなっちまったらさ、俺は誰に男はツラいよ的な愚痴をこぼしゃいいんだ。女に言っても、分かってもらえねぇだろ?」
 なんか、今はこういう事を言っても平気な気がした。
「……もらえないでしょうね」
 シェラは、やっと顔を上げた。
「でも、言われてみれば、そうですよね。あんまり詳しくないですけど、普通は男の人が前で戦って、女の人は後ろから援護するんですよね、きっと。それなのに――私達、ちょっと情けないですね」
「まったくな」
 まぁ、女共の方が強ぇから、しょうがねぇよ。
「ほら、戻ろうぜ。早く帰ってやらねぇと、マグナなんてオロオロしちゃってヒドかったんだぜ。それに、俺が連れて帰るなんて大見得切っちまったから、一緒に戻ってくれないと、マグナに殺されちまうよ」
 立ち上がって差し伸べた手が、僅かな逡巡の後に握られる。
 聞いた台詞を繰り返すかと思ったが、シェラは俺の予想と違う言葉を口にした。
「ヴァイスさんは、ちゃんとみんなを守ってると思います」
「ンなことねぇよ」
 いや、マジで。このままじゃ、マグナのお袋さんに申し訳が立たねぇよ。
「カッコ良くかどうかは、別ですけど」
「……言うね」
 躊躇いがちに、いたずらっぽく笑って、俺を見上げる。
――そんな可愛い顔を、今の俺に見せたらダメだろ。
 ヤバい。忘れかけてたのに、また妙な気分になってきた。

34 :CC 10-20/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:51:19 ID:RMUYhIuG0
 握ったシェラの手は小さくて、本当に男なのかよ、みたいなエラく基本的な疑問が湧き上がるのを抑えられない。
 実は、俺が自分で確かめた訳じゃないんだよな。ネズミ野郎やシェラ自身がそう言ったのを、鵜呑みにしただけで。
 旅をするには男って事にしといた方が安全だから、とかいうオチが無いとは限らない。って、さすがにそりゃ無いか。なに考えてんだ、俺は。
 でも、マグナ達は同じ部屋で寝泊りしてるんだから、当然もうとっくに確かめたんだろうな。
 おいおい、確かめるって、どうやってだよ。
 マズい。妄想が、変な方向に広がりそうだ。
 ヨコシマな内心を悟らせまいとして、俺はシェラの頭を掴んで、くしゃくしゃに掻き回してやった。
「ふぇっ、なにするんですか」
「うるさい。生意気なこと言うからおしおきだ」
「ヒドいですよ、もぅ。ぐしゃぐしゃになっちゃったじゃないですか」
 シェラは、両手で髪を梳く。
 やかましい。男だったら、髪が乱れたくれーでゴタゴタ言うな。畜生、やっぱヤベーよ、今日の俺。
 なんかぎゅ〜っと小柄な躰を抱き締めたり、気が済むまで色んなトコを撫でまくったりして、シェラの性別を確認したい衝動を堪えつつ。
 そんな葛藤はおくびにも出していないつもりだったのだが、シェラが喉の奥で悲鳴を上げたので、俺は大いにうろたえた。
 いや、違うんだって。たまたま今日の俺がおかしいだけで、でも平気だから。ヘンなことしたりしないから。目つきも怖くないよ?
 だが、よく見ると、シェラは俺に怯えているのではなかった。
 その視線を追って、俺も息を飲む。
 ぼんやりとした光の球が、くるくると宙に円を描いていた。
 もしかして、あれは人魂ってヤツですか。
 円の中心で胡坐をかいているのは――リィナだ。あいつ、何やってんだ。
 人魂が、ゴツいおっさんの形に変化した。足が無い。うん、ありゃ確かに幽霊だわ。
 よく聞き取れないが、何か会話を交わしているようだ。
「……行くか」
 シェラは蒼褪めた顔をして、無言でカクカクと首を上下させた。
 お陰で妙な気分が霧散したのには感謝するが――
 リィナ、お前、幽霊と普通に喋るとか、できれば勘弁してくれ。
 ちょっとは遠慮してくれないと、こっちはまるきり追いつけねぇよ。

35 :CC 10-21/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:53:21 ID:RMUYhIuG0
 シェラを送り届けて、自分の部屋に戻った俺は、足を踏み入れた瞬間に扉を閉めるのも忘れて動きを止めた。
 マグナが、俺のベッドで寝息を立てていた。
 おそらく、俺が出ていった後、そのまま眠ってしまったのだろう。ベッドの縁に腰掛けたまま、上体だけ横倒しになったような体勢だ。
 普段の俺なら、やれやれしょうがねぇな、疲れてたしな、とか冷静に対応できたんだろうが――だから、今日はマズいんだっての。
 俺は強く頭を左右に振って、いかがわしい気分を振り払おうとあがいた。
 いやあのな。これはマグナが俺を信頼してくれてるってことだろ?信用してない男の部屋でなんか、絶対寝こけたりしねぇもんな、女は。うん、喜ばしいことじゃないか。この信頼を裏切るなんて、もっての他だよな、まったく。
 とか俺が、必死こいて思考をあっちじゃない方向に誘導しようとしてるってのに――なんだってお前は、そんなに短いスカートを穿いてやがんだよ。裾がめくれて、ちょっと見えそうになってんじゃねぇか。
 灯りに照らされた素脚の白さが、いつもに増して眩しく見える。こいつ、綺麗な肌してるよな。
 いくらか顔にかかった前髪に、髪の間から覗く薄く開いた唇に、呼吸につれて上下する胸に、なんだか色気を感じてしまう。
 いやいやいや、無いから。色気とか、あり得ないから。
 でも、こんな風に男の部屋で無防備に眠ったりしたら、襲われちゃっても仕方ないんだぜ――もちろん俺は、そんな事しないけどね?
 ちょっ、知らない内に、近寄ってるんですけど、俺。
 おいおい、なに覆い被さってんだ。
 おおお、手が勝手に脚の方に。
 ヤバい。
 マジ、ヤバい。

36 :CC 10-22/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 03:55:21 ID:RMUYhIuG0
「ふぁっ、なに!?」
 はじめてすぐに、マグナは目を覚ました。
 どうしても、結構揺すっちまうからな。仕方ねぇか。
 俺の首に、必死にしがみついてくる。
「悪ぃな、起きちまったか。あ、シェラはもう部屋に戻ってるぜ」
 俺は努めて普段通りに、目と鼻の先にあるマグナの顔に語りかける。
 運び始めてすぐに目を覚ましたマグナは、訳が分からずしばらくあわあわしていたが、次第に状況を把握したようだ。
「ちょっと!何してんのよっ!?」
「何って、お姫様抱っこ」
 つまり、俺はマグナを抱えて、部屋に運んでいるところだった。
 我ながら、末永く語り継がれていいくらいの、鉄の自制心だよな。
「はぁ!?なんで――」
「だって、お前、俺の部屋で寝てただろ」
「あ、そうか――じゃなくて!!起こせばいいじゃない!!」
「いや、疲れてたし、起こすのも可哀想かなと思ってさ」
「もう起きたから!!下ろしてよ!!早く!!」
「うわバカ暴れんな。なんだよ、自分でお姫様がいいって言った癖によ」
「こういう事じゃないでしょ!?いいから、下ろしなさいよ!!」
「あー、はいはい。もう着くから。あんま騒ぐなよ、他の客に迷惑だろ」
 それで口は閉じたが、一層じたばた暴れ出す。
「だから、暴れんなって。スカートめくれちまうぞ」
 マグナは慌ててスカートの前と尻を押さえた。さっきから角度によっちゃ丸見えだから、もう遅いけどな。まぁ、俺からは見えないし、他に誰も廊下には居ないが――おや。

37 :CC 10-23/23 ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 04:04:27 ID:RMUYhIuG0
『あれあれ〜?』
 と口にしないのが不思議な目つきをしたリィナが、廊下の向こうから歩いてきた。ちょうど戻ってきやがったか。まったく、幽霊と何やってたんだか。
「ほれ。着いたぞ」
 部屋の前で下ろしてやると、マグナは俺を睨みつけた後、急いでリィナを振り返った。
「ち、違うの、これは――」
「ボク、何も言ってないよ?」
 こいつも、いい性格してるよな。
「そうなんだけど、そうじゃなくて……あーもうっ!!――そうだ、シェラは!?」
「言ったろ。もう戻ってるよ。寝てんじゃねぇか?」
 マグナは静かに扉を開けて中を確認すると、ふーっと溜息を吐いた。
「シェラちゃん?どうかしたの?」
「ううん。なんでもなかったみたい」
 ギロリと俺を睨め上げる。
「シェラの事は、お礼言うけど……今度は、ちゃんと起こしてよね!?」
「今度って、また俺の部屋で寝るつもりかよ」
「そうじゃないけどっ!!」
「え、なになに?マグナ、ヴァイスくんの部屋で寝てたの?」
「違うから!!寝てないから!!ほら、リィナも病み上がりなのに、またそんなカッコで、どこほっつき歩いてたのよ!!ちゃんと安静にしてないと駄目でしょ!?」
「え〜。寝過ぎちゃったから、もう眠れないよ」
「いいから!!寝るの!!それじゃ、お・や・す・み・な・さ・いっ!!」
 マグナはリィナを部屋に引っ張り込むと、俺に向かっていーっと歯を剥き出してみせて、扉をバタンと閉めた。
 この様子なら、一晩眠れば、元のあいつに戻ってそうだな。
 俺は、回れ右をして自分の部屋に戻った。
 腕に残るマグナの感触を、反芻しながら。
 ……俺も、明日には元に戻ってることを願うよ。いや、ホントに。

38 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 04:07:22 ID:RMUYhIuG0
ということで、紆余曲折を経た割りに……の10話をお届けします。
ホントは最悪のオチがあったんですが、最悪過ぎたので止めましたw

全部で40話くらいのつもりなので、やっと1/4くらいでしょうか。
そろそろ先のことを考えて書かないとハマりそうなので、
少しづつ組み立ててます。頭痛いです。
中盤くらいまでは、なんとかなるような気が。

今回は、なんかホントに書いてる最中グダグダでした。疲れた〜。
次回は、もうちょっと気楽に書ける筈。。。と信じたいw

39 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/10(金) 04:08:23 ID:e6U5AavRO
(*´д`)ハァハァ

40 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/10(金) 04:12:56 ID:e6U5AavRO
乙〜しかしこのムラムラはどこにぶつければいいのだろう…

伏線いっぱいヤター━━━ヽ(ヽ(゚ヽ(゚∀ヽ(゚∀゚ヽ(゚∀゚)ノ゚∀゚)ノ∀゚)ノ゚)ノ)ノ━━━!!!!どうなるか楽しみですな

あと、マグナはきっと、女神です^^

41 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/10(金) 08:27:51 ID:VPU0pC2P0
だ〜か〜ら〜

朝にこのスレ開いて投下確認したら

遅刻するのわかってても読んじゃうじゃないか!!!


GJ!そして(*´д`)ハァハァ

42 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/10(金) 12:28:05 ID:QVdqznaNO
>>CC氏
おもしろいよ・゚・(ノД`)・゚・。
ワクテカしながらみてるよ。
無理せずがんばって!

43 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/10(金) 18:57:40 ID:A1PpKBtM0
>CC氏
GJ!
この分で行くと、貴殿の作品もエロパロに現れるのも近いかもわかりませんなw
(*´д`*)

44 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/10(金) 22:40:30 ID:RMUYhIuG0
なにやら予想以上に(*´Д`)ハァハァしていただけたみたいで、一安心ですw
ありがとうございます〜。レスがつくとホントに嬉しいです。
続きも頑張って書きますです。納期がヤバいことになってますがw
女神とかゆわれたら、マグナはきっと否定しつつ顔を赤らめちゃいますね。
中盤あたりに、いい感じのエロが来る予定なので、どうぞそこまでお付き合いくださいませ。
いや、別にエロ主体の話じゃないんですがw

45 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/11(土) 00:04:20 ID:MPGjutak0
い つ の 間 に GJ!
リィナの台詞を脳内で変換してたのでヴァイスに突っ込まれた気分でした(*´Д`)ハァハァ

46 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/11(土) 02:10:47 ID:8x60OkQrO
エロ…(;´Д`)ハァハァ
こういった書き込みがプレッシャーにならないか心配だ……が、書き込まずにはいられない。
CC氏、乙!!
楽しみにしてるよー。

47 :144:2006/11/11(土) 02:30:00 ID:1lv85ciM0
ttp://up.mugitya.com/img/Lv.1_up61937.jpg.html
ちょい遅いっすが6スレおめ漫画w

>CCさん乙です!ペース落ちないっすね!!40話ってもう決まってたんですね!!
正直この量で最後までいけるのかこの人は!?って思ってましたwww
でもこのペースで行くと意外と早く終わっちゃう?読みたい!でも寂しいみたいな…
あと前に言ってた人いたけどハルヒっぽいってのは何かわかりますw自分も思いましたw

48 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/11(土) 03:53:04 ID:W5SK1qnh0
>>46
全然だいじょうぶッスよ!!
むしろやる気が出るので、是非どしどし書き込んでくださいw

>>47
あり、そうですか。元々意識ってしてないんですが、
やっぱしつっこみ男が語り手+ツンデレだと仕方ないんですかね(^^ゞ
個人的には、マグナとハルヒってかなり逆だと思ってるんですが。
ハルヒなら、魔王退治なんて面白そうなこと、嫌がらないどころか、
自らすっ飛んでいきそうな気がw

全40話は、すごい適当にその位かな〜、と思っただけだったりします。
今月はお仕事の都合でちょっとペース落ちるかも知れませんが、
来月以降は割りと書ける予定ですので、すごい大雑把に言って、
来年の前半には終わるのではないかなぁ、と思っておりますです。

49 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/11(土) 03:56:11 ID:W5SK1qnh0
>>45
ワロタw
きっと、ヴァイスと親友になれると思いますw

50 :YANA:2006/11/11(土) 19:41:27 ID:MZk8tQsj0
>144氏
うるせぇキャベツぶつけんぞ!(AA略
もとい、GJ!!
ごめんよアリス、出番なくて…っていうか下手すると最終節まで蚊帳の外かも( ノ∀`)

早いもんで一年ですか…スレ読んで、SFC3引っ張り出して、
魔法使い(賢者)との二人旅を三日でクリアし、
熱が冷めなかったので人生初のSSもどきを書き始めたのもいい思い出。
出来ればコイツ(PC)で最後まで書き切りたいなぁ。

51 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/12(日) 14:59:54 ID:FVIzubht0
書きたい熱が凄い高まってたのに、仕事で全然書けなくてもったいない保守

52 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/13(月) 00:02:58 ID:mddBN8ny0
書き手がこんなに積極的なスレ初めてみたよ。すごすぎる。

53 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/13(月) 17:54:23 ID:ZseXCHz0O
>>52
確かにそうだよなー。
ここ見てると自分も何か書きたい衝動にかられるんだが結局何もしないチキンwww

そして気になる事が一つ。
いつも自分が守っていた幼なじみに恋愛感情を意識し始めてからツンツンし出す女勇者は何と言えばいいのか。

54 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/13(月) 21:47:25 ID:VvGfCxIg0
「いつも自分が守っていた幼なじみに恋愛感情を意識し始めてからツンツンし出す女勇者」と言うといいのでは。
あ、ウソです。またでしゃばってスミマセン><
デレツンデレ?w

55 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/14(火) 14:37:15 ID:pzMWNboyO
どうみてもツンデレです

56 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/14(火) 17:09:07 ID:BCblrBh7O
>>CC氏
ちょwそのまんまw
デレツンデレかなるほど。ちなみにその幼なじみは普通にツンデレだったりする。
いつも作品楽しみにしてますよー。長いけど読みやすい。次のもwktkして待ってます。

>>55
本当にありがとうございました
ツンデレと言ってもいいのか…ううむ。
そんな自分はデレツンがよく分からなかったりする。
デレツンな性格ってどうも愛情が薄い気がするんだよな。

57 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/15(水) 03:29:09 ID:/G5ywIUl0
うはwアホ再登場のせいで、次もそこそこ長くなりそうな予感w
いつも長くてホントすいません(^^ゞ
なるべく短くしますから〜><

58 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/15(水) 09:06:52 ID:QoALZBK00
前スレでハルヒとか言ってしまったものです。
気分害されたなら申し訳ありませんorz

真摯にCC氏、YANA氏他色々な方のSSを心待ちにさせていただいてます。

しかし下がりすぎな気がするのでちょっと保守あげ。

59 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/15(水) 14:27:14 ID:cAwp9QCmO
>>57
おれてきには長くて全然いいんですが!!
むしろ長いと読みごたえがあっていい!
心待ちにしてるよ。

60 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/15(水) 18:08:59 ID:/G5ywIUl0
>>58
いえいえ、お気になさらずに〜。そう感じる方がいるとゆうことは、
連想させる部分があるんだと思いますし。私こそ言葉足らずですみません。
いや、比較対象があまりにも有名なので、あんまり似ているようなら、
読む人の意識がそっちに引っ張られちゃったらマズいなぁ、
でもキャラ配置が似てる原因だとすると、もはやどうしようもないから、
まぁいいかー、みたいなことですので(^^ゞ

>>59
うわー、すげー嬉しいですw
そう言っていただけると非常に助かりますです。
そのお言葉に甘えることなく、無駄な部分はできるだけそぎ落として
でも必要な部分はちゃんと残すように心がける所存であります。
心がけるだけだったりしてw

61 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/16(木) 17:07:10 ID:I4fiPzn20
ほす

62 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/17(金) 05:19:25 ID:XE/jDWB30
うはwワタクシ嘘吐きでございますwなげーよほしゅ

63 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/17(金) 23:55:06 ID:kUfickaR0
今日、明日辺り投下かな?wktk保守

64 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/18(土) 02:44:02 ID:hmHWhvGcO
ここを覗いてから眠りにつくのが日課になってる。投下してようがしてなかろうが、とにかく覗かなくては寝れないのだ。
今日の日課も終了したので寝る( -ω-)zzz
おやすほしゅ。

65 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/18(土) 05:10:18 ID:Gxy0mGjs0
おやすみなさいませ。
今日は無理でしたー><
明日、投下できるように頑張る所存でありまっする。
テンションおかしいぞw

66 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/18(土) 08:45:26 ID:juGGtSzIO
おはよう

67 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 03:19:47 ID:ntxCDlko0
ん〜。。。

68 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 04:41:51 ID:VjZ3vs9bO


69 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 04:43:04 ID:dJM/CnZL0
>>67
焦らず急がず

70 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 08:49:41 ID:ntxCDlko0
う〜む。2回に分けようかとも思ったんですが、書いてしまったので全部投下しちゃいますね。
長いので、適当に分割してお読みくださいませ。

71 :CC 11-1/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 08:53:08 ID:ntxCDlko0
11. The Cinderella Theory

 とりあえず、全員心身ともに健康になったので――俺の妙な性欲も、大体なんとなく治まった――あまり待たせても、『金の冠』の奪還を一日千秋の思いで待ち侘びているだろうロマリアのお偉いさん方に悪いということになり、俺達は翌日ロマリアに戻った。
 やっぱり、ルーラが使えると楽だよな。魔法使いも捨てたモンじゃねぇよ、うん。誰も感謝している素振りを見せないので、自分で自分を誉めてみたりする。虚しい。
 マグナがロランから預かっていた、蝋封された書状を渡すと城にはすぐに入れたものの、控えの間でかなり長いこと待たされた。
 前触れもなく、いきなり来たから仕方ないけどな。今日は話だけ通しておいて、宿でも取って明日また出直せばよかったんだろうが――そうするには、多少気にかかることがあった。
 俺の懸念が当たっていれば、夜中に突然、『金の冠』を狙う賊に襲われるハメになりかねない。ロランのアホのお使い如きで、これ以上苦労したくねぇよ。こんな厄介な代物は、早いとこノシつけて持ち主に押し付けちまうに限る。
「夜あんまり眠れなかったから、なんか眠くなってきちゃったよ」
 既に半分寝言のような声で、リィナがふかふかのソファーに身を埋めた。丸々二日も眠ってたんだもんな。昼夜逆転くらいするよな、そりゃ。
 寝坊助は、そのまま寝かせておいてやり、俺はマグナとシェラの方を見る。
 他にすることもなく、アリアハンの子供――主に少女がよくやる手遊びをしていた。向かいあって、歌に合わせて手を鳴らしたりお互いに打ち合わせたりするあれだ。
 なんというか、微笑ましいね。
 二人とも笑顔だった。同室だった訳だし、多分、家出の後に少しは話もしたんだろう。特にわだかまりも残って無いみたいで、なによりだ。
 さすがに手遊び歌のネタにも尽きた頃、ようやくメイド服が俺達を呼びにきた。
 口をぱかーっと開けて気持ちよさそうに鼾をかいているリィナを起こし、ぞろぞろと謁見の間に連れて行かれる。
 今回も人払いがされて、やたらガランと殺風景なそこには、この前と同じ面子が顔を並べていた。
 俺達が入るなり玉座から身を起こし、赤い絨毯を進むのを待ち切れない様子で迎えたロランは、満面の笑みをマグナに向ける。

72 :CC 11-2/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 08:55:27 ID:ntxCDlko0
「やぁ、お帰りなさい。無事に戻ってきてくれて、本当に嬉しいですよ」
「はぁ。ありがとうございます」
 対するマグナの返事になにやら含むところがあるのは、それほど無事でもなかったからだろう。
「それで、肝心の『金の冠』は奪回したのであろうな」
 さらに何か言い募ろうとするロランを遮って、騎士団長のマルクスが横から割り込んだ。放っておくと、本来の目的そっちのけで、またべらべら喋り出し兼ねないからな、このアホは。おっさんの気持ちは、よく分かる。
「はい、ここに」
 マグナは両手で抱えていた包みを解いて、少し持ち上げてみせた。王位継承の証なんてご大層なモンを、剥き出しのままで渡すのはマズいだろうと、道すがらに買った絹布でくるんであったのだ。
「おお、確かに」
 セネカの爺さんが頷き、目を細めてロランを見た。
「流石は、陛下のお眼鏡に適った方々ですな」
 爺バカ丸出しに、好々爺然と破顔する。『金の冠』が戻ったことそのものよりも、俺達に頼んだロランの判断が間違っていなかった事が、嬉しくてしょうがないみたいに見える。
「これもまた、勇者と呼んで差し支えの無い働きではありますまいか、マルクス殿」
 以前、サマンオサの勇者ファングを、マルクスが引き合いに出した事を揶揄しているのだろう。セネカに言われて、マルクスは「まぁ、そうですな」とか呟きながら、極り悪そうに何度も咳払いをした。
「そんな……やめてください。そんなのじゃないですから」
 マグナが力無く否定したが、誰も取り合わなかった。
「いずれにしろ、お手柄には違いありません。『金の冠』が戻らなければ、なかなか厄介な事態になっていたでしょうからね。我が国の混乱を未然に防いでくださったことに、心からお礼を申し上げます」
 ロランは軽く一礼して、マグナに微笑みかけた。
「では、『金の冠』をこちらに持ってきていただけますか?」
「なんですと?いえ、陛下。私が――」
「いいから――さあ、お手数ですが、お願いします」
 段上から下りて受け取ろうしたマルクスを制して、ロランが手招きする。
 困惑顔でロラン達と俺達を見回してから、マグナは躊躇いがちに階段を上った。

73 :CC 11-3/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 08:57:49 ID:ntxCDlko0
 今日はルーラでロマリアまで来たので、俺達は旅装ではない。そして、両手で『金の冠』を抱えているので、階段を上るマグナはスカートの裾を押さえることができない。
 そんな絶好の状況なのだが、なにしろ丈は長いわ勾配はゆるやかで段数も少ないわで、残念ながらギリギリ感には程遠い。
 もちろん、こんな下らないことを俺が考えてしまうのは、妙な性欲が治まりきっていないからに他ならない訳だが。
「どうぞ」
 マグナが差し出した『金の冠』を、ロランは取り上げた。
「返していただくまでは、これはあなたの物です」
「はい?」
 すぽり、とマグナの頭の上に載せる。
 ロランはニ、三歩退がって、顔をほころばせてマグナを眺めた。
「あ、そのまま。取らないでください。うん、やっぱり素晴らしくよく似合う。絶世の美女との誉れ高いイシス女王も斯くやという麗姿じゃないか。そうは思わないかい?」
「へ、陛下!お戯れが過ぎますぞ!」
「まあまあ、別にいいじゃないか。他に誰も見てないんだし」
「そのような問題ではありません!」
 マルクスの小言などどこ吹く風で、ロランは恭しくマグナの手を取った。
「どうぞ、こちらへ」
「いえ、あの、困ります」
「困りませんよ。ここは私の国で、あなたは大儀を成したゆ――英雄だ。誰にも文句のつけられるものではありません」
 いやいや。さっきから隣りでマルクスのおっさんが、ワイワイ文句を言ってるだろ。
 ロランが半ば強引にマグナを玉座に着かせると、さすがのおっさんも呆れ返った様子で苦言を呈するのを諦めた。あんたも、大変そうだな。
「おお、なんて素敵なんだ。今すぐにでも、あなたを我が女王陛下として押し頂きたくなってしまいます」
 やたらデカくて装飾過多な玉座に、場違いな普段着でちょこんと座らされているのだ。どう見ても、マグナはモジモジと居心地悪そうにしているだけで、女王の風格も威厳もへったくれも無いのだが。
 正面から褒め称えたかと思うと、ロランは玉座の横に回って、少し屈み込んでマグナに顔を寄せた。

74 :CC 11-4/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:00:02 ID:ntxCDlko0
「この光景を目にする事が、私のささやかな夢のひとつだったのです。叶えて下さって、感謝しますよ。思った通り、いや、想像していたよりも、ずっと素敵だ――いかがですか、玉座の座り心地は」
「いえ、あの、ホントに困りますから」
「そんなこと仰らずに。想像してみてください。あなたの麗しい御姿をひと目見たいと心から願い集う人々の列を」
 ロランは赤絨毯の辺りを指し示し、それから大袈裟な身振りで背後に手を差し伸べた。
「はたまた、あちらのテラスから姿を現し手を振るあなたを、今か今かと待ち望む大勢の群集を。どんな気持ちがしますか」
「……正直に言っていいですか」
 上体を横にズラして、微妙にロランから顔を遠ざけながら、マグナは言った。
「もちろんですとも。あなたの素直な気持ちを、何より伺いたいのです」
「……考えただけで、うんざりするわ」
「なっ!!」
 鼻白むマルクスと、意表を突かれて唖然とするセネカに対して、ロランは愉快そうにハハハと笑声をあげた。
「ほらね。この方は、まったく私と気が合うんだよ」
「陛下〜……」
 マルクスが疲れた声を出す。
 なんというか、ロランの独壇場だった。
 マグナも、この場であまりキツい言葉を口にする訳にもいかず、調子が出ない様子で困惑を顔に浮かべるばかりだ。
 ロランはマグナの手を取って、玉座から立たせた。
「すみません、少々悪ふざけが過ぎました。ご気分を害されたなら謝ります」
「いえ、別に」
 気分を害したというか、マグナは狐につままれたような顔をしている。
「では、これはお預かりしましょう。よく取り戻して下さいました。改めてお礼を申し上げます」
 ロランは、マグナの頭から『金の冠』を取り上げて、セネカに手渡した。

75 :CC 11-5/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:02:47 ID:ntxCDlko0
「本来ならば、国を挙げてお礼をするべき程の大事を成して戴いたというのに、我々三人しかお出迎えできない無礼をお許しください。なにぶん内密ですので、『金の冠』を盗まれた事実など存在しない、という体裁を取り繕わねばならないのです」
「いえ、全然構いません。そんな盛大に出迎えられたりしたら、却って困りますから」
「聞いたかい?なんとも謙虚なことを仰るじゃないか」
 ロランは、セネカとマルクスを交互に見る。
「そうですなぁ。お若いのに、無欲と申しますか、まったく感心な方でございますな」
「まぁ……そう言えなくもありませんかな」
 おいおい、ホントかよ。お前ら、仕方なく話を合わせてるだけだろ?
 ロランは満足そうに微笑んで、再びマグナに視線を戻した。
「とはいえ、このまま帰してしまっては、あまりにも心苦しい。本日は、宿の手配の方は――?」
「いえ、まだですけど」
「でしたら丁度いい。今晩はここにお泊まりいただき、内々のことになるかと思いますが、多少なりとも歓待させてください。せめてもの心尽くしですよ」
「はぁ。では、お言葉に甘えます」
 正直、予想していた展開なので、マグナは素直に頷いた。
「いやぁ、嬉しいな。実は、またあなたと晩餐をご一緒できる日を、首を長くして待っていたんですよ。『金の冠』も無事に戻りましたし、今日という日は全く素晴らしい一日だ。記念として祝日にしたいくらいです。
 この幸せをもたらしてくれたあなたは、さしずめ幸福の女神ですね」
 何言ってやがる。
 このアホは、相変わらずだな、しかし。

76 :CC 11-6/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:05:00 ID:ntxCDlko0
 謁見の間を辞した俺達は、また別々に個室に案内された。
 俺は、通された部屋から早々に抜け出して、既にマグナの部屋に居たりする。前回と同じく人払いがされていたので、忍び込むのは簡単だった。
 だが、今日はこそこそ隠れたりしねぇぜ。
 待つことしばし。ロランとマグナの話し声が近づいてきた。
「おや、また誰もいないな。申し訳ないね。後ですぐに人をやるけれど、我が城の使用人達が、いつもこんなにだらしが無いとは思わないで欲しいな」
 前と同じようなことほざきやがって、芸の無ぇ野郎だな。
「思わないわよ、そんなこと。ていうか、別にお付きの人なんて要らないのに」
「そんな訳にはいかないよ。キミは大切なボクの主賓だからね」
 と、ここで扉が開いた。
 部屋のど真ん中で堂々と腕組みをして仁王立ちしている俺を見つけて、二人は一瞬動きを止める。
「……また君か」
 ロランは溜め息を吐いた。
「……ちょっと、ヴァイス。なんであんたが、ここに居んのよ」
「なんだよ。俺が居合わせたら都合の悪いことでも、二人してしようと思ってたのか?」
「ばっ!!そうじゃないでしょっ!?なんで、当たり前みたいな顔して、女の子の部屋に勝手に入ってるのかって聞いてるんじゃないっ!!」
「いや、ロランに話しておきたいことがあったからさ。ここに来りゃ、どうせ会えんだろと思ってな」
「あのね、人の部屋を勝手に待ち合わせ場所にしないでよ!」
 まぁ、マグナのお怒りはご尤もだと思うが、今は目を瞑ってくれ。
「いや、ボクは彼と待ち合わせた覚えなんかないよ。それに、君にロランと呼び捨てられる謂れもないね」
 ロランは、明らかに俺を鬱陶しがっていた。だが、出ていってやらねーぜ。くくく、ざまぁみさらせ。
「これはこれは、大変失礼致しました、ロムルス国王陛下」
 慇懃無礼に言ってやると、ロランはまた溜め息を吐いた。
「それで、なんだい話とは?さっさと済ませようじゃないか。ボクはこれから、彼女と大切な用事があるんだ」
「いや、あたしは特に無いけど」
 マグナにきっぱり言われて、世にも情けない顔をするロラン。

77 :CC 11-7/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:07:34 ID:ntxCDlko0
「ああ、人々に幸福を齎してやまない女神も、その従僕にとっては無慈悲な女王ということなのかい。けれども、仮令どれほどすげなくされようとも、ボクはキミを崇め敬うことを止められそうにないないよ」
「そんな大袈裟な――あぁもう、ごめんてば。でも、別に用事は無いけど」
「おお――」
「で、話してよろしいですか、陛下?」
 大仰な台詞をさらに重ねようとするロランを遮って、俺は口を挟んだ。付き合ってらんねぇよ、実際。
「……言ってみたまえ」
 あからさまに不機嫌な声音で、ロランは促した。俺が一体何を言い出すのかと、マグナは怪訝な顔をしている。
「さっき話してもよかったんだが――ですが、いちおう先にあんた――陛下の耳に入れといた方がいいかと思ってね。いや、思いまして」
 わざとらしく言い間違えてやると、ロランはうんざりした目つきで俺を見た。
「……分かったよ。普通に話したまえ」
「そんじゃ、お言葉に甘えて。カンダタの事なんだけどな。どうやら、魔物とツルんでたらしい」
「なんだって?」
「たまたま、野郎と魔物が話してるトコに出くわしたんだが、『金の冠』を盗んだのは、その魔物の指図だったみたいだな。つまり、カンダタは金で雇われた実行犯で、黒幕は魔物の方だ」
「……」
「本来は、盗んですぐにポルトガ王に渡す手筈だったらしいんだが、欲かいたカンダタの野郎が、ポルトガ王に渡して欲しけりゃもっと金を寄越せとタカる腹積もりで、一旦アジトに持ち帰ってやがったんだ。俺達は、そこに居合わせたって訳でな」
 ロランに視線を向けられて、マグナは頷いた。
「ええ、本当よ」
「魔物が……どういう事だ?……いや、そういう事か」
 顎に手を当てて、忙しく頭を働かせていたロランは、かなり真面目ぶって俺を見た。
「君は、どう考えている?」
「へ?……いや、どうって言われてもな」
 ロランがどんな答えを求めているのか分からなかったので、俺は言葉を濁した。
「これが魔物の企みだと言うのなら、魔物に半ば支配された世界にあって、尚発展を続けるロマリアの国力を削ぐことが目的と考えていいだろう」
 あ、なんだ。そんなことで良かったのか。

78 :CC 11-8/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:10:24 ID:ntxCDlko0
「まぁ、そうだろうな」
「ポルトガの陰謀じゃないかと疑っていた話はしただろう?」
「ああ」
「だから、両国間を行き来する唯一の道には、当然兵を配しておいたんだ。魔物にしてみれば、もしカンダタがそこで捕まったとしても、または首尾よくポルトガ王に届けることが出来たとしても、どちらでも構わなかったんだろうな。ふぅん、なかなか良くできている」
「どういうこと?」
 ロランは急に表情を和らげて、嘴を挟んだマグナの方を向いた。
「つまりね、仮令カンダタがそこで捕まったとしても、『金の冠』がポルトガに渡ろうとしていた事実さえ残れば、両国の間に火種を作るには充分なのさ。元々、こちらは疑ってかかっていた訳だからね。あっさりポルトガの陰謀だと思い込んだ可能性は高い」
「もしかしたら、カンダタは魔物のそういう魂胆に気がついて、捕まるのを嫌ってひと先ずアジトに戻ったのかも知れねぇな」
「ああ、なるほど。おそらくそうだろうな。それから、『金の冠』がまんまとポルトガに渡った場合だけど……こちらの狙いは、ボクの失脚だろうね」
 ロランは他人事のように言って、肩を竦めた。
「ロマリアがポルトガを嫌っているように、向こうもこちらを煙たがっている。最近のボクの執政下では、我が国は順調に発展を続けているから、尚更だね」
 さらっと自慢すんな。
「だから、ロマリアの力を削ぐという点に関しては、ポルトガとその魔物の利害は一致するって訳さ」
「ちょっと待ってよ!?じゃあ、カンダタだけじゃなく、ポルトガっていうひとつの国まで、魔物と通じてるっていうの!?」
 マグナの悲鳴じみた問いかけに、ロランは首を振って応えた。
「いや、その可能性は低いと思うな。いくらなんでも魔物に直接そそのかされる程、ポルトガ王も分別が無くはないだろう。だからこそ、人間であるカンダタをわざわざ雇ったんじゃないかな、その魔物は」
「え?良く分かんない」
「つまりさ、魔物なんぞがいきなり出向いて、お膳立てしてやるから、これこれこんな風に事を運びなさい、なんつっても、ポルトガ王も怪しんで従わないだろ」
 俺に説明役を奪われて、ロランは渋い顔をした。

79 :CC 11-9/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:14:02 ID:ntxCDlko0
「そりゃ、そうだろうけど」
「だから、魔物とすれば、今回の件はカンダタが勝手にやった事したかったんじゃねぇかな。あんなのでも、一応は人間だ。ロマリアの優男を失脚させるいい話がありやしてね、イッシッシ、とか話を持ち掛ければ、魔物がするよりゃポルトガも聞く耳を持つだろうしさ」
「ああ、そういうことね。でも、それだとポルトガが『金の冠』を持ってるのはおかしくない?自分達が盗ませたって言ってるようなものじゃない」
「いや、それはポルトガがカンダタを捕らえたことにすりゃいいのさ。恩も着せられて、一石二鳥って寸法じゃねぇの」
「ポルトガは、まがりなりにも親戚筋だからね。王位継承の証を賊に盗まれるような能無しに王者たる資格無し、みたいな難癖をつけさせる筋書きだったんじゃないかな」
 ロランが強引に割り込んで、説明役を奪い返した。
「ボクを失脚させる為に担ぎ上げるてみせるのは、従兄弟殿というところか。なるほど、確かに国力を削ぐにはもってこいだな、あの従兄弟殿を国王に据えておけば」
 ロランは自嘲気味に笑った。
「ポルトガの主導で話が進めば、あの従兄弟殿のことだ。国王に祭り上げてもらえるなら、不平等な条約のひとつやふたつは喜んで結び兼ねない。
 属国の王になって何が面白いんだとボクなら思うけど、彼なら後ろ盾と考えるだろうな。全く呑気な認識だと言わざるを得ないけれど、ポルトガにとっては、これ程旨みの多い話もないね。カンダタが『金の冠』を渡していれば、おそらくポルトガは乗っただろうな」
「その従兄弟殿の話が出たついでに言うけどさ、『金の冠』は王位継承の証なんてご大層な代物だろ?普通は、そんな簡単に盗まれねぇよな?多分、手引きしたヤツが――」
「ああ、分かってる。皆まで言わなくていいよ。それはこちらの問題だから、なんとかするさ」
「ヴァイスも、その従兄弟殿って人のこと、知ってるの?」
 いまいち話についていけてない様子で、マグナが首をかしげた。
「知ってるって程じゃないけどな。この前、たまたま見かけただけだ」
「そうか、マグナは知らなかったね。いや、キミが気にかけるような人物じゃないよ、彼は――それで、話はそれだけかい?」
 ロランに問われて、俺は一瞬躊躇ってから頷いた。ホントは、もうひとつあるんだが。

80 :CC 11-10/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:16:29 ID:ntxCDlko0
「なんだ。こんな事なら、わざわざ君が出しゃばらなくても、マグナがボクに話してくれただろうに」
「まぁ、そうだけど……なんだか良く分かんないところもあったから、ヴァイスが話してくれて良かったと思うわ――だからって、勝手に部屋に入っていい訳じゃないけど!」
「まったくだね。女性の部屋に忍び込むなんて、無作法にも程がある」
 お前に言われたくない訳だが。忍び込まなければ、無遠慮に押しかけていいってなモンでもないだろ。
「まさか彼は、いつもこうなのかい?」
「え?……っと、そんなことないけど」
「そうそう。俺はいつでも紳士的だぜ。逆にマグナが、俺の部屋で勝手に寝たりすることはあってもな」
「ちょっと!何言ってんのよっ!?」
「ホントのことじゃん」
「……その話は、後でゆっくり聞かせてもらいたいな」
「何でもないから!!っていうか、ロランに話すことじゃないでしょ!?」
「……ああ、我が愛しき無慈悲なる女王よ。ボクの気持ちを分かった上で、それを言うのかい?」
 こいつ、いい加減ウゼェよ。
「ま、まぁ、でも、魔物の悪巧みも結局失敗した訳だし、これで一件落着よね」
 ロランの扱いに困ったマグナは、無理矢理話題を戻した。
 これで終わりって訳じゃないと思うけどな。人間側が気付いてないだけで、魔物はこういうちょっかいを、色んなトコでちょくちょく仕掛けてると見たぜ。
「今回の件は、魔物にとっても誤算だっただろうね。というよりも、魔物だけに、人間に対する理解が不足していたと言うべきかな。だから、カンダタの抜け目のなさと強欲を読み切れなかった。でもね、何よりその魔物にとって不幸だったのは――」
 ロランはいきなり、マグナの腰をがばっと抱き寄せた。
「ちょっ――」
「キミという幸運が、ボクに味方してくれたことさ。ボクに幸運の天使を遣わしてくれた神に、感謝を捧げずにはいられないよ」
「もう――離してよ!気軽にホイホイ抱き締めないで!あたしをなんだと思ってるのよ!?寝る時に抱く枕かなんかじゃないのよ!?」
 マグナに腕を突っ張られて、ロランはしゅんと肩を落として腕を解いた。

81 :CC 11-11/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:19:21 ID:ntxCDlko0
「ごめんよ、キミの気持ちも考えずに。愛しさのあまり、身の程知らずにもその身に触れることを禁じ得なかった哀れな従僕を、どうか許しておくれ、我が女王よ」
「だから、その女王ってのやめ――」
 言いかけて、マグナは何かに気付いたような表情を浮かべた。
「あたしは、ロランの女王様なの?」
「ああ、もちろんだとも。ボクはキミの虜だからね」
「じゃあ、お願い聞いてくれる?」
 ロランは、滅多に誉められない子供が、珍しく誉められたみたいな顔をした。
「――嬉しいよ。キミがボクにお願いをしてくれるだなんて。この上ない喜びだよ。たとえどれだけ不可能な事でも、必ず叶えて差し上げるとも」
「ううん、すごく簡単なことよ。あのね、やっぱりこの部屋、あたしがひとりで使うには広過ぎると思うの」
「この部屋はお気に召さないかい?だったら、すぐにでも換えて――」
「違うの。部屋はここでいいから、リィナとシェラも一緒に泊まらせて欲しいのよ」
 なるほど。夜討ち朝駆けで押しかけてくるロラン対策か。
「それは……」
 思いもよらない願い事だったと見えて、ロランはちょっと言い淀んだ。
「駄目?こんなに簡単なお願いも、聞いてもらえないのかな」
 おおお、マグナ、お前。そんなおねだりするみたいな顔も出来たのか。ちょっと背筋が痒いんですが。
 ロランは、これ以上ないくらい真剣な顔つきで悩み抜いた末に、物凄く渋々ながら観念した。
「――分かったよ。我が女王の御心のままに」
「ありがと」
 ガックリとうな垂れるロランとは対照的に、マグナはしてやったりの笑みを浮かべる。
「それじゃあ、ここはもう女の子の部屋だから。男の人は、さっさと出てってもらえる?あ、ヴァイスは、二人を呼んで来て」
「へいへい」
 諦めろ、ロラン。お前の負けだ。
「ロランは、後で晩餐会でね。楽しみにしてるから」
 なおざりに言いつつ、マグナはロランの背中をぐいぐい押して、扉の方に運んでいく。
「ボクもだよ。後でドレスを届けさせるから――」
「三人分、お願いね。はい、じゃあ、また後で」
 パタン、と扉が閉じられた。

82 :CC 11-12/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:22:25 ID:ntxCDlko0
 まんまと閉め出されて、ロランは深々と溜息を吐いた。
「やれやれ。体良く追い払われてしまったな」
「まぁ、なんだ。あんた、本気で口説くつもりなら、もうちょい攻め方変えた方がいいんじゃねぇの」
 あんまりガッカリしてるので、さすがに見兼ねて、そんな事を口走ってしまった。だって、女神だのなんだの言っても、あいつには通じねぇよ、きっと。
「そうかい?彼女も内心はまんざらでもないと思うんだが……そうだね。次の機会には、もうちょっと違う面を見せることにしよう」
「次の機会、なんてのがあればな」
「もちろん、あるさ。彼女には困ったことがあったら、いつでも僕を頼るように言ってあるし、その為の『しるし』も渡してあるからね。
 僕はこれでも一国の主だし、ほとんどどんな願いだって叶えてあげられる。こんなに都合のいい知り合いは、なかなか他に考え付かないだろう?」
 普通はそうかも知れねぇけどな。
「それにしても、この僕に助言とは、ずいぶん余裕を見せつけてくれるじゃないか」
「はぁ?」
「さっき、マグナが君の部屋で寝たとか言ってたね。どうせ何事も無かったのは、分かり切っているとはいえ――」
 なんだと、この野郎。そういう事ほざくと、俺の方こそ次の機会には手ぇ出しちまうぞ。
「やはり君を、彼女の側に置いておくのは不愉快だな」
「前から思ってたんだが、あんた、なんか勘違いしてるぞ」
 俺とマグナは、そういうんじゃねぇっての。
「勘違いだって?じゃあ、何故スティアの誘惑に乗らなかったんだい?君はすいぶん彼女を気に入っていたように、僕には見えたけどね」
 うぐ。くそ、嫌なこと思い出させんじゃねぇよ。あ〜、マジもったいねぇことしたよ、ホント。
「けれど、君が勘違いと言い張るのなら、その方がいいさ。是非とも、その言葉を最後まで守り通して欲しいものだね――待てよ。そうだ、僕と賭けをしないか?」
「賭け?」

83 :CC 11-13/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:25:56 ID:ntxCDlko0
「そう。君は、マグナが魔王を倒しに行かない、いや、むしろ行かせたくないと思っているだろう」
「なんで、そんなこと――」
「分かるよ、それくらい。この前、思い切り顔に出ていたじゃないか。でも、それは間違いだ。きっと彼女は、魔王を倒しに行くからね」
「なんで、あんたにそんなこと――」
「分かるんだよ。同じことを言わせないでくれ。付き合いは短いかも知れないが、僕は君より彼女を理解している自信がある。というより――」
 ロランは、フッと鼻で笑った。
「きっと君は、彼女のことを何も知らないからね」
 アホか。少なくとも、お前よりゃ知ってるっての。
「僕よりは知っている、という顔だね」
 俺の心を読むんじゃねぇ。
「いいだろう。僕らはお互いに、自分の方が彼女のことを理解している自信があるという訳だ。なら、賭けは成立ということで文句はないだろうね」
「だから、賭けってなんだよ」
「単純なことさ。彼女が魔王を倒しに行く決心をしたら、君は彼女の元を離れるんだ。その時に、君のような考えの者が傍らに居ては、彼女にとっても迷惑だろうからね」
「はぁ?なんだそりゃ。お前に都合がいいだけじゃねぇか。賭けになんねぇよ」
「なるよ。彼女がついに魔王を倒しに行かずに隠棲しても、僕は彼女を探したりしないと約束しよう。静かに、彼女の望む生活を送らせてあげるよ」
 それ、俺にメリットあるのか?
「まぁ、そんなことは、それこそあり得ないけどね。彼女は、魔王を打ち滅ぼすよ。それに、世界を救った勇者ともなれば、もはや僕が娶っても誰も文句は言わないだろう。やれ家柄がどうだと口うるさい連中すらね」
 だからそりゃ、お前の都合でしかないだろうが。
「どうだい、受けるかい?」
「ああ、分かった。受けてやるよ。俺に得はねぇけど、損もねぇしな」
 悪ぃけど、お前の思い通りには絶対にしてやらねぇぞ。マグナがどこかに落ち着いて、普通の暮らしを送れるようになるまでは、ちゃんと面倒見てやろうじゃねぇか。
 俺は、あいつのお袋さんにだって、宜しく頼まれてんだからな。そんなことも知らねぇ癖に、相手見て語れよ、このお調子モンが。
「言ったな。いざとなったら忘れた振り、なんてのは止してくれよ」
 そんなことする必要ねぇよ、バーカ。

84 :CC 11-14/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 09:28:05 ID:ntxCDlko0
――おっと、そうだった。
「ちょっと待った」
 薄ら笑いを浮かべて立ち去ろうとしたロランを呼び止める。
「なんだい?やっぱり止めた、なんて言っても聞かないよ」
「そうじゃねぇよ。カザーブの村で、妙な連中に会った」
「それが?」
「そいつら、俺達がカンダタと一戦やらかしたことを知ってやがったんだ。あんたらのトコから、話が漏れたんじゃねぇのか?」
 ロランは、きょとんとしてみせた。
「どうだろうな。我々――僕やマルクスやセネカから漏れることはまず無い筈だ。スティア達からもね。
 ただ、我が不肖の妹や従兄弟殿も知っていることだし、内密とは言っても緘口令をしいた訳でもないからな。いずれ漏れても不思議はないが、何か不都合でもあるのかい?」
「いや、不都合って言われると――」
 そういや、別に無いな。
 ただ――あのにやけ面が、どうも気にかかる。単なる直感に過ぎないが、あいつが厄介事を運んでくるような――どうやら、俺はあいつのことが苦手らしい。
「その胡散臭い連中が、俺達のことを嗅ぎ回ってたみたいなんでな。ちょっと気になっただけだ」
「おいおい、君がおかしな輩に目をつけられるのは勝手だが、彼女を余計な面倒に巻き込んでくれるなよ」
 バカ言うな。どっちかっつーと、俺が巻き込まれてるんだっての、常に。
「まぁ、君の手に負えないようなら、遠慮せずに僕を頼りたまえ。賭けは僕の勝ちという条件でなら、大抵のことはなんとかしてあげるよ」
 ハッハッハ、とか笑い声を残して、ロランは姿を消した。
 うるせぇよ、誰がお前なんぞに頼るか。

85 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 09:50:29 ID:cta1yGns0
大丈夫か〜?

86 :CC 携帯:2006/11/19(日) 09:57:39 ID:MDVqdOIUO
ありゃ、何回か失敗したせいか、時間をおいても規制が解けなくなってしまいました。
続きはまた後ほど〜
ちょうどよかったかもw

87 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:15:38 ID:ntxCDlko0
てすつ

88 :CC 11-15/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:19:54 ID:ntxCDlko0
 ロランとの間にそんなやり取りがあって、俺は多少ムシャクシャしていたのだが、その日の晩餐を迎えて、そんな気分は見事に吹き飛んだ。
 それは、ちょっとした見物だった。
 リィナが、ドレスに身を包んでいたのだ。
 マグナとシェラが同室だから、無理矢理着替えさせられたんだろう。
 ひと目見た瞬間は誰だか分からないまま思わず見とれ、次の瞬間にそれがリィナだと気付いて頭をぶん殴られたみたいな衝撃を受けた。
 やや薄い紫のドレスは全体的にすっきりとしたデザインで、女にしては発達した肩まわりは上手くショールで隠している。
 丁寧に梳かれた髪を上げたうなじや、胸元にのぞく谷間が――ちょっと信じられないというか、普段のリィナからは全く連想することもない表現だが――かなり色っぽい。
「やっぱり、こういうの似合わないってば〜。恥ずかしいから、着替えてきていい?」
 薄地の長手袋をはめた手で、しきりと綺麗にまとめた髪の毛の辺りを気にしている。そんな仕草すら、いつもより女っぽく見えてしまったりするのだった。
「そんなことないです。リィナさん、とっても似合ってますよ」
「ほら、くずれちゃうから。触らないの」
 やたら嬉しそうにリィナを見上げるシェラと、なにくれと世話を焼くマグナもドレスに着替えているのだが、元々三人の中でも一番女らしく抜群な体型に加えて、見慣れた格好との落差の分だけ余計に……
 その、なんだ。綺麗に見えるリィナの前では、悪いが霞んでしまう。
「ほら〜。ヴァイスくんもヘンな顔して見てるし。やっぱりヘンなんだよ〜」
 多分俺は、アホみたいな顔をして見とれていたに違いない。
 必死に否定して、下手糞な世辞を口にしたと思うが、なんと言ったかよく憶えてない。
 顔に血が集まるのを感じながら、この時、ぽっと思ったことは覚えている。
 なんで、そんなことを考えたのか、自分でもよく分からないんだが。
――もしかしたら、俺、こいつにちょっとだけ惚れてるかもしれん。
 これまで全く抱いたことすらなかった、そんな想いが、はじめて頭に浮かんでいた。
 まぁ、何と言っても命の恩人だもんな。惚れてるってのは無いにしても、なんらかの特別な感情を抱いたところで、別におかしくはないよな。

89 :CC 11-16/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:22:04 ID:ntxCDlko0
 ともあれ、前回は堅苦しくて窮屈なだけだった晩餐も、今回はリィナのドレス姿を見れただけで得した気分で過ごせたのはありがたかった。
 いや〜、手間暇かければ、あんなにいい女になるとはね。正直言って、眼福だ。
 でも、タマに見るからいいんだろうな。普段は、いつものあいつでいてくれた方が、きっとずっといい。そっちのが好きだ――いや、好ましいって意味でな。
 ロランは、相変わらずマグナにほぼ一方的に話しかけていた。そうだろうよ。お前はマグナさえいれば、それで満足だもんな。
 俺は、珍しく少ししか料理に口をつけずにシェラと会話をするリィナの方ばかり見ていたので、助け舟を求めるマグナの視線を見落として、後でまた文句を言われた。
 晩餐を終えて部屋に戻ってからも、なんか知らんが俺はリィナのことばかり考えていた。自分でも意外だが、俺にとって、よっぽど衝撃的な出来事だったらしい。
 あいつのあんな艶姿は、今日が最初で最後だったかも知れないと思うと、なんだか惜しくて堪らなくなる。
 あ〜、思い切って声かけて、二人きりになってみりゃ良かったな。いつもはまるで感じない、あいつの女の部分を覗けた気がする。全く予測がつかない分、さぞかし新鮮だったに違いない。
 今からじゃ、もう遅いよな。どうせ部屋に戻るなり着替えちまっただろう。まぁ、幻みたいなモンだ。儚いが故に心を揺さぶるって訳よ。って、何アホなこと考えてんだ、俺は。
 今回、俺にあてがわれた部屋は、一番最初に通されたのと同じ、やや格の落ちる部屋だった。それでも充分に豪華なんだが、てことは、今夜は夜伽のイジワルはナシってことらしい。
 ロランもアホだね。今の俺なら、あっさり引っかかったかも知れねぇのによ。
 リィナにあれほど目を奪われちまったのも、ヘンな性欲の昂ぶりが、未だにどこかで燻っていたからに違いないんだからな。
 もう一晩眠れば、そろそろすっかり元通りになるだろう。多分。

90 :CC 11-17/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:25:51 ID:ntxCDlko0
 翌日、城を後にした俺達は、先ずは換金をする為に冒険者の組合所に向かった。
 ロランからふんだくってやった報酬と合わせれば、にわか成金と呼んで差し支えないくらいの額が手に入る。当面、金の心配はしなくてよさそうだ。
 俺は、ちらりとリィナを盗み見た。いつもの道着姿だ。俺の感情もいつも通りで、心中に不可解な波風が立つ気配も無い。うん、完全に戻ったかな。お前はやっぱ、その格好が似合ってるよ。
 組合所のすぐ側まで来た時のことだった。
 だしぬけに扉をぶち破って、凄い勢いで人間が宙を吹っ飛んだ。
 なんだぁ?
 地面に打ち付けられたそいつは、ゴロゴロ転がって道の反対側でようやく止まる。
「あれ?」
 放っておく訳にもいかずに駆け寄ると、リィナが声をあげた。
 こいつ、どもり野郎のブルブスじゃねぇか。何いきなりぶっ飛ばされてんだ。
「あ……し、師匠――」
「どしたの?誰かにやられた?」
「シェラ、とにかくホイミを」
「は、はい」
 手当てを受けるブルブスに背を向けて、俺は扉の破壊された組合所に足を踏み入れた。どもり君は、仲間と別行動をとっていたらしい。スティアの姿は見えず、ほっとしたような、がっかりしたような。
 代わりに、なんかガナってる野郎がいる。
「だからさ、カンダタとやり合った冒険者が誰なのか教えろって聞いてるだけじゃん!?」
「し、知りませんよぅ。さっきから言ってるじゃないですかぁ」
 黒っぽい道着をきた武闘家らしき男が、換金係の女の子相手に凄んでいた。こいつか、どもり君をぶっ飛ばした野郎は。
「あのね、オレをバカにしてんの?ここは、冒険者の元締めじゃんか。知らない訳ねーでしょ」
「私、ただの換金係ですからぁ。知らないですよぉ」
「お前、止めろよ。泣くほど女の子を脅してどうすんだ、バカ」
「な、泣かしてねぇよ!このコが勝手に泣いちゃったんだって!」
 背後から声をかけると、男はうろたえて振り返った。
「オレは、ただ話を聞いてただけで――って、アンタなに?」
 急にいかめしく顔を作り、肩を揺らしてこっちに歩いてくる。
 なんだ、やる気か。言っとくけど、俺は喧嘩弱ぇぞ。

91 :CC 11-18/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:28:52 ID:ntxCDlko0
「オレ、時間無いんだよね。悪いけど、邪魔すんならぶっ飛ばすよ?」
「まぁ、落ち着けよ。なんだか良く分かんねぇけど、そのコは知らないって――」
「良く分かんねぇなら、すっこんでてよ。ね?」
 男はおもむろに、俺の顔面に向かって拳を繰り出した。
 だから、俺は喧嘩弱ぇってのに。
 思わず目を瞑ってしまったが、パンっと乾いた音が耳に届くだけで、一向に拳が当たる気配がない。
 おそるおそる目を開くと、男の拳は俺の顔面を捉える寸前で、誰かの掌に受け止められていた。
「無事かな、ヴァイスくん?」
 リィナだ。いつの間に隣りにいたんだ、お前。
「へぇ?」
 男は面白そうな色を目に浮かべて、俺を蹴る。なんで俺だよ。
「よっ」
 俺に届く前に、リィナが男の脚を蹴り戻し、その勢いで蹴り足を跳ね上げて男の鼻っ面を軽く弾いた。
「ぶぁっ」
 ニ、三歩たたらを踏んで、男は顔を押さえる。
「なに、この人?」
 何事もなかったような口調で、リィナは俺に尋ねた。
 お前カッコ良過ぎ。俺が女でお前が男だったら、間違いなく惚れてるぞ、これ。
「ちぇっ、油断したぜ。とは言え、このオレ様に一発入れるとは、アンタ只者じゃないだろ」
 男はニヤリと笑った。鼻血を拭いながらじゃ、全然決まんねぇけどな。
 冷静に見ると、男はかなり若かった。俺より年下なんじゃねぇか、こいつ?
 背も、あまり高くない。リィナよりは上背があるが、俺よりも低い。
 鼻血を拭ったのとは逆の手で、男は短く刈った黒髪を掻いた。
「さては、アンタらだな?カンダタ一味とやり合った冒険者ってのは?」
「そうだけど?」
 バカ、お前リィナ。簡単に認めんなっつーの。
「マジかよ。今日ここで会えるなんて、さすがはオレ様、ツイてるね。てことは、ニックの旦那とやり合って、生き延びた女武闘家ってのはアンタかい」
 こいつ、そんなことまで知ってんのか。まぁ、あれだけの強さだ。あのニックって野郎が、チンピラ業界では有名だとしても不思議じゃないが、どうやら噂はだだ漏れみたいだな。

92 :CC 11-19/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:30:37 ID:ntxCDlko0
「なに?キミ、あの人の知り合い?」
「ちょっとな。オレの名はフゥマ。おう、ちょっと確かめさせろい」
「ボクはリィナ。手合わせってことかな?別にいいよ」
「お、話が早ぇな。そういうの好きだぜ。そんじゃ、早速――」
 フゥマと名乗った男は、突然目を剥いた。
 ちょうど組合所に入ってきたマグナ達の方を見ている。
 視線の先は――シェラか。
「……なんだよ、オイ。あの可愛コちゃんも、あんたらの仲間なのか?」
 可愛コちゃんて、お前。
 フゥマはシェラを見据えたまま、俺を押し退けてズカズカ歩み寄る。
「なによ、あんた」
 シェラを後ろに庇って、マグナが立ちはだかった。
「いや、アンタに用はないから。どいてよ。オレ様、気の強い女は嫌いなんだ」
「なっ――!!」
 絶句するマグナに構わず、フゥマはシェラに話しかける。
「あの、オレ――いや僕、フゥマって言うんだ。君は?」
「え、あの、シェラですけど」
「い、いい名前だね」
「はぁ。ありがとうございます」
 なんだ、この会話。
「あのさ、これから、君の仲間と勝負することになったんだけど、その、もし僕が勝ったら……えっと……」
 おいおい、恋する少年みたいな口振りになってるぞ。
「もし良かったらでいいんだけど……この後、ちょっと付き合ってくれないかな」
「はい?」
「いいよー。ボクに勝てたらね」
 何故かリィナが勝手に了承する。
「ホントだな!?約束だぞ!?おっしゃ、さらにやる気になってきたぜ!」
 フゥマは拳で手を打ち鳴らした。
「え?どういうことですか?よく意味が――」
 訳が分からず、おろおろするシェラ。そりゃそうだろう。
 なんだかおかしな事になってきたな、おい。

93 :CC 11-20/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:32:31 ID:ntxCDlko0
 組合所の脇には、冒険者やその卵がいつでも使用できる修練場が用意されている。
 フゥマとリィナは、四方を塀で囲まれたそこで手合わせをすることになった。
 なんでこんな事になってんだ。
「大丈夫なのかよ。お前、いちおう病み上がりだろ」
 片足を体の真横に伸ばしてしゃがみ込み、頭の上で腕を組んで伸ばした足の方に上半身を傾けて柔軟をするリィナに言う。
「平気へいき。どれくらいナマってるか確かめておきたかったから、丁度いいよ」
 そう軽く言うけどさ。
「それに、弟子がやられた分は、おかえししとかないとね」
「し、師匠。し、心配してないですけど、あ、あいつ結構、つ、強いス」
 ブルブスは、既にシェラのホイミで回復していた。
「みたいね。でも、ちゃんと勝つから心配しないで、シェラちゃん。ごめんね、勝手なこと言って。ああ言っといた方が、手っ取り早いかな、と思ってさ」
「いえ、あの――信じてますから」
 いまいち事の成り行きを呑み込めていないながらも、シェラは健気にそんなことを言う。
「なんなのよ、あいつ。オレ様とか言っちゃって、バカみたい」
 ぶつくさ呟いているのはマグナだ。
「おう、さっさとしろい!こっちは、さっきから待ってんだからよ!」
 腕組みをして催促するフゥマを、マグナはギロリと睨みつけた。
「なんだかよく分かんないけど、リィナ、もうケチョンケチョンにしちゃっていいわよ」
「うん、まぁ見ててよ。もう負けないから」
 ぴょーんとひとつ高く跳ねてから、リィナは修練場の中央まで歩くと、足をがばっと前後に開いて腰を落とし、掌を上に向けてフゥマの方に差し出して、合わせた指をくいくいっと曲げて手招きした。
「面白ぇっ!受けてやるぜ!」
 フゥマは拳の届く距離まで近づくと、リィナと鏡合わせになるように、やはり足を開いて腰を落とす。互いの前足が交差するくらい近い。
「それじゃ、ヴァイスくん、お願い」
「は?」
 お願いって、何をだ、リィナ。
「いつでもいいから『はじめ』って言ってよ」
 あー、そういうことね。そんじゃ。

94 :CC 11-21/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:35:13 ID:ntxCDlko0
「え〜、はじめ」
 俺の気の抜けた合図と共に、二人は同時に拳を繰り出した。
 リィナの頭が、後ろに弾ける。なんと、フゥマの拳だけ当たっていた。
 思い切り仰け反った状態から、なんとか上体を立て直して、リィナは頭を振る。
「あれ?」
「とりあえず、さっきのおかえしな」
 リィナの鼻から血が垂れていた。
 それを拭いながら、リィナはちょっと笑う。
「続けないんだ?優しいね、キミ」
「これで貸し借り無しだからな。次は止めねぇよ」
「うん、そうしてくれる。キミ、面白い打ち方するから、もっと見せてよ」
「けっ、鼻血垂らして余裕コイてんじゃねぇぞ!!」
 フゥマは次々と、リィナの言うところの面白い打ち方で拳を繰り出す。いや、俺には何が面白いんだか、さっぱりだが。
 リィナは、防戦一方に見えた。拳を喰らいこそしないものの、掌で受けたり腕で払ったりするだけで、反撃ができない。
 どうでもいいけど、両者の動きが速すぎて、目と意識が追いつかねぇぞ、これ。
「どしたい!!もうちょい上げるぜ!?このままだと、終わっちまうぞ!!」
「そうだね。そろそろいいかな」
 言った直後だった。
 フゥマの拳を打ち落としたリィナの手首が、そのまま顎に叩き込まれる。
「つっ!」
 さっきのリィナと同じように、仰け反った状態からなんとか踏ん張って、フゥマは体勢を立て直した。
「これでまた、ひとつ貸しね」
 リィナは、人差し指を伸ばしてフゥマに見せた。
 さてはこいつ、わざと手を止めたな。いつも飄々として見せているが、実はメチャクチャ負けず嫌いなんじゃねぇのか?そういや、いくつか思い当たるフシがあるぞ。
 くいくいっと合わせた四指を自分の方に折り曲げて、リィナは再び手招きをする。
「……上等だ、コラァッ!!」
 怒鳴りながら放ったフゥマの突き手を掴み、リィナは後ろに放り投げるように引っ張った。
「……っと」
 バランスを崩したフゥマは、片足だけでぴょこぴょこ何歩かつんのめる。
「ってことで、ボクの勝ちでいいかな?」
 リィナは、はじめの位置から全く動いていなかった。
 どうやら先にその場から動いた方が負け、みたいな暗黙の了解があったらしい。

95 :CC 11-22/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:37:32 ID:ntxCDlko0
「っのヤロ……」
 フゥマは、悔しそうに顔を顰めた。
「ちぇっ、はじめから自分の得意な土俵に持ち込むなんて、卑怯な真似してくれるじゃんか。オレ様としたことが、まんまと引っかかっちまったよ」
 お前、さっきは面白ぇとか言ってただろ。
「オレ様はまだ負けてねぇよ。こんなちまちました小手先の小突き合いなんて、やってられっか!大技繰り出してナンボの、男の流儀ってヤツを見せてやるぜ!!」
 手前勝手なことを大声でほざくと、フゥマは低く身を沈めた。
「おらあっ!!」
 五、六歩ほどの距離を一足飛びに跳んで拳を突き出す。
「ほい」
 素早く横に回り込んだリィナは、左腕でフゥマの首を刈ると同時に足を払う。
「おっ!?」
 頭から地面に落ちるかと思いきや、フゥマは地についた両手を支えに躰を縮め、次の瞬間、急激に全身を撥ね上げた。バネ仕掛けの逆立ちみたいなモンだ。
 だが、フゥマの踵はリィナの顎を捉えなかった。
 背を逸らせて後転したリィナの軌跡を追うように、その僅かに上をフゥマの体がなぞって行く。
 回転の半径が小さいので、先にリィナが着地した。すぐ後ろに、背中合わせでフゥマが落ちてくる。
「フンッ」
 足が地に着く寸前だった。
 ドン、と地を踏み締める音がして、フゥマはリィナの背中に弾き飛ばされていた。
「うおぁっ!」
 仰け反りながらふっ飛ばされたフゥマは、塀にぶつかる寸前でなんとか足を踏ん張って立ち止まる。
「ちぃっ!」
 振り向き様に拳を払ったのは、既にリィナが迫っていたからだ。
 だが、空を切る。
 ガラ空きの腹に、リィナの肘が突き刺さった。
「うぐふっ」
 堪らずに膝をついて、フゥマは苦しそうに何度か咳き込む。
「これで、もうひとつ貸しだね。まだ、いける?」
 また手を休めて、リィナはフゥマを見下ろした。

96 :CC 11-23/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 10:40:41 ID:ntxCDlko0
「……当然だ。ナメんな、コラァッ!!」
 いきなり跳び上がって頭突きを喰らわそうとしたフゥマの顎を、後宙したリィナの爪先が見事に蹴り上げる。
「がっ!!」
 首の血管が何本か切れたんじゃないかと思うほど顎を跳ね上げられたフゥマは、しかし倒れなかった。
「構うかよっ!!」
 後宙したリィナを追って、思い切りぶん回した蹴りを叩き込む。着地直後で躱せずに受けたリィナの躰が、少し持っていかれる。
「いくぜっ!!」
 フゥマは、リィナの体勢が整う前に、さらに脚を振り回した。大振りだったこともあり、今度は躱される。
「おおおおぉぉっ!!」
 構わず次々に繰り出されるフゥマの蹴りや拳を、リィナは紙一重で躱し続ける。
 と、その肩が塀に触れた。まさか、これが狙いで追い詰めてたのか!?
「ひっさぁつっ!!」
 はぁ?必殺ぅ!?
「爆砕!!破岩拳んっ!!」
 頭の悪そうな叫び声と共に思いっ切り突き出された拳は、あろうことか塀を打ち抜いていた。
 ガラガラと周辺の塀が崩れ落ちる。やってることが冗談みたいなら、威力も冗談じみてやがる。
「おー、凄いすごい」
 リィナに当たってねぇけどな。
 渾身の必殺技――必殺技って――をあっさり躱されたフゥマは、しかし不敵に笑った。
「ちぇっ、上手いこと躱したとか思ってんだろ。でも、ホントだったらオレ様の勝ちなんだぜ」
 何言ってんだ、こいつ。頭大丈夫か?
「え、なんで?」
「何故なら、今のはまだ全然本気じゃなかったからだ!」
 いや、そんな堂々と言われても。子供の負け惜しみかよ。
「確かにアンタも結構やるけどな、このオレ様が本気だったら、今頃は――」
「やれやれ。こんなところに居らしたんですか、フゥマさん」
 塀の向こうから、誰かがフゥマに語りかけた。
 この声は――
「ちゃんと待ち合わせの場所で待っててくださいよ。さんざん探したんですから」
 くそ、やっぱりか。嫌な予想ってのは、得てして当たるモンだよな。
 崩れた塀の隙間から姿を現したのは、カザーブの酒場で会った、あのにやけ面だった。
「ああ、アンタか。悪い悪い。ニックの旦那とやり合ったってヤツが、どんくらい使えるのか確かめてみたくてよ」

97 :CC 11-24/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:00:18 ID:ntxCDlko0
「おや、この方々がそうなんですか」
 にやけ面は、リィナを見た後、こちらに目を向けて俺の上で視線を止めた。
「やあ、またお会いしましたね」
「俺は別に会いたくなかったけどな」
 にやけ面を顔に貼り付けたまま、声に出して笑う。
「人の悪い方ですね、貴方は」
「なんだよ、知り合いか?まぁ、そんなこたどうだっていいや。やるぜ、『アレ』」
 フゥマの台詞に、にやけ面は首を横に振った。
「駄目ですよ。この方々にも、お声をかけようと思ってるんですから。いざこざは困ります」
「なんだ、そうなのか。でも、ちょっとだけならいいだろ?オレ、この姐さんにふたつも借りちまったんだ。このままじゃ、すっきりしねぇよ」
「駄目です」
「ボクなら構わないけど。『アレ』っていうのが、キミの言う本気なんでしょ?」
 嬉しそうな顔で、余計なこと言わなくていいから、リィナ。
「ほら、姐さんもああ言ってることだし」
「駄目ったら駄目です。さあ、行きますよ。ルシエラさん達も、ずっと待ってるんですから」
「ちぇっ、つまんねぇの」
「なんだ。もう終わり?」
「悪い。オレもまだやりてぇんだけど、雇われの身でさ。あんたには、また今度借りを返すよ」
 フゥマはリィナに拝んでみせてから、シェラに声をかける。
「シェラさんも、また今度!」
「え、あの……」
 返事は期待していなかった――というよりも、返事を聞くのを怖れるように、フゥマはスタコラと崩れた塀の間を抜けた。
「さて、用事がありますので、今日のところはこれで失礼します。またいずれ、お会いしましょう」
「だから、もう会いたくねぇっての」
 俺の拒絶を聞き流し、にやけ面も塀の向こうに消える。お前ら、そこは出入り口じゃねぇぞ。
「なんだったの……誰よ、あいつら?」
 俺の心中を代弁するような言葉を、マグナが口にした。
「知らね」
「嘘言わないで。向こうはヴァイスのこと、知ってたみたいじゃない」
「いや、ホントに知らないんだって。カザーブの酒場で、ちょっと話しただけでさ」
「ホントに?あんた、なんか隠してない?」
 特に言う必要も無いと思って会った事は黙ってたけど、あいつらが何者かってのは、こっちが教えて欲しいくらいだ。だから、そんな目をして睨んだって、俺には答えようがねぇよ、マグナ。

98 :CC 11-25/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:02:10 ID:ntxCDlko0
 お前らがカンダタ一味を打ち破った冒険者か!とか言って、次々に挑戦者がやってきたら面倒臭ぇな、と少し心配してたんだが、幸い腕白坊主以外は現れることもなく。
 次の日から俺達は、当初マグナが考えていた通りに、シェラの探している神殿に関する情報の聞き込みをはじめた。
 だが、三日経ってもこれといった話を、さっぱり聞かない。
 魔法協会なら誰かしら知ってるだろうと踏んでたんだが、魔法使い共は関係の無い講釈を偉そうに垂れるだけで、まるきり役に立ちゃしなかった。というより、どうも話を濁された気がする。
 ふと思いついて、たった今、冒険者の組合所を訪ねてみたんだが、やはり知ってる人間はいなかった。
 他にもひとつふたつ、当てがあるにはあるんだが、あんまり気が進まねぇなぁ、とか考えながら修練場の脇を歩いていると、崩れたままの塀の間からリィナとブルブスが手合わせをしているのが見えた。
 リィナも、冒険者連中に話を聞きに来てたのかね。
 よく独りでふらっと姿を消すヤツだが、こんな風に人知れず修行に励んでいたんだろうか。なんて思いつつ眺めてたら、ブルブスの蹴りがモロにリィナの腹に入った。おいおい、あり得ねぇだろ。
「し、師匠、だ、大丈夫ですか」
「あー平気へいき。ごめん、ちょっとぼーっとしてたよ」
「きょ、今日、調子わ、悪いですね。な、悩み事ですか」
「うん……ううん。何でもないよ。ごめん、ちゃんと気合入れるから。ほい、続きつづき」
 二人は、手合わせを再開する。
 へぇ。リィナにも悩みなんてあるんだな。いや、そりゃあるだろうけどさ、そんな素振りは、全然見せてくれないもんな。
 今、ブルブスの前で一瞬だけ覗かせた表情すら、俺は見たことがなかった。
 やっぱり、俺じゃ頼りにならないのかね。にしたって、どもり君より下かよ。そりゃ、かなり落ち込む話だな。
 なんとなく声をかける気分になれず、一抹の寂しさを感じながら、俺はその場を後にした。

99 :CC 11-26/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:04:30 ID:ntxCDlko0
 宿屋の食堂で晩飯を食いながら、その日の成果を報告し合うのが、ここ数日の恒例行事になっていた。
 だが今日も、誰も有力な情報は得ていなかった。この数日で増えたモンといえば、マグナとシェラの服くらいだ。
 マグナにさんざんケナされたお陰で、多少は注意していて気がついたんだが、どうやらロマリアの若い女の間では、短いスカートを穿くのが流行りらしい。だから、自然とマグナのスカートも短くなるのは結構なんだが、また新しくなってやがんの。
 どうせ今日も、店を渡り歩いてただろうな、こいつら。
 ほどほどにしとけよ、みたいなことを言うと、マグナはいつかと同じように呆れた顔をして首を振った。
「――ホント、あんたって分かってないわね。いい?噂は誰の間で流れるのか、良く考えてみなさいよ」
「誰って?そんなの決まってるのか?」
「あのね、噂好きって言えば、女の人に決まってるでしょ」
 まぁ確かに、近所のおばさんとか、どうでもいい噂話まで良く知ってたが。
「だから、女の人が集まるところで話を聞くのが、一番効率がいいの。買い物するためだけに回ってたんじゃないんだから」
「とか言って、ホントは買い物が目的で、話を聞くのはホンのついでだろ?」
「うるさいな。そういうこと言うと、もうあげないから」
 あげる?なにを?
 ごそごそと椅子の下を探るマグナに、「あ、もう渡しちゃいますか」とかシェラが話しかける。
「はい。あげる」
 そっぽを向きながら、マグナはぶっきら棒に包みを俺に押し付けた。
「その服、マグナさんが選んだんですよ」
「違っ――余計な事言わなくていいの。ついでよ、ついで。あんまりヘンな服着られたら、一緒に歩く時に恥ずかしいでしょ」
「きっと、ヴァイスさんに良く似合うと思います」
 なんだなんだ。理由も無く、マグナが俺に物くれる訳ないよな?
 一体、どんな恐ろしい魂胆が、この裏には隠されて――
「……早く受け取りなさいよ」
「あ、ああ。ありがとう」
 まぁ、いいか。くれると言うなら、もらっておこう。
「でも、俺の服なら、おとといあちこち連れ回されて買っただろ」
 今も、その服を着ていたりする。
「あんた、マトモな服それしか持ってないじゃない!……いいわよ、要らないなら返して」
「いや、要る要る。ありがたく頂戴するよ」

100 :CC 11-27/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:07:08 ID:ntxCDlko0
「ホント、一言多いんだから……」
 ぶつくさ言うマグナを、まぁまぁとかシェラが宥める。
「リィナも、服を買っておいても全然着ないのよ。おんなじ道着ばっかりいっぱい持ってて、それを着回してるの。信じられる?」
「あーうん。折角買ってくれたのに、悪いなーとは思うんだけど、この方が動き易いしさ。そういう服着てる時に、突然襲われたら困っちゃうし」
「誰によ!?こんな街中で、襲われないわよ!」
 まぁ、別の意味で襲われる可能性はあるけどな。
「それに、マグナみたいに可愛くないから、ボクにはそういうの似合わないよ」
「そんなことないです!絶対とっても似合うのに……もったいないです」
 心の底から残念そうに、シェラが呟く。
 俺も、ちょっと見てみたいぞ。普通の服を着る時は、サラシも巻かないだろうしな。
「まぁ、人の好き好きだけどね。別に無理して着ることは無いけど」
「そうそう。ボクはこれが一番落ち着くよ」
 この分だと、この前の晩餐での光景は、やっぱり儚い夢と終わりそうだな。
 それはともかく。
「で、どうする?それっぽい話が全く引っかからねぇけど、もうちょい聞き込みを続けてみるのか?」
「そうねぇ……そんな言い方するってことは、ヴァイスは何か考えでもあるの?」
「まぁ、考えってほどのモンでもないんだけどさ――」
 このままロマリアで話を聞いて回っても、埒が明きそうにないからな。
 俺はカザーブの村で耳にした、エルフの話を三人に聞かせた。アホみたいに長生きしてるそうだから、神殿の話を知っている可能性も無くはない。まぁ、無くはない、って程度だが。
 ついでに『眠りの村』の存在を確認したら、『どくばり』がもらえることを付け加える。
「へぇ。エルフって本当にいるんですね」
「いや、それはまだ分かんねぇけどな」
 どうやらシェラは、エルフの話に大層心を惹かれたようだ。
「マグナさん、行ってみましょうよ。私、エルフに会ってみたいです」
「ボクも〜」
 いや、エルフに会うこと自体が目的じゃないんだが。
「……そうね、いいんじゃない。ここでは、大した話は聞けそうにないしね」
 マグナがあっさりと首を縦に振ったので、俺は驚いた。買い物生活が気に入ってると思ってたから、てっきり拒否するもんだと予想してたんだが。

101 :CC 11-28/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:10:03 ID:ntxCDlko0
 話はとんとん拍子に進み、旅の支度なんていつでも整ってるようなモンだから、早速明日には出発することになった。
 ともあれ、もうひとつの当てを切り出さずに済んで助かったぜ。マグナに頼んでもらえば、ロランは喜んで国中を総動員する勢いで情報を集めてくれるだろうが、正直あいつに頼み事はしたくねぇからな。
 晩飯を兼ねた報告会を終えた後、独り残って酒を飲むのも、ここ最近の俺の日課になっていたのだが。
「――先に戻っててくれる?」
 この日は、マグナがそんなことを言い出した。
「まだ戻らないんですか?」
 既に席を立っているシェラに、マグナは頷いた。
「うん、ちょっと。すぐ行くから」
「ほいほい。ごゆっくり〜」
 にやにや笑いで俺を見て、リィナはシェラの背中を両手で押して立ち去った。
 そういや、試しにリィナと酒飲んでみるのも面白かったかもな。機会は何日もあったのに、気付かなかったぜ。まぁ、次の機会だな。
「どうした?なんか話でもあるのか?」
 二人きりになったテーブルでマグナに話し掛けても、いらえはなかった。頬杖をついて、ちょっと拗ねてるみたいに見える。俺、なんかやったっけ?
「あたしも、お酒飲む」
 給仕を呼び止めて酒を注文していると、やはり拗ねた口調でそんなことを言った。
「お前、酒なんか飲めたっけ?」
「ちょっとなら、飲んだことあるもん」
 嘗めた程度かな、こりゃ。まぁいいや。
「なに飲むんだ?」
「よく分かんないから、ヴァイスに任せる」
 はいはい、と。マグナ用に、蒸留酒を果汁で割った飲み易い酒を追加する。
 テーブルの木目を眺めたり、店内を所在なげに見回したりして、結局マグナは酒がくるまで一言も口を利かなかった。なんなんだ。ちょっと怖いんですが。
「――あ、甘くておいしい」
 運ばれてきた酒をひと口飲んで、マグナは少し吃驚したように呟いた。
「ああ、飲みやすいだろ、それ」
 スティアと最初に会った時に飲んだ酒だなんてことは、口が裂けても言えない訳ですが。
「なんだ。お酒っておいしいのね。子供の頃飲んだ時は、ヘンな味〜としか思わなかったけど」
「まぁ、それはジュースみたいなモンだからな」
「うん。これなら全然大丈夫。もっと飲む」
 気が付いたら、もう飲み干してやがる。

102 :CC 11-29/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:12:17 ID:ntxCDlko0
 どんどん注文して、パカパカあおるもんだから、マグナの顔はあっという間に真っ赤になった。
「お前、あんま飲み過ぎんなよ」
「うるさいなー。どうせあたしの財布から払うんだから、いいでしょ」
 お前のかよ。共有財産じゃなかったのか。
 ともあれ、実際はうるさいがうるはいとしか発音できてない。ちょっとペースを落とさせないとヤバそうだ。
「じゃなくて、二日酔いになるっての。明日はもう、出発するんだろ」
「いーもん。二日酔いってなったことないから、なってみたかったんだもん」
 子供みたいなこと言うな。
「いや、あのな。そんな憧れるようなモンじゃねぇぞ」
「もーうるさーい、ヴァイスはいっつもいっつも!あたしがリーダーなんだからね!あんたなんか、家来なんだから!」
「はいはい」
「ほらー、すぐそうやって聞き流すー。もー……」
 マグナは、急にヘンな顔つきをした。
「……なんか、ちょっと気持ち悪くなってきたかも」
「ほら見ろ。慣れてねぇのに、いきなりバカみたいに飲むからだ」
 俯いたマグナの手から、グラスを取り上げる。
「……バカじゃないもん」
「はいはい。そうでしたそうでした」
 俺が急いで布巾で拭いたテーブルに、マグナはぐでーっと突っ伏した。
 何がしたいんだ、こいつは。
「……バカだけど」
「は?」
 寝ちまったのかと思うほど、かなり長い間を置いてから、マグナは突っ伏したままボソボソ喋り出す。
「あのね」
「うん」
「正直に答えて欲しいんだけど」
「ああ」
「あたしって、やっぱり可愛くない?」
 ……あのな。
 どう答えろってんだ、そんなモン。
「……だよね。さっきから――ううん。いつも、ヴァイスにも文句ばっかり言ってるもんね」
 いや、俺が答える前に先取りしないでくれ。

103 :CC 11-30/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:15:10 ID:ntxCDlko0
「……あのね、街を歩いてるとね、男の人がタマに声をかけてくるでしょ?」
「そうね」
 おととい、一緒に服を買いに行った時もそうだった。マグナもシェラも、見た目は悪くねぇからな。俺が傍らに居る場合はともかく、試着でちょっと離れた隙にも声をかけられていた。
「でもね……シェラばっかり話しかけられるの」
「そりゃ、だってお前、すげぇ顔して威嚇すっからだよ」
 俺は、二人が声をかけられていた場面を、頭に思い描く。
 あんだけ近寄んなって雰囲気を全身から発散してれば、話し掛け易そうなシェラの方に流れるだろ、普通。
 つまり、そういう態度を取っちゃう自分が、可愛くないんじゃないかと悩んでる訳か、こいつは。
 って、マジか。そんな事で悩む奴だったのかよ。とんでもなく今更なんじゃねぇの?
「威嚇なんてしてないもん!」
「いや、してるっての。にこっと笑顔のひとつも見せてやりゃ、お前にだって話し掛けてくるよ」
「だって、別に話したくないんだもん。ヘラヘラしながら言い寄ってくるような男は嫌いなの!」
「……お前ね」
「じゃあ、アルとか、あの――なんて言ったけ?太った商人の人とかは?」
 哀れ小太り田舎者ルールス。名前すら覚えてもらってねぇよ。
「あたし、それなりに愛想良くしてたつもりだったけど、やっぱりシェラのことばっかり構ってたじゃない」
 いや、その件につきましては色々ありまして。つか、お前シェラから何も聞いてないのかよ。意外だな。
「この前の、オレ様とか言ってたヘンな奴だって、そうよ。気の強い女は嫌いとか言っちゃってさ――あたしって、そんなに気が強そうに見えるの!?」
 見える見える。
「いや、まぁ、マグナも充分可愛いよ。ホント」
「……適当なこと言って」
「いや、適当じゃないって。ホントにそう思ってる。マグナは可愛いよ」
 なんで俺がこんなこと言わにゃならんのだ。
 マグナはちょっと顔を上げて、垂れた前髪の間から俺を見た。お前、ちょっと怖いぞ。
「そんなこと言って……ヴァイスだって、最近リィナの方ばっかり見てる癖に」
 え?マジか?
 この指摘には、物凄い意表を突かれた。
 そんなの、あの晩餐の夜くらいだろ?その後は、自分じゃ全然そんなつもりは無かったんだが。

104 :CC 11-31/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:17:59 ID:ntxCDlko0
 マグナは、がばっと上体を起こした。
「あたしは!女の子みたいだけど男の子のシェラより、女の子だけど男の子みたいなリィナより、女の子としてダメなの!?終わってるの!?」
 言い終わると、またすぐにテーブルに突っ伏して呻き出す。
「あーダメダメ……嘘。今のナシ。ごめん、忘れて。ホントに忘れて」
 海の底より深そうな、長い溜息を吐く。
「あー……ホントに嫌。なんでこんなこと考えちゃうんだろ。あのね、二人のことは大好きなのよ?すごい大切」
 また顔を上げては、すぐに俯く。
「なのに、こんなこと考えちゃうなんて……あたしって、物凄く嫌な性格してるんだよね、きっと」
「いや〜?そんなことねぇと思うけど。どんだけ好きで大切だっても、ずっと一緒に居りゃ、気に喰わないところのひとつやふたつ出てくるモンじゃねぇの」
「気に喰わないところなんて無いもん!……でも、そうなのかな。そういうのって、普通なの?」
「と、俺は思うけどね」
「……あたし、多分慣れてないんだよね」
「なにが」
「その……同年代の友達っていうか、男の子もそうだけど。そりゃもちろん、同じくらいの歳の知り合いはいたけど、なんていうのかな……ヘンに特別視されちゃってたから、どうしても距離があったっていうか」
 ああ、そうか。勇者の娘――というより、次期勇者様だもんな。アリアハンじゃ、特別視されても仕方ないわな。
 こいつはある意味、箱入り娘と言えるのかも知れない。全然、そんな印象ねぇけど。
「だから、今はシェラとリィナがすごい大切なの。こんなに気の置けない友達って、ほとんど居なかったから。それなのに、さっきみたいなこと考えちゃったりして、自分では気付かない内に二人を傷つけたりしてるんじゃないかって、不安になるの」
「案外、色々気にしてんだな」
「またバカにして……だって、慣れてないから、付き合い方が良く分かってないんじゃないかって思っちゃうのよ。その……としてじゃなく、あたし自身として、人とどう接すればいいか分かってないから、可愛くしたりも出来ないのかな、って」
 アリアハンでは、マグナは基本的に勇者として見られてんだもんな。可愛くみせる必要は無かった訳だし、その前提が無い状態での人付き合いは、確かに慣れてないのかも分からんが。

105 :CC 11-32/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:23:11 ID:ntxCDlko0
「まぁ、でも、他人とどう接すればいいかなんて、皆よく分かってないんじゃねぇの?俺だって、別に分かってねぇしさ」
「そうなの?」
「ああ、さっぱりだね」
 つか、そんなに真面目に悩む程、ちゃんとした人付き合いをしてこなかっただけだが。
「まぁ、年長者として助言できることがあるとすればだな――」
「偉そう」
「うるせぇよ。いや、ンな大したことじゃないんだけど、会うヤツ皆に、平等に接する必要はねぇってことかな。疲れちまうしさ。お前、育ちの所為かも知れないけど、誰の言うことでも真面目に受け取ろうとするトコあるだろ」
「そう?そんなことないと思うけど」
「そんならそれでいいけどさ、気を遣うのは大切なヤツだけにして、他のヤツには適当に話合わせて聞き流すくらいで丁度いいんじゃねぇの」
 我ながら、冴えない助言だな、これ。もうちょっとマシなこと言えねぇのかよ、俺も。
「だからさ、ヘラヘラ声かけてきたどうでもいい男に、別に可愛いと思われなくてもいいじゃん。その内、大切な男でもできたら、そいつに可愛いと思われれば、それで充分だろ。そうそう、それにマグナのことを可愛い可愛い言ってるヤツもいるじゃねぇか」
「えっ!?」
 酒気を帯びて赤くなった顔を、マグナは何故かさらに赤らめた。
「……誰?」
「いや、ほら、あの。ロラン」
「ああ、なんだ……あの人は、ふざけてるだけでしょ」
 ほら見ろ。お前の気持ちは全然伝わってないみたいだぞ、ロラン。
「でも、そっか……そうね。また会うか分からないけど、あんまり避けたりしない方がいいのかな」
 あれ?いや、あいつの戯言は聞き流してればいい類いですよ?
 言いたいことは大体言い終えたのか、マグナは、またぐでーっとテーブルに突っ伏した。
 しばらく空いた間を、俺は酒を嘗めて潰した。
「あー……なんか、また話聞いてもらっちゃったね」
「まぁ、いくら大切な相手でも、そいつには言えない愚痴ってあるからな」
「そだね……ヴァイスは無いの?そういうの」
「……ま、その内な」
 自慢じゃねぇが、俺は内心を他人に打ち明けるのが苦手なんだ。
「うん……今度は、あたしが聞いてあげるから……」
 語尾が、消え入りそうになっていた。
「……眠い」
 そう言ったのを最後に、テーブルに突っ伏したまま寝息を立て始める。

106 :CC 11-33/33 ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 11:25:24 ID:ntxCDlko0
 やれやれ。自分の限界量も分かってねぇ癖に、後先考えずにパカパカ酒をあおるからだ。
 ちょっと身を乗り出して髪を掻き分け、横顔を眺める。
 また勇者絡みの悩みでも聞かされるのかと思ってたんだが。まさか、あんな普通の悩みだったとはな。
 ロマリアを離れてエルフに会いに行くことをあっさり了承したのも、さっきの愚痴が関係あるのかも知れない。
 こんな幼い寝顔をした、およそ勇者らしからぬ普通の悩みを抱えるこいつが、魔王を退治しに行くなんて本気で思うのかよ、ロラン。こいつに惚れてると言って憚らないお前は、それでいいのか?
 俺は、こいつの好きなように生きて欲しいと思うけどね。どう考えても、そっちの方がこいつらしいよ。強制じみた魔王退治なんかに行かせるよりはさ。
 上げていた腰を椅子に下ろして、背もたれに体を預けると、足元で何かがガサリと鳴った。さっき、マグナにもらった服の包みだ。
 あ、もしかして、これってそういうことなのか?
 少しは可愛げのあるところを見せてやろう、みたいな――
 俺は、思わず吹き出した。
 だったら、お前、あんなぶっきら棒な渡し方じゃダメだろ。なんであんなにむっつりした顔で押し付けてんだよ。
「くふっくくく……っ」
 堪えきれずに、笑い声が漏れちまう。
 いや、まいったね。ぜんぜん可愛いじゃねぇか、こいつ。
 まぁ、タマには酒かっくらって管巻いて、酔い潰れるのもいいだろうさ。
 仕方ねぇから、後でまたお姫様抱っこで運んでやるよ。今日は人目もあるから、ちゃんとスカートもどうにかして押さえてやるから心配すんな。
 押さえた拍子に、ちょこっとだけ尻を触っちまうかも知れないけど、それくらいは勘弁しろよな。

 翌日、案の定マグナが軽い二日酔いに襲われたので、出発したのは午後になってからだった。

107 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 11:39:36 ID:mPwFa78p0
リアルタイム遭遇GJ!

108 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/19(日) 12:01:56 ID:ntxCDlko0
なんか長い上にバタバタしてすいませんでした(^^ゞ
あと、またヘンな恥ずかしい新バカ出してスミマセン><
なんかもー、すいませんw前後不覚です
ダメだ、寝よう。。。おやすみなさいませ

109 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/19(日) 16:41:46 ID:SIMjOgc7O
お〜いいねぇ〜お疲れ様です!
女王ネタが入っててマロスw

110 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/20(月) 01:28:59 ID:IucL9Dck0
wktkが止まらない どうしよう

111 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/20(月) 21:07:25 ID:hOLiE0KL0
レスありがとうございます〜・゚・(ノД`)・゚・。
今回、ホント書く時間取れなくて、なんかスミマセン><
次はもっと頑張りますから〜
どうか引き続きご愛顧くださいませ
もっうちょい短くもしますので(^^ゞ

112 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/20(月) 22:05:01 ID:iX5RrqvW0
「くふっくくく……っ」
 堪えきれずに、笑い声が漏れちまう。
 いや、まいったね。最高にGJじゃねぇか、>>111

常にwktkして待ってるよ



113 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/21(火) 17:38:08 ID:Tw/JdX5H0
えぇと…カンダタに萌えても良かとですか?(死ね

114 :YANA 90-30:2006/11/22(水) 05:43:19 ID:PRctTPhr0
 ・ ・ ・


 ――――――ゴガガガガガンッッッ


 自身を中心に、鉄球を振るって巨大な半円を描く。
 鉄塊による殴打と強靭な鎖による薙ぎ払いで、数十体の魔物が粉砕される。
 地に足をつかず、翼によって大気に身を委ねる魔物などは、風圧だけで地に叩き落されて絶命している。
「………ふむ」
 エデンは、その手に握られた今初めて扱っている武装の特性を先の一振りで把握した。
 威力、リーチ、最大補足数。どれをとっても申し分なし。
 確かに重量こそ規格外だが、自分の膂力ならば決して扱えぬものではない。

 …戦士とは、戦う士(さむらい)である。如何なる手段においても、戦うことにかけて他者の追随を許してはならない。
 それが武器の扱いという要素を含むのなら尚更である。
 仮令初見の武器であったとしても。それが武器である以上、誰よりも早くその武器の特性を見抜き。
 誰よりも巧くそれを使いこなさねばならない。
 エデンの資質が、戦士に求められる器の究極形であることは、最早疑うべくもない。


 だが、それ故に。長所と同時に、見えてくる欠点もある。


 ギェェェェエエエエッ!!!

 ボゥン、ボゥン、ボゥンッッッ

 鉄球を引き戻そうと右腕を引き絞ろうとした矢先。
 左前方から、悪魔たちの奇声が上がる。
 やや弧を描き、土煙を避けるように飛来する、巨大な火球。その数、目視で十六。

115 :YANA 90-31:2006/11/22(水) 05:43:54 ID:PRctTPhr0
「…!」
 ぐるん。エデンはそれを視認するや、瞬時に撓んだ鎖を真上に放り投げる。
 左足を軸に半歩後退、背負っていた魔神の斧に、空いた右手をかける。
 そして、上半身を大きく捻り、吼えた。

 「…雄雄オオオオオオォォォォッッッ!!!」

 ―――ヅドォォォォォンンッッッッッ

 2メートルを超える魔斧を、力任せに大地に打ち付ける。
 地面は荒々しく削り取られ、凄まじい量の粉塵が舞い上がり、土気色の防壁を作り出す。
 局地的にみれば、先の鉄球の作り上げた土埃をも凌駕する粉塵の中には石や人間大の土塊も混じり、それらは無数の弾幕となって飛来した火球魔法を霧散させた。
「………」
 ガシャンッ。僅か一秒弱の防御の後、地面に減り込んだ斧を手放し、無言で元の位置に落下してきた鎖を掴み取る。
 一切の躊躇いもなく、まるでそうなるのが当たり前だといわんばかりに、鎖を手に収めたそのままの勢いで、体を反転させ―――

 グ…!?グギャアアアアアアッ!!

 ドオオオオォォォォォンッッッ

 …再び、自身を軸に振るった鉄球で悪魔の集団を殲滅する。

 その様、まさに無敵。攻撃に防御に、彼には死角がない。
 鉄球の回収が間に合わぬと見極めるや、瞬時に斧に持ち替えての迎撃に移る。
 力量、経験、判断力。どれをとっても超規格外。
 あれほどの巨魁を相手に、如何に数万の魔物とて、生半可な戦い方では傷一つ足りとてつけられまい。


 ―――と。その戦いを見た、誰もが思っただろう。

116 :YANA 90-32:2006/11/22(水) 05:44:38 ID:PRctTPhr0
 ・ ・ ・
「………す…すごい。あんな怪物が、この世に居たなんて」
「扱う武器も凄まじいが、何よりあの戦いぶりだ。相当の修羅場を潜り抜けているぞ」
「おお…見ろ!魔物どもが攻めあぐねているぞ!」
 後方から、エデンの戦い振りを目の当たりにした騎士達は口々に彼を称賛する。
「副団長!これならば、我らにも勝ち目が…!」
 勇み、兵たちの最前列に立つ副団長に呼びかける、が―――。
「あ…!」
「も、申し訳ありません!副団長!」
 騎士達は、自分達の言動・態度の不甲斐なさを鑑み、我に返る。
 背中を向け、ただ佇む女戦士に頭を下げてゆく。 

「………………」
 彼女はただ、前方で孤軍奮闘するエデンを、険しい眼差しで見つめる。
 …そう。彼女は、部下たちの危惧しているような事柄に憤慨しているのではなかった。
 彼らの誰もがエデンの無条件の勝利を確信している中。彼女だけは、冷静に状況の趨勢を見守っていた。
「………不味いな」
「「「は…?」」」
 先ほどの立ち回りを目にし、彼女はぽつりと呟く。
 騎士達はその言葉の意味を理解できず、揃って聞き返す。

 彼女もまた、優れた戦士である。あの攻防の意味を一瞬で読み取り、彼の不利が確定したことを理解する。
(…どうする。私に、騎士の誇りを捨ててまで、あの戦士に加勢する勇気があるか。
 いや、あの者の助けなくして、最早勝算はない。あの者の戦力を取り入れるのは、勝つための最低条件。
 だが…そうだとしても、勝つために騎士の誇りを捨てるられるのか?…私に!!)

 一人、歯噛みしながら思案する。
 彼女は、女でありながら、戦士を志した。
 そのせいで、同僚の男たちからは、後ろ指を差され、嘲られ、謂れのない恥辱も言い被せられた。
 それでも、彼女が副団長という地位まで登り詰めるまでに至れたのは、かの騎士団長の言葉があったからだ。


117 :YANA 90-33:2006/11/22(水) 05:45:12 ID:PRctTPhr0
 いつ何時でも胸を張れ。言いたい奴には言わせときゃいい。
  誇りと意地だけは、自分以外の誰にも折れやしないんだから

 彼女が、人知れず城の裏で涙を流しているとき、彼が言い聞かせてくれた言葉だった。
 その言葉に、挫けそうになる心を、何度救われたか。

 …だから、彼女は。騎士の誇りだけは、絶対に折らぬと決めてここまで来た。
 彼女が今ここに居られる原初の思いと、民や部下たちの命。
 こうしている間も遥か前方で戦い続けている異世界の戦士を見つめながら、彼女は一世一代の選択を迫られる。
(迷っている時間はない…奴らがソレに気づくのは、そう遅くない。
 私に、今までの私を否定することが出来るのか?否定して尚、戦えるのか?私は、私は―――!!)

      ガキンッッッッッ

「うわあっ!!」
「なんだ…!?あの鉄球が…止まった!?馬鹿な!!」
「!!」
 鈍い金属音と部下たちのどよめきで、前方に全神経を集中する。
 来た。思ったより、ずっと早い。
 …どうする!急がねば、一息の内にあの戦士は物言わぬ肉塊に変わるぞ!

 ――――――団長のように!

 ダンッ

 答えを出すよりも先に。彼女の体は駆け出していた。

118 :YANA 90-34:2006/11/22(水) 05:45:42 ID:PRctTPhr0
 ・ ・ ・ 
(不味いな…)
 振り下ろした斧を背中に戻し、エデンは思案する。
(先ほどの彼奴らの動き…間違いない。この破壊の鉄球の弱点に、気づき始めている)

 この武器の欠点は二つ。
 一つが、極めて取り回しにくいこと。
 その重量ゆえ、如何にエデンの豪力を以ってしても、全力で放った後は本体を引き戻すために一度力を込めなおす必要がある。
 魔物たちは、そこから実際に鉄球がエデンの元に戻るまでのタイムラグに気づき、呪文による一斉射撃を敢行した。
 だが、それはまだいい。攻撃の終わった後だ、いくらでも機転を利かせ、防衛手段をとることが可能である。
 問題なのは、もう一つの欠点である。
(彼奴らがもう一つに気づくのは時間の問題。…いや、下手をすればもう気づいているかもしれん)
「…すぅ」
 呼吸。…だが、それでも後退はありえない。
 思い出せ。戦士とは、こういった状況でこそ更なる進歩を遂げる者であると。
 見つけ出せ。私が求めた境地、その心を!

 グオオオオォォォォォォッ!!

 ダースリカントやドラゴンの群れが、大地を震わせて彼に殺到する。
 彼は一切の迷いも抱かず、鎖に力を込める。
「…よかろう。掛かって来い、魔物ども。我が全力の一撃、その身に受けるがいい!」
 鎖を握る右手の上に、左手を重ねる。
 エデンは今、初めて本気でこの鉄球を振るう。
「雄雄オオオオオオオオオォォォォォォッッッ!!!!」
 雄叫びとともに、地面に減り込んだ鉄塊は鎖から伝わった力を受けて浮き上がり、水平に運動を開始する。
 円を描く運動の、その中心は勿論エデン。竜巻の如き荒々しさで鎖を振り回し、威力を増大させる。

 ブオオオオオオォォォォォォッ


119 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/22(水) 06:35:08 ID:uBDmt2U/0
YANA氏乙んデレ
なんていいところで終わるんだww生殺しだぜwww
うあ゛ぁあ ・゚・(´Д⊂ヽ・゚・ あ゛ぁあぁ゛ああぁぁうあ゛ぁあ゛ぁぁ

120 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/22(水) 10:43:34 ID:ZDFgc7cIO
乙ンデレ
ここでドバンをもってくる>>119に萌えた

121 :YANA 90-35:2006/11/22(水) 11:03:42 ID:PRctTPhr0
 鉄球は徐々に回転速度を増してゆき、ついには目で追うことも不可能となる。
「嗚呼アアアアアアッッッ!!!」

 ガガガガガガガガガッッッ

 咆哮とともに、竜巻はその範囲を急激に拡大する。
 鉄球は回転の速度はそのままに、解放する鎖を増大させられ、エデンに集結しつつあった魔物たちを薙ぎ倒してゆく。

 グゲエエエエエェェェェェッッッ!!!

 瞬く間に粉砕されてゆく魔物たち。四十、五十、六十…秒毎にその数を二桁単位で減らしていく。
 尚も圧倒的な破壊力で敵を粉砕する鉄球は、際限なく破壊を続けるかに見えた、が―――。

「…!!」

 エデンは、凄まじい速度で回転する中で、研ぎ澄まされた動体視力で確認する。
 殺到する魔獣幻獣の群れの向こう、彼ら≠ェ陣形を変える様子を。

 その瞬間。彼は、現時点での己が限界を悟った。


      ガガガガガ――――――ガキンッッッッッ

 …突如。全てを砕くかに思われた鉄球は、その動きを止めた。
「―――――――――っ」
 ビキッ。鎖から、それまでの運動エネルギーに比例した反動がエデンの腕に伝わってくる。
 常人には激痛だが、彼にとっては単なる強い痺れ程度の問題でしかない。だが―――、

 グオオオオァァァァァァッ!!!

 その痺れは。彼に確かな隙≠作ってしまった。

122 :YANA 90-36:2006/11/22(水) 11:04:22 ID:PRctTPhr0

 ――――――賢明な諸君ならば、既にお分かりのことと思う。
 破壊の鉄球の、もう一つの欠点。
 そもそも、破壊の鉄球は、その圧倒的な重量による破壊力に任せた、一撃必殺を旨とした武装である。
 攻撃は最大の防御、をそのまま体現した到達点であるといえよう。
 だが、その偏執的なまでに破壊力だけに特化した武装は、ある欠点を抱えた。

 他ならぬ、破壊力を出すための重量による、反動である。
 先に挙げた欠点が、攻撃の終了の際に発生する弱点ならば。こちらは攻撃を防がれた際に発生する弱点=B
 攻撃の威力が高いということは、それだけそこに注がれるエネルギーが大きいということ。
 そして攻撃のエネルギーが大きければ大きいほどそれが防がれる、避けられるなどで瞬間的に運動を止めたときの反動は大きい。
 反動は攻め手に直接伝わり、予期せぬタイミングでの攻撃の停止は確実な隙となる。

 無論、それを覆すための、破壊の鉄球である。
 その規格外の破壊力で、この欠点は克服していたといえる。
 なぜなら、この破壊の具現そのものである鉄球が何かに止められるなどと、誰が想像しよう。
 そこいらの魔物の群れ程度なら、この欠点を露呈させる間もなく、一撃の下に粉々にされてしまう。


 だが、魔物たちは。『数』という、原始の力の塊でそれを更に覆した。
 彼らの中でも最大の巨体と頑健さを誇る石の巨人。十体もの大魔神を盾にすることによって―――!


(ドラゴンどもは彼奴らが陣を組み終わるまでの囮か…!ぬかったっ)
 鉄球の攻撃を逃れたサラマンダーが、眼前に迫る。

 …鉄球は、九体目の大魔神を砕いたところで、十体目に止められている。
 ボロボロになりながらも、鉄塊をがっしりと掴んで離さない。これでは、もう一度全力を込めねば引き戻せない。
 …否、どちらにせよ、この位置では回収は間に合わない。
 では、斧で迎撃を?―――不可。背中に手を伸ばしている間に彼奴の顎が私を砕く!


123 :YANA 90-37:2006/11/22(水) 11:05:45 ID:PRctTPhr0
(………ここまでか。ならばっ)
 苦々しく口元を吊り上げ、鎖から右手を離す。
 同時に、右手の指を鉤型に折り曲げ、ノーモーションでサラマンダーに突き上げ、迎え撃ちにゆく。
(まだ未完成なのだが…南無三!)
 エデンの喉笛を食い破るために、サラマンダーは大顎を開いて突進してくる。
 二人の突きと牙が、今正に交差する―――!


 ―――――――――キンッ


「………?」
 魔物も、騎士たちも、当事者たるエデンでさえも、目を疑った。
 エデンの右手も、サラマンダーの牙も。何者にも触れることはなかったのだ。
 …彼とサラマンダーを中心に土煙が囲んでいたその空間が、たった一度の済んだ金属音に支配される。
 戦士である者なら、余りに聞きなれた日常的な音。
 それは、剣の鍔鳴り。この大乱戦には不釣合いな、己が武装を意図的に収めた証。
 その音が、余りにも不似合いだったからか。その後の音は、酷く、遅れて聞こえた気がした。

 ―――ドシンッッ

 飛来したサラマンダーが、大地に打ちつけられる。…いや。その言葉は、正確ではない。
 その、サラマンダーだったもの≠ヘ、首と胴体とを、寒気がするほど美しく、両断されていた。

「――――――すまぬ。邪魔をした」

 背中から腰に付け替えられた鞘を揺らし、『彼女』は振り返った。
 凛、としたその立居振舞には、先ほどまでの弱々しさは微塵もない。

124 :YANA 90-38:2006/11/22(水) 11:10:27 ID:PRctTPhr0
「………」
 エデンは、何が起こったかを、彼女以外の、その場に居る誰よりも早く理解する。
 彼の動体視力を以ってしても視認できなかったその剣筋。
 力と重さで叩き切るのではなく。手数で打ち殺すのでもなく。
 ただ、研ぎ澄まされた技と、絵に収められたとしたらこれ以上ないほど芸術的な太刀筋で敵を断ち切る。
 今は幻とされ、知識のみでしかその存在を確認できないその技法を。
 彼は、ぽつりと呟いた。

「…居合、か。よもや、それを長剣で行う者がいようとはな」

 エデンの言葉を耳にし、彼女は淡々と語る。
「女の一芸でな。膂力がないならと、団長に教えられてからは、こればかり鍛えていた。
 …これが、私の本当の剣だ。尤も、乱戦で使うものではないから、鞘は背負っていたのだが」
 先の太刀筋。目に見えぬほどの速度で、竜種の首を両断する鮮やかさ。
 本来なら、鍔反りのある『刀』で繰り出すとされる居合を、直刀で、しかもあれほどの精度で会得している。
 それが、彼女のどれほどの努力の上に成り立つものであるかを悟り、エデンは内心で驚嘆する。
「…答えは、出たのか?」
 彼女を見据え、問う。
 だが、彼女は目を閉じ、自信なく答えた。
「…わからない。ただ、貴公が奴に討たれそうになったのを見た途端、体が勝手に動いていた。
 その後のことはよく覚えていない。気がついたら、ここにいた」
「そうか」
 技、と呼べるものを持たない、天性の身体的優位を活かす戦いだけをしてきたエデン。
 その彼と対照的に、ひたすら居合という技術を磨き上げ、それを誇りにしてきたであろう彼女。
 彼女であれば、或いは、自分がまだ辿り着けていないそこへと至っているかも知れない、と思ったが、と、少しばかり悔やむ。

 だが。彼女の言葉は、まだ終わっていなかった。
「――――――だがな。貴公の言葉の意味。一つ分かったぞ」
「む?」
 続く言葉は、ひどく、明るかった。

125 :YANA 90-39:2006/11/22(水) 11:23:28 ID:PRctTPhr0

「私のこの選択が正しかったのかは分からない。
 だが、私が誇りを捨てることで、少なくとも貴公の命を救うことが出来た。
 …とても、いい気分だよ。やってよかったと、私は思う
 もし、私が誇りを捨てることで、それで目の前の、今死のうとしている誰かを救えるのなら―――」


   ――――――誇りなぞ、そこらの虫にでも食わせてしまおう。
   人の死を見過ごすことで保たれる誇りなぞ、こちらから願い下げだっ―――!!


 未だ静寂が支配する戦場に、彼女の叫びが木霊した。
「―――――――――」
 その言葉は。彼の探求の欠片を、カチリ、と埋めた。

 彼はずっと求めてきた。戦士は何故戦うのかを。
 生物が戦うのは、死にたくないからだ。
 では、人の戦士が、己が身を自ら危険に晒しながら、尚戦うのは何故なのか。
 彼も、かつては戦士の誇りを支えに戦ってきた。だが、その末路を、かの勇者との出会いで味わった。
 誇りだけを拠り所とする愚かしさ。それを知った彼は、その『誇り』自体が、もっと大きな根源の上に成り立っているに過ぎないことを悟る。
 その根源が何かを求め、己が精神を鍛えた。
 何故?何のために?どんな時に?
 戦士が、人が戦う、ありとあらゆる状況に共通するソレを探し求め、今―――そこへと、辿り着いた。


 グオオオオォォォォォッ!!



126 :YANA 90-40:2006/11/22(水) 11:24:15 ID:PRctTPhr0
 瞬間。世界がモノクロに変わる。
 …知らず、魔物の接近を許していたのか。
 意識をこちらに向け、鞘に剣を収めてしまっていた彼女は、背後から現れたその魔物に反応できない。
 間に合うとすれば、私だけ。出来るのか。いかに鉄球の反動がないとはいえ、距離は先ほどより絶望的。
 私よりも、魔物の方が彼女に近い。見ろ、奴はもう、腕を振り下ろすだけで彼女の脳天を叩き割ることが出来る。

 ―――――――それが、どうした。
 馬鹿にするな。最早、迷うことなどない。目の前で、一人の人間が命を落とそうとしている。
 理由など、それで十分だ。
 間に合う。否、間に合わぬはずがない。元よりこのでかくて強い体は―――ただそれを成すことに特化しているのだから!


         「嗚呼アアアアアアアァァァァァァァッッッッ!!!!!!」


          ―――――――――クシャッ

 歪な音がした。
 紙が千切れ飛ぶような音。水袋が破裂するような音。或いは、そう。

 肉が、押しつぶされるような音。

「…え?」
 刹那の間に起きた出来事に、今度は彼女が目を疑う。
 眼前、顔と顔が触れ合う寸前に、エデンがいる。だがしかし、彼は彼女を見ていない。
 彼が見ているのは、自分の背後、その頭上。そして、伸びきった彼の右腕は彼女の左肩の上を通過して―――、

 ドシャンッ


127 :YANA 90-41:2006/11/22(水) 11:25:02 ID:PRctTPhr0
 彼女の背後で、何か巨大な物が崩れ落ちる音。
 …数秒経って、何をも理解できぬまま彼女は振り返る。
 そこに横たわっていたのは―――喉を破られ、夥しい出血をして絶命した魔獣の遺骸だった。

「――――――礼を言う。貴殿のおかげで、私は辿り着けた」
 穏やかな言葉に、彼女は再びエデンに振り返る。
 右腕の先端は真っ赤に染まった拳。彼がそれを開くと、手の平からボトリ、と赤黒い肉片が零れ落ちる。

「戦士の誇りが、何の上に成り立つのか。戦士だけではない、人は傷つき、それでも戦うのは何故か。
 探していた答えは、こんなにも簡単なものだった。そう―――私はただ、それだけを考えればよかった」
 

     ――――――目に写る誰か≠…死なせたくない…!!


 そうして。再び戦場の時は動き出した。
 時間にして一分にも満たない静寂だったが。それは、間違いなく、この戦いの命運を分ける一分だった。

 グ…グオオオオオアアアアアアアアァァァァッッッ!!!!

 魔物の軍勢が吼える。数百に及ぶ同胞を屠った巨魁を討つために、打って出る。だが―――!


「――――――聞けぃっ!!魔物どもっ!!!」


 裂帛の気合に、魔物たちは足を止める。万に及ぶ軍勢が、たった一人の戦士の咆哮に、気圧される。
 人語など解さぬ魔物の大群を、ただの気合で萎縮させる。その様が、どれほど異様であるか。

「我が名はエデンッ!!この地獄の世界を、楽園へと導く者なり!!
 外道どもよっ!我ら人間の生きる意志を!!砕けるものなら砕いて見せろオッッッ!!!!」


128 :YANA 90-42:2006/11/22(水) 11:32:30 ID:PRctTPhr0
 咆哮と同時に、鎖を掴み上げて全力で引く。
 鉄球は、満身創痍の大魔神の腕を振り払い、再び主の元へと帰還する。
「………ふ」
 異世界の戦士の叫びを聞き、彼女は静かに微笑む。
 ならば、と、背後に呆然と控えている騎士たちに呼びかける。

「…お前たちっ、何をしているっ!!」

「は…!」
 エデンに勝るとも劣らない一喝に、ラダトームの兵たちは火を入れられる。
 彼女はそれを見るや力強く、勝利を謳う。

「剣を振るえ!槍を掲げろッ!!
 奴らが牙と爪で我らの喉を食い破りに来るのなら!!我らは磨き上げた鋼と技と弾丸で、奴らの臓物を突き破れッ!!!
 追い詰められた人間の底力を、浅ましい魔物どもに見せてやれッッッ!!!!」
 激昂の後、僅かだけ目を閉じ、すぐに不敵に破顔し、付け加えて命じる。


「それと―――すまん。さっきの命令は撤回する。必ず、生きて帰って来いっ!
 命を粗末にする戯け者の為に流してやる涙はないぞっ!!」


 ………

 一瞬の、間。
 普段の冷静な彼女らしからぬ絶叫に、兵たちは言葉を失う。
 だが、それは本当に、一瞬で終わりを告げた。…兵たちの、奮起の叫びによって!

    …オ…ウオオオオオオオオォォォォォォォッ!!!!!


129 :YANA 90-43:2006/11/22(水) 11:36:15 ID:PRctTPhr0
 …全ての条件は整った。
 今ここに、アレフガルド史上最大の合戦が、本当の始まりを告げた。
 彼女は、隣に佇む戦士の顔を見上げ、微笑む。
「…すまなかったな。異世界の戦士…いや、戦士エデン。
 遅くなったが、助太刀、感謝する。我ら騎士団一同、貴公と戦列を同じくできることを嬉しく思うぞ」
「構わぬさ。私とて、貴殿の協力なくしては僅かの迷いを拭い去ることは出来なかった」
「ふふっ。…貴公の食い残しは、私が切り捨てる。遠慮なく暴れるがいい」
「それは有難い。共に往こう、素晴らしき騎士…いや、そうだな」
 敵陣を睨んだまま、不敵に笑うエデン。
 何事かを思案し、眼下の彼女に尋ねた。
「貴殿の名を、教えていただけないか。不便で仕方がない」
「………」
 彼女は数秒、目を丸くした。
 だが、すぐにくすり、とたおやかに笑みを漏らし、喜んで、己が名を名乗った。
「それもそうだな。私は―――」

 とても、これから死地へ挑むとは思えぬほどの晴れ晴れしい気分のまま。
 彼女は彼に答えながら、思った。

(…団長。私を、不出来な教え子と笑いますか。
 ですが、私は誇りよりももっと大切なものを見つけました。
 私の誇りは、まずはそれを守れるようになってから、また一から育てなおします。
 それに、素晴らしい戦士にも出会いました)

 見上げ、勇ましい戦士の横顔を瞼に焼き付ける。

(ああ。私もいつか、彼のようになりたいものだな。
 …そうだ。彼の名は、エデン≠ニいうのだったな。
 面白い。彼がこのアレフガルドを導き、楽園を目指すというのなら。
 私は同時に、もう一つの楽園≠目標に目指してみるとしようか―――!)

 そう、彼女は心に刻みながら。彼らと共に、駆け出した。

130 :YANA:2006/11/22(水) 11:42:28 ID:PRctTPhr0
 :エデン:
 サマンオサの王の悪政に挑み、獄死した勇者・サイモンの息子。
 天性の瞬発力と豪腕を誇り、あらゆる武器を使いこなす戦士。義理と信念に生きる武人。
 父の仇でもあるサマンオサの偽王との一戦でのゴドーへの恩義、そして世界を救うという志を請け、大魔王の軍勢の前に立ちはだかる。
 全てが終わり地上に帰った後も、ゴドーの頼みを守り、彼に関する一切を語ることはしなかった。
 恩人へ報いることを、不器用ながらもある種究極的に体現した、彼の武人としての生き様を貫徹した結果である。

 …最終決戦以後は、世界各地を武者修行して回り、盗賊や海賊たちを震え上がらせた。
 しかし、ある日彼の誤解から一人の僧侶と果たし合うことになり、なんと素手であるその僧侶に手も足も出せずに圧倒される。
 だが当の僧侶本人に「この勝負はフェアじゃないね。相手が人である以上、私の敗北はありえないのだから」と見逃され、
 以後はサマンオサの騎士団の武術指南役として腰を落ち着ける…
 かと思わせて、国の近隣で騒動があると、いの一番で鎮圧に赴くのであった。
 最終的に、兵たちには化け物爺として恐れられ、且つ敬われたのだそうな。

131 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/22(水) 12:06:15 ID:pQUeCl2p0
リアルタイム遭遇キタヨキタヨ。YANA氏乙&GJ!

途中涙すら出たぜ!エデン編も終わりになるのか。
最後の僧侶が気になるところだけど、何かあるのかしら。

132 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/22(水) 12:28:50 ID:9tjMcrzl0
>>YANA氏
乙であります!

ちょ、僧侶ってまさかライn・・・くぁwせdrftgyふじこlp

133 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/22(水) 17:00:09 ID:YRFE3yFG0
YANAさんGJGJGJ!!マジで涙が・・・
エデン編も終わりか・・。なんだか寂しいねぇ

最後の僧侶…ライnうくぁ何をwせkごpdbんmn・・・・・ハァハァ。じゃなくて
副団長の名前を明かさないのは伏線でおkなのですか?

134 :YANA:2006/11/22(水) 17:33:08 ID:PRctTPhr0
規制UZEEEEEE!!(挨拶

こんばんわ、YANAです。
今朝は半端な真似してすいませんでした。
調子がよかったから徹夜で書いてたので、連投規制が解けるまで睡魔に耐えられず、寝こけてました。

>>131
原則として、ナンバーズ(名前の横に番号がある投稿)以外は
与太話程度のチラシの裏くらいに思っておいてくだせぇw
分割投稿にすると一節の終わりが分かりづらいから、と付け加えたものですので、
「これがあったら一話が終わったんだな」という指標になればと思ってます。
だから、最後のそれは別にそれほど気にしなくても問題ないですよ。
後世でこいつらが何をしていたか、どう評価されたかを書きなぐってるだけですのでw

>>133
いえ、違います(断言)。
彼女は能力こそ準エース級ですが、「名もないその他大勢の中の代表」というだけの位置付けですので、
前回の青年僧侶同様、敢えて名を明かしていないだけです。

…まぁ、そればかりだと面白みもないので、次回から更に展開が加速していきます。どうぞ、お楽しみをw

135 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/22(水) 18:45:52 ID:Da3Bv9FxO
GJ!!いやーこのスレを覗くのがホント楽しみだぜ!

136 :144:2006/11/23(木) 00:25:31 ID:NSsfck1e0
ttp://up.mugitya.com/img/Lv.1_up64119.jpg.html
ttp://up.mugitya.com/img/Lv.1_up64120.jpg.html

勢いで描いた!ホント突発的に!!しかも終わってない!!!
エデン開眼かっけぇっ!てか鉄球&居合い!!!自分は何故か脳内室伏が見えましたww

137 :144:2006/11/23(木) 04:09:17 ID:NSsfck1e0
ttp://up.mugitya.com/img/Lv.1_up64142.jpg.html
ttp://up.mugitya.com/img/Lv.1_up64143.jpg.html
連続カキコ&続き〜ハァッ、誰もいない深夜四時に卒研持ちが何してるんだ…orz
どうでもいんですが描いてて思った事が。
副隊長越しに魔物殴るシーン、エデン程の人間のパンチが顔面スレスレを通り、しかもマッハとか出てたら…ヒィッ!!

138 :見切り既婚 王女の感想其の二:2006/11/24(金) 00:03:11 ID:6B9qihq20
………然もアレンたら、強引に押し倒してくるし。
お、男の子はそういうもんだって聞いてたけれど、コッチの準備も出来ないうちに畳み掛けるようにって。
…………アレンと対峙したモンスターの気分が、ちょっとばかり判ったような気がするわ。
でも、戦ってるときはあんなにさっぱりしてるのに、責めるときはどうしてあんなにねちっこいのかしら。
キスだって何度せがまれたか覚えてないけど、どうしてあんなにおおおおおおっぱいに執着するのよ。
どれだけ弄られ嬲られ舐られたか、永遠にされることになるのかって思っちゃったじゃない………
然もどうも人よりおっきいらしいから、恥ずかしくて隠してたのに、力尽くで腕を退けるってどうよ。
か弱い女の細腕で、あの規格外の馬鹿力に敵うわけ無いじゃないっ!!
全く――――。でも、一心不乱にむしゃぶりついてる姿は、なんかコドモみたいで可愛かった、かも。
あー、そんなこと考えたなんて、やっぱり頭煮立ってたかも。

だけど、あの莫迦の一番の問題は、無尽蔵としか思えない体力よね。
あんな人外と付き合わされる身になってみてよ。アレと比べたらわたしなんて全然人並みなんだから。
何度気を失ったか、数える気にもなれなかったわ。絶対に壊されると思ってたけど。
………ザオリクなり世界樹の葉なりを用意して欲しいと心底思ったのよ、あの時は。
――――でも、あんなに声出しちゃって。絶対、神父様たちに聞こえてたって………
………………イオナズンで証拠隠滅すべきかしら。

………ん………なんか思い出してたら――――って、どっ、どうして文章になってるのよっ!!?
書記やってたっ!?アンタ莫迦でしょっ!?大莫迦でしょっ!!
こんなもん人様の目に見せられるわけ無いじゃないっ!!
早く消k――――保存するな塵虫ッ!!!!!!!!
――――――あまつさえ投稿って!!!?やめ………ばかあほどじとんまひとでなし!!
止め―――――――パルプンテッ!!!!!

(とてつもなく おそろしいものを よびだして しまった!)

(ナナは きぜつした!)

(みきりAは にげだして とうこうした!)

139 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/24(金) 00:12:48 ID:s8S2O4ly0
わらたwwwww

140 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/24(金) 06:15:22 ID:qkNpoyCC0
あ、見切り氏だ。乙です。
いきなりエロいすねw
おや?前スレがとうとう512KB超えたかな

これでもうちょい遅れても大丈夫そうだとゆーことで、
明日か明後日くらいに投下予定〜

141 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/24(金) 06:25:33 ID:8mVHMuBH0
>>これでもうちょい遅れても大丈夫そうだとゆーことで、

んなことあるかぁああっぁああぁっぁぁっぁぁぁあぁlっぁぁぁぁああん!!!!!


142 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/24(金) 10:57:16 ID:La+bS6fA0
>>138
ちょwwwwwwwww

143 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/24(金) 11:05:31 ID:9Vj0k4OdO
>>140
待ってるよー!!


144 :見切り既婚 米:2006/11/24(金) 23:06:44 ID:BQ/Mir1N0
一日経って見てみたら、あまりに変な感じの投稿にしか見えないので、補足米。

今回のネタは前スレを埋めるために作ってたんだけど、思いの外長くなってしまい一レスに収まらず。
そんで投下してみたら埋まってしまい、後半部分を中途半端にコッチに書き込んだ次第であります。
今進めている本編よりノリノリで書けたのは、此処だけのヒミツです。

あ。鬼の形相した王女がコッチ向かって一目散に駆けてくるので、ちょっと逃げてくる。
それでは、運良く生き残っていたなら、一ヶ月後にm

145 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/25(土) 10:40:33 ID:LCL9H0LW0
すいません。早くて明日になっちゃいました><

146 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/25(土) 21:56:16 ID:Rocf2a3KO
>>145
昨日まとめて読んだばっかだが、メチャメチャ面白ぇんでじっくり期待してまつ。

147 :YANA 91-1:2006/11/26(日) 03:44:36 ID:/a1b5eye0
 第八節 「Liner's High」

 〜ラダトーム・東地区〜

 
 喉が、熱い。


「はあ、は、あっ!」
 生き残った十数人の新兵達と共に、全力で駆ける。
 前を走る同僚達に遅れまいと、少年・アルムは彼らの背中を必死で追う。
 肺と心臓に鞭を打ち、焼き付けるように酸素を体内に送り込む。

 …東≠ゥら、西≠ヨと。敵に背を向け、ひたすらに、敗走する。

 ――――――ドタンッ

「あうっ!」
 呼吸に神経を注ぎすぎ、石に躓いて転倒する。
 前のめりに土に這い蹲り、情けのない声を上げる。
「おい!何してんだ馬鹿アルムッ!敵はもうすぐそこまで来てるんだぞ!!」
 若い新兵たちは立ち止まり、一人が足元の少年に向かって怒鳴りつける。

 …情けなくて、涙が出る。

 アルムは目に涙を溜めながら、瞼と、脳裏に焼きついた光景を、思い返す。



148 :YANA 91-2:2006/11/26(日) 03:45:19 ID:/a1b5eye0
 ――――――地形の関係からか、東から襲撃した魔物は他の二方に比べてそれほど多くはなかった。
 およそ、二百から三百。目視で数えられた戦力は、その程度だった。
 それ故、東に充てられた兵力は、一部の精鋭と、補助のための新兵だけだった。

 …だが。魔物たちのとった戦法は、常軌を逸していた。

 特攻。…見たこともない、人面相の岩石を括り付けられたキメラたちが、何十体も群れを成し、こちらに急降下してきた。
 その次の瞬間。大爆発がおき、前線にいた手練の騎士たちは、跡形もなく、吹き飛んだ。
 残された新兵たちは、陣を立て直すことも出来ず、城へと敗走を始めたのだった。

「ごめん…!」
 腹部を強く打ったが、堪えて立ち上がる。
「まったく…くそっ、あいつらめっ!無茶苦茶しやがって!」
 丘の上から、海を望む今しがた自分たちが走ってきた後方を睨みつける。
 …キメラたちが爆発を起こした後、残った魔物は百前後。
 爆発に巻き込まれないためか、海岸ギリギリに待機していたようだが、今はもう見えない。
 撤退したのか、分散したのか。どちらにしても、城を目指しているのに変わりはない。
「急げ!奴らが橋を押さえる前に、戦線を後退させるぞ!」
 リーダー格の少年の喝に全員で頷き、城へと振り返る。

 地の利に優れる東側には城壁がなく、城へ辿り着くだけならば大した障害はない。
 だが、その分を巨大な堀で囲うことで補い、実際に城へと入るには住宅街を抜けた後にある、一本の橋を渡る必要がある。
 空飛ぶ魔物は力が弱いから、今城に張られているであろう強力な結界を抜けられない。破られるとしたら、地上からだ。
 故に、あの橋だけは、何があっても死守しなければならないのだ。

「見えたぞ…!」
 先頭の少年が声を上げる。
 住宅街を駆け抜け、いよいよ最終防衛ラインを視界に捉える。
「………」
 アルムはごくり、と喉を鳴らし、汗を拭う。
 非力で未熟な僕達に、果たしてあそこを守り抜けるのか。
 無駄な足掻きではないか。…また、騎士たちのように、或いはもっと無惨に、殺されるのではないか。

149 :YANA 91-3:2006/11/26(日) 03:45:51 ID:/a1b5eye0
「よし!後は城から応援を―――」

 
 ――――――ガガガガガッッッ


「「「!!」」」
 街を抜け、橋の入り口である広場へと踊り出た途端、少年たちの前に無数の氷柱が突き刺さる。
 ひ、と短い悲鳴を上げ、立ち竦む彼らへと、甲高い声が投げかけられる。

 キキキ…案内ご苦労さんだぁ。道探す手間が省けたってぇもんだぜ!

 バサリ、と羽音を立てて、少年たちの後方、今しがた走り抜けてきたばかりの住宅街と広場の境目に悪魔が降り立った。
「ま…魔物が、喋ったっ!?」
 尻餅を突き、先ほどアルムを怒鳴った少年が声を裏返らせる。
「なんだぁ?喋る魔物は初めてか?まぁ、数が少ねぇからなぁ!」
 ケタケタと高笑いしながら、ぱちん、と指を鳴らす。

 グオオオオッ!!
 グルルル…

 途端、それを合図に方々の住家の影から魔物たちが姿を現す。
 数からして、海岸にいた魔物たちに相違ない。
「手間が省けたって…どういうっ…!」
 声を震わせながら、また別の少年が人語を操る悪魔へと聞き返す。
「なーに。俺たち魔物の中にも、面倒臭がりっていうのはいてね。
 力任せに攻めるよりも、頭を使う方が得意な奴もいるんだよ。
 おまえら泳がせれば、一番効果的に城を落とせる場所に逃げると思ってな。クケケ」
 言いながら、少年たちの向こう、城へと架かる橋に視線を向ける。
 その言葉に、アルム達は背筋を凍らせる。

150 :YANA 91-4:2006/11/26(日) 03:46:36 ID:/a1b5eye0

 そう。自分たちは、魔物たちに踊らされていた。
 戦線を維持するどころか、敵に自分達の心臓を差し出していたのだ…!

「ここまで来れば、勝ったも同然だな。さて…」
 ぎろり。再び、その殺気と愉悦に満ちた目を少年たちに戻す。
 まだ戦い慣れしていない彼らにとっては、それは剣先を向けられるのに等しい。
 悪魔は萎縮する彼らを、冷笑を浮かべながら見定める。
「…馬鹿正直に防衛拠点まで敗走するのといい、そのツラといい、おめぇらひよっこだな?
 くくっ、じゃあ、サービスだ。ちっと冥土の土産に、話してやるよ。ゾーマ様の作戦を」
「作せ、ん…?」
 上擦った声で復唱する彼らを見て、悪魔は饒舌に語りだす。
「北と西の脳足りん共は囮さ。…本命は、俺たち。
 少数の、機動力に優れる魔物たちで、一気にラダトームの本陣を制圧、内側からぶっ潰す。
 …ま、東からじゃ大規模な戦力は送れなかったってのもあるがな。それを逆手に取った。
 あとは指揮系統のイカレた隙に、他の方面の連中が大掃除、って寸法さ。
 おめぇら人間は、数にばっかり目がいって戦力配分を誤ったんだよ!」
「!!…じゃあ…じゃあ、さっきの、爆発は…!」
「ん〜?…ああ、あれか。くくっ、勿論、手早く敵の戦力を削りとるための戦法さ。
 確かにこっちも戦力を失うが、効果は見ての通りだ。…やっとこ集めた爆弾岩は、全部使っちまったがな。
 まったく、ゾーマ様も無理をさせなさるぜ。爆弾岩はバラモス様が生み出した、地上でしか作れない魔物だってのに。
 地道にえっちらおっちら地上から運び込まにゃならんかったのだ、たまんねぇぜ、なぁ?」

 グガガガガガガッッッ!!

 悪魔が周囲の魔物たちに同意を求めると、笑いとも威嚇ともつかぬ歪な鳴き声が一斉に響く。
「ま、尤も…北と西の連中も、囮とはいえアレフガルド中の魔物を掻き集めた超大勢力だ。
 俺らが何もせんでも、奴らだけでこんな街滅ぼせるだろうがよ。今ごろ城門は落ちてるかもな、ヒャハハッ!」
 狂気の混じった高笑いが、広場に木霊する。
 …少年たちは思い知る。自分達の戦う相手が、いかに強大かを。
 既に心を折られ、膝は笑い、彼らは絶望に屈し始めている。

151 :YANA 91-5:2006/11/26(日) 03:48:29 ID:/a1b5eye0
 それを―――更に、踏みつける。

「さて―――お話は終わりだ。そろそろ死ねや」

 一頻り笑った後。悪魔は、冷たく死の宣告を言い渡す。
 くい、と指を折り曲げ、少年たちを指し示す。

 グガアアアアアッ!!

 同時に、悪魔の脇に控えていたマントゴーアが咆哮を上げ、翼をはためかせる。
 口を大きく開き、少年たちに飛来する。
「ひ…!」
 怯懦に駆られ、少年たちは顔を引きつらせる。
 口から覗く居並ぶ牙、鋭く尖った爪。そして、自分たちを包囲する数多くの魔物たち。
 それだけで、未熟な彼らの戦意を喪失させるには十分な状況だった。
「何秒持つかなー?クケケケケっ!!」
 仰け反り嘲笑しながら、悪魔はぱちぱちと手を打ち鳴らす。その時―――


    キャアアアアアッ!!


「あん?」
「…!!」
 女性のものと思しき悲鳴が、その場の全員の注意を引く。
 …視線を向ければ、少年たちの、遥か後方。三本ある住宅街から広場への道の、最も橋に近い一本。

 ―――そこに、ヴェールで顔を覆った、一人のシスターがこちらを見て、立ち竦んでいた。


152 :YANA 91-6:2006/11/26(日) 04:05:04 ID:/a1b5eye0
(な…!まだ、街に人が残っていたなんて!!)
 シスターは、いや、非戦闘員は全員城に避難したのではなかったか。
 彼女は魔物の群体を目にして震え、恐怖に正常な判断力を奪われている。
 あの位置からなら橋を渡って城に逃げ込むことも不可能ではないが、今の彼女にそれは望むべくもない。
「………ほほーう」
 悪魔はシスターを捉えるや下卑た笑いを浮かべ、くい、と指を揺らし、嗾けたマントゴーアの意識を向けさせる。
「………!!」
 悪魔の感嘆の声を耳にし、アルムは振り返り、瞬時に悟る。
 否、早さの差こそあれ、少年たちは皆気づいた。悪魔が、何をしようとしているのかを。
「―――土産が増えて嬉しいなぁ、坊主ども。何にも守れねぇ、てめぇの無力さを抱えて死んでいけぇっ」
 大きく裂けた口を更に押し広げ、指を突き立てる。
(そんな…やめろ…あの人は、戦えないんだぞ…!)
 アルムは畏怖と混乱で、膝が益々ガクガクと震える。
 思考は混濁し、最悪の光景が一瞬の内に何度も、何度も彼の脳内を席巻する。
「や・れ」
 酷く簡潔な、殺意の表明。
 悪魔の指示を待ち侘びていたマントゴーアは、弾けるように四肢で地を蹴り、少年達を飛び越える。

(駄目だ…逃・げ・てっ…!!)

 たった三文字の言葉を、叫べない。
 膝の笑いは今や全身に及び、最早立ち上がることさえ適わない。

 グオオオオオオオッ!!

 震え上がるシスターと獅子の距離は、見る間に縮まってゆく。

 ――――――ドクンッ


153 :YANA 91-7:2006/11/26(日) 04:05:46 ID:/a1b5eye0

(あ…く!)

 立ち上がり、懐のナイフで、己が右耳を裂く。
 激痛に視界が歪む。だが、これで体の震えは止まった。
 後方を一瞥する。獅子はもう、十歩も駆ければシスターに届く位置まで来ている。
 ここからでは間に合わない。なら…!


    「――――――オオオオアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!」


 足元に転がる、同僚の槍を掴み上げる。
 直後、体を全力で反転させ、絶叫と共に無防備な後姿を晒す魔物へと投擲する。

 ヒュォンッ、ドスッ

 グゲゲェェッ!!

 槍は標的の脇腹に突き刺さり、マントゴーアは後ろ足で立ち上がり、歪んだ悲鳴を上げる。

「ワアアアアアアアアアアアッッ!!!」

 命中を確認すらせず、尚も絶叫を上げながら全速力で駆け出す。そして―――、

 ドガンッ

 ガァッ!!?

 痛みに悶える獅子を、そのまま体当たりで吹き飛ばす。
 アルムは獅子と共に、数メートルの距離を転がる。

154 :YANA 91-8:2006/11/26(日) 04:06:38 ID:/a1b5eye0

(そうだ…倒すことなんて、出来なくてもいい!!殺させないことさえ、出来れば…!!!)

 倒すのではなく。命の危機から救うことだけを考える。
 今の彼に出来る、精一杯の抵抗だった。
「は、あ…だい、じょうぶですか!?シスターさんっ!!」
「………」
 起き上がり、へたり込むシスターに駆け寄り、状態を確認する。
(よかった…!無傷だ!…っ!)
 無言で、ヴェールで表情の見えぬシスターの無事を確認するや右耳を押さえ、膝をつく。
 今になって、漸く自分の痛みを強く自覚する。
 出血こそそれほど多くないが、神経に近い部位だ、痛みだけでも発狂に相当する。

「ケ…ケヒャヒャヒャヒャッッッ!!!こいつはいい!いいぜおまえ、おまえいいぜぇっ!!
 よぉぉく守ったな!!だがなぁっ!!!」

 彼方で、悪魔が高らかに哄笑する。
 そうだ、安心してはいられない。まだ、事態は何も解決していないのだ。
「あんまり早くくたばるんじゃねぇぜぇ!?まぁだそいつは生きてんだからよ!!」
 むくり。悪魔の声に反応するように、マントゴーアがヨタヨタと起き上がる。
 体当たりで地を転がり、槍は抜け落ちている。
 傷は深いはずだが、それでも彼が倒せる相手ではない。
「シスターさん!!早く、お城に避難してくださいっ!!」
 ふらふらと立ち上がり、シスターを後ろに匿うと鞘から剣を抜いて構える。
(何とかこの人を逃がすための時間を稼ぐ…っ!)
 視界を激痛に歪めながら、消え入りそうな闘志を奮い立たせる。

「こぉろぉせぇぇぇぇぇっ!!」
「うわああああっ!!」

 グオオオオッ!!


155 :YANA 91-9:2006/11/26(日) 04:08:05 ID:/a1b5eye0
 三者の咆哮が、同時に広場に木霊する。

 ――――――そして。その時、一陣の風が吹いた。


      「―――――――――いいぞ。よく立ち上がった、少年。この勝負、君の勝ちだ」

 
「――――――え?」
「――――――ア?」

 プシャアアアアァァァァァァッ

 ギャアアアァァァァァァッ!!

 …それは、何の冗談か。
 アルムの剣とマントゴーアの爪が交差する、その瞬間。
 有翼の獅子は、突如全身に出現した無数の線≠ゥら鮮血を噴出し、地に伏した。
「………」
 アルムは目を疑う。既に事切れたマントゴーアの骸の向こうに、一人の人間を確認する。
「あ…」
 バサリッ。見覚えのある、黒いヴェールと修道服が、突風で空に舞い上がる。
 後ろには、既に人の気配はない。あの一瞬で、シスターが城へと駆け込めるわけもない。
 …だから。信じがたい話だが。その人物が、先ほどまで魔物の姿に怯えていたシスターなのだ、と、理解するしかなかった。

「0.4秒の誤差…可哀想に。即死させてやれなかった。痛かっただろう」

 前方にいる人物が、両手に握ったナイフを法衣に収め、淡々と十字を切る。
 …法衣?では、あの人物は、僧侶?…いや、というか。
 長身に、黒く美しい長髪を靡かせながら、『彼女』は振り返る。

156 :YANA ※修正 6-7間にこれが入りますorz:2006/11/26(日) 04:17:43 ID:/a1b5eye0
 心臓の鼓動が、一度だけ強く鳴った。
(僕は―――また、見捨てるのか。あの時のように)
 アルムの脳裏を、幼き日の記憶が過ぎる。

 ―――彼はかつて、両親と妹を、目の前で魔物に殺された。
 自分だけは、隠れていて、城からの救援が間に合った。
 …それで、魔物を憎むことが出来ればまだよかった。だが、彼は弱かった。
 非力なだけでなく。仇敵を憎み、復讐に心を燃やす勇気すら、持ち合わせなかった。
 …しかし、譲れない思いがあった。もう二度と、目の前で無力な人々が殺されるのを、許してはならない。

 だから、人々を守りたくて。強くなりたくて。そのための力が欲しくて。弱い自分を変えたくて。
 兵士に志願し、実らぬ鍛錬を積み、非力を補うために知識を貪った。だというのに―――!

(何も…何も!変わっていないじゃないか!結局、何も出来ないじゃないか!!)
 自分では、救えない。あの悪魔はおろか、手下の獅子を倒すことさえ出来ない。

「カカカッ!!そぉら、よぉく目に焼き付けろォ!!」

 不快な笑い声に、顔を上げる。
 …目に映る、醜悪な悪魔の笑顔。
 悪魔はいった。無力さを抱えて死んでいけ、と。
(本当に、無力なのか?…今の僕に出来るのは何だ。思い出せ!僕が、何を願って兵士になったか!)
 人を、死なせたくない。
 そうだ、自分は、ただその一念で頑張ってきたのではなかったか。
 ならば―――!


 ――――――ブチッ


「ケヒャ…何だァ?」
「…!アルムッ!!おまえ、何して!?」

157 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/26(日) 11:15:13 ID:w+mSC1BN0
今日はここまでかな?
続きwktk

158 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/26(日) 12:30:53 ID:wrw0DbVp0
YANAさんktkr。

え〜っと・・。
これはアルム=弥彦、ライナー=比古師匠、魔物のリーダー=才槌老人でいいんですかね?^^

てかそんなことどうでもいいくらいライナーかっけえええ。
え、ライナーですよね?

159 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/26(日) 12:38:36 ID:zXQO0P3U0
死の線並な事ができるのはライナーだけかとw

160 :YANA:2006/11/26(日) 15:26:31 ID:/a1b5eye0
…ライナーはショタコンじゃありませんよ?(挨拶
こんにちわ、話数が進むごとに容量がインフレしていくYANAです。
この度、遂に回想に入るまでに分割を入れることになりました。どんだけ長くなるんだw

>144氏
仕事早いぜwwwGJ!!
細かいこと補足しますと、走り出した直後に彼女は鞘を背中から腰に移してますぜ。

>アルム=弥彦〜
うん、概ね正解(ぇー
ただ、ライナーは師匠ほど万能反則ジョーカーではありません。
一見無敵に見えますがその実、戦闘でアドバンテージを握るための条件が最も多い御仁です。

161 :144:2006/11/27(月) 03:27:20 ID:GgeFnt2i0
ライナー編キター!!!!アレイに萌え、エデンに燃え、主役より好きになりつつありますww

>鞘を背中から腰に移してますぜ。
で、ですよねー、すいません全く気付いてなかったです…orz
読み込みが足りなかったです、次があれば頑張ります!!

162 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/27(月) 07:30:33 ID:8JCBpZDE0
fじゃs;jふぇだp;おいffじゃkl;df;k

163 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/27(月) 07:58:29 ID:YeajdGnx0
>>146
なんて嬉しいことを。。。・゚・(ノД`)・゚・。
ということで、あとちょっとだけお待ちください。テヘw

164 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/28(火) 05:29:30 ID:dnMTjmJo0
な、なんだこのスレは!!!!まとめを読んでここへ来たが……
全く持ってけしからん。我の寿命がwktkで縮んだではないか!!
今度はこちらが仕返しをしてやろう。心して待つが良いぞ。

165 :CC 12-1/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 06:47:41 ID:j5DXUZmx0
12. cAn't stop this feeling i got

 真夏とはいえ、この辺りの気温はあまり高くない。
 代わりに日差しが強いものの、木々の梢にほとんどが遮られ、苦になるほどではなかった。
 その木漏れ日の元で、大樹を抱くように身を寄り添えて、鼓動を聞き取ろうとするかの如く幹に耳を押し付け、黙然と瞳を閉じる少女がひとり。
 頭上から零れ落ちる柔らかな光の膜が何層も折り重なり、遥かいにしえからこの地を見守り続ける大樹と、そこに溶け込むように身をゆだねる少女を包み――何が起こってもおかしくないような――ひどく神秘的な景観を創り上げていた。
「……」
 どれくらいそうしていただろう。
 少女――リィナは、ぱちりと目を開いた。
 身を乗り出す俺達に向かって、頭を掻いてみせる。
「ごめん、全然分かんないや」
 あはは、とかいう軽い笑い声を耳にして、俺達は詰めていた息を盛大に、まったく同時に吐き出した。
「やっぱり、お話に出てくるエルフみたいにはいかないですね」
「まぁ、そりゃそうだ。木の声なんて、聞こえる訳ねぇよな」
 俺とシェラは、力無く笑い合う。
 時折、突拍子も無いことをしてのけるリィナならもしかして、と一縷の望みをかけたんだが、無理なモンは無理だよな、やっぱり。
「どうすんのよ!もー、全然見つからないじゃない!」
 カザーブの村を出発して、早ひと月以上。
 求めるエルフの隠れ里に、俺達は未だに辿り着けずにいた。
「ホントにこの辺りなの!?方向は合ってるんでしょうね!?」
「あのおっさんの言ってた通りなら、この辺だと思うんだけどな」
「じゃあ、なんで見つからないのよ?」
「俺に聞くなよ。知らねぇよ」
「なに開き直ってんのよ……誰の所為で、こんなおんなじようなトコ、グルグルぐるぐる回らされてると思ってんの!?」
「俺の所為かよ」
「そうでしょ!?あんたが、エルフに話聞きにいこうって――」
「も〜、止めてくださーい!」
 シェラが、両耳を押さえて大声で割って入った。
「昨日もおとといも、同じことで喧嘩してるじゃないですかっ!」
「だって――」
「ヴァイスさんも知らないんだから、仕方ないですよ。頑張って、皆で探しましょう」
 シェラに言われて、マグナは渋々口をつぐむ。このやり取り、もう何回目だ?

166 :CC 12-2/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 06:50:35 ID:j5DXUZmx0
 俺とマグナの口喧嘩があまりにも頻繁なので、常に仲裁役をやらされてるシェラの口調も、だいぶぞんざいになってきた。
 ここ数日来、マグナは完全に、エルフの隠れ里探しに飽きていた。元々、探し物とか向いてねぇんだよ、こいつの性格からして。回り道とか後戻りが大嫌いなんだからな。
 ジツは俺も、既に半分以上諦めていたりする。まさか、ここまで見つからないモンだとは思わなかった。おおよそこの辺り、と思われる場所を、もう何日も探し歩いているのに、さっぱり手がかりの尻尾すら掴めない。
 吟遊詩人の歌に登場するエルフよろしく、リィナに木の囁きを聞いてもらって、隠れ里まで案内してもらおうだなんて荒唐無稽な思いつきにさえ、縋っちまうくらいに手詰まりだ。
 もう諦めて戻ろうぜ、と何度か提案したのだが。
「イヤよ。こんなにウロウロ歩き回されて、見つけもしないで帰るなんて、冗談じゃないわ。それじゃ、まるきり無駄足じゃない!!絶対にイヤ」
 その度に、マグナが不機嫌な面をして断固拒否するのだ。どうしろってんだ。なら、いちいち俺に文句を言うんじゃねぇよ。こいつ、やっぱ全然可愛くねぇよ。

 そもそも、エルフに村人達が眠らされたという『眠りの村』を、思いの他あっさり発見できてしまったのがマズかったのだ。この分ならエルフの住処にも、簡単に辿り着けるモンだと錯覚しちまった。
 ロマリアからルーラでカザーブに飛んで、そこから出発して北に向かって山を下り、寂れた街道を五日ほど歩いたところで、その村に行き当たった。
 遠くに見えた時は、こんなに簡単に見つかる筈がない、まさかあそこじゃねぇだろうと思ったんだが。
 近づいてみると、どうも村の様子がおかしい。まるで何年も前に打ち捨てられた廃村みたいに、人の暮らしている気配がまるで無かった。
「ひぁっ」
 村に入ってすぐに、シェラが悲鳴をあげた。
「なにこれ――人形?」
 マグナがまじまじと、それを覗き込む。
 永らく風雨に晒されて見るも無残なナリをした男が、道の傍らに立っていた。
 ピクリとも身じろぎひとつしないそいつは、確かに人形としか思えなかったが――よく出来過ぎていた。
 恐ろしく薄汚れていることを除けば、生きた人間にしか見えない。動いたり喋ったりしない方が不思議で、見れば見るほど違和感を覚えて頭が混乱してくる。

167 :CC 12-3/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 06:53:29 ID:j5DXUZmx0
 よく見ると、村のそこかしこに、そんな人形じみた連中が立ち尽くしているのだった。
「な、なんなんですか、この村……」
 シェラの怯えた声を背に、俺はその内のひとつ、若い女の人形に歩み寄った。
 頭や肩を払うと、埃や汚れは表面に乗っかっていただけのようで、ボロボロと崩れ落ちる。その下の服こそ古ぼけていたが、髪や肌は大して痛んだ様子もない。不自然なくらいに綺麗なままだった。
 ふむ。
 俺は、女の鼻と口を塞ぐように手を当てた。息はしていない。
 胸に耳を押しつける。心臓も動いてない。というか、この感触は――
 俺は、胸を揉んでみた。固い。揉めねぇ。尻はどうだ――丸みはいい感じだが、やっぱり固い。つまらん。
 これじゃ、下からスカートの中を覗き込むくらいしか、楽しみ方が――いてぇっ!!
「な……なにやってんのよ、あんたはっ!?」
 マグナに思いっ切り、後ろ頭をはたかれた。
「ば、ばか、いや、違うんだって」
「なにが違うのよっ!?なにやってんのっ!?」
 お前を触った訳でもあるまいに、そんなに声を震わせて怒ることないだろ。
 あ、でもシェラまで、ちょっと引いてやがんの。そこまでアレな行動に映ったのか。ヤベェな。
「いいから、お前も触ってみろって」
「な、なによ……?」
「いいから」
 俺はマグナの手を掴んで、無理矢理女の胸を触らせた。
「え――なにこれ、固い?」
「な?」
「やっぱり、人形ってこと?」
「いや、それはどうだろうな」
 こんなに精緻な人形は見たことがない。仮に人形だとしても、これ程よく造り込まれた逸品を放置しておくバカがいるとは思えない。酔狂な金持ち辺りに、いい値段で売れるぜ、これだったら。
 つまり、ここはやっぱり『眠りの村』で、こいつらは人形ではなく人間だ。単に眠っているだけとは言い難いが、他に表現のしようが無かったんだろう。
 街道は、この村で途絶えていた。ということは、ここは最北の村であり、この先には人の集落はロクに存在しない筈だ。その終端の村が、こんな廃村みたいな有様では、人の行き来が途絶えても仕方が無い。
 初期の段階で、知らずに村を訪れた商人かなんかが、話を広めて回ったんだと思う。村の様子からして、その後はずっと見捨てられていた筈だ。

168 :CC 12-4/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 06:57:13 ID:j5DXUZmx0
 噂が伝説じみていた割りには、やたらあっさり発見できてしまった理由は、そんなところじゃなかろうか。
 真相を確かめるってだけの理由で、魔物に襲われる危険を省みず、わざわざ何日もかけてやって来るような物好きが、単にいなかったというだけの話だ。
 俺達以外はな。
「……って、誤魔化されないからね。なんで、わざわざ女の人を触るのよ。何かを確かめるんだったら、入り口のトコに立ってた男の人で充分じゃない!!」
 いや、だって、男の体なんぞ撫で回したところで、面白くもなんともないだろ。
 俺は、じとーっと睨みつけるマグナの視線を避けて、村の奥へと歩を進めた。
「まぁ、とにかくちょっと調べてみようぜ」
「……変態」
 ぼそりとマグナが呟く。
 俺は何も言い返さずに、白を切り通した。
 うるせぇよ。男だったら、誰でも女の方で確かめるっての。ごちゃごちゃぬかすと、お前の全身を撫でくり回すぞ。
 村の中は、どこへ行っても似たような按配だった。何年も人の手が入っていない廃屋同然の建物の内部には、人形のように身を固くした村人が置かれているだけで、動いている人間の姿は全く見かけない。
 人の形をした影があちこちに佇んでいるのに、俺達の他には物音ひとつ立てる者とてなく、しんと静まり返っていて――かなり不気味だ。
 村に足を踏み入れた時から、シェラはずっと怯えた表情をしているが、何の予備知識も無く、いきなりここを訪れていたら、俺も平静ではいられなかっただろう。
 それまで見落としていた、村外れの建物に俺達が気付いたのは、村中をあらかた回り尽くした後だった。
 扉の脇に、魔法協会の印が掲げられている。他の家屋と異なり、あまり寂れた様子がない。これは、ちょっと期待できそうだ。
 相談する暇もあればこそ、リィナが勝手に歩み寄ってノッカーを打ち鳴らした。
「すいませーん。誰かいますかー」
 いや、あのな。だから、せめて先に言ってから行動しろっての。
 しばらく何の返事の無かったので、また空振りかと落胆しかけたのだが。
 やがて、扉を開けて、壮年の男が姿を現した。

169 :CC 12-5/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:00:12 ID:j5DXUZmx0
 俺達を建物に招き入れたおっさんは、突如として連絡がつかなくなった魔法協会の状況を調べる為に、このノアニールの村に派遣された魔法使いということだった。
 しかし、調査に来たはいいが、何事が起こったのか語れる村人は皆無。そりゃ、全員人形みたいに固まってるんだもんな。
 仕方なく独りで何日か調べていたら、たまたま用事で村を空けていて、難を逃れた初老の爺さんが帰ってきた。
 変わり果てた村の様子に腰を抜かした爺さんは、これはエルフの呪いに違いないとのたまった。
 なんでも村人の間では、昔からエルフがちょくちょく目撃されていたらしい。彼らにとってエルフとは、伝説という程には遠い存在ではなく、割かし身近なご近所さんみたいな感覚だったそうだ。
 しかしそれは、人間側の一方的な思い込みに過ぎず、エルフの女王は人間が大嫌いで、同族に接触を固く禁じていた。
 ところが、爺さんの息子が、密かにエルフの王女と付き合っていたというのだ。
 それを知ったエルフの女王は、強硬に二人を引き離そうとしたが、どうしても許してもらえないのならと、爺さんの息子とエルフの王女は手を取り合って駆け落ちをしてしまう。
 エルフの女王は嘆き悲しみ、可愛い娘を奪った憎き人間の故郷であるノアニールの村に強力な呪いをかけた、というのが爺さんの見解だった。
「なんだか、ロマンチックなお話ですね〜」
 シェラはうっとり気味にそう呟いたが、なんか八つ当たり臭いぞ、この話。とばっちりでエルフの女王に呪われた村人にしてみれば、ロマンチックどころの騒ぎじゃないと思うが。
 今のご時世に、三流吟遊詩人の奏でる絵空事みたいな物語が現実に起こっているとは、にわかには信じ難いが、でも実際に村の様子を目にしちまってるからなぁ。
「そのお爺さんは、どこに行ったの?」
 マグナが、魔法使いのおっさんに尋ねた。
「村を元に戻してくれるように、エルフの女王に謝りに行ったよ。もうずいぶん前になるが」
 色ボケのボンクラ息子を持った爺さんも大変だ。
 魔法使いのおっさんは、この地に残って村人の状態を研究しているのだという。
 お題目は「村人達を救う為」だが、どうせ魔法使いのこった。涎が出るような珍しい現象だろうから、研究が主目的で、あんまり真面目に村人を助けようとか考えてないに違いない。

170 :CC 12-6/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:02:29 ID:j5DXUZmx0
「それで結局、あの村人達は、一体どんな状態なんだ、ありゃ?」
 俺の問いかけに、おっさんは無精髭を撫でながら難しい顔をしてみせた。
「うむ。まだ研究の途中なのでな、あまり余人に聞かせることもないのだが……」
 素直に、よく分からないと言え。
「彼らは、時間を奪われたのだと考えておる。もちろん、比喩的な表現だがね」
 つまり、時を止められたとか、そういうことか?
 おっさんの言葉を聞いて、俺は冒険者の必需品であるフクロを思い浮かべた。
 俺達が持っているフクロは、そこいらに転がっている普通の袋とは訳が違う。
 様々な装備や食料、その他生活必需品や旅先で入手したお宝など、長く旅をする俺達の荷物は膨大な量になる。
 かといって、道なき道を踏破することも多いので、隊商のようにいちいち荷馬車を引く訳にもいかない冒険者の為に、魔法使い共が開発したのがフクロだ。
 冒険者になると、腰に下げる程度の大きさの袋状のフクロが支給される。こいつがなんとも不可思議な代物で、口の緒をくくると、中に入れた物が消え失せるのだ。口を開ければ荷物は再び現れて、ちゃんと取り出すことが出来る。
 どんなに重い物を入れても、口さえ閉めればフクロの重量しか無い訳で、荷物を持ち運ぶには大変重宝するのだが、口を開けている間は普通の袋とほとんど変わりがないので、あくまでフクロの大きさの分しか物は詰め込めない。
 従って、もっと沢山の荷物を持ち運ぶには、もっと大きなフクロが必要になる。ただし、特注であつらえてもらう必要があるので、目ん玉が飛び出るくらい高価だ。
 俺達の場合は、マグナが最初から持っていたので、その点では幸運だった。おそらく、親のお下がりだろう。
 人が屈んで何人か入れるくらいデカいそのフクロには、大抵の物を詰めることができる。まぁ、だからと言って、水さえあればいつでも湯浴みのできる風呂セットはともかく、服を仕舞う為の箪笥を入れてる冒険者は、他にちょっと聞いたことがないけどな。

171 :CC 12-7/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:05:18 ID:j5DXUZmx0
 このフクロの仕組みについて興味があったので、例の嫌味な講師に尋ねたことがある。
 けれども、位相がどうだとか、閉じた世界がなんだとか、ルーラは実際は時空を操る魔法だとか言われてちんぷんかんぷんだった。
「フクロの中ではあるが、この世のどこでもない場所にあるのだとでも思っておけ。馬鹿め」
 最後には「死ね」と言うのと同じ口調で、そう吐き捨てられた。
 あいつ程、俺のことをバカ呼ばわりした人間には、後にも先にも会ったことがねぇよ。
 それはともかく、原理や仕組みはよく分からないながらも、日常的にフクロを利用する冒険者達が、経験から見出した特性がひとつある。
 フクロの口を閉じて消えた中身が何処に行くのか知らねぇが、そこでは時間の流れが物凄く遅いか、もしくは全く止まっているらしいということだ。
 何故なら、入れておいた生肉が、何日経っても腐らないのだ。これはこれで、食い物の保存に便利な特性くらいにしか思っていなかったのだが。
 村人達がおかれているのは、つまりそれと同じような状態かと俺が問うと、おっさんは口をへの字に曲げて首を横に振った。
「それはまた、表面的な類似のみを短絡的に結びつけた、素人考えの典型と言えるな」
 やかましい。やっぱり魔法使いってのは、嫌味なヤツばっかだな。
「先ほど『時間が奪われた』と言ったのは、無知な君等に説明する為の比喩でな。これは、およそ我ら魔法使いすらも知らない、全く未知の現象なのだ」
 お前も分かってねぇのに、偉そうなことほざくんじゃねぇよ。
「もちろん、いくつかの推論は立てているがね。だが、さすがはエルフの秘術とでも言うべきか。呪いをかけた女王にしか解けないのかも知れん。私が研究を続ければ、やがて全てを解き明かす事は可能だろうが、それはまだ何年も先のことになりそうだ」
 こんなことを言ってるが、まるきり目処が立っていないに違いない。
「どうだろう。エルフに話を聞きに行くというのなら、ついでに呪いを解く方法を尋ねてきてくれないか。それさえ分かれば、研究は格段に前進する筈なのだが」
 いやいや。呪いを解く方法が分かったら、もう研究なんぞする必要はねぇだろうが。
 やっぱり、村人を助けるとかどうでもよくて、自分の研究が第一なんだろ、こいつ。

172 :CC 12-8/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:08:10 ID:j5DXUZmx0
 嫌味なおっさんの頼みを聞いてやるのはシャクだったが、村人達をあのまま放置しておくのも寝覚めが悪い。
 どうせついでだし、ということで、俺達はおっさんの要望を聞き入れた。
 おっさんが、唯一の生き残りである爺さんから聞いた話では、エルフの隠れ里はずっと西の洞窟から少し北に上った辺りにあるらしい。
 ずいぶん曖昧な情報だが、隠れ里と言うだけあって、正確な位置は分からないのだそうだ。おっさんも一度、研究の為に話を聞きに行こうしたが、結局見つけられなかったという。
 で、俺達も、さっぱり発見できなくて、森の中を何日もウロウロ彷徨っているという訳だった。
「ヴァイス、なんとかしなさいよ。あんたが言いだしっぺでしょ」
 マグナがうんざりした口調で、俺に文句を言う。
 そう言われましてもね。
 また口喧嘩になっても虚しいだけなので、俺はあえて返事をしなかった。
「あーもー、ホントにエルフの隠れ里なんてあるの!?」
 そう思うんなら、諦めて村に戻るのに同意してくれよ。
「……分かってるわよ。あたしだって、こんな文句ばっかり言いたくないんだから……けど、駄目なの!こういうの、なんか我慢できな――」
「しっ」
 だしぬけに、リィナが唇に人差し指を当ててマグナを黙らせた。
「なんか聴こえる」
 耳の後ろに両手をあてがって、きょろきょろと辺りに向ける。
「悲鳴……かな?こっちから聴こえる」
 よし、でかした。俺には全然聴こえねぇけど、お前はきっと何かやってくれると信じてたぞ。
 エルフ関係とはまだ限らないが、何の手がかりもなくウロついてるよりゃ百倍マシだ。
 俺達は、小走りに先を行くリィナについて、そちらに向かった。
 やがて、俺の耳にも話し声が聴こえはじめて、木々の合間から――魔物が見えた。
 小山のように馬鹿デカくて、顔が長いゴリラみたいな化物だ。
 リィナに身振りで指示されて、俺達は身を屈めて木々や繁みに隠れながら、こそこそと近づく。
 はじめは、誰かが魔物に襲われているように見えたのだが。
 傍らに人間が居るというのに、魔物は暴れる様子もなく大人しいものだった。

173 :CC 12-9/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:12:05 ID:j5DXUZmx0
 俺達が耳にした喚き声を、ジタバタ身をよじりながらあげているのは少女だ。線は細いが気の強そうな、シェラとはまた感じの違う美少女だ。
 つか、耳が長い。あれ、もしかしてエルフじゃねぇの?
 そして、エルフの少女を羽交い絞めにしているのは――
「……あいつ、オレ様とか言ってた、あのヘンなヤツじゃない?」
 マグナが小声で囁いた。
 そうなのだ。あれはフゥマだ。
 ということは、隣りに立ってるフードを被った奴は、あのにやけ面で、よく見りゃ逆側にルシエラも居るじゃねぇか。
 ルシエラの背後には、さっきから見えているゴリラの化物と、それからホイミスライムが並んでいた。
 カザーブの酒場で一緒にいた変人共の正体は、ひょっとしてこいつらか。魔物と行動を共にしてるってことなのか?なんだ、そりゃ?
「えぇい、離すがよい!下賎な人間風情が、エルフの王女であるわらわに触れるなど、許されると思っておるのか!」
「うるせーな、このガキ、さっきから。締め落として一回黙らせちゃおうぜ。耳がキンキンして仕方ねぇよ」
「やめてくださいよ、フゥマさん。それじゃ、お話が伺えないじゃないですか」
 あーあ。やっぱりこいつらも、エルフを探しに来てやがったよ。
 だからこの案は、あんまり気が進まなかったんだよな。しかし、こんな広い森の中で、まさかばったり出くわさねぇだろうと思ってたんだが。
「エルフの王女様。何度も申し上げるようですが、我々はお話を伺いに来ただけなのです。お願いですから、貴女の里に案内していただけませんか」
「……駄目じゃ。掟により、人間を招き入れることは出来ぬ」
「そこをなんとか」
「イヤじゃ。お主のその、胡散臭い笑い顔が気に食わぬ」
 はは、言われてやんの。
「あのな、王女さんよ。あんまり我侭ばっか言ってっと、優しいオレ達もしまいにゃ怒るぜ?」
「うるさい。お主はその臭い口を閉じて、さっさと汚らわしい手を離すがよい。今ならまだ、わらわに働いた無礼を許してやらぬでもないぞ」
 舌足らずなエルフの王女様の挑発を受けて、腕白坊主は眉を跳ね上げた。
「へぇ?ちょっと痛い目みなきゃ、分かんないのかな?」
「あっ――」
 後ろ手を捻り上げられたのか、エルフの王女は作り物のように整った顔を顰めて俯いた。長い銀髪の直毛が、ばさりと揺れる。

174 :CC 12-10/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:15:09 ID:j5DXUZmx0
「……助けましょう!」
 珍しく、シェラが憤った顔をして勇ましいことを言った。
 分かってるよ。分かっちゃいるが――俺、あのにやけ面と、あんまり関わりたくねぇんだよな。なんとなく。
「わ、わらわにヒドいことすると、母上が黙っておらぬぞ!」
「そうですねぇ。いっそのこと、母君においでいただいた方が、話が早いかも知れませんね」
 にやけ面が目配せをすると、フゥマは情けなさそうに溜め息を吐いた。
「あのさ。オレ様も、ホントは女子供にこんなことすんの嫌なんだぜ?話がしたいだけだってのに、聞き分けのない王女さんがいけないんだからな。ちょっとだけ痛くするけど、ごめんな」
「い、いやじゃ!痛いのはキラいじゃ!――その方ら、わらわを助けるがよい!」
 エルフの王女は、泣きそうな顔をこちらに向けた。
 頭上の枝が、ばさりと揺れる。おいおい、どんなタイミングだよ。
「っ……誰だ!?そこに誰かいやがるな!?」
 フゥマに気付かれた。にやけ面も、こちらに視線を向ける。
「これは迂闊でしたね。まさか、こんな場所で我々以外の人間に遭遇するなど、思いもよりませんでした」
「出てこいよ」
 俺達は、繁みの裏で顔を見合わせる。まぁ、仕方ねぇか。
 繁みから出ていくと、フゥマは目を見開いたが、にやけ面は表情を変えなかった。ルシエラは、はじめっから無表情のまんまだ。
「お、おい、ちょっと待て。なんだってあんたらが……」
「正義の味方、参上!って状況かな、これって?」
「バ、バカ言うな!!正義の味方は、俺達だっての!」
 リィナの口上に、無茶な反論を試みるフゥマ。小さい女の子を脅すような正義の味方はいねぇだろ。
「……その子を、離してあげてください」
 滅多に聞けないシェラの怒り声で言われて、フゥマはうろたえた。
「い、いや、違うんだ、シェラさん。これは、その……」
「そうじゃ!さっさと離すがよい!」
 便乗して喚くエルフの王女様を忌々しげに見下ろし、フゥマはルシエラに押し付けた。
「ちょっと捕まえてろ。そいつ力ねぇから、お前でも大丈夫だ」
「いーやーじゃー!!離せ離せ離すがよい!!」
 フゥマに羽交い絞められているよりは逃れ易しと見てか、王女は一層ジタバタと暴れ出す。元気な姫さんだな。

175 :CC 12-11/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:18:11 ID:j5DXUZmx0
「うるせぇよ!ルシエラ、そいつの口押さえてろ!」
 口を塞がれてモガモガ言ってた王女は、ルシエラの指をガリッと噛んだ。
「あ……」
 指から流れ出た血を見て、王女はビクッと震えて怯えた目を頭上に向ける。
「大人しく」
 ルシエラは、全く無表情のまま呟いた。はじめて声を聞いたが、言葉をその場にゴトリと放り置くような、なんとも無感情な喋り方だ。
 指から流る血と、その感情の無さに気圧されたように、王女はひとまず暴れるのを止めた。
「さて、困りましたね。あなた方が突然現れたので、私、少々戸惑いを隠せません」
 全く困ってなさそうなにやけ面をして、にやけ面がほざいた。
「失礼ながら、誤解されているように思うのですが。我々はこちらのエルフの王女様に危害を加えるつもりは毛頭ありませんよ。もし、それを危惧していらっしゃるのでしたら、無用な心配です」
「ちょっと痛い目に遭わせるとか言ってたじゃないですか!信用できません!」
 今日のシェラは積極的だな。
「いえいえ、ほんの少し抓る程度のことですよ。傷ひとつつけないとお約束しますから、どうかこの場はお引取り願えませんか。私としては、あなた方と事を構えるつもりは無いのですが」
「ダメよ」
 きっぱりと言い放ったのは、マグナだ。
「あたし達も、そのエルフの王女様に用事があるの。あんた達こそ、王女様をこっちに渡してくれたら、見逃してあげてもいいわよ」
「っざっけんなっ!!オレ様達が、何日ここいらウロついて、やっと捕まえたと思ってんだ!?」
 額に青筋を浮かべる勢いで怒鳴ったフゥマに、マグナが怒鳴り返す。
「うるっさいわねっ!!大きい声出さないでよ!!あんたなんかに言ってないんだから、下っ端は黙ってなさいよっ!!」
「こっ……このアマ、オレ様が下っ端だとぉ……?」
 駄目だ、こいつら。相性悪過ぎ。
「え〜、その、なんだ。話し合いで解決できないモンかね」
「そうですねぇ。私も、そう願っているのですが」
 あまりいい気分じゃないが、にやけ面とは意見が合ったのだが。

176 :CC 12-12/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:21:04 ID:j5DXUZmx0
「しゃらくせぇよ!!ぶっ飛ばしちまえばいいんだ、こんな生意気な女!!――あ、シェラさんのことじゃないですよ」
「こっちの台詞よっ!!なによ、あんたなんか、この前リィナに散々やられたの覚えてないの!?」
「やられてねぇよっ!!なに言ってんだ、このクソ女!!だから、気の強い女は嫌いなんだ!!」
「気が強くて悪かったわねぇっ!?あたしだって、あんたなんかに好かれたくないわよっ!!……フン、またリィナにケチョンケチョンにのされたいの!?」
「だから、オレ様は負けてねぇっての!!」
 あーうるせーうるせー。
「いえ、客観的に見て、この前の勝負はフゥマさんの負けだったと思いますよ」
 にやけ面が、冷静に口を挟んだ。
 この野郎、やっぱり塀が崩れる前から、あの手合わせをどっかで隠れて見てやがったな。登場のタイミングが良過ぎたもんな。
「おいおい。あんたまで、そんなこと言うのかよ。分ぁったよ。そんじゃ今ここで、オレ様の方が強ぇってことを証明させろい」
「と、ウチのフゥマさんが仰るのですが」
 やれやれ。結局そうなるのか。
「ボクは全然いいよ〜」
 はいはい。お前はそうだろうよ、リィナ。
「どちらも引く気はなさそうですしね。仕方ありません。では、軽く手合わせをさせていただいて、勝った方がエルフの王女様にお話を伺えるということにしましょうか」
「あたしは最初から、そのつもりよ」
 思いつきで喋るなよ、マグナ。
「王女様を、助けましょう!」
 珍しくやる気だな、シェラ。
「うむ。お主ら、しっかりわらわを助け出すがよいぞ」
 お前は囚われの姫らしく、大人しくしてなさい。
「想定外の成り行きですが、あなた方の実力を見せていただくには丁度良かったと思うことにしましょう。私は、お手伝いくらいに止めておくつもりですので、フゥマさんのお相手をそちらのリィナさんに、ルシエラさん達のお相手を、その他の方々にしていただきましょうか」
「ルシエラ『達』ってことは、やっぱり、その魔物もお前らの仲間なのか」
 俺は、ルシエラの背後で唸り声をあげているゴリラの怪物の方を見た。

177 :CC 12-13/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:25:00 ID:j5DXUZmx0
「ええ、そうです。ルシエラさんは、世にも珍しい魔物に育てられた子供でしてね。魔物と心を通わせることができるのです。とある見世物小屋で働いていたところを、私がスカウトさせていただきました」
 ……重いよ。さらっと言うなよ、ンなこと。
 というか、魔物が人間の子供を育てるなんて、あり得るのか?
「そうだ、ルシエラ。はじめる前に、ゴリラにそこらの木をニ、三本引っこ抜かせろよ。戦うのに邪魔だからな」
 マグナをにやにや眺めながら、フゥマが指図した。
「やめ――っ!!」
 叫ぼうとしたエルフの王女の口を、ルシエラが再び塞ぐ。
 どうやって意志の疎通を計っているのか見当もつかないが、ともあれ魔物は本当にルシエラの言うことを聞くようだ。手近な木に歩み寄ったゴリラの化物は、抱きかかえて一気に引っこ抜くと、無造作に遠くに放り投げた。
 とんでもない怪力だ。はじめて目にするが、相当強力な魔物と見える。
 魔物が五、六本の木を引き抜いて、辺りがすっかり開けた空き地になった頃。
「貴様ら!!どれだけヒドいことをしたか、分かっておるのかっ!!絶対に許さんぞ!!」
 頭を左右に振り回して、ようやくルシエラの手を払い除けた王女が絶叫した。
 王女の瞳からは、大粒の涙が零れている。
 黙って見ていたこっちまで申し訳ない気持ちになるような、人間で言えば親しい友人が目の前で殺されたみたいな叫び声だった。
 エルフが森や木を大切にするという言い伝えは、本当だったんだな。
 フゥマはちょっと鼻白んで、「ちゃんと口塞いどけ」とルシエラに告げてから、マグナに向かって唇を歪めてみせた。
「ま、いちおうルシエラの言うことは聞くけどさ、そいつ、手加減なんかロクにできゃしないぜ。せいぜい、気をつけろよな」
「じょ、上等じゃない」
 最初に怪力を見せ付けて、ビビらせようって魂胆か。確かにこれじゃ、あんまりマグナには無理させたくねぇな。
「あ、そうそう。あの生意気なクソ女はぶっちめて構わねぇけど、あっちの可愛コちゃんには傷ひとつつけんなよ、ルシエラ」
「……あいつ、死なない程度にボコボコにしちゃっていいわよ、リィナ」
 やれやれ。こいつらが直接やり合うんじゃなくて、良かったよ。
「それでは、はじめますか」
 緊張感の無いにやけ面の合図で、戦闘が開始された。

178 :CC 12-14/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 07:27:29 ID:j5DXUZmx0
『ベギラマ』
 一匹だけ前に出ていたゴリラの化物に、俺は速攻で呪文を叩き込んだ。経験上、この手の動物っぽい魔物は、火が苦手な筈だ。
 思った通り、ゴリラの化物は唸り声をあげて、やや怯んだように見えた。
「マグナ、あんま無理すんなよ」
「分かってる……っていうか、できないわよ。相手がアレじゃ」
 尤もだ。さすがのお前も、フゥマの挑発にムカついててすら、自制心を発揮せざるを得ないみたいで、安心したぜ。
『ホイミ』
 すかさずホイミスライムが唱えたのは、ルシエラの指示によるものか。ゴリラの火傷が治癒していく。
 くそ、相手にも回復役がいるってのは、思った以上に厄介なモンだな。
「さって、今日は最初っから全開でトバしてくぜっ!!」
 隣りでも、手合わせが始まったようだ。
『ピオリム』
 お?今、唱えたのはにやけ面か?
 野郎も僧侶かよ。こりゃ、体力の削り合いになったら分が悪そうだ。
「おらぁっ!!」
 地面を蹴って土煙を撒き散らし、フゥマが仕掛けた。呪文の効果で、この前より数段速い。リィナに向かって飛び蹴りを放つ。
「いきなりだね」
 リィナは身を屈めて、ひょいと避けた。
「馬鹿め!!」
 フゥマは着地するなり、無理矢理力任せに逆方向に跳んで、飛び越したリィナに頭から突っ込む。
「っと」
 なんとか体ごと躱すリィナ。
 着地したフゥマは、今度は飛び跳ねずに地面に膝をついた。
「キミ、大技狙い過ぎ。それに、呪文かけちゃうと、いつもと感覚違っちゃうでしょ」
「ぐ……」
 腹を押さえながら、フゥマは何度か咳き込む。
 どうやら、すれ違いざまにリィナに一撃喰らっていたらしい。

179 :CC 12-15/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:01:03 ID:j5DXUZmx0
 一方マグナは、ゴリラの化物を迂回して、先にホイミスライムを叩きに回り込んでいた。
 だが、寸前でルシエラが立ちはだかる。
「っ……どきなさいよ」
 マグナは剣を振り上げたまま、ルシエラを睨みつけた。
「魔物のこの子は斬れるのに、私は斬れないの」
 喋り方は、相変わらず平坦だが。
 ルシエラの言葉には、さっきより少し感情が篭もって聞こえた。
「……あんたじゃないわよ。王女様に怪我させる訳にはいかないでしょ」
「ああ、そう」
 馬鹿、マグナ。のんびり話し込んでると危ねぇぞ。
 ルシエラを守ろうとするように、ゴリラの化物がマグナに殺到する。
 ちっ、間に合えよ!?
『スカラ』
「ゴアァッ!!」
「うぐっ!」
 横殴りに振り回されたゴリラの腕を躱し切れずに、僅かに掠めただけで弾き飛ばされたマグナは、きりもみしながら地面に打ち付けられた。
『ホイミ』
 間髪いれずに、シェラがホイミを唱える。
「いった〜あ。ちょっと、あんなのとどう戦えってのよ!?」
 頭を押さえながら、マグナは身を起こした。やれやれ、無事か。
 隣りでは、フゥマが歯噛みしながら立ち上がっていた。
「ぐ……うるせぇっての……女にゃ分かんねぇよっ!!どんな相手も一発でぶっ倒すのが男のやり方だ!!来い!!」
『バイキルト』
 へっ?ちょっと待て、にやけ面。バイキルトだと?お前そりゃ、魔法使いの呪文じゃねぇのかよ!?
「躱してもぶっ飛ばすっ!!」
 無茶なことを叫びながら、フゥマは高く跳び上がると、アホみたいに全身を仰け反らせて拳を振りかぶった。
「おおおぉぉっ!!ひっさあぁっつっ!!」
 ヤバい。やってることはアホそのものだが、そいつはヤベェぞ、リィナ。
「真!!激砕!!破岩拳んっ!!」
 恥ずかしい叫び声と共に、フゥマは思いっ切り拳を地面に叩きつけた。
 ただでさえ、冗談みたいな威力だったのだ。呪文で破壊力を強化されたフゥマの拳を中心に、地面が抉れて大量の土砂が舞う。
 リィナは、当然躱している。跳び上がっての一撃など、あいつが喰らう訳がない。足場が崩れるのを嫌って、大きく跳び退っている。が――

180 :CC 12-16/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:03:26 ID:j5DXUZmx0
「そこだらあぁっ!!」
 またしてもフゥマは力任せに、普通ではあり得ない敏捷さで、躱したリィナに向かって両足で地を蹴った。
 呪文の加速効果も手伝って、リィナの足がまだ地につく前に、フゥマの拳が襲い掛かる。
 さすがのリィナも空中では躱しようがない。フゥマとしては、そう目論んでいた筈だ。
 だが、リィナは僅かに身を捻り、フゥマの腕を脇に通して手を絡ませると、着地と同時に背を反らして、フゥマが突っ込んできた勢いそのままに後ろに投げ捨てた。
「うがっ!!」
 無様に背中から地面に打ちつけられるフゥマ。
「あのね、あんまり無茶すると腱が切れちゃうよ、キミ?」
 リィナは振り返って、軽く息を吐いた。
「それに、魔物相手ならともかく無理だってば。そんな強引で正直なの。身につけた技が泣くよ?」
 出来の悪い弟を諭すみたいに小言を口にする。
 あっちは心配なさそうだな。
 問題はこっち――マグナの方だ。
「ちょ……っと……もうっ!!」
 俺まで届く風切り音を巻き起こしながら、ゴリラがぶんぶん振り回す腕をなんとかかいくぐり、すれ違いざまに剣で腹を薙ぐ。おお、やるじゃん、マグナ。
『ホイミ』
 だが、苦労して負わせた傷は、ホイミスライムによってあっという間に治癒されてしまった。
「も〜、なんとかしてよっ!?この繰り返しじゃないっ!!」
 やっぱり、先にホイミ野郎を倒さないと、どうにもなんねぇな。けど、呪文で狙い撃とうにも、姫さんを盾にされちまう可能性が高い。なんか打開策をヒネり出さねぇと。
「ちぇっ、分かったよ。こっからマジだぜ」
 相変わらず子供の負け惜しみのような台詞をほざきながら、フゥマはにやけ面が立っていた辺りまで距離を置いていた。
 そういえば、いつの間にやらにやけ面の姿が消えている。どこ行きやがった、あいつ。

181 :CC 12-17/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:06:18 ID:j5DXUZmx0
「このオレ様に、奥の手まで使わせるとは、大した姐さんだぜ」
「ん?奥の手って、この前言ってた『アレ』のことかな」
 フゥマはニヤリと唇を歪めた。
「その通り!!いくぜっ!!『奥義!!ニツ身分身っ!!』」
 またバカみたいなことを叫びながら、リィナに向かって突っ込んだフゥマの背後から、もう一人のフゥマが跳び出した。
「え?うそっ!?」
 一人目のフゥマの拳を捌いたリィナは、二人目の蹴りを躱し切れずに肩で受ける。
 よろめいた隙を逃さず、一人目が逆から掌打を放つ。横殴りに弾かれたリィナの顔面を、二人目の後ろ回し蹴りが迎え撃った。
「っつ」
 リィナは、大きく後ろに跳び退いて、なんとか逃れる。
「なにこれ?どうなってんの?」
「ボサッとしてんな!!どんどんいくぜ!!」
 調子づいた二人のフゥマは、再び連動しつつリィナに襲い掛かる。
 まぁ、同じ人間がいきなり二人になったら、混乱するとは思うが。
 ありゃペテンだぜ。
 例えば、高速移動による残像で、二人に見せたりしてる訳じゃねぇ。
 なにが奥義だか。あんなモン、分身じゃねぇよ。
 あれは単なる――って、ちょっと待てよ、オイ!?
 そこまで考えて、俺はある事に気がついて愕然とした。
 それって――滅茶苦茶ヤバいんじゃねぇのか?
 瞬間的に頭に血が昇り、思考が全て吹っ飛んで真っ白――いや、真っ赤に染まる。
 赤みがかった視界が、急速に狭まっていく。
 最初に「手合わせ」と宣言された通り、お互いに命を取り合うほどの殺伐とした雰囲気が無かったせいもあって、それまで割りとのんびり構えていた俺は――
 一瞬でパニックに陥った。

182 :CC 12-18/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:10:27 ID:j5DXUZmx0
 ヤバいヤバいヤバいって。
 全身から、イヤな汗が噴き出すのが分かる。
 膝が笑ってやがる。いかん、自分の想像にブルっちまってる。
 落ち着け俺落ち着けよ。
 今すぐ思考を立て直せ。パニくってる場合じゃねぇぞ。今すぐだ。早くしろ。急げ。
 焦るほどに思考がまとまらない。
「どうしたんですか?」
 シェラが俺の顔を覗き込んだ。
 マズい。焦りがそんなに顔に出てるのか。すぐに顔を戻せ。俺が気付いたことを、「あいつ」に悟らせるな。
 最悪の展開を思い描いてのは、多分まだ「敵も含めて俺だけ」だ。
 万が一にも、あいつが「その気」になる前に、なんとか誤魔化してこの場を逃れる算段をヒネり出さねぇと。
 だから、さっさと頭に昇った血をおろせよ、俺。
 だが、どうする。どうすりゃいいんだ――
 俺は、ひっぱたかれたみたいにシェラを見た。小首をかしげて見返してくる。
 そうか。こいつがいるじゃねぇか。
 後光がさしてるみたいに、シェラがいつもよりさらに輝いて見える。
 イケる。大丈夫だ。切り抜けられる。
 俺は、生まれてはじめて、神様に心の底から感謝した。だって、新しい呪文を覚えたことを、シェラが嬉しそうに俺に報告したのは、つい昨日の出来事だぜ。
 偉いぞ。可愛いぜ、こんちくしょう。このツキは、毎日朝晩神様へのお祈りをかかさなかったお前へのご褒美だぜ、きっと。
「あっ!?」
 ゴリラの化物が振り回した腕が掠めて、マグナが再びふっ飛ばされる。
「唱えるなっ!!」
 可能な限り声を低くして、ホイミを唱えかけたシェラに怒鳴った。
「えっ!?でも……」
「いいから」
 恫喝するような俺の声に、シェラは怯えた顔を見せる。だが、今は構っていられない。まだ時間はある筈だが、タイミングを逸する訳にはいかねぇんだ。
 今すぐ作戦を組み立てろ。すぐにだ。
「ヴァイスさん……?」
「そんな顔すんな。普段通りの顔してろ。頼むから」
 バレたら、もともと綱渡りの成功率が、さらにガクンと落ちちまう。
「いいか、良く聞けよ。こっからは、俺の言う通りにしろ」
 俺は、努めて平静な表情を無理矢理作りながら言った。思い付いたのが最善の策とは到底思えないが、検討してる時間も考え直してる余裕もねぇ。

183 :CC 12-19/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:12:39 ID:j5DXUZmx0
「頼むぜ。お前だけが頼りなんだ」
「え?えっ?」
 カンダタとの戦闘以降、シェラは戦闘中に呪文を唱えられるようになっていた。普段は、いつでもホイミを唱えられる準備をしておいて、誰かが怪我を負ったらすかさず発動しろとだけ言い含めてあるのだが、今回ばかりはそうはいかない。
 俺達四人の命は、全てこいつにかかっている。
 俺は、できるだけ手短に、シェラに指示を与えた。戦況を何食わぬ顔で眺めながら、なるべく唇を動かさないようにして、小声でだ。
「――他の事は考えなくていい。今言ったことだけを、正確にやってくれ」
「は、はい。やってみます」
 俺の切羽詰った声音に気圧されたように、シェラは顎を引いた。
 実際、俺はある意味、カンダタ共とやり合った時より追い詰められていた。
 なまじ考える時間があるのがマズい。嫌な想像に囚われちまう。
 それに、あの時は、まだ戦えた。戦力差は絶望的ではなく、ある程度拮抗していたが、今回は下手すると戦いにすらならない。
「ちょっと、ヴァイス!?援護してよ……っつ!!」
 またマグナがゴリラの化物に殴り飛ばされた。
『ベギラマ』
 炎壁で化物を足止めしておいて、俺はマグナに走り寄る。ホントは、こんな目立つ行動を取りたくないんだが、仕方ねぇ。
 フクロから薬草を取り出して、マグナに押し付ける。
「悪い。無事か?」
「無事か、じゃないでしょっ!?――って、何?どうしたの?」
 表情を消してるつもりなんだが、全然成功してないみたいだな。だが、もう気にしてる場合じゃない。
「すまんが、ホイミは品切れだ。しばらくなんとか逃げ回ってくれ。できれば、姫さんからあんま離れるな」
「え?ちょっ……なんなのよ!?」
「頼むぜ。なんとか凌いでくれ」
 無責任に言い置いて、シェラの傍らに戻りながら、ちらりとリィナの方を見る。さすがに押されてんな。だが、もうちょい踏ん張ってくれ。

184 :CC 12-20/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:15:48 ID:j5DXUZmx0
 薬草で多少回復したマグナは、文字通りゴリラの化物から逃げ回った。化物があまり素早くないのが、せめてもの救いだ。タマに斬りつけても、すぐにホイミで回復されちまうから、大した効果は望めない。
 リィナは、よくやっていた。最初は面食らったみたいだが、二人を相手取るのにも慣れてきた様子で、押されつつも上手いこと捌きながら、時折反撃すらしてみせている。これなら、なんとか保ちそうだ。
『ベギラマ』
 呪文でマグナを援護した、少し後だった。
 フゥマのひとりが動きを止めて、リィナから離れた。
 その姿が、にやけ面へと変化していく。
 そう。フゥマの分身の術は、にやけ面がモシャスで化けていただけなのだ。
『マホトーン』
 この瞬間を身じろぎもせずに待ち続けていた、シェラの覚えたての呪文が発動する。
 かかれよ、この野郎。
「おや」
 祈るように見つめる俺の視線の先で、にやけ面が淡い光に包まれた。
 よっしゃ、やったぜ。でかしたシェラ。抱きしめてキスしてやりてぇよ。
 これで、あいつの魔法はしばらく無効化された筈だ。
「すいません、フゥマさん。お手伝いできなくなっちゃいました」
 にやけ面は、呑気らしくフゥマに声をかける。
 ひとりに戻ったフゥマが、一瞬にやけ面に気を持っていかれた虚をついて、リィナが流れるような連続技を叩き込む。
「うがっ!!」
 ズシンという足音と共に、最後はリィナに背中をぶち当てられて、フゥマは木々の間を抜けて森の方までふっ飛ばされた。
 願ったり叶ったりの展開だ。ホントにお前は、いつも期待以上のことをしでかしてくれるから好きだぜ、リィナ。
「いたた」
 さすがに二人を相手に無傷とはいかなかったようで、リィナはあちこち打たれた体を抱えて顔を顰めた。後で回復してやるから、もうちょっと待ってろよな。
 一方、マグナは苦戦中だ。ベギラマの炎から抜け出した怪物に迫られて、必死で背後に回り込んで逃げ惑う。
 俺は、シェラを見た。まだか。まだなのか。
 くそ、どうして俺は、もっと役に立つ呪文を覚えてねぇんだ。
 ややあって、シェラがゴリラの方を向いた。
 マグナが踏ん張ってくれたお陰で、上手い具合にルシエラ達がすぐ側だ。今だ――

185 :CC 12-21/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:25:07 ID:j5DXUZmx0
「マグナ!!」
 俺はマグナを呼んで、エルフの王女を指差した。
『ラリホー』
 ゴリラの化物だけでも眠ってくれれば御の字だと思ってたんだが。
 シェラの呪文は、ルシエラをも眠りに誘った。ホイミスライムには効いてないが、あいつは放っときゃいい。
「リィナ!!来い!!早く!!」
 地面にくたりと倒れ込んだルシエラから、エルフの王女を引き離したマグナの方に、俺はシェラの手を引いて駆け寄りながら叫んだ。
「おぶってくれ!」
 きょときょとするエルフの王女を抱き上げて、僅かに遅れて到着したリィナの背中に押し付ける。
「ちょっと待て、この野郎!!なにコスい真似してやがんだ!!」
『ボミオス』
 下生えを掻き分けて戻ってきたフゥマに呪文を放ち、俺は森に向かって一目散に逃げ出した。
「走れ!!逃げるぞ!!」
「なに?なんなのよ!?」
「いいから、足動かせ!!姫さん、あんたこの森には詳しいんだろ?逃げ道を指示してくれ!!」
「手前ぇ!!なんだそりゃ!!勝負はまだついてねぇぞ!!」
 うるせぇ、フゥマ。手前ぇなんぞに構ってる場合じゃねぇんだよ。
「そこを右じゃ」
 俺は全力で走り続けながら、ちらりと後ろを振り返った。よし、全員ついてきてるな。
『ピオリム』
 指示しておいた通りに、唱えられるようになり次第、シェラが呪文を発動した。
 呪文の効果で駆ける速度が増して、フゥマのがなり声が遠ざかっていく。
「そこの木の間を抜けるがよい」
 木々が自らの意志で道を空けてくれるような奇妙な感覚をおぼえながら、王女の言葉に従って、走り続けることしばらく。
「もう大丈夫じゃぞ。あやつらは、ここまで追ってこれぬ」
「確かか!?」
「なんじゃ、わらわを疑うのか。ここは既に結界の中じゃから、わらわ達に招かれた者以外は、足を踏み入れることはできぬのじゃ」
 それで俺は、ようやく駆け足をゆるめた。立ち止まると、しばらく呼吸も困難なくらいに息が乱れる。

186 :規制阻止:2006/11/28(火) 08:25:40 ID:en3LXZJv0
 

187 :CC 12-22/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:27:44 ID:j5DXUZmx0
「もうっ……なんっ……ったのよ……っ!」
 こちらも息を切らせながら、マグナが文句を言う。シェラは半分転ぶように倒れ込んで、肩を上下させた。
「最後、ほとんど……勝ってたじゃない……」
 呼吸が落ち着いてきたマグナは、ひとつ大きく深呼吸をした。
「別に逃げなくてもよかったんじゃないの!?」
「あのフードの人?」
 王女を背負ったまま、リィナが尋ねた。さすがに息が弾んでいるが、俺よりゃずいぶんマシだ。
「ああ……」
 情けないことにムセちまった。息が整うのを待って続ける。
「ちょっと、とんでもない魔法を使えそうだったんでな。こっちがいくら勝ちそうになっても、一発でひっくり返せるようなヤツ」
「でも、シェラの呪文で魔法は無効化してたじゃない」
「いや、マホトーンの効果は、一時的なモンだからな。逃げなきゃ、いずれ全滅してたかも知れねぇ」
「全滅って……あいつ、そんなに凄い魔法使いなの?」
「ああ。洒落になんねぇ」
 僧侶の呪文も唱えてたから、正確には魔法使いとも言い難いが、はっきり言ってそんなのは大した問題じゃない。
 あのにやけ面は、モシャスを唱えてやがったんだ。
 ということは、あいつはメラゾーマが使えて――
 多分、イオナズンすら唱えられるって事なんだぜ!?
 イオナズンだぜ、イオナズン。最大最強の広範囲攻撃呪文だ。
 それに気付いた瞬間に、俺は完全にブルっちまった。ビビって逃げ出したのだ。
 悪いかよ。だって、アリアハンの冒険者レベルじゃ、イオラを唱えられるヤツだっていやしなかったんだ。
 講義でその威力の程を聞かされた時に思ったんだが、イオナズンを覚えた魔法使いが三人集まって交代で唱え続ければ、数千の軍隊にだって勝てるに違いない。それくらい、本来は一個人が扱っていいとは思えない程な威力なのだ。
 俺達なんて、一発で消し炭だよ。
 イオナズンがいかにヤバい魔法なのか、俺は唾を飛ばして熱弁してみせたのだが――

188 :CC 12-23/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 08:31:05 ID:j5DXUZmx0
「……もしかして、あたし達、すっごくヤバかったってこと?」
 俺の説明を聞いても、魔法使いでないマグナにはあまりピンと来なかったようだ。
「でも、あたし達を殺すとか、そこまでするような感じでもなかったけど、あいつら」
 そうかも知んねぇけどさ。そんなの、分かんねぇじゃねぇか。その気になりさえすれば、あいつはいつでも俺達を簡単に全滅させられたんだ。
 だが、エルフの王女はもちろん、シェラもあまりよく分かってない顔つきをしている。多少は事態を把握してそうなのは、リィナくらいか。
 きょとんとした顔をいくつも向けられて、一時の興奮が醒めてきた俺は、なんか独りで焦りまくっていた自分が、ヒドく滑稽に思えてきた。
 あれ?俺、間違ってねぇよな?
 だって、あのにやけ面の息の根を止めない限り、あいつらはいつでも逆転できた訳で、でも、あいつが簡単にくたばるとは思えなくて、それで俺は、お前らが殺されないようにするには、逃げるしかねぇと考えてだな――
「まぁ、呪文唱えられちゃったら、ボクもどうしようもないしね」
「とにかく、王女様を助けられてよかったです」
 リィナとシェラが交互に言う。
 軽い。軽いよ、お前ら。
 下手すりゃ死ぬトコだったんだぞ。これじゃ、切羽詰って慌てふためいてた俺が馬鹿みたいじゃねぇか。なんか、泣きそうだ。
 おかしいな。あのにやけ面への苦手意識が変な風に働いて、バカみたいに俺が独りで過剰に反応しちまっただけなのか?別に逃げなくても……大丈夫だったのか?
 俺はぶるっと身を震わせて、ビビった自分を振るい落とした。
 安堵の溜め息が漏れる。
 まぁ、いいか。俺の行動が滑稽でバカみたいだったとしても、ともあれ全員無事なんだしな。それが一番重要だ。
 こうして姫さんも助け出せたことだしな。
「うむ。大儀であったな、お主ら」
 リィナの背中で、エルフの王女が口を開いた。
 偉そうな物言いだが、舌足らずなので腹が立つというより微笑ましい。なんというか、無理して喋ってるのが丸分かりだ。普段は、こんな口の利き方してないだろ、この姫さん。
「私達が来る前に、ヒドいことされませんでしたか?どこにも怪我はないですか?」
「うむ。大事ない」
 心配そうなシェラに、重々しく――多分、本人はそういうつもりで――頷いてみせる。

189 :CC 12-24/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 09:01:21 ID:j5DXUZmx0
「まぁ、なんとか連れ出せてよかったよ」
 ホントは姫さんを置き去りにしてルーラでトンズラかますって案も、何度となく頭をよぎったんだが、もちろんそれは口にしない。
「その礼って訳じゃないけどさ、俺達を姫さんの里に――」
「エミリーじゃ」
「は?」
「だから、わらわの名前はエミリーじゃと言っておる」
「ああ、はいはい。エミリーの里に連れてってくんねぇかな」
 今、結界の外に放り出されてたら、またあいつらに見つかっちまうかも知れねぇしな。
「ふむ……下ろすがよい」
 エミリーはリィナの背中からよじ下りて、俺の正面に歩み寄った。
 見た目は、シェラよりもさらに年下に思える。可愛いというよりは、愛らしい。職人が丹精を込めて作った愛玩用の人形みたいに整った顔立ちだ。
 半袖の上着から出た腕や、膝上の履物から伸びる脚がエラい細くて、肌はどこも丁寧に磨き込まれたようにスベスベしている。
 さらさらの銀髪をちょっとゆらして、エミリーは大きな深緑の瞳で俺を見上げた。
「お主は、人間の男じゃな?」
「は?ああ、そうだけど」
「屈むがよい。もっとよく顔を見せろ」
 エミリーは、膝を曲げた俺の頬に小さな手を添えた。なんだなんだ。
「ふむぅ。ブサイクとまでは言わぬが……そこの女。コレはどうなのだ?」
「えっ?あたし?」
 いきなり振られて、マグナは自分を指差した。
「そうじゃ。コレは、人間の基準からすると、どうなのじゃ?カッコ良いのか?」
 おいおい、なに言い出してんだ、この姫さんは。
「え……っと。カッコ良くはないけど」
 手前ぇ、マグナ……いや、まぁそうだけど。
「そんなに悪くも――」
「なんじゃ、やっぱりお主程度から見てもそうなのか」
「は?なんですって?――ちょっと、なに笑ってんのよ、ヴァイス」
 い、いや、笑ってねぇよ。
「そこそこ、ということじゃな。まぁ良い。贅沢は申さぬ。ここから先は、お主がわらわをおんぶするがよいぞ、人間の男よ」
「へ?なんで――」
「分からぬヤツじゃな。我が里へあないしてやろうと言っておるのじゃ。本来は人間を連れて行ってはいかんのじゃが、このような次第であれば、お母様も許して下さるであろ」

190 :CC 12-25/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 09:04:16 ID:j5DXUZmx0
「いや、そうじゃなくて、もう自分で歩けばいいんじゃ――」
「黙るがよい。とにかく、お主はわらわをおんぶすればよいのじゃ!あ、抱っこでもよいぞ。うむ、そっちの方がよいな。ほれ、はよう抱っこせぬか」
 エミリーは、俺の首っ玉に両手をかけてきた。なんだ、これは。
「別に、いいんじゃない。抱っこして差し上げれば?」
 視線を向けると、マグナは素っ気無くそんなことを言う。
 はいはい。なんだか分かんねぇけど、抱っこして差し上げますよ。
 うわ、軽ぃ。
 エミリーは、俺の顎の下で頭をすりすりした。くすぐってぇよ。
「お主、ちゃんと風呂には入っておるか?後で薬湯を用意してやるから、じっくり浸かるがよい」
 うるせー。俺はそんなに臭かねぇよ。
「お子様にもモテモテだね、ヴァイスくん」
 リィナがちょんちょんと肩の辺りをつついてくる。
 いや、どうせ抱きかかえるなら、お前くらいあちこち出っ張ってた方が、俺的には愉しいんだが。
 なんだか良く分からないまま、お姫様をお姫様抱っこしつつ、俺達はエルフの隠れ里に向う事になった。
 エルフに出会えたのが余程嬉しいのか、シェラは道中なにくれとエミリーに話しかけた。大半は、リィナと一緒になって、可愛い可愛い言ってただけだが。
「わらわも、お主のように綺麗な人間ははじめて見たぞ」
 とか言われて、嬉しそうに頬を両手で挟んだりする。でも、この姫さん、人間なんてほとんど見たこと無いと思うんだが。
 マグナは、ひとり離れてぶすーっとしながら歩いていた。
「――大体なんで、あんなのに捕まってたのよ。結界の中に居れば、見つからないんでしょ?あたし達だって、何日も探してたのに見つけられなかったんだから」
 マグナがひとりごちるようにあさっての方を見ながら言うと、エルフの王女はバツが悪そうな顔をした。
「あー、いや、それはじゃな。珍しく、近くまで人間がやって来おったから、ちょっとからかってやろうと思ってじゃな……」

191 :CC 12-26/26 ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 09:06:53 ID:j5DXUZmx0
「つまり、物珍しくて隠れて覗いてたら、あっさり見つかって捕まっちゃったってこと?」
「そのような、みもふたもない言い方をするでないわ!」
「だって、そうなんでしょ。昔話とかだと、もっと神秘的なイメージなのに、案外抜けてるのね、エルフって」
「なんじゃと!?無礼を申すでない、人間の分際で!!」
「その人間に助けられたんじゃない」
 ムムム、とかエミリーは悔しそうに唸り声をあげた。お前ら、喧嘩すんなよ。
「まぁ、襲ったのも人間なんだから、差し引きチャラってことでいいんじゃねぇの」
「そうじゃな!?お主、なかなかよいことを申した。そのとおりじゃぞ、女」
「はいはい。別にいいわよ。お礼くらい言って欲しいけどね、あんな怪物と戦わされたんだし」
「礼ならすでに、先ほど申したわ!」
「あらそう?ごめん、気付かなかった。いつの間に『ありがとう』って言ったのかしら?」
 どうしたんだ、マグナ。なんか、いじわるなお姉さんみたいになってるぞ。
「うぬぅ……」
「別にいいのよ、無理して言わなくっても。もうお礼は言ったんでしょ?」
「黙るがよい!人間如きに、礼も言えぬと思われたままでは、エルフの名折れじゃ!今度こそ、よっくと耳にするがよいわ!」
 エミリーは、俺の腕の中で何度か深呼吸をした。そんなに言い辛いのか。
「あ、ありがとう。助けてくれて、礼を言う」
「いいのよ。別に、大したことじゃないわ」
 ようやくマグナが少し微笑んで、それで手打ちになるかと思ったんだが。
「フン。見てくれが悪いと性格も悪くなるのじゃな。お主も、よくあんなのを連れておるな、人間の男よ。さぞかし忍耐が必要であろ」
 エミリーが憎まれ口を叩いたので、すっかり台無しになった。
「な……なんですってぇ……」
 こりゃダメだ。気の強いモン同士だからな。
 いちおう、見た目の上では年上だという自覚があるのか、マグナはそれ以上噛み付きこそしなかったが、より一層ぶんムクれて押し黙っちまった。
 まぁ、子供の言うことだから気にすんなよ。けど、子供は正直とも言うからな。うん、この線でフォローすんのは止めとこう。
 結局それ以降、エルフの隠れ里に辿り着くまで、二人は一切口を利かなかった。やれやれ。

192 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/28(火) 09:12:26 ID:j5DXUZmx0
なんだかんだで、結構遅れてしまいましたが、第12話をお届けしますた。
なんか規制が、前より増えたみたいです。連続投稿の他に、
1時間に投稿可能なレス数が制限されてるっぽいなり。
てな訳で、リアルタイムで遭遇してしまった方は、
2〜3時間経ってからリロードしてくださいませ。長いよw

ノアニールは、目を覚ました瞬間から村人が普通に振舞っていたので、
介護もなくただ眠ってるだけっていうのはちょっと無理があり過ぎでしょう、
ということで、あんな感じになりました。
いや、別におとぎ話風に処理すればいいんですけどね。作風と違うかな〜と。

そもそも最初は、エルフの話は殆ど書かずにさらっと流す予定だったんですが、
なんだか姫様が書きたくなったので、流さないことにしました。
次回、作者しか楽しみでなくても、構わず姫様大活躍の予定!
でも、割りかしまだノープランw

193 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/28(火) 12:32:23 ID:5ltpKZtVO
GJ。そしておはよう。

194 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/28(火) 22:36:15 ID:4gf5c6dzO
>>192
乙でした!!
主人公エロいよ主人公w
そして姫さんが作者以上にツボった件(*゚∀゚)=3 ムッハー

195 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/28(火) 23:54:22 ID:jT65Qk3H0
GJ!ヴァイスの焦りっぷりと周りのキョトーンな温度差が素晴らしいの一言です


196 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/29(水) 07:28:18 ID:Ls7nkdp80
おはようございますです。
ノープランながらも、なんとか書き進められてたり。
>>194氏のような方もいらして下さったので、
予定通り姫さまがちょっと引っ掻き回す感じで〜。

なんか、いざ逃げたはいいものの、他の連中が全然ピンときてなくて、
ヴァイスに同調してたので、私も書いてて困りましたw

197 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/29(水) 11:01:37 ID:xhoUmqZx0
いきなりヴァイスが焦りだした時はこっちも焦りましたね。
モシャス使えるならイオナズン使えてもおかしくないですね確かに。

198 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/29(水) 18:56:58 ID:Ls7nkdp80
やー、そりは嬉しいです^^

全然関係ないけど、紅茶買うの忘れた。。。orz

199 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/29(水) 19:39:17 ID:HCeA76iuO
ふくろへのツッこみはありですか?w

200 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/29(水) 20:44:09 ID:Ls7nkdp80
え?はい、なんでしょう。

201 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/29(水) 23:39:34 ID:xEQNRP0G0
ふくろの大きさ分しか物が詰め込めないとすると、量も袋の分量しか入れられないように読めるってことかしら?

ところで連投規制にひっかかるから続きが書き込まれてないのだと思って続きをずっと待ってたりした。
王女の活躍マダー?

202 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/30(木) 09:22:23 ID:kDF9XDVi0
>>201
私、ちょっと誤読してるかもしれませんが、量もそうです。
フクロより大きい物は入りませんし、小さい物でも詰められる分しか入れられません。
つまり、普通の袋と同じです。
口を開けた瞬間に、前回詰めた物が出現しますので。

各人が持ってる小さいフクロに、ゲームで言うと装備以外のキャラの持ち物が入っていて、
大きいフクロというのが、いわゆるゲーム内のフクロみたいな感じです。
まぁ、ゲームだと装備してない鎧や盾を、キャラに3つも4つも持たせりできる訳ですが、
当作では、そんなに大きい物を小さい方のフクロにいくつも詰めたりはできないです。
その辺りは、ひとつご容赦を(^^ゞ

あと、毎回何レス投下されるかというのは、名前欄をご覧いただくと分かるようになっています。
「CC 12-n/26」 ← 最初の12が第12話の意味。最後の26が、その回に投下される全レス数で、n が現在のレス数を表します。
例えば、名前欄が「13-5/20」だとした場合、そのレスは第13話の5レス目で、
全部で20レスなので、あと15レス投下される、という風に読み取れます。
よろしければ、お役立てくださいませ。

姫さまは、もうちょっと待って〜w

203 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/11/30(木) 15:32:24 ID:NdxzJf8pO
CC氏乙です。今回も面白かったです。

204 :CC ◆GxR634B49A :2006/11/30(木) 16:04:32 ID:kDF9XDVi0
わーいヽ(´∀`)ノ ありがとうございます

205 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/01(金) 02:32:59 ID:4tbCTDwH0
えーとつまり魔法使いさんに憎まれ口を叩かれるのを覚悟で解釈すると…

♪そーらをじゆうにとびたいな〜
 ふくろ「はい、キメラのつばさ〜」♪
こういう事ですか?分かりません><

206 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/01(金) 08:35:41 ID:iIhBFPA/0
ダークドレアムについて真剣に考えてみた。
新たなる伝説が始まりを告げた。

207 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/01(金) 11:20:58 ID:Cf30RmPPO
♪ともだちひゃくにんできるかな?♪


つルイーダの酒場

208 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/02(土) 02:12:25 ID:Aha67lHe0
ほす

209 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/02(土) 22:51:36 ID:umFt0+2xO
保守

210 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/02(土) 23:00:35 ID:EPTgMuRO0
じゃあ俺も保守

211 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/02(土) 23:08:28 ID:Aha67lHe0
それじゃあ俺も。
全然ぐちゃぐちゃかと思ってた下書きが、そこそこ書けてるっぽいので、思ったより早く投下できるかも保守

212 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/03(日) 14:10:10 ID:ykUwuf/KO
全裸で待機wktk

213 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/03(日) 23:57:44 ID:sBLrdJ0T0
ていうかドラクエ3の総合板最新無い?

214 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/04(月) 00:10:36 ID:469MbKX00
投下待ちの時にここでおk。…は駄目だよなw

215 :YANA 91-10:2006/12/04(月) 04:08:58 ID:0KI+UquS0

「すまなかったな、少年。こちらの都合で、苦労をかけたね。…いや全く、慣れない事はするものじゃないな」
「―――――――――」

 ゆっくりと、アルムへと歩み寄り。
 彼女は、緊張の糸が切れてへたり込む彼へと手を差し伸べる。

 余りの突飛な状況の変化に、少年たちも、魔物たちも、現実を受け入れられずに身動きできないでいる。
 ただ、アルムとその僧侶だけが、凍りついた広場の中で生きていた。

「あ…あの…」
「…君、少しじっとしていたまえ」
 呆然と、自分に差し出された手と僧侶の顔を交互に見比べるアルムを見て、彼女は眉を顰める。
 しゃがみ込み、す、と少年の右耳へと手をやる。
「…いつっ!」
「すぐ終わる。…後頭動脈、後耳介動脈共に軽傷。顔面神経が舌を出しそうだが…かろうじて免れている、か。
 驚いたな、素人技にしては上手くやっている。これなら…ホイミ」
 冷静に、アルムの耳の傷を見定め、呪文を唱える。
 直後、僧侶の手に青い光が煌き、止血と回復はすぐさま完了した。
「あ…あり、がとう、ございます」
「回復呪文は好かんのだがね。私側の勝手が元でついた傷だし、戦闘中だ、四の五の言っていられまい。
 …しかし、君も無茶をするね」
「あ…すみま、せん。ああしないと、体が震えちゃって」
「違う、耳のことじゃないよ」
 僧侶はふむ、と溜息をつき呆れた声を上げる。
 え、と短く動揺し、アルムは聞き返す。
「私だったからよかったものを。
 …命を捨ててあの魔物を足止めして私を逃がしても、その後城を落とされれば同じ事なのだよ?」
「あ…」
 アルムは自らの行為の向こう見ずに気づかされ、赤面する。
 僧侶は微笑み、そんな彼の頭を優しく撫でる。

216 :YANA 91-11:2006/12/04(月) 04:09:48 ID:0KI+UquS0
「だが、ありがとう。助けに来てくれて嬉しいよ。小規模だが、これで一応私の義理は果たされたからね。
 …と、自己紹介がまだだった。私はライナー。君の名は?」
 僧侶・ライナーは再び立ち上がり、手を差し伸べる。
 …暫し、アルムは彼女の姿に見惚れていたが、慌てて手をとり、名乗り返す。
「は、はいっ!アルム、ですっ!!宜しくお願いします!!」
「ふふ、こちらこそ。…さて」
 少年を起き上がらせ、ライナーは広場の対極へと視線を移す。

 …!!

 ライナーの目が、自分たちに向けられ、魔物たちは声にならないうめきを漏らし、慄く。
 傷ついた少年に向けていた、冷たくも優しい、小川のせせらぎの様な眼差し。
 そこから豹変し、今、彼女が放つ眼光の、絶望的なまでの冷気。
 物理的な干渉は一切なし。どう見ても、ただの人間。魔力も並、だが。

 彼女の視界に納められた刹那。彼らは己が心臓を鷲掴みにされたような錯覚に陥った。
 まるで―――そう。見たこともない彼女が。自分達の全てを知っているようで。

「――――――ライナー…。思い出したぞ…千本ナイフ≠ゥ…っ!!」

 と。凍りついた魔物の中、首魁の悪魔が口火を切って沈黙を破る。
 吐き捨てられた悪魔の言葉に、ライナーはほう、と感嘆する。
「これは驚いたな、見知らぬ悪魔よ。こんな世界にも、私のことが知れているのかい?」
「…情報収集のために、地上の人間の町に変化した魔物どもを極少だが散らしてある。
 てめえの噂は報告で聞いてるぜ。…全身に仕込んだ無数のナイフを操り魔物を狩る殺し屋…アレフガルドに何の用だ?」
 先ほどまで少年たちを嘲り笑っていた態度を一転させ、刃のような眼光でライナーと対峙する悪魔。
 現れた、予期せぬ敵≠ノ、本性を表す。
 だが、ライナーは僅かも臆さず平然と問答する。

217 :YANA 91-12:2006/12/04(月) 04:10:42 ID:0KI+UquS0
「何。友人の頼みでね。少し、こちらの世界に肩入れすることになったんだ」
「ほう、そいつはご苦労な話だな。その友人とやらがちと気になるが…ま、今はどうでもいい。
 ――――――遠くまで来てもらって早々なんだが。うざいんで死んでくれや」

 グアアアアアァァァァァッ!!

「ひあっ!」
 くい、と悪魔が再び指を曲げる。
 直後、未だ怯え座り込む少年たちを遠巻きに囲んでいた魔物たちの中から、三体のマントゴーアが大地を蹴る。
 有翼の獅子たちは輪から外れ、ライナー目掛けて全力で襲い掛かる。
「どうする!?今度は三体、しかも状態は万全だぜ!?ヒャハハハハッ!!」
「………」
 哄笑する悪魔など関係ないといわんばかりに、自分に突進してくる魔物たちを真っ直ぐに、無言で見据えるライナー。
 やがて、法衣の後ろに両手を回し、先ほどとは違う、片刃のナイフを抜き放つ。
(ライオンヘッドのデータをベースに、サンプル記録を新規構築。
 …皮膚圧、段階5から4へ修正。神経・動静脈の推定位置…修正完了。攻撃予測位置………)
 カチカチと思考を処理しながら、ナイフを逆手に握り体を沈める。
 迷うことなく、真っ直ぐに向かってくる魔物たちの肢体に、線≠見定め、両足を―――、


 ――――――ドサドサドサッ


「――――――っ?」
 悪魔は、思考を失い、顔を強張らせる。
 …或いは、アルムも、他の少年たちも。
 目の前で起きたソレが、余りにも現実離れした光景であったため。

 なぜなら。彼女が、三体の獅子の牙と爪をすり抜け、すれ違った瞬間。
 獅子たちは、一滴の血を流すこともなく$笆スし、石のタイルに崩れ落ちたのだから。

218 :YANA 91-13:2006/12/04(月) 04:11:45 ID:0KI+UquS0

「…しっ!」
「え…?」
 尚も、ライナーは止まらない。
 一度だけ、少年たちへと何事かの意思を込めた視線を投げかけ、運動を継続する。
 彼女は勢いを殺すことなく、そのままの速度で前方へ疾駆する。向かう先は―――、

 グ、グオ―――ッ!!!

「な…しまっ―――」
 それは、まるで回る舞踏のように。
 何の皮肉か、少年たちをぐるりと取り囲み、円を描く魔物の群れ。
 数にしてざっと30は下らない包囲網を、端から端まで順番に。
 背筋が凍るほど正確に。鳥肌が立つほど冷たく。放たれた矢の如き速度で。

 ナイフを魔物たちの体に走らせ、同じように。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す、殺す―――――――――!!

 悪魔が己が失策に気づいたときには、既に包囲網は手もなく崩壊していた。
「――――――走れっっ!!」
 少年たちを囲む全てを殺害し、ライナーは最後の亡骸を蹴り、地に降り立つ。
 姿勢を整え、正中線を成立させながら、少年たちに檄を飛ばす。
「…!!」
 それで、恐怖で凍った体に火をつけられたのか。
 彼らは弾ける様に橋に向かって一斉に走り出す。
「ちぃっ…!てめぇ…!!」
「あのまま君を追い詰めれば、彼らを人質として利用されそうだったのでね」
 歯噛みする悪魔に、ライナーは不敵に微笑みかける。
「どんな手品だ…ナイフ使いが、血も出さずに殺すだと!?」
「神経系の位置は、さきの一体で割り出し、修正した。…今度は即死だ。皆、痛みすら感じずに逝けただろうよ」
 ナイフを回し、かちんと音を立てて元の位置に収納する。

219 :YANA 91-14:2006/12/04(月) 04:13:09 ID:0KI+UquS0
「神経…?」
「種明かしが必要かい?…何のことはない。私は色々な魔物を解剖研究していてね。
 私にとって、君らの肉体に走る血管のミクロ単位の隙間にナイフを通し、神経を切り裂くことなど造作もない」
 …要領を、得ない。
 そんな手間を、どうして踏む必要があるのか。一撃で急所を貫けば済むものを。
「…君らは知らんだろうがね。神経というのは、微細な電気信号によって肉体と脳の疎通を行っている。
 四肢を動かすにも、肉体の痛みや快感を感じるにも神経の働きは不可欠だ。
 だから―――その、電気よりも早く標的の神経を潰せば、死に際の最後の足掻きをさえさせず、確実に…殺せるのだよ」
 訝しげに睨む悪魔に、ライナーは全くの無表情で、自分の攻撃の仕掛けを解き明かした。

「な、に…?」
 悪魔は、絶句する。
 淡々と語る彼女の言葉の意味を、その魔物随一の頭脳で理解して。

 彼女は云っているのだ。
 自分は――――――『雷より迅く動けるのだ』と…!

「は…!」
 いくら何でもはったりだ、と悪魔は苦々しく笑い飛ばし、己が思考を吹き飛ばす。
 いや、ライナーのやってのけた所業は事実、そうでもなければ説明がつかない。
 あの説明が完全にブラフということもないだろう。だが、少なくとも常にその速度で動けるはずがない。
 先の動きを見る限り…その速度まで加速するのは、攻撃の瞬間のみ。ならば、いくらでも戦いようはある…!
「悪かったな…ちっとてめぇを舐めてたことは、認めざるをえまい。今度は、波状攻撃でいくぜっ」
 パチパチンッ。両手の指で、それぞれに合図を送る。

 グオオオォォォォォッ!

 悪魔の後方のサラマンダーと、ラゴンヌ達が吼える。
 数にして、計十体。二種の魔物の混成部隊を、得体の知れぬ僧侶へと差向ける。

220 :YANA 91-15:2006/12/04(月) 04:25:33 ID:0KI+UquS0

「…君達」
 右手の手袋の淵を口で引っ張り、深く嵌め直しながら、ライナーは橋の入り口へと僅かに首を向ける。
 再び集合した少年たちは、突如として現れた異国の僧侶の言葉に耳を傾ける。
「そこを動くな。君ら全員を、戦いながら守ってやれる自信はない」
 有無を言わせぬ威圧感が込められた、命令。
 お前たちは足手まといだ、と。先ほどアルムに見せた優しさは彼方へと消え去り。
 その言葉は、彼女には本当に余裕がないということを、雄弁に物語った。
「………」
 己が言葉に彼らが飲まれたと判断し、ライナーは無言で首を正面に戻す。
 そして、自分目掛けて襲い来る魔物の群れと対峙する。数にして、凡そ八十体。
 …おそらくは、ライナーがかつて体験したことのない、圧倒的彼我戦力差。
 だが、それを前にして尚、ライナーは不退転の決意で、両手でナイフを抜き放つ。

 ――――――その心で、友≠ノ詫びながら。
 
 …ゴドー、すまないな。私には、コレが限界だ。
 今までずっと、一人で…学び、癒し、殺し、生きてきた私には。
 あとは、まぁ…少しばかり数が多いが。いつも通りにやって、全力で生き残るだけだ。何しろ―――、

(―――君という人間を。何も知らない学者たちに得意げに語らせるわけにはいかないからな―――!!)

 そうして。彼女は、たった一人で小さな戦場へと走り出した。


221 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/04(月) 09:39:14 ID:+tV5ZuNJO
ライナーかっちょえええ!

222 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/04(月) 22:23:33 ID:BU0nMieB0
YANA氏GJ
もう目がはなせん!!

223 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/05(火) 19:58:17 ID:0fYkF4tV0


224 :CC 13-1/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:26:34 ID:udL34slw0
13. Kiss

 ようやく外が、少し暗くなってきた。
 俺は頭の下で手を組んでベッドに寝転がり、この奇妙な部屋の様子をぼんやりと眺めている。
 隅から隅まで、全てが木で出来ていた。
 それも、切り出した板を組んだり打ち付けたりして造られているのではない。釘の一本も使っていないどころか、おそらく鋸の刃すら入っていないだろう。
 大樹が自ら形を変えて、部屋を形成しているような――俺は、この屋敷の外観を思い出す。ちょっと信じ難いが、屋敷自体が樹木が寄り集まり絡み合って構成されているのだ。
 いや、家屋や部屋のみならず、家具もその殆どが加工品ではない。
 視界の端に見える物入れは木のウロだし、服をかけるフックは壁から直接生えた小振りの枝だ。
 ベッドには白いふかふかの綿みたいな物が敷き詰められているが、よく見ると上から被せてあるのではなく、土台から直接生えているのだ。何らかの植物なんだろう。
 窓には硝子など嵌め込まれておらず、いつの間にか頭を垂れつつある枝葉がその代わりを果たしている。
 正直、すげぇ。なんだか、おとぎ話の世界に入り込んじまったみたいだ。
 こんな場所が実在するとは、世界ってのは想像以上に広いらしい。
「ヴァイス、おるか?」
 扉代わりに、密集してスダレのように垂れ下がっている植物の蔓を掻き分けながら、エルフの姫様が部屋に入ってきた。
 うん、そういう台詞を吐いたら、とりあえず返事を待とうな。万が一、俺が部屋の中でヘンな事してたら、お互いに気まずいだろ?
 仮にもお姫様を寝たまま迎え入れるのもなんなので、身を起こしてベッドの端に腰掛けると、エミリーはトコトコ歩み寄ってきて、俺の脚の間にちょこんと座った。
「……さっきは、すまぬ。お母様が、あれほど怒るとは思わなかったのじゃ」
 しょんぼりと俯いて、謝罪の言葉を口にする。
「いや、エミリーのせいじゃねぇよ。人間を入れちゃいけないってのは、掟なんだろ。仕方ねぇさ。それに、エミリーは俺達のこと、ずいぶん庇ってくれたじゃねぇか」
「……そう言ってもらえると、すこし心が軽くなる」
 里へ来るまでの元気はどこへやら、かなり意気消沈している様子だった。

225 :CC 13-2/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:31:23 ID:udL34slw0
「エルフが……恩知らずの種族だなどと、思わないで欲しいのじゃ。お母様も、わらわを救ってくれたことには、感謝してる筈なのじゃ」
「ああ、分かってるよ。だから、俺達の滞在を許してくれたんだろ。掟に従えば、放り出されても文句言えないのにな」
 顎を上に向けて、下から俺を見上げていたエミリーは、胸の辺りで頭をすりすりした。
「……うむ。薬湯には、ちゃんと浸かったようじゃな。だいぶマシになったぞ」
 部屋に案内されてすぐに、風呂に入っておけと命じられたのだ。ついでに服も、旅装からもっと楽な格好に着替えている。
 エミリーは、細い背中を俺の胸にあずけた。
「……なでなでするがよい」
「は?」
「だから、わらわの頭をなでなでするがよいと言っておる」
 ああ、はいはい。
 顔のすぐ下にあるエミリーのさらさらの銀髪を、ゆっくりと撫でる。
 って、なんかおかしくねぇか?
 しょげてるのは分かるけどさ、なんで謝りに来た相手に慰めさせてんだ、この姫さんは。
「……なにを笑っておる」
「いや、別に?」
「嘘を申せ。今のは、人を小馬鹿にした笑い方じゃ。わらわをバカにすると、しょうちせぬぞ」
「はいはい」
「……また、笑いおったな」
 だって、こんな子供みたいなのに、口振りだけ偉そうなんだもんよ。
「いや、あのな。無理してそんな喋り方しなくてもいいんだぞ。子供は、もっと子供らしく喋れよ――いって!!」
 このガキ、俺の腿をツネりやがった。力が弱いから、実際はあんま痛くなかったが。
「バカにするでない!!お主の祖父母よりも、よっぽど長く生きておるわ!!」
「そうだろうけどさ。長く生きただけの子供にしか見えないっつーか」
「ぬかしおったな!!」
 エミリーは両手を振り上げて、肩越しに俺の顔をぺちぺち叩く。
「――分かった。悪かったよ。俺が悪かったから、止めろって」
 目の辺りを掌で庇いながら、俺は慌てて謝った。
「フン、分かればよいのじゃ――手が止まっておるぞ。ちゃんとなでなでするのじゃ」
「はいはい、仰せのままに。お姫様」
 やれやれ。なんだかまったりしちまうが――俺達を快く受け入れてくれてるのは、この姫さんだけなんだよな。
 俺は、エミリーの頭を撫でながら、里に足を踏み入れた時のことを思い起こした。

226 :CC 13-3/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:35:42 ID:udL34slw0
「ひぃっ!!人間だわ!!攫われてしまうわ!!」
 俺達を見るなり、そのエルフは真っ青な顔をして里の奥へとすっ飛んでいった。
 エルフの隠れ里に入って、すぐのことだ。
 最初に出くわしたエルフの言動に、俺達はちょっと呆然とする。まるきり魔物扱いじゃねぇか、これじゃ。
「なによ、アレ。エルフって、みんなあんなに失礼なの?」
 マグナの嫌味に、エミリーは唇を尖らせる。
「無礼なことを申すな!エルフがあのように怯えるのは、お主ら人間の――しょぎょうが原因なのじゃぞ!?」
「所業?あたし達、何もしてないじゃない」
「お主らがなにもしておらずとも、他の人間が我らエルフにヒドいことをしたのじゃ!!」
「ヒドいことって、どんな?」
「それは……沢山さらったりしたのじゃ!!ヒドいのじゃぞ!?首輪をつけられて、引き摺られるように連れていかれたそうなのじゃ!!……さらわれた者は、二度と戻って来なかったと聞いておる」
 確かに、そういうことをする人間はいそうだな。エルフなんてすげぇ珍しいから、人買い辺りに高値で売り買いされそうだ。胸糞悪い話だが。
「聞いておるって――それ、いつの話よ」
「……よく知らぬが、百年とかそれくらい前じゃ。それでお母様は、人間とのせっしょくを禁じるようになったのじゃ」
 マグナは苦笑を浮かべた。
「それは人間が悪いとは思うけど、そんな昔のことをあたし達に言われてもねぇ」
「昔ではないのじゃ!たかが百年前など、我らにとってはつい最近の出来事じゃぞ!?」
「ってことは、もしかして姫様も百歳以上なの?」
「わ、わらわは……まだ百年は生きておらぬ。もうちょっとじゃ」
「でも、百歳近いんだ。姫様ってば、案外お婆ちゃんだったのね。そんなに小さいのに」
「お、おば……っ!?この無礼者め!!それに、わらわは小さくなどないのじゃ!!」
「小さいじゃない。明らかに」
「まだ申すかっ!!」
 未だにお姫様抱っこをしている俺の腕の中で、エミリーはムキーッとなってジタバタ暴れた。
「まぁ、その辺にしとけよ。大人げねぇぞ」
 この場合、マグナに対して大人気ないと注意するのは的確なんだろうか。

227 :CC 13-4/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:39:16 ID:udL34slw0
 マグナは俺を睨んで噛み付きかけたが、ついと視線を逸らした。
「なによ……悪かったわね」
 やれやれ。里に入る前といい、やけに姫さんに突っかかるな、こいつ。
 それはともかく、俺達をまるで魔物扱いしてみせるのは、最初に出会ったエルフだけではなかった。
 エミリーの道案内に従って、里の奥に歩を進めると、そこらに居たエルフ達が全員、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑い、先を争って姿を隠してしまう。
「なんなのよっ!?あたし達が、そんなに凶暴に見えるのっ!?」
 大変ご立腹のマグナさんは、凶暴に見えないこともない。
「なんだか……ちょっと淋しいですね」
 里を訪れるのを楽しみにしていたシェラは、この現実を目の当たりにして、すっかりしょげてしまっていた。
「それにしてもエルフって、ホントに皆、すっごい綺麗だね」
 ひとりで能天気なことを言っているのは、リィナだ。
 まぁなぁ。見る顔見る顔、男も女もどれも美形揃いだけどさ。
「べ、別に大したことないじゃない」
 小声でぶつくさ漏らしたマグナに、今回は賛成かな。
 いくら美形とは言え、こう立て続けに目にすると、さすがに食傷気味だ。
 ありがたみがないっつーか、どいつもこいつも同じ顔に見えるっつーか。見てくれ程の魅力は感じねぇなぁ。ひょろっとしてて、肉付きも悪いしさ。
 なんだか姫さんとは、ずいぶん印象が違って見える。同じように肉付きは悪くても、エミリーは他のエルフよりも全然――なんて言うんだろ。生命力に満ちているというか、個性が感じられるというか。
 他のエルフが植物みたいな存在感だとすると、エミリーには動物的な存在感がある。よく分かんねぇけど。
 そんな変り者の姫さんによれば、里でもっとも物知りなのは、母親であるエルフの女王だということだ。
 こんな調子じゃ、他のエルフに話を聞くのはとても無理そうだし、姫さん自身はあまり物を知っているとも思えないので、俺達はエルフの女王の住居である、大樹が何本も絡まり合って出来た奇妙な屋敷に向かった。

228 :CC 13-5/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:44:08 ID:udL34slw0
「その者達は、なんですか。エミリー」
 屋敷の造りのあまりの物珍しさに、周囲をきょろきょろ見回していた俺達の視線を、一瞬にして奪い集めるほど、恐ろしく冷たい声だった。
「誰が人間を里に入れてよいと言いましたか」
 植物の蔓で編まれたとは思えない立派な椅子に腰掛けた美女が、再び冷淡な声を部屋の奥から発した。
「うわっ、すご」
「……ああ、すげぇな」
 思わず口走ったリィナにつられて、俺も呟く。
 エルフの女王は、とんでもない美人だった。
 こんな直截的な表現、普段はあんま使わないんだが――美しいという言葉しか思い浮かばない。
 嘘みたいに整った顔立ちを、光の加減で緑に見える不思議な色合いの長髪が縁取っている。外見的な年齢は、二十代の後半くらいだろうか。
 冷たい眼差しと表情のせいか、どちらかと言うと印象は表で見かけたエルフ達に近いが、ここまで美しければ充分に魅力的だ。特に、花を思わせるデザインのドレスの裾から覗く、すらりと長い組まれた脚とかな。
 将来は、こんな風に育つのかも知れない姫さんが、慌てて言い訳をする。
「違うんです、お母様。この者達は――」
「いいえ、違いません。その者達は、里に足を踏み入れることを禁じられた、野蛮で卑劣な人間です」
 どうにも嫌われたモンだね。
 とりつく島もないエルフの女王に、エミリーは懸命に食い下がる。
「ちゃんと話を聞いてください、お母様。この者達は――」
「お黙りなさい。人間が近くを訪れる度に、あなたが密かに里を抜け出していたのは知っています。何故、そのような恐ろしいことをするのです。それほどあなたの母を、今よりもさらに悲しませたいのですか」
「そんな……ごめんなさい、お母様。でも、この者達は、他の人間に捕まったわらわを――」
「ご覧なさい。人間など、我らエルフを騙し、奪い、捕らえ、攫うことしか考えていないのです。おお、恐ろしい。その人間達の姿を見ているだけで、震えがきます。この上、あなたまで奪われてしまったら、母はもう生きてはいられません」
「ごめんなさい――ごめんなさい、お母様。でも、違うのです。この者達は、捕まったわらわを助けてくれたのです!!」
 エルフの女王は、深く溜息を吐いた。

229 :CC 13-6/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:48:08 ID:udL34slw0
「いいですか、エミリー。もしそうであったとしても、それは人間同士で、あなたを奪い合ったに過ぎないのです」
「そんな、お母様――」
「お黙りなさい。人間の狡賢さは、あなたよりも余程よく知っています。狡知に長けた人間であれば、あなたに取り入って里に忍び込む為に、よい顔をしてみせるくらい造作も無いのですよ。
 助けられた程度で、そのように簡単に信用してはなりません。あなたは、騙されているのです」
 女王は厳しくも慈しむような複雑な瞳でエミリーを見つめてから、俺達には氷のような眼差しを向けた。
「この子が何と言ったか知りませんが、ここは人間が訪れてよい場所ではありません。どうぞ、今すぐお引取りを」
「……さっきから、黙って聞いてれば、なんなのよ――」
 あ、やべぇ。マグナさん、相当ご機嫌斜めのご様子で。
「狡賢いとか野蛮だとか、どれだけ人間が嫌いだか知らないけどねぇ、あたし達が何したっていうのよ!?なんなのよ、初対面でその言い草は!?あたし達だって、別に来たくて来たんじゃないんだからね、こんなトコ!!」
 落ち着け。俺達は、来たくてわざわざここまで来たんだよ。
 エルフの女王は、嫌悪感丸出しに眉を顰めた。
「大きな声を出すのはおよしなさい。野蛮な」
 マグナの顔が、はっきりと分かるくらい、ひくりと引きつった。
「いいわ、すぐ出てってあげるわよ!!こっちの質問に答えてくれたら、今すぐにでもね!!」
「人間と話すことなどありません」
 エルフの女王の返答は、あくまでもひややかで、そして身も蓋も無かった。
「……親子揃って、なんて憎ったらしいの!?」
 どうどう。
 落ち着けって、マグナ。そんな喧嘩腰じゃ、話になんねぇよ。
 うううとか唸り声をあげるマグナの肩を押さえて、俺は女王の氷の視線と相対した。
 ……さて、どうしよう。
「え〜と、ですね。信じてもらえないかも知れませんが、俺達は別にエルフを攫うつもりも、騙すつもりも無くてですね、ちょっと教えて欲しいことがあって来ただけなんですが」
「先ほど申しました。人間と話すことなどありません」
 だからマグナ、落ち着けっての。
 俺はマグナの口を手で塞ぎながら続ける。

230 :CC 13-7/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:50:14 ID:udL34slw0
「そうおっしゃる気持ちは、分かりますよ。小耳に挟んだ程度ですけど、人間は恨まれて仕方の無いことをエルフに対してしたみたいですから。俺達は、別に人間代表でもなんでもないけど、そのことについては謝ります」
 試しに、下手に出てみました。
「けど俺達は、狼藉を働いた張本人って訳じゃない。それは女王様にも、分かってもらえると思うんですが」
 返事が無い。ただの――ただの、何だ。
「それにね、さっき姫さん――姫様のおっしゃったことは、いちおう本当の事でしてね。他の人間に捕らえられてた姫様を、偶然とはいえお助けさせていただきまして」
 なんか、我ながら胡散臭い口振りだ。慣れない喋り方するモンじゃねぇな。
 ロランだったら、もっと上手いこと言い包めちまうんだろうな。ふとそんなことを考えて、気分が悪くなる。
「それでまぁ、恩をきせるつもりはないんですけど、お話くらい伺わせてもらってもいいんじゃないかと思うんですが、いかがなもんでしょう」
「ですから、人間と話すことなどありません」
 ああ、そうですか。全く説得の効果ナシですか。
 喋ってて、そうじゃないかと思いましたよ、俺も。
「お母様!!」
 援護してくれるつもりか、エミリーが再び口を開く。
「助けてくれた礼もできぬとあっては――この者達の頼みも聞けぬとあっては、エルフの名誉に傷がつきます!!」
「我らの名誉は、あなたが決めることではありません」
「そうですけど、でも……」
 なんとも難攻不落だね、こりゃ。
「母が何も分かっていないと思っているのですか、エミリー」
「はい?」
「名誉だなどと、小賢しい理屈を持ち出すのではありません。あなたはただ、人間に興味を惹かれているだけなのです。あなたの愚かな姉と同じように――恐ろしい。どうして、よりにもよって、王女であるあなた達が――」
「姉上が、愚かだったとは思いません!!」
 激しく遮って、エミリーは強い視線を女王に向けた。

231 :CC 13-8/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:52:22 ID:udL34slw0
 女王は、悲しげにエミリーを見つめ返す。
「……どれほど母が嘆き悲しもうとも、あなたは何も感じないと言うのですね」
「そんな……そんなこと――」
「分かりました。あなたの好きになさい。母はもう知りません。わずかな間だけ、その者達の滞在を許しましょう。その間に気の済むように、あなたの言う礼をするといいでしょう。
 もちろん、あなたが独りで世話をするのですよ。里の者に迷惑が及ぶようであれば、すぐに出ていってもらいます……人間がいかに野蛮で愚かしいか、卑劣で強欲か、その身を以って思い知らなければ、あなたには分からないようです」
 いてぇっ!!
 口を塞いでいた指をマグナに噛まれて、思わず離しちまった。血は出てないが、姫さんみたいなことするんじゃねぇよ。
「ちょっと、なに勝手に話を進めてんのよっ!?あたし達は、別にこんなトコ居たくないんだからね!?なんなのよ、悪口ばっかり言って……いいから、こっちの質問に答えなさいよっ!!聞きたいこと聞いたら、さっさと出て行くって言ってるでしょ!?」
「バカ、落ち着けよ――」
「なによ、あんたも、さっきから!!あっちの肩ばっかり持って!!」
 何言ってんだ、こいつは。
「違うって。しばらく泊めてもらえれば、姫さん経由で話を聞くって手もあるだろ?」
 耳打ちすると、物凄い目つきで睨まれた。そんな怒んなよ。
 俺は、マグナ越しにエミリーを覗き見る。
「そんじゃ、エミリー。とりあえず、泊めてもらうってことで」
「分かった……すまぬ」
 エミリーは、申し訳無さそうに呟いた。
「それでは、お母様。わらわが全て面倒を見ますから、この者達の滞在をお許しいただけますか」
「母は知りません。勝手になさい」
 これ以上、話すことは無いとばかりに、女王は冷たく言い捨てる。
 唇を噛みながら、エミリーはぺこりとお辞儀をすると、俺達を促して部屋を出た。

232 :CC 13-9/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:54:56 ID:udL34slw0
 そんな感じで、女王との会見はすっかり物別れに終わったのだった。
 その後、エミリーは俺をこの部屋に案内すると、他の連中を別の部屋に連れて行った。
 で、しばらく経ってから戻ってきて、こうして俺と一緒にベッドの縁に腰掛けている。
「ところで、お母様に聞きたい事というのは、一体なんだったのじゃ?」
 俺に髪を撫でられながら、エミリーが尋ねた。
「ん〜?いや、二つあるんだけどな」
「うむ」
「ひとつは、『生まれ変わりの神殿』ってのについて、何か知らないかと思ってね」
「生まれ変わり……なんじゃ、それは?わらわは、聞いたことがないぞ」
 うん。姫さんには期待してなかったから、別に構わねぇよ。
「それから、もうひとつは、ノアニールの村の呪いを解く方法だ」
 こちらは知っていたようで、エミリーは「ああ、そのことか」と呟いた。
「なんか知ってるのか?」
「知っておる、というか、里を訪れた老人に聞いた。その時も、わらわが勝手に里に招き入れたから、お母様にすごく怒られたのじゃ」
 拗ねたように言って、床から浮いた両足を互い違いにぶらぶらさせる。
「おいおい。そんなしょっちゅう掟破りをしてたら、そりゃお母様も怒るだろ」
「でも、死にそうだったのじゃ!必死に逃げ回っておったようじゃが、あちこち魔物にやられていてな。わらわが見つけた時には、もう虫の息だったのじゃ。放っておけぬじゃろ」
 爺さん、ひとりで来てたのかよ。そりゃ無茶だわ。ここまで辿り着いたのが奇跡だぜ。
「怪我が治るまで、わらわが独りで看病したのじゃぞ。偉いじゃろ。誉めるがよい」
「あー、偉い偉い」
「なんじゃ、その誉め方は!わらわをバカにするなと申したであろ!」
「ごめんごめん。で、爺さんは結局、呪いを解く方法は聞けなかったんだな?」
 聞けてたら、村はとっくに元通りになってる筈だもんな。
「いや、お母様は知らぬとおっしゃっていたぞ」
「へ?」
「最初はお母様は、さっきみたいに老人の話を聞こうともしなかったのじゃ。でも、老人があまりにしつこくてな。少しだけ話をされたのじゃ。じゃが、お母様は呪いのことなど知らぬとおっしゃっていたぞ」
 どういうことだ?あの呪いは、エルフの女王がかけたんじゃないのかよ。

233 :CC 13-10/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:56:49 ID:udL34slw0
「その話は、本当なのか?」
「お母様が、嘘をついておるというのか!?」
「いや、そういう訳じゃないけどさ……ほら、ずいぶん人間を嫌ってたみたいだし」
「……わらわには、分からぬ」
 お母様が嘘を吐いているとは考えたくないが、人間には本当の事を喋らないかも知れない。そう思ったのか、エミリーは俯いて、沈んだ声を出した。
 頭の両脇から斜めに伸びたエミリーの長い耳が、半ば辺りでへたりと垂れる。
 どうやら、感情によって立ったり垂れたりするみたいだな。なんか、動物っぽくて面白いぞ。
「にゃっ!?」
 ちょんちょんと耳の裏を突付くと、エミリーは変な声をあげて、耳を押さえてこちらを振り向いた。
「い、いきなり何をするっ!?無礼者!!ここは、触っちゃダメなのじゃ!!」
 ほんのり頬が上気している。へぇ、ずいぶん敏感なんだな。
「悪い悪い。そんなに感じ易いとは思わなくてさ」
「ヘ、ヘンな事を申すな!!」
「いや、変な意味じゃなくて」
「……とにかく、もう触るでない!!今度気安く触ったら、しょうちせぬぞ!!」
 そう言われると、触りたくなるな。いや、触んねぇけどさ。
「まったく、信じられぬ事をするヤツじゃ」
 ぶつくさこぼしながら、エミリーは捻っていた上体を戻して前に向き直った。
「余計なことをするでない。お主は大人しく、なでなでしておればよいのじゃ」
 はいはい。
 言いつけ通りに頭を撫でていると、俺が突付いた耳がムズムズするのか、ぴょこぴょこと跳ね動く。
 うわ、触りてぇ。
「ふにゃあぁっ!?」
 あ、やべ、触っちまった。まぁ、どうせ文句を言われるんなら、もうちょっと。
 両耳を後ろから優しく撫でると、エミリーは妙になまめかしい悲鳴をあげながら、腰を折って逃れようとする。
「よ……よさぬか……っ!!イヤッ……ダメ……じゃっ……」
 だが、思うように力が入らないらしい。
 マズい、面白い。
 子猫の顎の下を撫でてるみたいな気分だ。止めようと思ってるんだが、なんだか手が止まらない。

234 :CC 13-11/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 03:58:49 ID:udL34slw0
 耳の色んな場所を指でくすぐってやると、エミリーはさらに身悶えて嬌声をあげる。
「ふあっ……やめ……っ……くぅっ!!」
 エミリーは倒れるようにベッドから床に体を投げ出した。
 四つん這いのまま俺から身を離して、ぺたんとへたり込む。
「なっ……なんてことするのじゃっ!!触るなと申したであろ!!お主、耳がついておらぬのかっ!!」
「いや、違う違う。頭を撫でてたら、たまたま触っちゃったんだって」
「嘘を申せっ!!まったく、なんてやらしいヤツなのじゃっ!!」
 エルフにとって耳を触るのは、そんなにイヤラシイことなのか?
「ごめんごめん。でも、頭を撫でるより気持ち良さそうだったら、いいのかと思ってさ」
「気持ちよくても、なんかヘンな感じがするからダメなのじゃっ!!」
「分かった、悪かったよ。もう絶対触らないって」
 まったくもって今さらだが、あんまり姫さんの機嫌を損ねるのは得策じゃない。
 おいでおいでをすると、エミリーは警戒心の強い猫みたいに俺の目の前をうろうろ往復してから、ぽすっとベッドの縁に腰掛けて、乱暴に俺に背中を押し付けた。
「今度やったら、許さぬぞ。拷問じゃ」
「そいつは怖いな。心しておくよ」
 せいぜい機嫌を取ろうとして、俺は姫様の頭を丁寧に撫でる。それにしても、ホントに綺麗な髪してやがんな。
 え〜と、何の話をしてたんだっけ。ああ、そうだ――
「それでさ、できれば呪いを解く方法を、もう一回エミリーからお母様に聞いてみてくんねぇかな。神殿の話と一緒にさ」
「……それは、難しいと思うぞ」
 また足をぶらぶらさせながら、エミリーは言った。
「わらわが急にそんな事を尋ねたら、お主らに頼まれたのだとすぐにバレてしまうのじゃ。あんなに怒ってるお母様が、ちゃんと答えてくださるとは思えぬ」
 まぁ、そうかもな。
「じゃあ他に、誰か知ってそうな物知り博士とか居ないのか?」
「お母様が、一番の物知りじゃと言ったであろ。それに、そんな者が居ったとしても、きっと同じことなのじゃ。誰も人間に協力しようとはせぬじゃろ」
「まぁ、そんな感じだよな――やれやれ。なんとか、ウマく話を聞き出せないモンかね」
 このままだと、八方塞がりだ。

235 :CC 13-12/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:02:51 ID:udL34slw0
「……方法がないことも無いぞ」
 エミリーは、足をぶらぶらさせるのを止めて呟いた。
「姉上を連れ戻すことができれば、さすがのお母様も、お主らの言葉に耳をお貸しくださると思うのじゃ」
「姉上って、例の人間と駆け落ちしたっていう王女様のことか?」
「そうじゃ。姉上の事があってから、お母様は人間がもっとお嫌いになられたのじゃ。姉上が里を抜け出す時に、エルフの秘宝を持ち出したのでな。人間の男が姉上を騙して、秘宝を盗ませたに違いないとお考えなのじゃ」
「エルフの秘宝ねぇ」
「うむ。『夢見るルビー』と言うのじゃが、ただの宝石ではないぞ。わらわは良く知らぬが、何か不思議な力が隠されてるという話じゃ」
 エルフ秘蔵の不思議な宝石ってんじゃ、確かに金になりそうだ。人間が「卑劣で強欲」と決め付けているあの女王様なら、騙して盗ませたと考えて仕方ねぇかもな。
「じゃが、わらわには、姉上が騙されていたとは思えぬのじゃ。姉上は、わらわにだけは、その人間の男のことを色々と話して下さったのじゃが、それは幸せそうなご様子でな。きっと、とても好き合っていたに違いないのじゃ」
「だったら、まぁ俺達の事情は置いといてだな……姉上は連れ戻さない方がいいんじゃねぇのか。戻ってきたら、また女王様に引き離されちまうだろ」
「そうかも知れぬが……お母様も、姉上がどこかに行ってしまうよりは、里でその人間の男と一緒に暮らしてくれた方がいいとお考えだと思うのじゃ。わらわも、それをお許し下さるように、一生懸命お願いするつもりじゃ」
 あの氷の女王様が、素直に聞き入れてくれるとは、あんまり思えねぇけどな。
「なら、連れ戻すのはいいとしてもさ。どこに居るのか分かんねぇだろ?」
「心当たりならあるぞ。しばらく南の洞窟に身を隠すつもりじゃと、里を出て行く前に、姉上がこっそり教えてくれたのじゃ」
「ああ、あの洞窟か。でも、俺達も少し中まで入ったけど、魔物が棲みついてたぜ」
「あれは不思議な洞窟でな。奥に魔物が近寄れぬ聖なる場所があるのじゃ。何年も前の話じゃから、姉上が今もそこに居るとは思わぬが、何か手がかりくらい残されておるのではないか?」
 どうだろうなぁ。どっちかと言うと、最悪の事態にお目にかかる可能性の方が高そうに思えるが。まぁでも、それも手がかりっちゃ手がかりか。

236 :CC 13-13/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:07:53 ID:udL34slw0
「……姉上が戻ってきてくれたら、わらわも嬉しいのじゃ」
 足をぶらぶらさせるのを再開して、エミリーがポツリと漏らした。
「お姉ちゃん、好きなんだな」
「もちろんじゃ。当たり前であろ」
 ぶらぶら揺れる自分の爪先に視線を落としながら、エミリーは続ける。
「わらわは、姉上の気持ちがちょっとだけ分かる気がするのじゃ。この里は、つまらぬ。変わったことなど、何ひとつ起きぬ。皆、まったく同じ毎日を繰り返すことに、何の疑問も抱いておらぬのじゃ」
 また、耳がたらんと垂れはじめた。
「この里では、昨日も今日も明日も、どれも全く代わり映えがないのじゃ。それをつまらぬと感じるのは、わらわがまだ子供じゃからと皆は言う。大きくなれば、そんな風に思わなくなると諭されるのじゃが、でも、つまらぬものはつまらぬのじゃ!!」
 今振り返ると、やたら時間がゆっくり流れていた気がする実家の風景を、俺は思い出す。
 まぁ、俺は人間だから、エミリーの気持ちも分かるけどさ。
 何の波風も立たない平穏な日常を受け入れられなければ、永遠にも等しい寿命を生きるなんて芸当は出来っこない気もするぜ。
 やっぱり、この姫さんは、エルフの中では相当な変り種と見た。
「姉上が人間に興味を持ったのも、同じような気持ちだったからだと思うのじゃ。人間の男は、エルフの男とは全然違う、と姉上はよく口にしておった。毎日色んなことが起こって楽しいと聞かされて、わらわはずいぶん姉上を羨ましく思ったものじゃ」
 ははぁ、それでか。なにかと俺にまとわりついてんのは。
「それに、姉上が人間の男に感じていた『好き』という気持ちは、わらわが知ってるのとは、ちょっと違っていたようなのじゃ。よく分からぬが、心臓が苦しくなるくらいドキドキするのじゃそうでな――わらわも、それを知りたいと思ったのじゃ」
「だから姫さんは、近くに人間が来たら、つい覗きに行っちまうんだな」
「……そうなのじゃ」
「でも、これからはあんまり無茶しない方がいいぞ。今回はたまたま俺達が近くにいたからよかったけどさ、いつかその内、ホントに捕まって売り飛ばされちまうぞ」
「分かっておる。これでも、わらわも反省しておるのじゃ」
 しおしおと耳を垂らせて、エミリーはしょんぼりとうな垂れてしまった。

237 :CC 13-14/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:13:20 ID:udL34slw0
 ちょっと元気付けてやろうとして、俺は軽口を叩いてみせる。
「で、こうして実際に人間の男と接してみて、どうよ?お姉ちゃんみたいに、惚れちゃいそうか?」
「さっぱりじゃな。こうして身を寄せておっても、姉上の気持ちはまだ全然分からぬのじゃ」
 ああ、そうですか。
「じゃが、エルフの男と違うのは分かるぞ。あやつらは、お主みたいにわらわにヘンな事せぬからな」
 耳を触るのは、そんなにヘンな事なのか――そういや人間同士でも、あんまり普通の事でもないかな。
「悪かったよ――でも、もうちょっとこう、なんか良いトコはないですかね」
「ふむ……そうじゃな。お主のなでなでは、割りと好きじゃぞ。なかなか筋がよい――人が誉めておるのに、なに笑っておるのじゃ」
「いや、そんな誉められ方されたの、生まれて初めてだからさ」
 エミリーは頭を撫でていた俺の手を掴むと、顔の手前に運んだ。
「ゴツい手じゃな」
「そんなこと言われたのも、初めてだな。人間にしちゃ、全然ゴツくないんだぜ。こんなヒョロい手」
「そうなのか。エルフの手は、もっと細くて美しいぞ」
 不恰好で悪うござんしたね。
 エミリーは両手で掴んだ俺の手を、赤ん坊みたいにスベスベした自分の頬に当てた。姫さんなりに、姉貴の気持ちを理解しようと努力しているらしい。
「お主の顔もそうじゃが、多少はブサイクの方が、かえって飽きがこなくてよいのかも知れぬな」
「……それは、誉めてるのか?」
「そのつもりじゃぞ。この里では、お主くらいブサイクの方が、逆に人目を引くと思うのじゃ。皆が綺麗なだけでは、あまり面白くないというのが、お主を見ておるとよく分かる」
 全然、誉められてる気がしませんが。
「……なんじゃ、怒ったのか?」
 エミリーは顔を上向けて、頭を撫でる手を止めた俺を見上げた。
「いや、別に?」
 どっかの誰かじゃあるまいし、子供の言うことに、いちいちカチンとくる程大人気なくないですよ?
「すまぬな。わらわは思ったことをすぐ口に出し過ぎると、よく注意されるのじゃ。これでも、気をつけてるつもりなのじゃが」
 素直に謝罪を口にする。
 ああ、そうか――
 エミリーは上を向いたまま、細くて小さい指で俺の唇に触れた。

238 :CC 13-15/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:17:17 ID:udL34slw0
「姉上に聞いたことがあるのじゃが、人間は好きな者同士で唇を合わせる習性があるそうじゃな」
「ああ、キスのことか?いや、習性ってんじゃないけどな」
「では、なんなのじゃ?何故そんなことをするのじゃ?」
 そいつは随分とまた――根源的な質問だな。
「そりゃ……なんでとか、そういう事じゃなくてだな……つまり、したいからするんだよ」
 我ながら、説明になってねぇ。エミリーも、「よく分からぬ」とぼやいた。
「エルフは、キスしたりしねぇのか?」
「そんな下品な習性は、我らにはないぞ」
 へぇ、そうなのか。アホみたいに長生きってのが関係してんのかね。子供を作って次代に子孫を残す必要がほとんど無い訳で、性に関しては恐ろしく淡白なのかも知れない。
 話を聞いてると、森に囲まれて毎日のんびり暮らせれば、それで満足みたいな印象を受けるし、いわゆる色事に対しても、人間に比べてまるで無頓着なのかもな。
「下品とか言いつつ、ジツは興味あるんじゃねぇの?」
「うむ。あるのじゃ」
 からかうつもりで言ったのだが、あっさりと頷かれた。
「すごくドキドキすると、姉上が言ってたのじゃ。それでわらわも、姉上にしてもらおうと思ったのじゃが、普通は女同士でするものではないと断わられてな」
「まぁ、そうかな」
 しかも、姉妹だしな。
「でも、この里には他にしてくれる者も居らぬし、ずっとどんなものかと想像してたのじゃ。だから、ヴァイス。わらわに、そのキスとやらをするがよいぞ」
「へ?」
 それは、まだ早いんじゃ――いや、見た目が十二、三歳でも、ホントはもう百歳近いんだから、別に早かねぇのか。でも、なんか妙に背徳感をおぼえるんですが。
「なんじゃ、イヤなのか?」
「いや、別にイヤって訳じゃねぇけどさ……ああ、そうだ。さっきエミリーも言ってただろ。好きなモン同士でするんだよ、キスってのは」
「ふむぅ……お主の言う『好き』が、姉上が人間の男に抱いていた気持ちのことならば、確かにわらわにはよく分からぬ。でも、わらわはお主が嫌いではないぞ。それでは、ダメなのか?」
「いや、ダメってこたないけど……」
「じゃあ、お主がわらわのことを嫌いなのか?」
 仰向けた顔に、不安の色を浮かべる。
 なんとも直球だね。
 そう――エミリーは、素直なのだ。

239 :CC 13-16/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:21:49 ID:udL34slw0
 同じように気が強いのに、「まるで小さいマグナの相手をしてるみてぇだな」という気分に全然ならないのが、不思議だったんだが。
 あの捻くれモンとは、素直さが段違いなんだな。
「いや、嫌いじゃねぇよ。どっちかっつーと、好きな方かな」
「そうか!なら、問題は無いのじゃ。キスするがよいぞ」
 そう言って、嬉しそうに笑う。
 まぁ、別にいいか、キスくらい。姫さんも、どんなモンだか経験してみたいだけだろうし、下手に意識する方がおかしいよな。それ以上となると、ちょっとマズいが。
 でも、姫さんの姉貴が人間と恋仲だったってことは、いちおう人間とエルフは、その……デキるってことだよな?
 俺的には、そっちの方が興味深かったりするんですが――いやいや、いくらなんでも姫さん相手に、そっちをする気はさらさらないけどな。
「よーし、じゃあ、いっちょキスするか」
 言ってしまってから、噴き出しそうになるのを堪える。こんな間抜けな宣言してから、キスしたことねぇよ。
「うむ。するがよい」
「じゃあ、今の座り方だとやり難いから、こっちに来てくれ」
 俺はエミリーの脇に両手を差し入れて、ひょいと隣りに移動させる。
「くすぐったいぞ――それで、どうするのじゃ?」
「こっち向いて、ちょい顔を上に向けて。目を瞑るんだ」
「ん」
「楽にしてていいぞ」
「んむ」
 なんか、作業の指示って感じだな。もうちょっと雰囲気出した方がいいのかね。
 ベッドについたエミリーの手に掌を重ねて、華奢なおとがいに指をかける。
 薄い唇。
 いざとなると、なんだかイケナイことをしてるみたいな気分が、やっぱり頭をもたげちまうな。
 まぁ、深く考えずに、ちょっと唇を重ねてやりゃ済むことだ。
「まだか?」
 目を閉じたまま、エミリーが催促する。
「口を閉じて。今するよ」
 耳元で囁くと、くすぐったそうにピクリと震えた。
 可愛いな――あ、いや、子猫とかに感じるのと同じ意味でだが。
 俺は、そっとエミリーにキスをした。
 このまま頭を抱えて、舌を入れたらマズいよな、やっぱ。
 足音には、気付いていた。
 だが、それまでも稀に部屋の外を横切る足音は聞こえていたし、エルフの使用人かなんかのそれだと思って、あまり気に留めなかったのだ。こんな状態だしさ。

240 :CC 13-17/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:25:18 ID:udL34slw0
「ヴァイス、入るわよ。別に今――じゃなくても……よかったんだけど……」
 返事も待たずに入ってくる辺りは、姫さんとよく似てやがる。だから、ヘンなことしてたら気まずいって言ったろ?言ってねぇけど。
 エルフ共に対抗意識でも燃やしているのか、家の中だというのに随分とめかし込んでいた。既に湯浴みを済ませたのか全体的にこざっぱりとしていて、ロマリアで買った中でも一番のお気に入りだと言っていた服に着替えている。
 そんなマグナを視界の端に捉えて。
 俺は思わず――硬直してしまっていた。
 一瞬自失したマグナは、俺を怒鳴りつけようか、それとも謝ろうか、迷うみたいに瞬間的に表情をくるくる変えると、結局何も言わずにスダレを開けて部屋から出ていった。
 小走りの足音が遠ざかる。
 ヤベェ。
 このままじゃ、幼女趣味の変態にされちまう。
 いや、でも、この姫さんはジツは百歳近いんだから、幼女って訳じゃないよな?
 って、そういう問題じゃねぇか。
 エミリーがもぞりと動いたので、俺はようやく唇を離した。
 その途端に、ぷはーっと息を吐き出し、苦しそうにすぐ吸い込んで、忙しく呼吸を繰り返す。
 どうやら、ずっと息を止めていたらしい。
「これがキスとやらか?なんだか、苦しいだけなのじゃ」
 ごめんな。初めてのキスがこんなで。
「何がよいのか、よく分からぬぞ。キスをすれば、姉上の気持ちが少しは分かるかと思ったのじゃが……そういえば姉上も、はじめの頃は別に何も感じなかったと言ってたかも知れないのじゃ。何回もしなければ、分からぬものなのか?」
 いや、まぁその、なんと申しますか。
「それとも、やっぱり姉上のような『好き』が分からなくては、ダメなのじゃろうか」
「そうだな。順番としちゃ、そっちが先かな」
 俺は、エミリーの頭の上にぽんと手を置いた。
「好きな相手とするから、ドキドキするんだよ」
「ふむぅ……ところで今、あの女の声が聞こえたと思ったのじゃが、どこにも居らぬな。目をつぶっていたから見てはおらぬのじゃが、わらわの勘違いか?」
「いや、来たよ。すぐ出てったけど」
「そうなのか。何ぞ用があったのではないのか?おかしなヤツじゃな」
 いや、多分、俺がおかしなヤツだと思われてるんだけどね。
 さて、どうしたモンかね、こりゃ。

241 :CC 13-18/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:29:13 ID:udL34slw0
 俺はエミリーと別れて――姫さんは、これから晩飯を用意してくれるそうだ――とりあえずマグナを探しに部屋を出た。足取りは重い。
 いや、相手がスティアとかだったら、むしろ構わねぇんだけどさ。誤解でも何でもない訳だし。でも、今回のは、ちょっとなぁ。とにかく、誤解は解いておかねぇと。俺の沽券にかかわるぜ。
 微妙に上がったり下がったりして、やや歩き難い廊下の向こうから、周りをきょろきょろ眺めながら、リィナがこっちに歩いてくるのが見えた。
「あ、ヴァイスくん。すごいよね、この家。どうやって作ったんだろ?」
「さぁな――マグナ、見なかったか?」
「ううん。部屋を出てから見てないけど。なに?なんかあったの?」
「いや、別に。大した用じゃねぇよ」
「ふぅん――あ、そうそう。昼間はありがとね」
 すれ違いかけたリィナが、よく分からないことを言った。
「昼間?」
「うん。あのフードの人のこと。逃げて正解だったと思うよ」
 ああ、そのことか。
「ホントはボクも、気付かなきゃいけなかったと思うんだけどさ。魔法の事はヴァイスくんに任せとけばいいや、みたいに思っちゃってたみたいなんだよね。ごめんね」
 拝むように片手を上げて、片目を閉じる。
「いや、任せてくれていいけどさ」
 意外な台詞に、俺は虚を突かれていた。
「――ってことは、ちょっとは頼りにしてくれてんのかな」
「うん。そりゃもちろん、頼りにしてるよ〜」
 リィナは、屈託のない笑顔を浮かべる。なんだ、これ。なんか――嬉しいぞ。
「シェラは?部屋に居るのか?」
 照れ臭くて、つい話を逸らしたりする。
「お風呂から戻ってればね。ボクも、これから入るつもりだけど――」
 リィナは、にへらと笑った。
「覗いちゃダメだよ?」
 そんな、覗いてもいいよ?みたいな顔して言うんじゃねぇよ。お言葉に甘えちまうぞ?
 とか言ってる場合じゃないんでした。そうでした。
「バカ言うな。するか、ンなコト」
 きっぱり言い捨てて立ち去る俺って、クールだよな。
「あ、マグナを見かけたら、ヴァイスくんの部屋に行くように言っとくね」
 リィナが、俺の背中に声をかける。
「ああ、頼む」
 少し逡巡してから、俺はそう答えた。

242 :CC 13-19/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:35:04 ID:udL34slw0
 この屋敷は、驚くほどに広くはないが、なんというか迷路みたいで探し歩くのは割りと手間だった。
 しばらくあちこち回ってみたのだが、マグナは見当たらない。
 やっぱり、部屋に戻ってるのかね。
 あえて反対方向に進みながら、そんな事を考える。いや、だって、シェラとか一緒に居たら、余計に話し辛いっつーかさ。マグナが部屋に戻ってたら、もう話は伝わっちまってるだろうな。
 結局マグナの姿が見えないまま、屋敷の端まで辿り着いてしまった。
 そこに壁は無く、渡り廊下が外まで続いている。
 昼間よりは薄暗いが、表はまだ充分に明るかった。時間的にはとっくに夜中なんだが、この辺りは真っ暗になる時間が異常に短いのだ。それに気付かなかった頃は、充分に睡眠をとらずにヘトヘトになったりしたモンだ。
 すぐ引き返す気になれず、表に出て伸びをする。
 まぁ、別に慌てる必要もないかな。
 時間が経つにつれて、そんなに大した問題でも無いように思えてきた。
 普通に考えたら、子供と触れ合っただけだもんな。あいつが誤解してるとしたら、あれ見てヘンな風に受け取る方がおかしいんだ。
 そう自分を納得させようと頑張っていると、横手で枝を踏む音がした。
 人がせっかく思考を切り替えようと努力してるってのに。
 そちらを見ると――マグナがそこに居た。
 なんかタイミング悪ぃな、さっきから。
 マグナは一瞬踵を返しかけて――やっぱり止めて、俺を睨みつけた。
「なに?なんか用?」
 タイプは違うが、氷の女王様と同等くらいにけんもほろろな雰囲気だ。
「用があったのは、お前の方じゃねぇのか?」
 マグナは、少し言い淀んだ。
「――別に。あんたに用事なんか無いわよ」
 じゃあ、なんで俺の部屋に来たんだよ。半分でいいから、姫さんの素直さをこいつに分けてやって欲しいぜ。
「あのさ、さっきの事、誤解してると思うんだけどさ――」
「何が?誤解なんてしてないわよ」
「聞けよ。さっきのは――」
 あれ?
 なんて説明すりゃいいんだ?
「え〜とだな……姫さんは、例の駆け落ちした姉貴とその彼氏の関係に憧れててだな、でも姉貴の気持ちがよく分からなくて、それを理解したくて俺とキスしてみただけなんだ」
 なんだか、端折り過ぎた気がする。

243 :CC 13-20/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:38:07 ID:udL34slw0
「ちなみに、エルフはキスなんかしないそうだぜ。だから、あれにはそんなに深い意味は無くてだな――」
「ふぅん。つまり、はじめてだったってことね。あのお姫様にとっては」
 そりゃそうなんだけども。そこを汲んで欲しかったんじゃねぇよ。
「いや、だから、そんな大層なモンじゃなくて、試しにやってみただけって言うかだな――」
「あんたは試しでキスするって訳ね。誰とでも」
 物凄い固い声だった。
「別にいいんじゃないの、キスくらい。大体、あんたがどこで誰と何をしようが、あたしには全然関係無いものね」
 脇を抜けて屋敷に戻ろうとするマグナの手を、俺は掴んだ。
「だから、聞けって!」
 何を言っても焼け石に水な予感がして、後に続く言葉が出てこない。
「――なによ。離しなさいよ。あたしなんかに構ってないで、あんたは可愛いお姫様と乳繰り合ってればいいでしょ」
 乳繰り合うって、お前。なんつー言葉を使うんだ。
「分かるわよ、あんたの気持ちも。見た目はちょっと幼いけど、ホントに可愛いもんね、あのお姫様。実際はずっと年上なんだし、いいんじゃないの。お姫様が可愛過ぎて、あんたとじゃ釣り合うなんて、とても言ってあげられないのが気の毒だけど」
 嫌味ったらしい言い草だな。
 つか、こいつまだ、可愛いとか可愛くないとか気にしてんのかよ。
「いや、あのな。そういうんじゃねぇっての。冷静に考えれば分かんだろ。今日会ったばっかで、いきなりそんな仲になる訳ねぇだろ?」
 俺の反論は、どこかズレている気がした。
「お互いにひと目惚れだったんじゃないの。知らないけど。どうでもいいわ」
「だから、惚れたとか腫れたとか、そんな話じゃねぇっての。そもそも、姫さんはその惚れるって感情自体、よく分かってないみたいでだな――」
「それを知りたくて、キスしたって言うんでしょ。もう聞いたわよ。でもそれはつまり、あんたにそういう感情を抱いてみたかったから、したっていう事でしょ。惚れてるのと、何が違うのよ」
「へ?」
 そうなのか?
 いや、違うと思うんだが。そんな感じじゃなかったよな。

244 :CC 13-21/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:41:18 ID:udL34slw0
 俺が首を捻っていると、マグナは鼻で笑った。
「なに?そんなことも分かってないで、キスなんかしたの?呆れた。あんた、最低ね」
 なんだと、こいつ――いやいや、ここで俺までキレたらお仕舞いだろ。頑張れ、俺。我慢するんだ。
「だから、そんなんじゃねぇっての。だって、キスの後も、姫さんは全然ピンときてなくてだな――」
「知らないわよっ!!聞いてない、そんな事っ!!」
 マグナは、急に大声で叫んだ。
「離してよっ!!あたしなんか放っといて、あんたは可愛いお姫様の側に居てあげなさいよっ!!可哀想でしょ!?陰であんたにそんな風に言われてるって知ったら、可愛いお姫様が傷つくわよっ!?」
 やっぱり、こいつもズレてるって。どう考えても。
 マグナは俺の手を強引に振り解くと、足早に廊下を進む。
「ついて来ないでよっ!!」
「無茶言うなよ」
 俺の部屋も、そっちだっての。
「なによ、別にあたしを探しに来た訳じゃないんでしょっ!?一緒に戻ることないじゃない!!外の様子でも見物してくれば!?どうぞごゆっくり!!」
「……うるせぇな。お前が姫さんの側にいてやれって言ったんじゃねぇかよ。姫さんがメシの仕度をしてくれてるから、手伝いに行こうとしてるだけだっての」
 イラっとして、つい口を滑らせてしまう。
「あ、そう。勝手にすればっ!?」
 マグナは、さらに足取りを早める。
 やれやれ、しまったな。折角我慢してたのによ。
「――あ」
 前方から、件の姫様がこちらに向かって来るのが目に入った。
「なんじゃ、お主ら。こんなところに居ったのか」
「よかったわね。お姫様が迎えにきてくださったわよ。それじゃあ、あたしはこれで!」
 目を合わせようともせずにすれ違うマグナを、エミリーは怪訝な面持ちで見上げる。
「なにを怒っておるのじゃ?あまり大きな声を出すでない。木々が怯えてしまうのじゃ」
「ああ、悪いな」
 マグナが返事をしようとしないので、代わりに謝っておく。
 渡りに船とはこのことだ。姫さんに、ひと肌脱いでもらうとしよう。

245 :CC 13-22/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:44:30 ID:udL34slw0
「まぁよい。夕餉の支度が整ったぞ。木の実や山菜ばかりじゃから、人間には物足りぬかも知れぬが、わらわが手ずから用意したのじゃ。ありがたく食すがよい」
「だってよ」
「聞こえてるわよ!」
「お前な、ちょっと待てよ」
 ついてくるようにエミリーを促して、マグナの後を追う。
「なんじゃ、お主ら。喧嘩しておるのか?」
「まぁな」
「してないわよっ!!」
「あのさ、エミリー。ちょっと聞いていいか?」
「なんじゃ?」
「さっきのキスのことなんだけどさ――」
 マグナが足を止めて、こちらを振り返った。
「なに聞いてんのよ!?どうでもいいって言ってるでしょっ!?」
「黙って聞けよ――どんな感じだった?」
 エミリーは、きょとんとしてみせた。
「先ほど申したであろ。苦しいだけだったのじゃ」
「だよな。じゃあ、それで俺に惚れちゃったりは?」
「姉上のようにか?残念ながら、全然じゃな。姉上の気持ちは、さっぱり分からぬままなのじゃ」
「ほらな?」
 俺がそう振ると、マグナは非難がましい目つきをした。
「そういうコト聞く、普通?他人の前でそんな風に聞かれて、ホントのこと言えないわよ」
「失礼なヤツじゃな!わらわは、嘘など申さぬぞ!」
 そうそう。姫さんは、お前みたいに捻くれてねぇんだぜ。
「なんじゃ。もしかしてお主ら、先ほどのキスのことで喧嘩しておったのか?」
「だから、別に喧嘩なんてしてないったら!!」
「まぁな」
「ふむぅ……」
 エミリーは難しい顔をして、ちょっと考え込んだ。
「ひょっとして、キスというのは、好きな者同士でするのがよいだけでなく、好きな者同士でなくては、してはならぬものなのか?」
「まぁ、そうかな。特に、口と口ではな」

246 :CC 13-23/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 04:55:22 ID:udL34slw0
「ちょっと、何ヘンなこと教えてんのよ!?」
 別に変じゃねぇだろ。
「そうなのか。すまぬな。わらわは、よく知らなかったのじゃ。許すがよい」
「は?許すって何を?」
「じゃから、好きな者同士でないわらわ達がキスしてるのを見て、ヴァイスと好きな者同士のお主が怒っておるのじゃろ?」
「ばっ――違うわよっ!!何言ってんのっ!?」
「なんじゃ、違うのか?」
 いや、俺に振るな。
「違うわよっ!!いい?あのね、ホントはキスなんて、そんな簡単にするものじゃないのよ?あたしはね、姫様が何も知らないのをいいことに、このバカが騙してキスしたから怒ってるの。こういうヤツを、卑怯者っていうのよ」
 エラい言われようだ。
「ほぅ。エルフには卑怯な者などおらぬから、ジツはあまりよく分かってなかったのじゃ。ヴァイスがそうとは気付かなかったが、さすがに人間じゃな。お主、卑怯者じゃったのか」
 嬉しくない感心の仕方をするエミリー。
「そうよ。これが卑怯者よ。これからは気をつけなさい」
 マグナ、お前な。
「でも、ヴァイスはわらわのお願いを聞いてくれただけじゃぞ。あまり悪いことをしたとも思えぬのじゃが」
「卑怯って分からないように騙すから、卑怯者って言うのよ」
「……なんだか、難しいのじゃ」
 いや、マトモに取り合わなくていいんだぞ。
「――どうあれ、お主とヴァイスは好きな者同士ではないのじゃな?」
「あ、当たり前じゃない!!バカなこと言わないでよ」
「ふむぅ、わらわの思い違いか。それは残念なのじゃ」
「え?」
「せっかく姉上の言う『好き』が、少し分かったと思ったのじゃが。やっぱりわらわには、よく分からぬのじゃ」
「分からないって、エルフの男の人を好きになったりしないの?」
 ここまでのやり取りで、すっかり毒気を抜かれたような顔をして、マグナはエミリーに尋ねた。
「わらわは、まだないのじゃ。他の者にしても、姉上のように――なんと言うのじゃ?えぇと、情熱的に――恋焦がれる――で合っておるか?そういうのは、里では全然見たことがないのじゃ」
「そうなの?」
 アホみたいに長生きなのに、いちいち情熱的な恋愛してたら身が持ちそうにないもんな。この里でずっと暮らしてたら、世間も狭いだろうしさ。

247 :CC 13-24/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 05:02:50 ID:udL34slw0
「じゃが、皆、仲は良いぞ。お主らも、早く仲直りするがよい。わらわは、喧嘩は好かぬのじゃ」
 おそらくエルフというのは、何事につけても非常に穏やかなのだ。喧嘩が嫌いと言うこの姫様が、くっきりと浮いちまうくらいに。
「そうだな。わざわざ探しにきてくれたのに悪いけど、ちょっと先に戻っててくれ。仲直りしたら、すぐ行くからさ」
「うむ、分かったのじゃ。そうするがよい。あまり遅いと、先に食べてしまうぞ」
「ああ。すぐ戻るよ」
 トコトコ遠ざかっていくエミリーの小さい背中を見送りながら、マグナに声をかける。
「な?」
「なによ」
「だから。そういうんじゃなかっただろ?」
「得意そうな顔して言わないでよ――でも、なんかエルフって、やっぱり感覚が人間とは全然違うみたいね。あのコのお姉さん、よく人間とくっついたもんだわ」
「まったくな。あの姫さんは、あれでエルフの中ではかなりの変り種みたいだから、姉貴もやっぱり変りモンだったんじゃねぇの」
「かもね。てことは、ヴァイスも頑張れば、あの可愛いお姫様の恋人になれるんじゃないの」
「まだそういうこと言うかね」
「だって、ヴァイスにも少しはそういう気がなかったら、キスなんてしてないでしょ?それとも、可愛いコなら見境ナシなの、あんたって?」
「人を種馬みたく言うな」
 俺は、そんなに旺盛じゃねぇよ。
「見境ナシなら、却って良かったじゃない。なんの後腐れも無く、可愛いお姫様とキスできたんだから」
「しつけぇな。どうもさっきから聞いてると、お前まだ、可愛いとか可愛くねぇとか拘ってんのかよ」
「べ、別に――そんなんじゃないわよ」
「ンな拘んなよ。無理したってしょうがねぇだろ。お前は、そのままで充分――」
「充分――なに?」
 しまった。酒も入ってねぇのに、何を口走ってんだ、俺は。
 どう考えても――可愛くはねぇだろ。
「憎ったらしいよ」
 うぐっ。
 こいつ、腹を拳で殴りやがった。なんて女だ。
「悪かったわねっ!!」
 ズカズカ先に行きかけて――マグナはふと足を止めた。

248 :CC 13-25/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 05:05:32 ID:udL34slw0
「ねぇ……」
「なんだよ?」
「あたしって……そんなに可愛くない?」
 振り返って、上目遣いに俺を見る。
「は?」
「ごめんね、なんか怒ってばっかりで。でもね、ちょっと言い過ぎちゃったなって、いっつも後で反省してるんだよ?」
 マグナは両手の指を合わせたり絡ませたりして、モジモジしてみせる。
「でも、そんなのヴァイスには分かんないもんね。やっぱり、可愛くないよね……」
 急に女の子っぽい言動をしはじめたマグナを見て、俺は眉間に深く刻まれた皺を解いた。
「――いや、そんなことねぇよ。さっきは、俺も嘘吐いちまった。照れ臭くてさ」
 俺はそっぽを向きながら、ぶっきら棒に続ける。
「本音を言うと……可愛いと思ってる」
「適当に言ってない?」
「あのな、何度も言わせんなよ」
 ボリボリと頭を掻く。
「可愛いと思ってるよ。すごく」
「じゃあ……」
 マグナは後ろで手を組んで、恥ずかしそうに身を揺らした。
「キス、してくれる?あたしにも」
「いいのか?」
「……うん」
 俺は、ゆっくりマグナに歩み寄る。
「ホントにするぞ?」
「うん。いいよ」
「ホントのホントにしちまうぞ?」
「だから、いいってば」
 俺は、マグナのすぐ正面に立った。
「目を閉じて」
「うん」
 マグナは目を瞑って、少し上を向く。
 微かに震えているのが分かる。こりゃ、はじめてだな。無理しちゃって、まぁ。
 俺はマグナの頭の後ろに手を添えて、もう片方の手でマグナの手を握った。

249 :CC 13-26/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 05:09:22 ID:udL34slw0
「大丈夫。力を抜いて」
「うん。優しくね」
 エミリーより、全然体が固くなってるぞ。
 俺は、息のかかる距離まで顔を近付けて――
「って、なに本気に――うひゃぅっ!!」
 マグナがぱちりと目を開けた瞬間に、ひょいと顔をズラして、耳に息を吹きかけてやった。
 膝をかくんとさせたマグナを支えながら、にやにや笑う。
 お前が言おうとした台詞は、『って、なに本気にしてんのよ。やっぱり見境ないのね』てなトコだろ。
 アホか。お前みたいなおぼこの下手な芝居に、俺が引っかかると思ってんのか。笑いを堪えるのに苦労したっての。
「ちょっ――なにすんのよっ!!」
 息を吹きかけた耳を手で擦りながら、マグナは頬を膨らませる。
「なんで!?いつ気付いたの!?」
「悪ぃな。はじめっから、本気にしてねぇよ。俺をからかうには、ちっとばっかし経験が足りなかったな」
 これでも、俺が気付いてるって伝わるように、ずいぶん白々しく振舞ってやったんだぜ。
「なによ、偉そうに!!しゃあしゃあと適当なコトばっか言って――この嘘吐きっ!!」
「お互い様だっての」
 悔しそうに、俺を睨みつけるマグナ。
「ほら、行くぞ。早くしねぇと、リィナに夕飯全部食われちまうよ」
 う〜、とか唸りながらも、マグナは大人しくついてきた。
「ねぇ」
 後ろを歩きながら、マグナが声をかけてくる。
「なんだよ」
「ねぇってば」
「だから、なんだよ――」
 肩を叩かれて振り返った俺は――
 素早く横に回り込んだマグナに、キスされた。
「へへ〜ん。引っかかった〜」
 嬉しそうにはしゃいだマグナは、急に顔中を真っ赤にする。

250 :CC 13-27/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 05:13:44 ID:udL34slw0
「ち、違うわよっ!?これは、その……騙されたまんまじゃ悔しいから、そのっ……ただの仕返しなんだからねっ!?別に、深い意味とか、そういうのは全然無いんだからっ!!分かったっ!?」
「……なんだ、そうなのか」
「ホントにホントなんだからねっ!?――え?」
「いや、ふざけただけなんだろ。分かったよ。ちょっとがっかりしただけだ」
「えっと……って、そんな何回も引っかかんないわよっ!!」
「引っかけるとか、もう思ってないんだけどな。自分から本当にキスしといて、そんな言い方はないんじゃねぇの。まぁ、いいけどさ」
「え――だって、あたしもなんであんなことしたのか、自分でも良く分かんないっていうか……ううん。そんな真面目な顔したってダメよ。騙されないんだから」
「だから、分かったっての。もういいよ。ただの仕返しだったんだろ」
「……そうよ」
「だよな」
「……」
 俯いてしまったマグナに、一歩近づく。
「なぁ」
「……なによ」
「もう一回、ちゃんとやり直しちゃダメか?」
「え?ばばばかなこと言わないでよ!?やっぱり、また騙そうとしてるでしょっ!?分かってるんだからっ!!」
「いや、今度は本気だ。急に我慢できなくなった――キスしていいか?」
「急にって……なに言ってんの?ダメに決まってるじゃない!!」
 構わず、俺はマグナの腰を抱き寄せた。
「ダメ……ダメって言ってるでしょ!?」
 マグナの頭を撫でてから、頬と髪の間に手を差し入れる。
「ちょっと……ふざけないでっ!!イヤだったら!!」
 頬を撫でた手を、おとがいに滑らせる。
「ふざけてない。マグナとキスしたいんだ。ほら、口閉じて」
「あ……」
 マグナの唇を、優しく親指でなぞる。
「目も。閉じて」
「い、いや……」
 震える薄目の瞼を、ぎゅっと閉じたマグナは――

251 :CC 13-28/28 ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 05:18:27 ID:udL34slw0
「――やっぱり、イヤだったら!!こんなのイヤッ!!」
 俺の胸を力任せに押し退けて、踵を返して足早に身を離した。
 あらら。あと一瞬我慢すれば、ちゃんと俺が噴き出してやってたのに。
「悪い。冗談だ」
 本気にされてもアレなので、念の為、俺はマグナの背中に声をかける。
「バカッ!!」
 怒鳴り声だけ残して、マグナはどんどん遠ざかっていった。
 ちょっとしつこかったかな。
 いや、あんな単純なイタズラに、まさか引っかかっちまうとは思わなかったからさ。やられっぱなしじゃ、年上として示しがつかないっつーか。
 まぁ、でも、ホントに一瞬だったし、微妙にズレてたし。
 お前がそのつもりなら、さっきのは数えなくてもいいんだぜ。
 しかし、最後のマグナの慌てようは、なかなか傑作だった。
 あのうろたえっぷりは、少しだけ可愛かったかな。
 そんなことを考えながら、俺はゆっくりとマグナの後を追った。

252 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/06(水) 05:25:03 ID:udL34slw0
規制が緩和されたっぽいかも。

そんな訳で、第13話をお届けしました。
いや〜、最近、明け方はめちゃくちゃ寒いですねw

なんか、今回は考えてたのと、だいぶ違ってしまったような。
最後も、実際にする筈じゃなかったんですけどね。
まぁ、まだまだ全然くっつきそうにない訳ですが。

次回は、もしかしたらちょっと暗めになるかもです。
またノープラン気味なので、なんとも分かりませんが〜(^^ゞ

253 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/06(水) 09:34:26 ID:pn3Bbgo/0
⊂(″ー゛)⊃ ふにゃ〜

ふー早朝からとろけさせてもらったぜ。

GJ!!

254 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/06(水) 10:09:05 ID:PCkawkyR0
だから大学行く前に読んだら明らかに遅刻!!

シーシー氏GJ!!

テンションバカ上がり〜でも⊂(″ー゛)⊃ ふにゃ〜

255 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/06(水) 13:04:44 ID:McfCQCQBO
じゃあ俺も

⊂(″ー゛)⊃ ふにゃ〜

256 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/06(水) 15:15:24 ID:AvEdSbkI0
よし、俺は違う反応をする!


(*゚∀゚)=3

257 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/06(水) 17:57:56 ID:TgIGde140
(゚Д゚)







へんじがない・・・ただのGJ!のようだ

258 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/07(木) 00:43:52 ID:kvpdoKFu0
⊂(″ー゛)⊃ ふにゃ〜

とか色々してくれた人がいたみたいで、よかったですヽ(´ー`)ノ
いつも遅刻させてすまんw

259 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/07(木) 01:50:52 ID:Ai1Vrs7WO
⊂(″ー゛)⊃ ふにゃ〜

マグナ可愛いよマグナ。しかし姫さんも捨てがたい。


260 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/07(木) 02:36:32 ID:MOIt21/jO
GJだ! 今回は萌え死ぬかと思ったよw

261 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/07(木) 07:12:31 ID:/bAq+eLYO
GJ!!

ヴァイス、全国の魔法使い(♂)を敵に回したなw
つーか耳いじりの最中にマグナ来てたらどうなってたやら……

262 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/07(木) 08:42:25 ID:ysxt0k1a0
一昨日最初から読み始めたんだけど、面白すぎて昨日仕事にならなかった・・・w
俺の睡眠返せwww

とりあえずGJ!!!

263 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/07(木) 15:45:14 ID:kvpdoKFu0
マグナに可愛げを見出してくれた方がいて、ほっとしましたw
ヴァイスくんはビビりなので、面接でイオナズンを唱えるような
全国の魔法使い(♂)からは裸足で逃げ出しますw

仕事にならなくて申し訳ない>< でも、光栄です〜

264 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/07(木) 21:26:20 ID:J45EdgXH0
エルフママのツンっぷりからデレを想像して萌え

(てはいないけどな)

265 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/08(金) 13:49:36 ID:dF2MS9Cp0
怒らないでマジレスして欲しいんだけど、
なんでこんなに萌えさせるわけ?
普通な俺は萌えとか分からないはずなのに
このスレ知って萌えっぱなしだぞ?
手加減しようぜ

266 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/08(金) 17:13:48 ID:BvKEiW/L0
え〜と、私がマジレスしていいか分かりませんが。。。
たぶん、私も萌えとか、ジツはあんまよく分かってないからだと思いますw

個人的に、うすらぼんやりと理解しているところによれば、
与えられた萌えより、見出した萌えの方が、萌えると思ったりはします。
つまり、萌えを見出すのは読み手の人にお任せして、
書き手としては、ひたすら普通になるべく楽しんでいただけるものを書くだけとゆーか。
キャラの心理や行動は、行間に出ないとこまで考えたりするので、
思いがけないところで萌えを見出してもらえた時や、
>>265氏のような感じ方をしてもらえた時は、大変嬉しいです。

読んでくださる方にはできるだけ楽しんでいただきたいので、
手加減はしませんw つか、したらボロボロに。。。
とかマジレスしといて「お前のコトじゃねーよ」とか言われたら、超恥ずかしいですねw
即死できます。げふぅ。

267 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/09(土) 05:55:55 ID:g4LvFVhG0
うーん、苦戦中。。。
恥ずいマジレスを流す為に保守w

268 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/09(土) 12:21:56 ID:BGU6sHxf0
ははは、こやつめ

269 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/09(土) 21:33:59 ID:oNR2BC4Y0
ところでDQ5のエリミネーター仲間にするtアッー!!

270 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/10(日) 04:58:34 ID:J4MHyhGdO
>>269
おま…俺言うの我慢してたのに

271 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/10(日) 09:51:53 ID:G12qdq6q0
ああ、そういう事か!!w
うはw単純にモンゴメリー繋がりにしたのが裏目にwww
でも、もう脳内で固定されちゃったので、そっちは頭から消去してくださいw

272 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/10(日) 11:24:24 ID:7tnkG+dX0
エリミネーターなんて仲間にしないから状況がさっぱりだぜ

273 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/10(日) 14:04:12 ID:f5zK9wjh0
逆に考えるんだ エリミネーターには中の人が居たんだ と考えるんだ

274 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/11(月) 11:05:04 ID:raNeP+mR0
この話題を流す為にほしゅw

275 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/12(火) 07:45:45 ID:xKdgCLFx0
寒ひ。ほす

276 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/12(火) 12:50:38 ID:9NelUPX9O
こう寒い日は鍋が喰いたい。

277 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/12(火) 13:26:05 ID:l9ZS+kge0
じゃあ俺は姫様をだっこして暖をとるかな。

278 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/12(火) 17:55:40 ID:OvGm+lRB0
じゃあ俺はいつかのドラゴンに暖めてもらってくる

279 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/12(火) 19:31:38 ID:a0PDFvQNO
アレフガルドの温泉ツアー行こうぜ

280 :YANA 91-16:2006/12/12(火) 21:05:56 ID:C6KrOXzW0
 ・ ・ ・

「――――――痛い、いたた、痛いって!」

 ゴドーは、薄暗い部屋のベッドにうつ伏せになり慌しく叫ぶ。
 彼に圧し掛かっていたライナーはぽん、と肩を叩き、はい、終わりだ、と短く告げる。
「〜〜〜…ふぅ。毎度思うんだが、これ、もうちょっと何とかならねぇのか?」
「日頃の無茶を一発で帳消しにしているんだ、我慢したまえ」
 体を起こし、ベッドの上で胡座を掻いてぼやくゴドー。
 それをライナーは、研究室用の黒縁の眼鏡を指でつい、と整えながら窘める。
「しかし、再生手術にさえ耐え切る君だというのに、この指圧だけは音を上げるのだね」
「痛みが中途半端なんだよ。手術は言葉にする余裕がねぇだけだ」
 肩を回し、体の調子を確かめて、うし、と満足げに頷く。

 …本や薬品が山のように転がる、雑然とした部屋。
 闇医・ライナーが隠れ住むこの地下室の相変わらずの様相に、ゴドーは安堵の溜息をつく。
 彼女はやはり、変わらずにここで研究を続けていた。

「………」
「………何も。いわないんだな」
 指圧を終え、二人テーブルにかけてティーカップを傾ける。
 部屋には沈黙が満ち、複雑な面持ちで、ゴドーが口火を切る。

 彼は、この地下室を訪れ、主との再会の挨拶もそこそこに、用件を切り出した。
 自身への要求を無言で最後まで聞き届けると、ライナーはなんら動揺する素振りさえ見せず、彼をベッドへと寝そべらせたのだった。

「…文句を言えば、君は往くのをやめてくれるのかい?」
 呆れが混じった微笑を浮かべ、ライナーは飲み終えたカップをソーサーに戻す。
「…む」
「私だって、君の言に驚いてはいるんだよ。
 だが、君がそこまではっきりと決めたことに、今更私が何か言ったところで覆りはしないだろう」

281 :YANA 91-17:2006/12/12(火) 21:06:36 ID:C6KrOXzW0

 そう。悔しいが。もしソレを出来る者がいるとすれば――――――『彼女』、ただ一人だけ。

「だから。文句はない。君の頼みであれば、私はただ力を貸すだけだ」
 真っ直ぐな返答に、ゴドーは気圧される。
 見る者が見れば、唖然とする光景だろう。あの、ゴドーが。皮肉も反論も出来ず、封殺されているのだから。
 それが、彼女の清水の如き素直さを以って初めて為せる業である。
「ただ、まぁ。それでも、どうしても解せない疑問があるのでね。答えてくれると、嬉しい」
「ん…わかった」
 おそらく、彼女の問いにどう答えたところで、彼女は快く協力してくれることは変わらないだろう。
 だが。それでもゴドーは、友を裏切らぬために、絶対に己が言葉を偽らぬことを心に誓う。
「君は、戦いが終わった後、私や他の協力者に自分のことを何も語らないよう頼んだらしいが。それは何故だい?」
 ああ、その疑問は。確か、エデンから受けたのと同じものだ。
 ゴドーは、彼に返したのと同じ答えを、ライナーへと言い渡す。
 そして、その言葉を聞いた途端、ライナーは珍しく、面食らって目を丸くした。
「………驚いた。では、君の父の名は」
「ああ。勇者、オルテガ。かつて俺が憎み、そして今、俺が超えようとしている男だ」
 眉を真一文字に結び、ライナーの目を力強く見据える。
 …彼女は驚嘆する。今初めて知る、自身の想い人の背負った運命の重さに。
「成る程。君は、優しいのだな」
「よしてくれ。そんなんじゃねぇ」
 ゴドーは言った。自分のような、理不尽な運命を背負わされる者が再び生まれぬよう。
 偽りの勇者≠ネど、歴史に名を残してはいけない、と。
 ライナーは、彼の運命とその決意を受け、より強く、彼の力になりたいという思いを強めた。

 そして―――だからこそ。その言葉≠、はっきりと告げねばならなかった。


       「――――――無理だ。ゴドー、君の願いは、叶えられない」



282 :YANA 91-18:2006/12/12(火) 21:07:15 ID:C6KrOXzW0
「………」
 冷たく言い放ったライナーから目を背け、ゴドーは黙り込む。
 …我が身を切るような痛みがずきり、とライナーの心に走る。
 だが、それでもいわなければならない。
「歴史とは、勝者と生者の作るものだ。
 今まで、歴史というものがどれほどこの両者に自分たちの都合のいいように改竄されてきたか。
 知らぬまでも、解らない君ではないだろう?」
 年長者として。学者として。多くの無知な見識者たちを見て来たライナーの残酷な言葉。
 ゴドーは無言で、ただ彼女の言葉に耳を傾ける。
「…君や私たちがどう情報を残すまいとして足掻こうと。君が死に、なき者となれば。
 彼らはきっと、いや間違いなく、君を偉大な英雄として祀り上げ、利用する。
 それでも君は、その意志を曲げる気はないのかい」
 ライナーは普段見せないような語気の強さで問う。
 そうして。ゴドーは彼女の弁が終わったと見て、僅かに微笑んで、答えた。
「…ありがとうな。ライナー」
 突然の礼。だが、彼の微笑みはすぐに申し訳なさそうな苦笑に変わった。
「けど、ごめん。成功する見込みがなくても、俺はやっぱり、『人』として、出来ることをしたいんだ」
「………はぁ」
 嘆息。やはり、覆ることはなかった。
 述べられた疑問は、最後はさながら、説得のようになってしまった。
 いや、元々。深層心理では、彼女は説得し、考えを改めさせたかったのかもしれない。
 事実、彼女はゴドーの強い決意の言葉を耳にし、諦めを感じてしまったのだから。
「損な性格だよ、君は」
「おまえほどじゃねぇよ。大概、おまえも貧乏くじに縁があるよな」
 皮肉っぽく、互いの性分を笑いあう二人。

283 :YANA 91-19:2006/12/12(火) 21:07:47 ID:C6KrOXzW0
「わかった。ならば契約だ」
「契約?」
 踏ん切りがついたのか、ライナーは強い語調でゴドーへと話を切り出した。
「今回の件について、私は一切の報酬を受け取らないし、異論もない。
 だが、私は君とは違うやり方で、人の革新というものを目指したい。だから変わりに、条件付で一つの権利を許してほしい」
「…何が言いたい」
「もし。私が将来、世界の医学を躍進させるような偉業を成し遂げたとしたら。
 私の自伝で、君のことを語ることを、認めてくれないか」
 突然の申し出に、ゴドーは言葉を失う。
 いや、待て。それは、どんな繋がりで―――
「どんな繋がりでそうなるのか、とはいわせないよ。
 私は君との出会いで異性への好意というものを知り、またこれからアレフガルドで起こるだろう戦は、間違いなく私の人生最大の山場となる。
 …ゴドー、という男の存在は、私の人生を語る上で、絶対に避けて通れないファクターなのだよ。ご理解願えるかな?」
「…まぁ、つまり、なんだ。
 私が偉業を為して、それを世界に知らしめるために何を語ろうがそれは私の自由デスヨ=cと、そういいたいわけか」
 眦を緩め、愉快そうにライナーは頷いて返す。
 …ライナーは、知っている。
 彼の性分が、他人の行為や在り方を否定したり、批判したりすることは、絶対に出来ないということを。
「…っあー」
 ゴドーは椅子の背もたれに向かって思いっきり踏ん反り返って手で顔を覆う。
 そして、やけっぱちのような声にならない叫びを上げる。
「きったねぇなぁ。そんなの、断れるわけねぇだろうが」
 ぶすっとした顔で、机に突っ伏して恨めしげにライナーを睨む。
 ライナーは思いっきり破顔し、決壊したように笑い出した。

284 :YANA 91-20:2006/12/12(火) 21:08:21 ID:C6KrOXzW0
 ・ ・ ・
「…しかし。君も思い切ったことをするね」
「ん?」

「――――――街を、魔物に襲わせるなどとはね。勇者のすることとは思えない」

「………」
 自身の目的をライナーにはっきりと口にされ、ゴドーの目に微かな躊躇いが浮かぶ。
「君を責めているわけじゃない。
 今まで、一人の勇者に散々頼りきっていた人類だ、それくらいの荒療治をしなければ、依存≠ニいう病の治療は出来まい。
 それでさえ、絶対に治るという保障はないが…まぁ、治療とは、元よりそういうものだ」
 カップに二杯目の紅茶を注ぎ、ライナーはレモンの切れ端を搾る。
「自信を持って、前に進みたまえ。君のバックアップは、私たちが全力でするからな」
 不敵に笑いながら、ずず、と彼女に似つかわしくない下品な音を立てて紅茶を啜る。が、直後。
「とはいえ、アレは中々難しい注文だな」
「アレ?」
 頬を指で掻きながら困り顔をするライナー。
 ゴドーはくるくると目まぐるしく変わる彼女の表情を少しばかり楽しみながら、聞き返す。
「戦いの趨勢を一人で決してはならない。
 …要するに、戦いに加勢する過程で、そのラダトームとやらの人々の力を活かさねばならない、というのだろう?」
「…そうなる」
「勝算の有無は別にして、私は戦闘において連携というものを組んだことがなくてね。
 あちらの人々の力を、上手く引き出せるかどうか…正直、自信がないな。それに―――」
 ずずずず、と、今度は下品な上に冗長な水音を立てる。
「私の戦い方は、知っているだろう?敵には、異世界の未知の魔物もいるだろう。
 …勝ちの目は、正直、他の二人よりも少ないと思うぞ」
 苦々しく、カップの紅茶を一気に飲み干した。
 ライナーとしては珍しく、不安を隠そうともしない態度だった。
「…うん。それに関しては、本当にすまないと思ってる。
 でも…悪い。本当に、他にこれ以上信頼できる奴がいないんだ」
「まぁ、いいさ。こっちはこっちで何とかするよ」

285 :YANA 91-21:2006/12/12(火) 21:09:19 ID:C6KrOXzW0
 頭を下げて謝罪するゴドーに、ライナーは根拠のない虚勢を張る。
 現実主義者のライナーが、そんな風に精神論的な言葉を口にするのは初めての事だった。
 だが、それでも、ゴドーの切実な願いを目の当たりにした彼女が、それを断ることなど、出来ようはずもなかった。
「すまん。…じゃあ、四日後。死ぬなよ、ライナー」
「あ…待ってくれ」
 椅子から立ち上がり、背を向けるゴドーを咄嗟に呼び止めてしまう。
 かつて、部屋を去ろうとして彼女に引き止められることなかった彼は、僅かに戸惑いながらも、律儀に立ち止まる。
「…その…」
 本当に、口を突いて出た言葉に、続きが上手く出てこない。

 何故?これ以上、何かを話す必要があるだろうか。彼を呼び止めたのは、どうして?
 …『どうして』?…それこそ、何故、だ。私は、彼に好意を抱いている。ならば、残る疑問は一つだけだ。
 今生の別れとなる今。ここで聞かなければ、私は絶対に後悔する…!

「最後に、聞かせてくれ。君の背負っている運命、それを、何故今まで私に話してくれなかったのか」

 ライナーは背負う。己が研究と引き換えに削られ、いまや二十年を切った寿命、短命の定めを。
 その確実に迫る死の重圧を、何度、この愛しき少年に打ち明けようとしたか。
 だが、ライナーは出会って間もなく気づいた。この少年も、何か、人に言えぬ運命を背負っていると。
 だから彼が、仮にも師である自分にそれを打ち明けてくれるまで、何があろうと自分も己が運命を打ち明けることはしない、と誓った。

(…だが、違った。そもそも、私の運命など、彼の運命に比べれば、悲運でも不運でもない。
 彼の運命は、彼の意思など関係なく、ただ世界が望んだからというだけで、理不尽に背負わされたもの。
 それに比べれば、自分が望んだように、自由に生き、自ら背負い込んだこの運命など、不幸でもなんでもない。誇りですらある。
 そんなものを、彼の暗い定めと同列に数えることなど、口にすることも烏滸がましい―――!)
「うーん…怒らないで、聞いてくれるか?」
 ライナーの必死の訴えを悟り、ゴドーは答えに窮する。
 なんだろうか。何か、いいづらい理由なのだろうか。

286 :YANA 91-22:2006/12/12(火) 21:09:54 ID:C6KrOXzW0
 心配は要らない。後ろめたいのは、私のほうだ。どんな理由であろうと、私に怒る権利など―――、


「じゃあいうけど。…だって、ライナー、俺に何か隠し事してるだろ?だから、俺もいわなかった」


「――――――」
 返ってきた答えは。まるで、鏡でも見ているかのようなものだった。
「呆れるかもしれねぇけど。…俺は、勇者だから。まぁそりゃ、ライナーには世話になりっぱなしだったけどさ。
 それでも、人を救う立場の勇者が、悩みを抱えてる人に悩みを打ち明けるなんて、出来なかったんだ。ごめんな」

 ―――は。ははは。つまり、そうか。
 彼と私は、十年近くも、壮大な意地の張り合いをしていたわけか。
 ならば、続く言葉は決まっている。後は、それを口にするだけだ。

「では――――――アリス君は、君の背負ったものを知っているのかい?」
「…ああ。ちょっと、色々あってな。あいつ、泣きながら必死に、俺を支えるっていってくれて………うん。すごく、嬉しかった」
「そうかい。…では、今回のことは、アリス君にはいっていないのだね」
 ゴドーの性格を鑑みた、ライナーの断定的な問いに、彼は首肯する。
「あいつは優しいから。教えたら、ライナーたちを心配して、満足に戦えなくなっちまうかもしれない。
 でも、あいつは俺を信じるって言ってくれた。だから俺は、後はあいつの負担を、少しでも減らす方法を採る」
「…ふふ。君は、彼女のことが好きなんだね」
 正真正銘。一番問いたかった、最後の問いを投げかける。
 即答ではない。だが、逡巡もない。強く、意志を確固なものとする、一瞬の間をおいて。


                    「――――――ああ。大好きだ」



287 :YANA 91-23:2006/12/12(火) 21:11:02 ID:C6KrOXzW0
 それで。ライナーは全ての柵(しがらみ)を吹っ切った。
「…っ」
 ぎゅっ。ゴドーへと歩み寄り、抱きしめる。
 長身のライナーが彼と抱き合うと、互いの顔が肩越しに交差する。

「…友よ。無事を―――君と、彼女の幸せを祈るよ」
「…ありがとう。今まで、世話になった」

 十年越しの友との別れは、余りにも短いやり取りで終わりを告げた。

 ――――――ガチャリ。
 ドアが、お決まりの音を立てて閉まり、彼の姿が見えなくなる。
「………すぅ」
 忘れていた呼吸を再開する。
 さぁ。ここから先は、私の時間だ。
 私の意思で。私の為さんとすることだけを。残り少ない時間を、後悔のないように生きよう。
 …それと、ゴドー。私は君に、嘘をついた。 

 私は、人の革新には、余り興味がない。それに希望を持つには、私は少しばかり人という生き物の弱さを知り過ぎた。
 それよりも、私には、君という人間を無知で勝手な執政者たちによって弄ばれることのほうが許せないのだ。
 だから、私は必ず成し遂げる。明確に定まった医者としての目標も。歴史の証人としての役目も。その両方を。
 それでさえ、後世の人々に信じてもらえる保障などどこにもないのだけれど。
 これが、君の信じた人としての生き様ならば、私もそれに準じてみよう。

 そのために、今一度。私は名乗ろう。大嫌いだった、あの名を―――。

288 :YANA:2006/12/12(火) 22:57:23 ID:C6KrOXzW0
反応が少なくて怖いが、私は謝らない(挨拶
今日は調子がよかったので、あとでまた来ます。

289 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/12(火) 23:04:36 ID:METDe8GE0
YANA氏GJ


290 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/12(火) 23:39:13 ID:OVR8UNal0
いやいや、あまり大げさに騒ぐのもなんかなと思っていたが、
反応が少ないと困るならあえて言わせてもらいます。


…YANA氏すげー!!GJ!!!!!

291 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/12(火) 23:40:59 ID:OvGm+lRB0
YANA氏GJですよ
しかしアイモカワラズ意味を掴みきれない俺バカス

292 :YANA 91-24:2006/12/13(水) 00:03:55 ID:C6KrOXzW0
 ・ ・ ・

 ――――――ドシンッ

 第二波、第三波の攻撃も全滅させられる。
 辺りにはライナーが切り捨てた魔獣たちの骸が散乱し、文字通り、死体の山を形成する。
「ちっ…!」
 あれだけの数で挑み、尚も人間の女一人に傷一つつけられない部下たちの不甲斐なさに舌打ちする。
 彼女は息一つ乱さず、平然と広場の中心でナイフを鞘に納める。
「どうした。その程度では、私の首をくれてやるわけにはいかんぞ」
 仁王立ちのまま、悪魔を挑発するライナー。
 人間一人の妨害が、まるで難攻不落の要塞。
 この僧侶を倒すのに、ただの力ではどうあっても為し得ないということを、悪魔は漸く悟る。

(何か…奴の強さの裏づけとなっている要素が、何かあるはずだ。それさえ叩き折れれば…!
 考えろ。思い出せ。奴の戦いで、不自然な部分や、弱みがなかったかを!)

「………」
 平静を装ってはいるが。圧倒的な速度で魔物たちを殲滅し、無傷であるはずのライナーはその実、かつてない窮地に立たされている。
 先の挑発も、悪魔の冷静さを奪おうとするための悪足掻きである。それさえも、悪魔には通じない。
(頼むぞ…他の魔物を殺しきるまで、奴ら≠動かすな)
 だが。その願いも、呆気なく砕けることになった。
「…待てよ」
 悪魔は、確かな違和感へと思い至る。
 彼女が修道服を脱ぎ捨て、最初のマントゴーアを切り捨てた時。
 そして、次に差し向けた二体めのマントゴーアの死に様。その違い。
 …二体目以降が、一滴の流血もせず事切れたのに対し。何故、一体目は全身から鮮血を吹き上あげたのか。


293 :YANA 91-25:2006/12/13(水) 00:05:25 ID:C6KrOXzW0
 その後の、ラゴンヌやサラマンダーもそうだ。
 差し向けた魔物をライナーが殺す時。その一体目は、必ず流血する。
 そして、二体目以降はマントゴーア同様、流血せず、断末魔もあげずに死に絶える。
 ―――極め付けが。彼女自身の言葉である。

 神経系の位置は、さきの一体で割り出し、修正した

「…は!成る程…わかったぜ、てめぇの弱点!!」
 論理思考の結論を導き出し、悪魔は口元を吊り上げる。

 ――――――パチンッッッ

 クエエエェェェェッ!!

 すぐさま、悪魔は高らかに指を鳴らし、両翼に控えていたメイジキメラたちに合図を送る。
「…!」
 聞こえないような小さな音で舌打ちし、ライナーの顔が微かに険しいものへと変わる。
 だが、悪魔はその僅かな変化を見逃さなかった。
 そして、それを認め、自身の考えを確信へと昇華する。

 バサッ、バサバサッッ

 四体のメイジキメラが翼をはためかせ、上空へ舞い上がる。
 それに合わせて、ライナーは腰を落として疾駆する。

 クエエエェェェッッッ!!!

 キュン、ヒュン、バサバサッッッ


294 :YANA 91-26:2006/12/13(水) 00:08:21 ID:C6KrOXzW0
 次々とライナーに向かって急降下してくる怪鳥たち。
 だが、彼女は反撃できず、ただ逃げ回るのみである。
「読めたぜ、千本ナイフ!てめぇさては、『初対面の敵』には、手も足もでねぇな!?」
 キキキ、と己が仮説の的中を悟って嘲笑する悪魔。
 逃げ惑い、追い込まれていくライナーに向かい、罵声を浴びせる。
「こうなりゃてめぇはただの女だ!蓋を開けりゃなんてこたねぇ、そこの餓鬼どもとかわらねぇただの弱ぇ人間だ!
 楽に死ねると思うなよ、嬲り殺しにしてやらぁっ!!」
「…く…!」
 悪魔の言葉など、塵ほども気にはならなかったが。
 自身の危惧していた事態が現実となり、ライナーは走りながら、必死で現状打破の手段を探る。が。
「…っ!!」
 分を待たず、広場を逃走する間に、住家の壁際へと追い込まれる。
 元々一撃離脱の戦法に特化した彼女に、防戦一方の逃走など、いつまでも続けられるはずがなかったのだ。
 連携をとるメイジキメラたちは、彼女の心臓を貫くため、今度は縦横と正面から一斉に飛来する。
 …彼女は、ナイフに手を回しながらも、ここまでか、と苦々しく頬を歪める。

 ――――――悪魔の仮説は、当たっていた。
 ライナーという人間が、この状況で初対面となる種族の敵を相手に勝利することは、万に一つもありえない。
 彼女の強さは、飽くなき研究によって知り尽くした、相手の種族の身体構造を基に割り出した弱点を、的確に攻めることによって成立している。
 アレフガルド、という未知の土地へと初めて足を踏み入れた彼女にとって、そこにしか生息しない魔物を相手にするには、三日や四日では到底アドバンテージを握れない。
 マントゴーアやラゴンヌ、サラマンダーの一体目を多少の誤差があったとはいえ一撃で倒せたのは、偏に彼らが、地上に生息するスカイドラゴンやライオンヘッドらの亜種であったためである。

 無論、彼女とて、不利とはいえ見知らぬ相手を向こうに回しただけで全くの無力ということはない。
 だが、それでも勝つためには彼女自身の全力を出し切る必要があり、倒せたとしても満身創痍は免れない。
 今のような大規模な魔物の群れを敵に回している状況では、仮に一体や二体をやっとの思いで倒せたとしても、瞬く間に他の魔物にとどめをさされてしまうだろう。

295 :YANA 91-27:2006/12/13(水) 00:09:35 ID:3wI83AZZ0

 ――――――そう。繰り返しになるが。彼女がこの状況で勝利する可能性など、万に一つ≠燉Lり得ないのだ。



    「ライナーさんッッッ!!奴らの頭頂部から後ろに向かって、縦に十センチ切って下さいッッ!!!」


                 だが。ここに、億に一つ≠フ奇跡が起こった。

 キュンッッ。

 クエ…!?

 メイジキメラたちは、刹那にして自分たちの視界から標的を見失い、急停止する。

 ―――彼らが狼狽する最中。彼女≠ヘ、元いた場所に旋風を残し、背後に向かって高く。
 跳びながら車輪のように後転し、壁に足を付く。
 真下には動きを止めた怪鳥の群れ。―――正に、止まった的。
 それは、さながら落雷の如き速度と強さで。彼女は、全力で、壁を蹴った。

 グエエエエェェェェェッッッ!!

 ――――――ドサドサドサドサッッッ

 ………再び、広場が凍りつく。
 四体のメイジキメラが大地へと叩き落され、彼女は一拍遅れて大地へと降り立つ。
 地に伏した怪鳥たちは、一体残らず皆、後頭部を縦に裂かれ、ずるりと醜く背骨を覗かせていた。
「………これは」
 ライナーは自身の手に残る、彼らの頭部にナイフを走らせた感触を噛み締める。
 …間違いない。脊椎動物の、脊柱管を切り裂く感覚。十中八九、脊椎を壊滅させた感触だった。

296 :YANA 91-28:2006/12/13(水) 00:12:44 ID:3wI83AZZ0
「…アルム君」
「は、はい!」
 遠く、橋の手前に集合した少年たちの中の一人へと声を投げかける。
 合間に、言葉通り、奇跡的に無傷な四肢に力を込め、瞬時に橋へと駆け寄る。
 魔物たちは呆然と、その様子を見つめている。
「わ…!」
「答えてほしい。今のは、なんだい?」
「ああああああの、すいませんっ!出過ぎた真似をして、すいませんでした!」
 ライナーの簡潔で抑揚のない問いにアルムは、彼女は自分が口出ししたことを怒っているのだと誤解し、ぺこぺこと頭を下げる。
 彼女は、ふむ、と短く思考し、徐に彼の顔を、正面から両手で固定した。
「あうっ!」
 手の平で彼の顔を挟んだまま、しっかりと自分に目線を合わせる。
「もう一度聞く。事と次第によっては、君がこの戦いの鍵を握ることになる。…今のは、なんだい?」
 切迫した、ライナーらしからぬ余裕のない問い掛け。
 アルムは彼女の真剣さを理解し、おどおどと答え始めた。
「あの…僕、兵士なんですけど、その、すごく弱くて…だから、それを補うために、沢山勉強して…。
 人や魔物の体のこととか、本で読んで、覚えて…その…」
 その言葉だけで。ライナーが彼の資質を理解するには十分だった。
「アルム君」
「は、はいっ」
「あそこに、まだ五十体以上の魔物がいる。奴らを見ろ」
 ぐい、と掴んだ彼の顔を、広場の反対側で陣を組む魔物たちへと向ける。
「ひっ…!」
 彼にとっては、恐怖の対象。
 一体一体をとっても、自分の戦力のゆうに数倍はある怪物の群れ。
 こうして目に捉えることさえ躊躇われる。
 だが、ライナーはそれを承知の上で、尚も問い掛ける。
「正直に答えるんだ。奴らが怖いかい?」
「………はい」
「奴らを、倒したいかい?」
「…はい」

297 :YANA 91-29:2006/12/13(水) 00:13:51 ID:3wI83AZZ0
「よし。最後に訊く。…奴らの身体構造。全て空でいえるかな」
「………っ」
 閉じかけている目を、恐る恐る開く。
 視界の端から端まで、視線をゆっくりと慎重に、見落としがないように移していく。
 両翼の、キメラとメイジキメラ。前衛を固める、ドラゴンゾンビ。中心に集まるサタンパピー。
 そして――――――首魁の悪魔は、バルログ。
 全て、自室にかき集めた書物にあった魔物たちであることを確認し、アルムは力強く答える。
「――――――は、いっ」
 質問の度、覇気を宿していく少年の答え。
 その最後の肯定を受けて。ライナーは、く、と、目を閉じて小さく笑った。


「…あ――――――?」
 勝利を確信していた悪魔は、目の前で起こった有り得ない事態を飲み込めず、固まっていた。
 それが、数十秒の後、漸く思考を再開する。
 そして、普段のように、冷静に先ほどの情景を思い起こす。
 …そのままいけば、間違いなく殺せた。それを邪魔したのは、さきのあの小僧。
 奴が、何事かを叫んだ直後、メイジキメラたちは殺された。
 まさか――――――あの小僧が、こちらの弱点を…!?


 ―――――――――カラカランッ


 突如。広場に乾いた音が響く。
 それをきっかけに、他の魔物たちも一斉に正気を取り戻す。
 音の元を辿り、悪魔が橋の入り口に目を向ける、と。
「っ―――!?てめぇ…なんだ、それは…っ」
「六十八本のナイフだ。見てのとおり、私の全武装だよ」
 ライナーは、身に着けていた法衣を脱ぎ去り、タイルに放っていた。
 それは、法衣に仕込んでいた武器であるナイフを全て手放すことと同義。

298 :YANA 91-30:2006/12/13(水) 00:14:33 ID:3wI83AZZ0
 残ったのは全身を包む橙色のタイツと、手袋とブーツ。どこをどう見ても、武装らしきものは隠されていない。
「幸運にも、彼のおかげで予定が繰り上がったのでね。少々邪魔になったから、退けておくことにした」
 パサパサッ。言いながら。ライナーは更に手袋とブーツを脱ぎ捨てる。
「…決着をつけようか。そちらも、手勢が大分減っているようだし、その方がいいだろう」
「はっ!何いってやがる、状況が見えてねぇのか!こちとらはまだまだ手駒を残してるんだ、勝つのは俺たちだっ!」
 少しも怯まない、それどころか先ほど以上の自信を湛えて言い放つライナーに、悪魔は激昂する。
 だが、ライナーはそんなことは構わず、ゆっくりと体を沈める。
「まぁ、いいがね。…そうだな、最後にとっておきの種明かしをしよう。冥土の土産に聞いていくといい」
「てめぇ…上等だっ!!おまえら、やれっっ!!!」
 余裕を崩さぬライナーに痺れを切らし、無策のまま彼女へと魔物を差し向ける。
 残った部隊のうちから、各種二体ずつ、計十二体。彼らは扇状に広がり、一息で彼女へと迫る。
「ライナーさんっ!!」
 後方でアルムが叫ぶ。
 だが、ライナーは無言で微笑み、それを制する。途端―――、

                     ギュンッッッ

 十二体の魔物は、突然上がったワケノワカラナイ轟音と共に、吹き飛ばされた。
 全ての者に、スローモーションで舞い散り、地に崩れ落ちていくように見えた彼らは遍く。
 全身にあの線≠浮かべていた。

 ドシャァァァァァンッッッ

 殺された全て魔物の亡骸が同時に落下し、大地を揺らす。
「なん、だと―――?」
「いわぬことはない。人の話は最後まで聞くものだよ」
 舞い上がった土煙に包まれた広場の中心から、声がする。
 そこにいるはずのない者の、声。
 

299 :YANA 91-31:2006/12/13(水) 00:15:56 ID:3wI83AZZ0
 悪魔は、すでに己が思考を処理しきれていない。
 混乱の中、脳裏でライナーの動きを再生する。
 …再生、再生、再生―――でき、ない。何度再生しようとしても、彼女の姿は、悪魔には思い出せない。
 何故なら――――――彼女の姿は、悪魔の目には映らなかったのだから=\――。

「…知っているかい?筋肉にはね、瞬発力を担う速筋と、持久力を保つ遅筋の二種類がある。
 私は普段、攻撃の瞬間だけ腕部の速筋を極限まで強化し、その速度を高めている」
 土煙が晴れ、彼女の姿が露になってゆく。
 だが。そこにいたのは、先ほどまでの彼女ではなかった。
「――――――っ!?」
「果てしない人体実験の産物でね。私は自己の肉体の構成要素の一部を操作できるようになった。
 …だが生憎と、速筋と遅筋の総量は生まれつき決まっている。片方だけを徹底的に強化するには、手間取ったがな…!」

 引き絞られた、筋の塊と見紛うような彼女の手足。
 タイツ越しに浮かび上がる筋繊維の束が、彼女の体に起こっている変化を如実に物語る。
 身長は一回り伸び、代わりに全体的なボリュームが収縮し、血管を内に押さえつけている。

 魔物たちと少年たち、双方がその異様な変化に息を呑む。
 およそ人らしからぬ凄まじい身体機能、魔物にも有り得ない、小型での極度の筋肉の発達。
 人と魔物、両方からかけ離れた能力。
 神に背いた彼女の研究は、ただの人の体を禁忌の領域へと押し上げた…!

「見てのとおり。これは、その速筋の強化を全身に施し、常時この状態で動けるようにしたものだ。
 ただ、非常にピーキーな形態でね。かすり傷一つ受けても、筋肉の均衡が崩れて歩行さえ困難になる。
 その上思ったとおりに動けなくなるから、動きの妨げになるナイフや防具は排除しないといけない。
 だから、君たちを全滅させる目処が立つまで使えなかった」
 言いながら。彼女は再び体を沈める。
 上半身を折り曲げ、大地に伏せるような体勢。肉食の四足獣が、標的に攻撃を仕掛ける姿勢である。
「ひ…!!ほ、ほまえらぁっ!!」
 半狂乱となり、上ずった声を上げる悪魔。
 周囲の魔物たちに、自分の盾となるよう指示を出す。

300 :YANA 91-32:2006/12/13(水) 00:17:24 ID:3wI83AZZ0
 ドラゴンゾンビやサタンパピーたち、十体の魔物が彼女と悪魔の間に立ちはだかっていく。
 だが、そんなものはまるで目に映っていないかのように、彼女は解説の締めくくりにかかる。
「…ああ、そうそう。しばしば、君のように勘違いする者がいるんだがね。私の二つ名は、千本ナイフ≠ナはないよ」
「は…?」
 ライナーはぐぐぐ、と筋肉を収縮させながら、悪魔には理解できない台詞を発する。
「よく聞いて、その利口な頭で考えてみたまえ。たかだか六十八のナイフで、千本ナイフなどという異名が付くと思うかい?
 …千のナイフは、この強化された肉体全て。つま先から肘、指先に至るまで、雷光の速度で振るわれるこの四肢の動き全てが。
 無数の刃となって、貴様たちの肉体に線≠引き、切り裂く。そして――――――!」

 ―――――――――ギュオンッッッッ

 ライナーの体が、視認不可能な速度で、大地から放たれる。
 …それは、まさしく雷の煌き。
 轟音は音速を超える証明、彼女の体は刹那を超えて十の魔物を屠り去る―――!!



「―――――――――人は、私の名を皮肉りこう呼ぶよ。千本ナイフの線引く者(ライナー)≠ニ―――!!」



 ズシャァァァァァァンッッッ


 広場の中心から、悪魔の背後まで。
 雷光となって疾走した彼女が語り終えるのと同時に、魔物たちが崩れ落ちる。
「ぐ…が…」
「!…ほう。驚いた。この形態になった私の攻撃を耐えたのは、君が初めてだ」
 悪魔・バルログは這い蹲りながらも、機能を停止しつつある右腕を弱弱しく振り上げる。そして、


301 :YANA 91-33:2006/12/13(水) 00:18:05 ID:3wI83AZZ0
 ――――――ぱちん

 グオオオオォォォォォォッ!!!

 力なく、最後の力を振り絞って指を鳴らす。悪魔はそれで力尽き、死に絶えた。
 そして、その合図を受けて、残った三十弱の魔物が咆哮を上げて散開する。
「…ふむ」
 魔物の動きを見て、瞬時に悪魔の死に際の指示を理解する。
 奴らは私を無視し、全力で橋を落としにかかる。それこそ、命さえ顧みず。
 散開することで、個々の生存確率を少しでも引き上げて、だ。
「――――――は」
 遅い。遅すぎる。そして、甘い。
 それをやるのなら、遊ばず、最初から―――それこそ、少年たちを取り囲む前からするべきだった!
 ましてや、私と彼の接触を許し、私がこの状態になってからなど、愚の骨頂だ―――!!
「…アルム君っ」
「は………はい!」
 広場の端から端へと叫び、呼びかける。
「君たちで、橋の入り口を守れ!
 魔物を倒そうなどとは思うな、全力で足止めだけするんだ。…安心したまえ、一秒以内に殺してやるっ」

「は…はは」
 僧侶らしからぬ物騒な発言に、アルムは引きつった笑いを浮かべる。
 あの状態になると性格も乱暴になるのだろうか、と思案するが―――すぐに、そんな場合ではないことに気づく。と。

 ザッ


302 :YANA 91-34:2006/12/13(水) 00:18:40 ID:3wI83AZZ0
「あ…」
「アルム。おまえだけにいいかっこはさせねぇぜ」
「いっとくけど、実戦ならおまえより俺たちのほうが優秀なんだからな」
 立ち竦む彼の両脇から、武器を手に、同僚の少年たちが肩を並べてくる。
 …皆、ライナーの頼もしい姿に奮い起こされ、闘志を燃やし、そしてか弱い少年の活躍に、対抗意識を剥き出しにする。
 そして幾人かの少年は、へたり込みそうな彼を支えようと、激励の言葉をかける。
「見直したよ、悪かったな、今まで馬鹿にしてさ」
「勝とうぜ、アルム」
「………う…うんっ!!」

 遠く、そのやり取りを見て。
 ライナーは穏やかに微笑み、ああ、きっと彼≠ェ真っ直ぐに育っていたら、あんな風に笑ったのだろうな、と、友の顔を思い返す。
 …だが、すぐに自嘲気味な笑いを浮かべ、頬と、全身の筋肉を引き締める。

 そして、自分に背を向けて橋へと突撃する魔物たちに向かって、言い放った。


         「…死に物狂いで逃げろ。この身は今、雷そのものと知れ―――!!!」




303 :YANA:2006/12/13(水) 00:23:27 ID:3wI83AZZ0
 :ライナー:
 人体に関する飽くなき探究心から、教会を破門された僧侶。千本ナイフのライナー
 研究の過程で積み重ねられた経験と知識、資材調達の際の実戦で練磨された技巧、そして常軌を逸した人体改造の副産物により、
 本人の意思とは無関係に世界最高の殺し屋となってしまった医者。
 ゴドーとは割りと親しい関係だったが、最後の決別の時までお互いの胸中を明かしあうには至らず、
 その原因を知ったのは、彼との最後の問答のときであった。
 研究の果て、己が体を蝕む自身の実験により、四十路を迎える前にその生涯を閉じる。

 …尚、彼女が晩年残した自伝『偽神のノート』の最後には、地下世界・アレフガルドでの最後の戦いの様子が記されていた。
 出版当初は一笑に伏されていた本書であったが、アリスワードの発見に伴いその信憑性・歴史的評価が見直されつつある。
 アリスワードという証人がつくことで、『偽神のノート』は本来持つべき価値を得たのである。
 かの手紙が勇者ゴドーの変遷を記録し、内容の正当性を保証する「陽の伝説」であれば。
 『偽神のノート』は、アリスワードでは語られない、最後の戦いに挑む際の彼の真意を代弁した「陰の伝説」といえるかもしれない。
 彼の伝説を語る上でなくともよいものではあるが、彼が人として目指し、求めたものがここに集約されていることは間違いないだろう。

304 :YANA ※1/2:2006/12/13(水) 01:07:35 ID:3wI83AZZ0
 第八節は既にドラクエですらないね!!(挨拶
 こんばんわ、何かよからぬことを考えているYANAです。
 ライナー、設定考えてるうちに(色んな意味で)ものすげぇ骨太なキャラになってしまいました。なんてこった。

 そんなわけで、解説が必要かもですね。
 まず、いつぞや番外編でゴドーがいってた、ライナーが法衣を着る、言いたくないほうの理由。
 単純にスーパーモードになった時に、他の服だと一々破けたりずり落ちたりして面倒くさいからです。
 全身タイツはどんな体系にもフィットする便利な衣装だと、ライナーは太鼓判を押しています。
 また余談ですが、タイツの下には皮膚の縫合の跡とか無数に残ってるから、露出0の僧侶服は隠すのに都合がいいのだとか何とか。
 ついでに、疲れるけど視力の強化も出来るので、激しい戦闘の時は弱点となりうる眼鏡は外してます。

 因みにスーパーモードの性能について補足を少し。
 この状態だと、攻撃は確実に敵の急所に命中させないと、自分が大ダメージを受けます。
 外れた場合はまだいい方で、下手なところに当たるとその部分は使い物にならなくなります。
 衝撃を吸収するための遅筋をアホ程弱体化させてるので(しないと膨張した速筋で皮膚が破裂します)、
 骨とかに当たった日にゃ強度がへっぽこな速筋はプチーンと断裂してしまいます。
 本当に、圧倒的なスピードで急所を切り裂くことだけに特化した形態なわけです。

 …あと、この理論は多分に少年漫画補正かかってるので、生物学的に真剣に検証したらどうなるかわかりませんw
 真に受けたらいけませんぜwww


305 :YANA ※2/2:2006/12/13(水) 01:08:51 ID:3wI83AZZ0
 そしてライナーがアドバンテージを握るための条件
・研究したことのある(ないし弱点が明らかな)相手であること
・刃物が通用する相手であること(動く石像など、無機物で肉体を構成する魔物は苦手)
※いずれも、相手が極端にライナーより弱い場合を除く。
 と、スーパーモード発動の条件
・攻撃手段が通常時の延長であるため、相手が上記の条件を満たしていること
・筋肉の均衡を保つため、自身が無傷であること(発動後も傷を負ってはならない。
 又、呪文などで治癒した場合も、筋肉の再結合には時間を要するため事実上使用不可能)
・バランス制御のため、重量を伴うor動きの妨げとなる装備品を全て排除すること

 最後に一つ。彼女の名「Liner」には、「本名」「線引く者」に続く「(歴史の)裏打ちをする者」という第三の意味も込めましたが、
 これは「証人」という意味ではなく、洋裁の裏打ちを行う人のことだと名づけた後知って、泣く泣く本編で語るのを諦めました。

306 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/13(水) 01:17:28 ID:49II7dKl0
>>YANA氏
毎度、乙であるます!
ライナー、良い名前だなぁ。
それ読んだとき俺にも電気が走ったわw

色んな伏線とかも回収してるから
読み返すのが楽しみ。
年末年始でまた最初から読み直すぜぃ!

307 :144:2006/12/13(水) 03:21:52 ID:h9wZDAMo0
http://up.mugitya.com/img/Lv.1_up66914.jpg.html

相変わらずの自分脳内ハイライトシーン落書きです!!フハー読んだら書かずにいられない!!
ライナー奥の手キター!!!肉体操作連続会心の一撃状態!!!
某格闘漫画の1日に30時間トレーニングの結果ってのが思い浮かんだのは俺だけでイイw

308 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/13(水) 10:38:49 ID:tPVmXuua0
YANAさん、乙です〜。
最近、投下ペースがシンクロ気味で助かりますです。
よーし、これで安心して書き直すぞ〜w

309 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/13(水) 10:39:28 ID:tPVmXuua0
コテ忘れたw

310 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/13(水) 23:17:22 ID:I+PGtND80
うおぉぉおYANA師GJJJ!!!!!11!
「最初の一歩を踏み出し、みんなを導ける人間」
…そういう意味ではアレイ以下ラダトーム集結メンバーも勇者と呼べるのかも知れませんな。

そしてコテ忘れるCC師も萌えw…いやドジッ娘スレじゃなくてツンデレスレだけど。

311 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/14(木) 13:33:56 ID:y7bdgJ/V0
寄生獣の後藤さんを思い出した

312 :YANA:2006/12/14(木) 19:17:34 ID:qVkXlnVy0
>144氏
いつもながら仕事ハヤスwww gj!!
ハンマの兄貴に関しては確かに意識せざるを得ませんね。
ただライナーは学者さんなのでトレーニングの類は一切してません。
特殊な体術も使いません。ただ正確無比な動きと強化された身体機能で
急所・神経を切り裂くのみという、戦闘というより手術や作業の感覚で彼女は戦います。
イメージに某瞬神さんや七夜の鬼神さんやらが入り混じってるので、
他にも無意識で混じってるのがあるかもです。

尚容姿に関しては、登場当初は髪はセミショートにバッサリ切り揃えた
裸眼の麗人を思い描いてましたが、144氏のデザインが面白かったので急遽採用。
そら体中いじくり回してる上、基本地下室に引籠もってる人の視力が平気ってのも変な話ですし、
かといって短髪にメガネだとドジっ子みたく(失礼)なってしまうので、髪もロングに。
最終的に初期と完全に真逆の容姿になってました。便利だな、台詞だけの小説はw

313 :144:2006/12/14(木) 22:29:52 ID:lSZBKwUD0
>YANA氏
ライナーはセミショートだったんすね…自分の勢いで描いた絵で話が変わってしまったなんて…。
小説のキャラデザって難しいんだなー。自分のイメージを押し付ける事になるんですね…。
自分のイメージと挿絵が全然違うと萎えちゃう人もいるでしょうし…反省。
誠に申し訳ないホントにすみません、と思う反面ちょっと嬉しい自分がいますw
ジャックの話は何となく思いついてしまったんですww絵にするならあんな感じになりそうだな、とwww

314 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/15(金) 00:24:58 ID:aB4kqZJz0
かっけえええほしゅうううう。

315 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/15(金) 14:36:59 ID:sKnepyWwO
保守っ

316 :前スレ50:2006/12/15(金) 23:06:51 ID:rpS27bMD0
おひさしぶりです。皆さんGJ!!
ライナーさんを描かせてもらいました。
http://www.usamimi.info/~horo/artwork/tsundere/images/20061215_liner.jpg

317 :YANA:2006/12/15(金) 23:30:05 ID:hBKZoh2g0
( Д)   ゚゚

忘れたころに突然現れおいしいとこを持っていく。そんな貴方が大好きです…!!

318 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 02:41:51 ID:/MeRCkoa0
もうね、このスレ大好きだ。
とりあえず保守させてもらいますよ

319 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 09:57:31 ID:c4+xAYMF0
俺も保守。このスレはドラFF板の宝になる・・・新参者ですがね。
全く職人さんたちは素人とは思えませんな。




320 :YANA:2006/12/16(土) 22:43:18 ID:8GI6WYNX0
三十分後に投下開始します。
第九節は一気に書き上げたので、出し惜しみなしです。
これ見た手の空いている方がいたら、5レスごとに支援くれると嬉しいです。

321 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 22:46:20 ID:C+eKvUY10
>>320
わかりました、支援します

322 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 22:48:37 ID:c4+xAYMF0
私怨。

323 :YANA 92-1:2006/12/16(土) 23:13:02 ID:8GI6WYNX0
 第九節 「大地の歌声」




「―――――――――何だ。これは」



 玉座の上方、映し出された彼方の光景を見上げながら、大魔王が怨嗟の声を絞り出す。
 アリスもまた、何人もの友人たちの顔ぶれを目の当たりにし、呆然とする。

「わからねぇか――――――これが、俺の、戦いだ」

「っ!」
 ゾーマは、傷だらけの体で立ち上がり、乱れた前髪越しに自分を見つめる勇者を振り返り、睨み付ける。

「…絶望に諦観した、このアレフガルドの人たちに、自分たちの力で運命を切り開けるってことを、教えること。
 それが。俺が、この旅の果てに導き出した、勇者としての答えだ」

 強い瞳で、ゾーマを睨み返し、己が胸中を語るゴドー。
 恐れも、迷いも、疑いも。全ての消え去った目。そこに滾るは、確かな闘志。
 今、このとき始まった、最後の戦いに挑む、ただそれだけの覚悟の眼。
「ゴ…つっ!」
 遠く、彼の名を呼ぼうとするアリス。だが、安堵した途端、忘れていた体の痛みが戻ってくる。
 それでも、彼女は一言たりとも彼の言葉を聞き逃すまいと、必死に、意識と耳の感覚だけは失うまいとする。

「その為に――――――我が、魔物をあの街に差し向けるのを待っていたというのか。
 我を挑発し。手を隠し。そんな死に体になるまで耐えて。待っていたというのか」


324 :YANA 92-2:2006/12/16(土) 23:14:32 ID:8GI6WYNX0
 ――――――それだけではない。
 もし。ゾーマが、ゴドーの希望を断つため、あの軍勢を用意していなかったとしたら。
 仮に魔物を差し向けるつもりがあったとしても。もし、それがラダトームでなかったとしたら――――――。

 この事態は、そう、数え切れないほどの数の偶然の産物。
 彼の戦いは、そのどれか一つが欠けても、開幕さえしなかった。

「…俺は…不器用だからな。こんな方法しか、思いつかなかった。
 勝手なことだって分かってる。このやり方が、どれだけの人を危険に晒すかも、知ってる。
 だから、考えた。他に、もっといい方法があるんじゃねぇかって。…でも、何も考え付かなかった…っ」

 ズリ。一歩、右足を踏み出して体の調子を確かめる。
 …まだ、動く。下半身は問題ない。いける。
 左腕もだ。痛みはあるが、どれも耐えられる。だが―――右腕は。

「俺は…俺一人の力で、世界を変える自信なんかない。あいつらの力も借りることが、必要不可欠だった。
 だけど、それはお前を倒してからじゃ遅い。お前を倒した後に、どんな良い方法を考え付いたとしても。
 アレフガルドと地上を繋ぐ道が閉ざされてからじゃ、あいつらの力は借りられねぇから」

 もう、物を握るほどの握力は残っていない。せいぜい、形だけの拳を作れる程度。
 …ならば、剣は置いていく。深く嵌め込んだ左腕の盾は、もう片手では外せない。
 盾をつけた腕で剣を振るうほどの余力も、既にない。

「おまえが、明日にも気まぐれを起こして世界を滅ぼさないとも限らねぇ。
 大魔王を倒すことを先送りにせず。俺の目的を果たし。
 世界を救う、俺の、いや、俺たちに今出来る方法をっ!俺は、もう躊躇わないっ!!」


325 :YANA 92-3:2006/12/16(土) 23:15:18 ID:8GI6WYNX0
「………」
「………」
 凛としたゴドーの叫びが、瓦礫で埋め尽くされつつある玉座の間に響き渡る。
 ゾーマは、如何にもつまらなさげに、呆れたようにゴドーを見下ろし口を開く。
「…愚かだな、ゴドー。そんなことをせずとも、貴様が目覚めさえすればか弱き人間どもなど、
 意のままに従わせるほどの器を有するものを」
「またそれ、か。………わかった、いいよ、はっきりいってやる」
 聞き飽きた、という風に、ゴドーは溜息をついてゾーマに言葉を返す。
 …それは、ゾーマが自身に見出した全ての否定の言葉。
 ゴドーは、大魔王が自身に期待するものを、突き返すために語る。
「俺が、仮に神様や、それに近い力を秘めていたと仮定してやる。…だけど俺は、そんなのいらねぇ」
「――――――な、に?」
 自身の信じる勇者の覚醒を、真っ向から否定する台詞に、ゾーマは耳を疑う。 
 だが、ゴドーは構わずに語り続け、その語気は、徐々に強まってゆく。
「俺は人間だ…神様なんかじゃねぇっ。
 特別な誰かに頼りきって何もしねぇ人間の世界を変えるための戦いに、そんな力はいらないっ。
 もし、俺が神様にならなくちゃ俺の目的を果たせないとしても――――――俺は、そんなのは御免だっ」

 ザッ。力み、痛みを踏み潰しながら、二歩目を踏み出す。
 体の撓みを振り払い、真っ直ぐに立ち上がり、最後の覚悟を、ゾーマへと。



「――――――神様になって得た勝利なんてっ!人間として生きた敗北に比べれば、クソほどの価値もねぇッ!!」 



「…ふ――――――フフ、フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ――――――!!」

 ゴドーの叫びを受け、突如手で顔を覆い、狂ったように笑い出すゾーマ。
 それを、彼とアリスはぽかんと見つめる。

326 :YANA 92-4:2006/12/16(土) 23:15:54 ID:8GI6WYNX0
「―――――――――よかろう。ならば、貴様は敗けろ」
 ずんっ。
 一頻りの哄笑の後。再び、ゾーマは玉座へと振り返る。
「…何だ?」
「貴様の意志はよく分かった。…なれば、そこで見ているがいい。貴様の選択が、如何に浅薄で無意味なものだったか。
 思い知り、後悔し、今度こそ絶望の海で溺死しろ――――――!」

 ――――――ブオンッ

 ゾーマの全身から、禍々しい魔力が立ち上る。
「…ゴドーよ、感じるか?この闇の魔力を」
 ニヤリ、と冷笑し、ゴドーへと問い掛ける。
 彼は、後に待つ言葉を知っているかのように、僅か、顔を険しいものへと変える。
「先ほども見ただろう。この魔力に呼応し、我が僕どもが動き出す様を。
 これを今一度発するその意味を…理解できるか?」
「――――――まさ、か」
 アリスの、全身の血が凍りつく。
 奴は。この場から自由に、魔物たちを動かせる。
 ならば――――――今から、彼らの目標を。別の場所に変更することも、可能という、こと――――――。
「やめっ…!!」
 びしりっ。骨が軋み、アリスの体を地面に押し付ける。
 …歪む視界に、ゴドーの姿を捉える。彼の失意の顔など、見たくはなかったが。
 それでも、決めたから。彼の戦いを、最後まで見届けると。そして、彼女の目に映った彼の顔は―――、

「―――――――――おまえは。何にもわかってねぇ」

 変わらぬ闘志。そして、再度の、溜息。
 目を閉じ、苛立たしげに、ゾーマへ非難を浴びせる。


327 :YANA 92-5:2006/12/16(土) 23:16:41 ID:8GI6WYNX0
「…なんだと」
「俺に絶望を与えるとか、後悔させるとか…そんなのは、もう何の意味もねぇんだよ。
 確かに、俺は沢山の人が死ぬのは、悔しい。絶望して、お前に負けるかもしれない」

 しかし、それでも。
 最も成したかったことは、成し得た。
 それは間違いなく。彼が願ってやまなかった、最大の望み。
 
「でも――――――おまえには、見えなかったのか…っ!!
 アレイのっ!エデンのっ!!ライナーのっ!!!ラダトームの人たちの、希望に満ちた目がっ!!
 俺をここで殺しても――――――おまえは、必ずあいつらに倒されるッッ!!!」

 ――――――ガキンッ

 アリスがされたように。ゴドーの顔面へと、瓦礫の破片が飛来する。
 頭部のサークレットが砕け散り、バサリ、と彼の黒髪が解き放たれる。
「ゴ…ドッ…!」
 ゴドーは、その弾丸を避けることも防ぐこともできず、背後に向かって仰向けに倒れ込む。
 ゾーマはギラギラと目を血走らせ、憎悪のまま息を荒げる。
「黙れ…!いいだろう、それほどいうなら見せてやる!史上最高の、阿鼻叫喚の宴をなっ!!」
 ゾーマが叫ぶと、立ち上る魔力が膨れ上がる。
 禍々しい邪気は霧散し、遥か彼方の戦場へと運ばれてゆく………が。

328 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 23:16:55 ID:C+eKvUY10
支援

329 :YANA 92-6:2006/12/16(土) 23:17:14 ID:8GI6WYNX0

「………」
「………」
「な――――――に――――…?」 

 ――――――魔物たちが、ラダトームへの侵攻をやめることは、なかった。


「…何故だ――――――!?何故、魔物どもが、我が命を聞かぬのだ…っ!!?」
 己が身より生まれ出でた魔性の雑兵たち。それが、自身の意思を無視するという有り得ざる事態。
 ゾーマは目の前で起こっている、あるはずのない現象に、再び狼狽する。

 ………そう。ゾーマは、気づいていなかった。

 自身の宿敵を陥れるために用意し、実行した全ての行為が。

 今や、その身を打ち滅ぼす光の刃となっていることに――――――!


330 :YANA 92-7:2006/12/16(土) 23:18:19 ID:8GI6WYNX0
 ・ ・ ・
 〜ラダトーム城・屋上〜


 ――――――ポロン。


「――――――うん。うん、わかってる。大丈夫、無理はしないよ。…ありがとう」

 銀色に輝く竪琴を手に、年若い青年は弦を引く指を一時止める。
 周囲を取り巻く、色とりどりの光球たちに微笑みながら礼を述べると、彼ら≠ヘ七色に輝いて散りじりに去ってゆく。
「………」
 それを確認すると、青年は穏やかな笑顔を、演奏中にしていた真剣なものへと引き締め直す。
 そして、再び弦を指で弾き、曲を奏で始める。
「♪〜♪♪〜〜…それにしても。彼、随分思い切ったことするなぁ。
 精霊さんたちが知らせてくれなきゃ、間に合わなかったよ」
 体に染み込んだ指の動きを軽やかに弾ませながら。
 青年は、数ヶ月前、この絶望に満ちた闇の世界で出会った、希望に満ちた少年の顔を思い返し、誰にともなく苦笑する。

 ――――――青年の名は、ガライ。
 絶望の世界・アレフガルドに生れ落ちた、流浪の吟遊詩人。
 諦観も絶望もせず。寧ろそれを嫌い、つかめぬ雲のように流れる、アレフガルドにおいては珍しい気質の人間である。
 そんな彼を。人は、放蕩の変わり者と称する。

 ――――――だが。真実は違う。
 ある人は曰く。「彼は、旅をしながら大地の声に耳を傾けているのだ」―――と。

 ガライが、生まれついて他の人々と違っていたのは。
 彼が精霊の声を聞くことが出来た≠アと―――である。
 先ほどの光球とて、それと分からぬ者が見れば、そこに在ることさえ認識できなかったろう。

331 :YANA 92-8:2006/12/16(土) 23:18:52 ID:8GI6WYNX0

 彼が『精霊』と定義するモノは、そこに居る≠ニ認識出来ぬだけで、地上にも、このアレフガルドにも、無数に存在し。
 そこで起きる、草木や獣、人々の営み―――時には、心の中をさえ観測する、世界の触手である。
 ガライは、何の偶然か。人の身で、空気や石ころと変わらぬ彼らを、逆に観測する力を持っていた。
 物心付く前から、普通と見るモノが違っていた彼が、他の人々と同じように育たなかったのは当然であった。
 そうして今、彼がここにいるのは。親交深き「友」たちから、これからこの大地で起こることを知らされたからである。

「…詩の題材をくれる約束、したからね。片手落ちになって、君に死なれちゃ困るんだ。
 僕だって、このアレフガルドに生きる一員だもの。出来ることは…しないとね」

 彼の持つ竪琴。その音色は、魔物を魅了し引き寄せる、魔性のメロディ。
 精霊たちから、ゴドーの計画、そしてゾーマの持つ力を知った彼は。
 時が来たら、魔物たちをこのラダトームに押し留めるために、この屋上に待機していたのだ。

「♪♪〜♪♪、♪〜…うん。いいメロディだ…これなら…!」

 大地を伝い、彼の耳、そして心へと。アレフガルドの人々の絶望が、薄らいでゆく感覚が届いてくる。

332 :YANA 92-9:2006/12/16(土) 23:19:36 ID:8GI6WYNX0

 …ガライは、かつてない歓喜に打ち震える。
 生来嫌っていた、人々の鬱屈とした、暗い、絶望の念。
 それが確実に消えてゆくのが、手に取るように分かる。


 ――――――それはまるで。この、アレフガルドの大地が唄っているようだった。


 ガライは、天高く声を張り上げる。
 この世界の明日を願う、生命の歌を。全ての闇を、遍く光として照らさんがために。



          ――――――明けない夜に、終焉を告げるために――――――!



     「さあ――――――詠え、大地よ!今、我ら人の子の心は、おまえと共にある――――――!!」



333 :YANA 92-10:2006/12/16(土) 23:20:08 ID:8GI6WYNX0
 ・ ・ ・

「馬鹿な…こんな…こんなことが…っ!!」

 困惑。恐怖。焦燥。
 数百年の間、世界の全てを、己が駒の如く思い通りに動かしてきたゾーマ。
 大魔王は、あらゆる未知の感情が綯い交ぜとなった精神に、正気を失い始める。

「――――――なあ、ゾーマ。何をそんなに、怖がってるんだ」

「!!」
 空虚な。しかし、闘志に満ち溢れた声が静かに、ゾーマへと届く。
 振り返ると、彼はまだ大地に、無防備に倒れこんだまま。
 構えも、呪文の詠唱も、何もしていない。ただ、その状態で喋っているだけ。
 …過剰な反応を示すゾーマに、ゴドーは淡々と語る。
「そう、慌てるなよ…単なる独り言だ。お前はただ聞いてればいい」
 
 全ての現象に過剰な反応を示さざるを得ない今の大魔王にとって。
 彼の言葉は、それだけで、畏怖の対象だった。

「ず………っと、引っ掛かってたんだ。
 魔物を王に化けさせて、圧政を敷いたサマンオサ。
 数ヶ月に一人ずつ、おろちに生贄を差し出させたジパング…俺が知らないだけで、それに準ずることがもっとあったかもな。
 …魔物が人間を生かしておく理由なんかねぇはずなのに。どうして、こんなまだるっこしい事をさせるのか。
 どうして、テドンのように一気に滅ぼしてしまわないのか…ってな」

 彼の独り言≠聞き。
 アリスの脳裏に、これまでの冒険が蘇ってくる。


334 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 23:20:28 ID:C+eKvUY10
支援

335 :YANA 92-11:2006/12/16(土) 23:20:49 ID:8GI6WYNX0
 …考えてみれば、そうだ。彼らは、いつだって国を滅ぼすことできた。
 それに、今のゾーマの所業。ともすれば、このアレフガルドは一息の間に不毛の大地となっていてもおかしくない。
 だが、それを、しない。そこに、何か理由があるのか―――?

「…いったな、ゾーマ。この、ラダトームの戦いは。アレフガルドに遍く映し出されている≠チて。
 魔物を止められなかった、さっきのおまえの反応を見て、確信したよ。その理由をな…!」

「ゴドー…?」
 彼は、分かったという。その答えが。
 知らず、薄らいだ痛みのことにも気づかず。彼の名を呼ぶ。
 前髪が目にかぶさったまま。彼はに、と口端を吊り上げ、叫んだ。

「――――――絶望を啜り、憎しみを喰らい、悲しみの涙で喉を潤す。アリス!
 この言葉は、比喩でもなんでもねぇ…!人の死を至上とするこの大魔王が、何故人を根絶やしにしないのか―――!」

「っ!」
 ダンッ。
 三度、割れた額の傷を物ともせず。ゴドーは力強く立ち上がる。
 それに呼応し、ゾーマは気圧され、後退る。

 よせ。やめろ…それ以上――――口を開くな―――!!


「当ててやろうか…ゾーマ!
 お前は―――人々の恐怖を!絶望を!!あらゆる負の感情を糧にして!!その力を高めている!!
 だから、お前は恐れる!!人々が勇むことを!立ち上がることを!!何より、自分を恐れない者をッッ!!!」



336 :YANA 92-12:2006/12/16(土) 23:21:48 ID:8GI6WYNX0
「く…あ…黙、れ…!黙れ、黙れ、黙れ、黙れ黙れ黙れ黙れ――――――!!」
 激昂するゴドーに怯み、放出する魔力を乱すゾーマ。
 …そして、気づく。既に、自分の魔力が少しずつ衰え始めていることを…!
「まだだ…まだ終わってはいない…!
 魔物どもが我が命を聞かぬのならば!人間どもにアレを見せねばよいだけのことだ――――――!」
 大魔王は、再び全身から魔力を放出し、術式を解除しようと試みる。だが―――!

 ――――――バチンッ

「ぬぐっ!?…これは…!」
 アレフガルドの基盤に、自身の魔力を流し込もうとした瞬間。
 闇の力は、相克する、光の魔力に押し返された。
「まさか………!!」
 ゾーマには、覚えがあった。
 その、かつて数百年間戦い続けた、自身と拮抗した唯一の存在が有した魔力の匂いに。
 人々の絶望を食らい、力を付けていなければ或いは敗北していたかもしれない者。
 大魔王は、ありったけの憎悪を込めて、見えぬはずの天を仰ぎ、かの者の名を絶叫する。


        「ルビス…!!キサマかあああァァァァァッッッ!!!」


337 :YANA 92-13:2006/12/16(土) 23:22:28 ID:8GI6WYNX0
 ・ ・ ・

 〜精霊の祠〜


「は――――――あ――――」


 祠から、暗雲の空へと臨み。跪いて両手を天に掲げ、全身の魔力を振り絞るルビス。
 額には汗を浮かべ、無理をしているのが誰の目にも明らかである。

 ――――――精霊神、ルビス。彼女がその名に相応しい力を有していたのは今は昔。
 ゾーマに封印され、つい先日目覚めた彼女には、今や以前の奇跡は望めない。

 それでも尚。彼女はこの場で、力を尽くす。

「させませ、ん―――ゾーマ…!!もう…私は…負けません!」

 精霊神としての力も、今や地に落ちたルビス。
 魔力量は既に並みの妖精たちと同程度。

 ――――――だが。それでも、彼女には今。彼女にしか出来得ない、たった一つの事があった。

(ゾーマ…今の私には、こんなことしか―――おまえが、元は私が創ったこの大地の基盤で成立させた魔術式を、
 維持させるくらいのことしか、出来ない…!)

 けれど。今は、それでも構わない。
 仮令、私に今、おまえと戦った頃の力があったとしても。私は、きっとこれ以上のことはしないだろう。

 ――――――だって。それが、彼の―――!


338 :YANA 92-14:2006/12/16(土) 23:23:27 ID:8GI6WYNX0
(…ゴドー。これで、いいのですね?これが、貴方の望んだ戦い…この地に生きる全ての人々の、戦いなのでしょう…!?)

 私は、この戦いに神の力は貸さない。
 私がして良いのは、人々が戦えるよう、そっと背中を押してあげることだけ。
 あとは、彼らが自らの足で立ち上がり、絶望の闇を振り払い、歩き出すことを見届ける、ただそれだけ―――!

「あ…」

 ――――――ポタッ。知らず、涙が頬を伝う。

 …そうしてルビスは、遥か昔の情景を思い起こす。

 己が故郷が崩壊した日を。愛しき人が、運命を背負った日を。

 そして――――――彼が、死に際に遺した言葉を。

(ねえ、ディアルト――――――これは、奇跡なのかしらね。
 貴方はあの時、いったわね。イデーンが滅んだのは、私たち精霊が五大家の名にしがみつき、力を合わせることをしなかったからだと。
 そんな束縛を逃れ―――皆が協力し合えば、同じ結果にはならなかったかもしれない、と…!)


 ―――――――――数え切れない日々を後悔した。

 数万年の時の中、何度も貴方の言葉を思い返した。
 何故、私たちはあんなものに縛られたのか。
 何故、尊きものと卑しきものを分け隔て、いがみ合ったのか。


339 :YANA 92-15:2006/12/16(土) 23:24:30 ID:8GI6WYNX0
「くっ…!」
 がくん。刹那、追憶に力を削がれ、両膝を屈する。
 …やはり、今の私にはこれが限界か。まだ、もう少し。ほんの少しだけもってほしい!
 せめて、この戦いが終わるまで!

 ――――――スッ

「…!…貴方、たち…」

 消えかける意識を、突如、流れ込んでくる温かな魔力に支えられる。
 倒れかけるルビスの脇に、二人の少女の姿をした妖精が、彼女を間に挟む形で居並ぶ。

「ルビス様…私たちの力もお使い下さい。
 数少なくなってしまった妖精ですが―――それでも私たちは、貴方の僕ですから」
「…エイド」
 エイドと呼ばれた、落ち着いた雰囲気を持つ妖精は、たおやかに微笑み返した。と。
「………オルテガは。死んだのね」
 目を伏せながら、もう一人の妖精がぽつりと呟く。が、
「でも、いいわ。彼の死で私が塞ぎ込んだら、私も人間と同じだものね」
 す、と面を上げ、自分に活を入れ、仕切り直しをするためにルビスへと身を寄せる。
「まったく、あのバカ、無茶苦茶するんだから。…でも、いいわ。一応、約束は守ってくれたんだし。
 …ルビス様!不肖、このイデアの力もどうぞ!!一緒に、寝こけた人間たちを叩き起こしてやりましょう!!」
「イデア…!」
 照れ隠しに愚痴を垂れながらも。イデアと呼ばれた快活な妖精は、口元に確かに笑みを浮かべていた。

       「だって――――――これは、私たち皆の戦いですから――――――!」

 そして、二人は申し合わせたように。それぞれに持つ対照的な雰囲気を、一時だけ同じくし、顔を綻ばせた。
「………ええ。ええ…!!」

340 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 23:24:39 ID:C+eKvUY10
支援

341 :YANA 92-16:2006/12/16(土) 23:25:05 ID:8GI6WYNX0

 その言葉が、ルビスの心に響いた時。

 彼女を生涯縛り付けるかに思われた重く、暗い咎の楔は――――――ぼろりと、音を立てて、脆く崩れ去った。

「っ!」
 ルビスは、強い闘志と希望を胸に、再度天を睨む。
 もう、一人ではない。彼女を支える、二人の妖精と。
 そして何より、守るべき未来と、明日を信じて。


(ディアルト…貴方の願いは、届いたわ――――――遥か、数万年の時を越えて。
 貴方の御子の手で。貴方の生まれ変わりとしてではなく、何も知らない、一人の人間としての意志で!
 ゴドーは、貴方が願ってやまなかった世界を作ろうと、戦っている…!
 私も――――――もう、逃げない!人々と、妖精と、精霊が手を取り合って、この闇は打ち砕かれる――――――!!)


342 :YANA 92-17:2006/12/16(土) 23:25:58 ID:8GI6WYNX0
 ・ ・ ・

 ゆきのふ…ゆきのふ、見えるか?怖いことは、何もないぞ…安心して、元気で生まれて来るんだぞ…!
 
 ええい、もどかしい!せっかくゴーレムの試作型が出来たというに!奴がいれば、あんな魔物、敵ではないぞ!
 おい、誰かおっさん黙らせろっ!!…くそ、こんな血の滾る戦い、今まで見たことねぇぞっ!!
 すげぇ…あいつら、本当にあの数の魔物倒しちまうかもしれねぇぞ…!!おい、武器屋のじーさんも起こして来い!

 あなた…あの、女の子の言ってた勇者ってもしかして…!
 ああ。きっと、ゴドーさんたちがゾーマを…!
 大将!俺にも武器を売ってくれ!居ても立ってもいられねぇ、俺は今からでも加勢に向かうぜ!
 あ、てめぇ抜け駆けするんじゃねぇよ!旦那、俺が先だぜ!!俺が!

「やめろ―――――――人間ども、黙れ…やめろおおおおぉぉぉぉぉっ!!」

 皮肉にも、ルビスから世界の覇権を奪ったゾーマに、アレフガルド中の強い思念が基盤を逆流し、届いてくる。
 徐々に、魔力が弱まる速度が高まってゆく。既に、大魔王の力は数刻前の六割を切ろうとしている。
「ゾーマ―――もう一度だけ、いうぞ」
「!!」
 我を忘れて叫ぶゾーマに、ゴドーは静かに言い放つ。
 背後からの勇者の声に、ゾーマはかつてない驚嘆を示す。
「俺を…絶望させても。ここで殺しても…体を砕いて、灰にして、俺を負かしても――――――」
 …視界が、霞む。
 だが、それでも語気は弱めない。
 高まった闘志のまま。正真正銘、最後の決意を咆哮する。



       「―――――――――人間≠ヘ、負けないっ!!絶対にっ!!!」



343 :YANA 92-18:2006/12/16(土) 23:27:07 ID:8GI6WYNX0

                  「―――――――――」

                  ―――――――――ぷちん。

               …瞬間。ゾーマの中で、何かが壊れた。


「え…?」
 ぐらり、と幽鬼の如く、ゆっくりと体を揺らすゾーマを目にし、アリスはいいようのない不安を覚える。

 何故。感じられる力は、先ほどまでと比べるべくもないほど、弱まっているのに。
 あの魔王から伝わってくる邪気は、その色を変え、増す一方である。

「――――――もう、よい。ゴドーよ」
 …ゾーマが、ゆっくりと口を開く。
 ずしん、ずしんと、瓦礫を踏み潰し、ゴドーへと歩み寄ってゆく。
「…世界も。人間も。ルビスも。もう、どうでもよい。
 元より、我が殺したかったのは貴様だけ。他の者など、退屈凌ぎの人形と、力を得るための家畜でしかなかった」
「………」
 秒毎に近づくゾーマに対し、ゴドーは間合いを詰めるでも、離すでもなく、ただ直立不動で待っている。
「確かに、我が力は衰えた――――――が。満身創痍、加えて剣を握ることも適わぬ貴様を殺すのには、余りある力だ」
 ズン、ズシンッ。
 4メートル、3メートルと距離を縮め、互いの間合いが重なる。
 やがて、ゾーマは歩みを止め、ゴドーを見下ろし、あの不気味な笑いを浮かべもせず、吐き捨てるように呟く。
「…動かぬ、か。覚悟を決めたか。言葉どおり、全てを彼奴等に委ねたようだな」
 ゾーマの右腕が、上がる。
 今度こそ、彼を間違いなく殺せるように。頭上から腸を突き破り、その魔爪は大地へと突き刺さるだろう。
「…っ!!」
 そこで、アリスは漸く状況を理解し、意識を奮い立たせる。
 だが、僅か、遅かった。

344 :YANA 92-19:2006/12/16(土) 23:27:42 ID:8GI6WYNX0

 ――――――ブオンッ

 風を切る音を立て。ゾーマの右腕が、振り下ろされた。
 彼女の言葉が響いたのは、その寸分、後であった。

「ゴドーッッッ!!!」

                 続く言葉は。やはり寸分後だった。


    「――――――悪いな。あいつらを疑う気は微塵もねぇが。自分が負けるつもりも全くねぇよ…!!」


 全神経を総動員し。視界の上から飛来する、豪槍のごときゾーマの腕を捉える。

 …右腕は、もう武器を持てない。残っているのは僅かな握力。
 じきに、手首と肘も感覚がなくなって、動かなくなるだろう。
 どうせ用を成さなくなる右腕だ。ならば、最後の一滴まで、その力を絞り尽くすのみ。

 ――――――見極めろ。奴の腕の動きを。あんなものは、ただ速いだけだ。

 難しいことは、何もない。今まで、何百、何千、何万回と繰り返してきた工程を、再現し。

 それに一手を加えるだけ。

 掴み取れ。己目掛けて疾走する――――――あの右腕≠――――――!!


345 :YANA 92-20:2006/12/16(土) 23:28:39 ID:8GI6WYNX0

                 ブシュウウウウゥゥゥゥゥッッッッ


「があ………っ?!!」
「え…!?」

 刹那。ゾーマとゴドーの間に、青白い閃光が走る。
 ゾーマの右腕からは白煙が立ち上り、その姿を覆っている。

「きさ…ま――――――ナニをしたァっ!!?」
 あの閃光で、負傷したのか。ゾーマは白煙の中に左手を伸ばし、痛みを堪える様な姿勢をとる。

 …そして、アリスは驚愕する。その、大魔王の、白煙が晴れた先にあった光景に。

「う…そ…」

 ―――――――――ゾーマの右腕が、ない。

 何故。ゴドーの手に、剣は握られていない。
 否、仮に切り落としたとしても、タイルに腕が転がっているはず。それさえも、ない。

 どうして――――――?
 突然、蒸発してしまったとでもいうのか――――――?


「滅びこそ、我が喜び。死に逝く者こそ美しい=\―――――か」


「「!?」」
 息切れし、最早話すことすら苦痛であるという有様のゴドーの言葉に、注意を引かれる。

346 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 23:28:47 ID:C+eKvUY10
支援

347 :YANA 92-21:2006/12/16(土) 23:29:53 ID:8GI6WYNX0

 そして、二人は目にする。

 深く腰を落とし、突き出され、今この瞬間にもその機能を停止しようとしている彼の右腕の先。
 立ち上る、ゾーマがなくなった右腕から発していたのと同質の白煙と。

             それが晴れた先にある、青く輝く右手を――――――!

「生命力の逆流。…賭けてみた甲斐があったよ。
 ――――――闇の力の温床であるおまえ相手なら、もしかしたら攻撃になるんじゃねぇかって思ってな」

 やまが当たった、という風に、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるゴドー。
「どういう…ことだ…!!」
「さあ。悪いが…説明してる体力はねぇ」
 激昂するゾーマを物ともせず、右腕の調子を確かめなおす。

 ――――――もって、あと五分。腕が動かなくなるのが先か、碌にない魔力が尽きるのが先か。
 どちらにしても、長くは続かない。


348 :YANA 92-22:2006/12/16(土) 23:30:33 ID:8GI6WYNX0
「ゴドオオオォォォッッ!!!」
 吹き飛ばされ、離された間合いをゾーマが再び詰める。
 残った左腕が、後ろへと引き絞られる。
 …前半の一撃で負傷していた右腕とは違う。完全な状態の左腕の一突き。
 恐らく、こちらは掴んで一発で破壊、というわけにはいかないだろう。
「は、あ…!!」
 
 ガキンッッッ

「ぬ…!」
 研ぎ澄ました神経で、ゾーマの一突きを見極め、左腕の盾で力任せに叩き落す。
 今の自分では、まともに防御しては一撃で絶命される。だから、その軌道を脇へと逸らす。それで、十分。

 ぐるんっ。がら空きになったゾーマの右脇へと、体を滑り込ませる。


 ――――――そして。右腕をゾーマの胸へと突き出しながら、再び、その呪文≠唱えた。



            「――――――ベホマ―――――――――ッッッ!!」



 ――――――全く以って、出鱈目な戦い方だが。生憎と、俺にはもうこれしか残ってない。
 初めてのやり方だから、勝率などわからない。…だが、躊躇いはない。

 何故なら――――――彼の後ろには、立ち上がった人々が剣を構えて待っていてくれるのだから!

 ゴドーは今。全ての重責から解放され、一人のただの人間として大魔王へと挑む。
 恐らくは、生涯一度きりの私闘。初めて後ろを任せられる戦いへと。彼はその魂を懸けた――――――。

349 :YANA:2006/12/16(土) 23:31:38 ID:8GI6WYNX0

――――――それは、閉じた世界の、輪廻する輪を断ち切るには、余りにも小さな穴でしかなかった。

だが、彼と、人々の戦いが忘れられようとも。

その戦いが、あった≠ニいうことは、必ずいつか、思い出される。

――――――間違えてはならない。

特別な力や、特別な誰かが、世界を変えるために必要なことも確かにあるだろう。

だが、それは、それ一つで全てを決するものであっては、絶対にならない――――――。

特別なモノに縋った世界は。それがなくなった時、余りにも脆く滅び去ってしまう。

世界は多くの、何でもない人々がいて、初めて世界¢ォりえるのだから。

貴方はどうか。それを、忘れないで…。


                    アリスワード 最終節

                       COMING SOON...

350 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/16(土) 23:39:33 ID:C+eKvUY10
終わったかな?GJ!

351 :144:2006/12/16(土) 23:46:15 ID:CzCcWg1K0
終わり、かな?YANA氏蝶GJ!!!
ここでベホマ攻撃とは予想GUYでした、乙様!!!

352 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/17(日) 00:17:25 ID:oRQQcEsNO
YANA氏GOD JOB!!!!
ついにクライマックスですね〜。
このスレを見つけ、まとめでYANA氏の作品を一気に読んだ時の感動は忘れられません。
これからも頑張ってください。

353 :前スレ50:2006/12/17(日) 00:23:50 ID:JsfqiYaJ0
YANA氏すごいです!!超GJ!!!

354 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/17(日) 00:59:03 ID:Kq9FmDNo0
寝る前にテンション上げさしてどうするんすかYANA氏・・・

GJ!!ただひたすらにGJ!!!!

355 :YANA:2006/12/17(日) 02:54:51 ID:htBU3w460
 指摘される前に言っておく!!俺は『うしおととら』が大好きだッ!!!!!11!!111(挨拶

 こんばんわ、何故だかダブル螺煌斬のAAを貼りたくなった、打ち切りネタも大好きのYANAです(最低だ

 まずは、ID:C+eKvUY10さん支援ありがとうございました。

 この第九節は、今まで書きたくて書きたくて仕方がなかった渾身の一話でしたので、殆ど苦労なく
 最高に楽しんで書けました。大音量でGONGかけながら書いてたらこっちが涙ぐんできたよ!

 『ドラクエ3』という作品を構成する要素を総動員し、俺に出来る最高に熱い展開をありったけぶちこんだつもりです。
 …ぶっちゃけ最終節がこの第九節よりも熱いものに仕上がるか、と問われると、やや自信がありません。
 正直、許されるのならここで打ち切って綺麗に終わらせることも考えたい(ぇー
 だけど、第三節でもいわれてますし。始めてしまった以上は、ちゃんと終わらせないと、ですね。


 さて、執筆さんの作品を読み、スーファミ版3の二人旅を一気に終わらせ、
 尚燃え尽きない魂をぶつけるために書き始め、VIPから続けてきた我が人生初の公開SSも、残す所あと一話となりました。
 最終節は今回のような、一気投下をするつもりです。ってか、します。
 三日くらい前に時間の予告をするので、手の空いてる方はまた支援をお願いいたします。

 残り一節、気合入れていくぞー。GONG鳴らせッ!!!

356 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/17(日) 03:14:10 ID:nHPPXRMd0
YANA氏GJ!!

ゆきのふ…。蝶久しぶりに聞いたよww
DQ1の複線まで…。
⊂⌒〜⊃*。Д。)-з


357 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/17(日) 03:20:13 ID:0ZN0kc840
今まで銀の竪琴の価値って…とか思ってたんだけどこういう風に使えるんですね!
YANA氏マジ乙です!!

358 :144:2006/12/17(日) 03:47:24 ID:kwLElYao0
むしろうしとらツッコミありだったんすねwww
この調子だと以前言ってたように年内完結ですかね?
(´・ω・`)ちょっと寂しい…

359 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/17(日) 07:35:31 ID:Qw5Lob/w0
YANAさん、乙です。
クライマックス、GJに盛り上がってますね!
最終章も頑張ってくだされ〜。

つか、あれ?前回投下してから、もう10日以上経ってるのか。。。おかしいな
しばし様子を見てから投下する所存

360 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/17(日) 07:55:33 ID:Xm0MSiGSO
うおおおお!!!!まじで!目頭が!熱くなったッ!GJとしか言えない!

361 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/17(日) 10:37:50 ID:3y9Qgv1w0
ベホマあああああああああああああ。

362 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 01:29:56 ID:t+qhHY3W0
ただただGJと言わせて貰おう

363 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 01:57:30 ID:JgSTwgrM0
ベホマアアアアアアアア!!!

364 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 02:47:06 ID:NGaQYaZ20
毎回楽しませてもらってます。

365 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 04:08:59 ID:yw9pV+PF0
そろそろいいかにゃ?

366 :CC 14-1/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 04:41:11 ID:yw9pV+PF0
14. Just as Long as We're Together

 エルフの隠れ里をさんざん探し歩いた疲れを抜く為に、次の日は丸々休養をとってから、俺達は姫さんの姉貴の足取りを追って、南の洞窟に向かった。
 この洞窟の魔物は、結構手強い――というか、面倒臭ぇ。
「早くしなさいよっ!!」
 からかったのを根に持ってやがるのか、未だに俺には愛想の悪いマグナに叱咤される。
 うるせぇな、分かってるよ。
 とは口に出さず、キノコの化け物に眠らされたリィナの体を抱え上げる。
 わらわらと集団で群がってくるこいつらの吐く息が、とにかく厄介だった。催眠効果を持った攻撃をしてくる魔物には他所でも出くわしたが、洞窟内という限定された空間の所為か、やたらと効きが良い気がするぜ。
 キノコ共が眠らせた獲物を狙って、狼モドキの魔物が寄ってくるのも有難くない。万が一、全員寝ちまったら、あっさり噛み殺されかねない。
「リィナは……死んでしまったのか?」
 シェラの側までひいこら持ち返って、地面に横たえたリィナを、姫さんが不安げに覗き込んだ。
 そう。エミリーもついてきちまったのだ。
 俺は危ないから絶対ダメだって言ったんだけどな。すげぇ駄々こねられたけど、心を鬼にして置いてきたんだぜ。
 なのに、こっそり後をつけてきやがったんだ、このお転婆姫様は。
「いや、眠ってるだけだよ」
「そうか。良かったのじゃ」
 ほっと浮かべた笑顔の可愛らしさに、今の窮地を一瞬忘れかける。
 リィナもリィナだぜ。
 一旦引き返して、エミリーを里に帰そうって俺が主張した時は、「ここまで来ちゃったんだから、連れてってあげようよ。だいじょぶ、ボクがちゃんと守ってあげるから」とか言ってた癖によ。
 気持ち良さそうに寝こけやがって。お前が眠っちまったら、こっちは大変なんだぞ。
 ここはひとつ、一刻も早く目覚めてもらう為に、王子様のキスでだな――
「あっ――マグナさんっ!!」
 アホなこと考えていた俺は、シェラの叫び声で振り返る。
 マグナまで、くたりと地面に倒れ込んでいた。
 おいおい、お前まで眠ったら、前衛がいなくなっちまうじゃねぇかよ。勘弁してくれ。
『ベギラマ』
 残ったキノコ共に呪文を喰らわせて、ようやく全滅させる。
 だが、少し離れて、魔狼がマグナに襲い掛かる機会を窺っていた。

367 :CC 14-2/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 04:46:20 ID:yw9pV+PF0
「ここに居ろよ!」
 俺はシェラとエミリーに声をかけて、マグナの元に走った。
 グルル、とか物騒な唸り声をあげつつ牙を剥いた魔狼が、おさまりかけた炎壁を回り込んで、マグナに忍び寄る。無防備な首筋でも狙われたら、ひと噛みでお陀仏だ。
 くそっ、ふざけんな。
 間一髪で間に合った俺は、魔狼を蹴り飛ばして引き離そうとした。
 だが、ひょいと躱されてしまう。やっぱり、リィナみたいにはいかねぇな。
 普段はほとんど使わないナイフをフクロから取り出し、マグナと魔狼の間に立って構える。
 すげー心許ないんですが。
 しかし、魔狼はいちおう警戒してくれたらしく、口角から唾液を滴らせて唸りながらも、すぐに仕掛けては来なかった。
 助かるぜ。魔法抜きの俺がてんで弱っちいのが見抜けねぇとは、所詮ケダモノだな。
 もうちょいでお待ちかねの呪文を唱えてやっから、それまでいい子で待ってろよ、頼むから。
 ところが、俺の考えは全然甘かったのだ。
 シェラの脇に置かれた手持ちランプの灯りが届かぬ暗がりに、もう一匹の魔狼が潜んでいた。
 カチャカチャと岩床を蹴る爪音がしたかと思うと、忙しない呼気があっという間に背後に迫る。
「グァウッ」
「くっ」
 振り向きざまに横薙いだナイフは、いとも容易く躱された。畜生、俺の攻撃、全然当たんねぇよ。
 ダメだ、やっぱ呪文でなけりゃ――
「ぅあっ!!」
 痛ぇっ――つか熱ぃっ――つか痛ぇっ!!
 背を向けるなり、それまでナイフで牽制していた魔狼が噛み付きやがった。右のふくらはぎだ。膝をつく。痛ぇいてぇ痛ぇ、ふざけんな、コラァッ!!
 反射的に振り回したナイフが、魔狼の右眼を抉る。
「ギャンッ」
 悲鳴と共に牙が抜かれた。
 ざまぁみろ。止まった標的なら、さすがに俺だって当てられんだ。
 だが、まだくたばってねぇ。
 くそ、痛ぇ。
 鼓動に合わせて、激痛が脳天を突き抜ける。
「ヴァイス!?」
 エミリーの叫び声が聞こえた。いいから声出すな。そっちが狙われちまうぞ。
『ホイミ』
 シェラだ。ふくらはぎの傷が癒える。偉いぞ。お前も、頼りになるようになったな、マジで。

368 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 04:47:29 ID:BdSsZQdjO
私怨

369 :CC 14-3/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 04:49:44 ID:yw9pV+PF0
 しかし――ちょっと目を離した隙に、今度は反対側の魔狼が、マグナの喉笛に噛み付こうとしていた。
 だから、ふざけんなっての!!
 ナイフを握った右手より、こっちのが近ぇ。
 俺は咄嗟に、マグナの首の手前に左腕をついて、魔狼に噛ませた。
 痛いんだかなんだか、もうよく分かんねぇ。
 無理な体勢で突き出したナイフは、軽々と跳び離れた魔狼に届かない。
 うわ腕からすげぇ血ぃ出てる。
 ヤバいんじゃねぇの、これ。
 痛ぇ、くそ、呪文……集中できねぇ。
 リィナもマグナも、まだしばらくは目を覚まさないってのに。
 このままだと、本気でマズい。
 全滅――
 そんな言葉が脳裏をよぎる。
 嘘だろ――こんな雑魚相手にかよ。
 血が流れる。力が抜ける。立ち上がれない。
 俺は力を振り絞ってナイフを振り回し、少しでも両脇の魔狼を遠ざけてから、マグナに覆い被さった。
 こいつが噛み殺されるところなんて見たくねぇんだよ。
 せめて、俺が死んでからにしてくれ――って、諦めたら、ホントにみんな死んじまうだろうがっ!!
『ヒャド』
 やけくそ気味に放った呪文は、奇跡的に発動した。
 さっきナイフで傷を負わせた魔狼が凍りつく。
 あと一匹――
 その前に薬草――いかん、頭がぼーっとしてきた。呪文発動後の脱力感が、普段の比じゃねぇぞ、これ。
 ハッハッ、と魔狼の立てる息遣いが、やたらと耳につく。
 半開きの口からだらりと垂れた舌を伝って、唾液が滴り落ちる。
 くそ、来るなら来やがれ。俺に噛みつきゃ動きが止まんだろ。そん時に、ナイフをぶっ刺してやる。
 だから、俺が気を失わねぇ内に――
 さっさと来やがれ――
「こっちじゃ!!」
 今のは――姫さんか!?
「この汚らわしい犬コロめ!!わらわが相手じゃ!!」
 バカ、止めろ、何言ってんだ。ノアニールの爺さんから拝借した『身躱しの服』とやらのお陰で防御は多少マシでも、攻撃する手段は何も持ってねぇだろうが。

370 :CC 14-4/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 04:53:33 ID:yw9pV+PF0
「く……そっ」
 俺が振ったよれよれのナイフは当然かすりもせず、魔狼は嘲笑うようについと犬面を逸らすと、エミリー達に向かって駆け出した。
「だめぇっ!!」
 シェラは魔狼に背を向けて、エミリーを庇ってぎゅっと抱き締める。
 バカ、それじゃ、お前が先に噛み殺されるだけだ。そんなことしてねぇで、バギ唱えろ――無理か。今さっきホイミを唱えたばっかだもんな。
 ヤベェ。どうすりゃいいんだ。
 身を起こそうとして、地についた左腕に激痛が疾る。
 ただでさえ乱れた思考が撹乱されて、回答を導き出せない。
 視界が暗くなる。
 混濁しかけた意識を、必死に繋ぎ止める。
 しっかりしろよ、馬鹿野郎。あいつらが死んじまう。
 だが、魔狼がシェラに襲い掛かるのは、あっという間だった。
 何をする暇もない。
 唸り声をあげて跳びかかる――
「ギャフッ」
 霞む視界の中で、魔狼が弾き飛ばされた。
 二度、三度と地面で跳ねて、俺の方まで戻ってくる。
 びくんびくん、と全身を何度か痙攣させて、それきり動かなくなった。
「よかった、間に合って――だ、大丈夫ですか、シェラさん」
 この声は。
 鼻っ面が陥没して完全にくたばっている魔狼から、声のした方に視線を移す。
 エミリーを抱き締めたまま、ぺたんと床にへたり込んだシェラを、オロオロしながら覗き込んでいるのは――フゥマだった。
 なんで、こいつが――とにかく、助かった……んだよな?
 痛ぇ、くそ痛ぇっ。
 安堵した瞬間に、噛まれた左腕の痛みがいや増して、俺は気絶できなかった。
 のろくさと身を起こし、薬草を取り出す為にフクロを探る。
 気を失っちまった方が楽だぜ。痛ぇな、くそっ。

371 :CC 14-5/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 04:56:13 ID:yw9pV+PF0
「お主は……っ!!」
 エミリーが、フゥマをぎろりと睨め上げる。
「あれ?姫さんじゃんか。なんだこれ、なんで――そ、それより、お怪我はないですか、シェラさん!?」
「あ、はい……大丈夫です」
 まだ少し呆然としながら、シェラはこくりと頷いた。
「よかった――立てますか?」
 フゥマが差し伸べた手を、エミリーがぱしりと叩いた。
「えぇい、わらわ達に寄るでない!!一難去ってまた一難とは、このことじゃな!?」
 しっしっ、と手で追い払う仕草をする。
「どうせ、その辺にお主の仲間が隠れておるのじゃろ。わらわにヒドいことすると、この者達が黙っておらぬぞ!?」
 いや、ごめん、姫さん。今は無理だわ。
「別にもう、姫さんを捕まえようとか思ってねぇってば。あいつら帰っちまって、今はオレ様独りだしさ」
「……信用できぬのじゃ」
「ホントだっての。ほら、シェラさん、手を――」
 懲りずに差し伸べられた手を、再度エミリーが叩き落とす。
「不埒者め!!シェラに触れるでない!!」
「この……っ」
「助けてもらったのに、そんな言い方しちゃダメですよ」
 結局、自分で立ち上がったシェラに窘められて、エミリーは不満げな顔をした。
「じゃって、この者はわらわに痛い事したのじゃぞ!?なんで、シェラがこの者の味方をするのじゃ!?」
「味方なんてしてないです。ただ、今は助けてくれたじゃないですか」
「それは……そうなのじゃが」
「だったら、まず先に言うことがありますよね」
 シェラに微笑みかけられて、エミリーは唇を尖らせた。
「……イヤじゃ。わらわは、その者は好かぬのじゃ!!」
 捨て台詞を吐いて、ぱたぱたと俺の方に駆けてくる。
 苦笑してそれを見送り、シェラはフゥマに頭を下げた。
「あの……本当に、ありがとうございました」
「い、いや、全然。それより、ホント無事でよかった」
 フゥマは照れ臭そうに頭を掻く。

372 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 05:02:27 ID:KG1FKeKUO
初支援

373 :CC 14-6/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:03:14 ID:yw9pV+PF0
「ヴァイス、大事ないか?」
 目の前にしゃがんで、エミリーは心配そうに俺を覗き込んだ。
「ああ、なんとかな」
 傷自体は薬草であらかた治っている。血が抜けたお陰で、ちっとばっかし頭がくらくらするけどな。
「助けてくれたことには、お礼を言います。でも、もしまた姫様を捕まえにきたなら――」
 顔を上げたシェラに睨まれて、フゥマは慌てて両手を振った。
「い、いや、そんなつもりないですって。マジで。さっきも言ったけど、その内また出直そうってんで、あいつら先に帰っちまったし、理由が無いですもん」
 他の連中が未だに姿を現さないところをみると、独りだというフゥマの言葉は嘘ではないらしい。
 やれやれ、あのにやけ面が居なくてほっとするね。あいつとやり合うのだけは、勘弁願いたいからな。
「じゃあ……どうしてここに?」
「いや、ホント、偶然なんスよ。こんなド田舎まで滅多に来ねぇし、タマには目先の違う魔物で修行しよっかな、とか思って残っただけなんス」
「修行って、お独りでですか?」
「ええ、まぁ……」
 目を見開いたシェラの顔が、憂いを帯びる。
「そんな、危ないですよ」
「あんな者にも気を遣うとは、シェラはホントに優しいのじゃな」
 しゃがんだ膝に両手で頬杖をついて、拗ねたみたいにエミリーは愚痴をこぼした。
 出会った翌日からこっち、ほとんど一緒に行動して、すっかり仲良くなってたからな。面白くないらしい。
「や――だ、大丈夫ッスよ。ほ、ほら、オレ様、超強ぇですから」
「それは分かりますけど……」
「や、は、その……心配してくれて嬉しいッスよ。でも、この通りピンピンしてますし、薬草切れたから、もう戻るトコだったし――」
 フゥマは、頭皮が剥がれるんじゃないかと思うほど、ガシガシ頭を掻き毟った。
「それに、その……シェラさんが危ないトコを助けられたんで、オレ、ここで修行しててホント良かったッス!!」
 力いっぱい目を瞑り、上を向いて大声で言う。
 相変わらず恥ずかしいヤツだな。
「……もしかして、あの者はシェラに惚れておるのか?」
 姫さん、惚れるなんて言葉を覚えちまったか。
「かもな」
「ふむぅ、そうなのか……なんじゃ?」
 突然、こちらに向かって突進するように駆けてきたフゥマを目にして、エミリーは腰を浮かせて身構える。

374 :CC 14-7/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:07:15 ID:yw9pV+PF0
 だが、フゥマはエミリーを素通りして、俺の首根っこに腕を絡めた。
「ヤベェ、やべーよ」
 意味不明なことをほざきながら、俺の首をぐいぐい締め上げる。
「やっぱ実物は、すげぇ可愛いよ。しかも優しいよ。すげぇ好みだよ」
 止めろバカ、苦しいっての。
「ヤベェ、どうしよう、オレ。マトモに顔見れねぇよ」
 知らねぇよ。離せ、この腕白坊主。
 見ろ、お前。置き去りにされたシェラが、きょとんとしてるじゃねぇか。
「お主、シェラに惚れておるのか?」
 物凄い率直に問われて、フゥマは一瞬呆けてから、慌ててエミリーの口に手を伸ばした。
「バ、バカ、声でけぇっての。聞こえちまうだろ!」
 一歩退がって手を払い除け、エミリーはいかにも興味深いと言わんばかりに、フゥマとシェラを見比べる。
「いい加減、離せよ」
「あ、悪ぃ」
 俺の首からほどきかけた腕に、フゥマはもう一度力を込めた。痛ぇっての。
「つか、手前ぇ。よくもこの前は、セコい真似してくれやがったな」
 あ、バカなのに覚えてた。
 だが、あの厄介なにやけ面がこの場に居ないのは、好都合と言える。
 こいつは、あんまり物を深く考えそうにねぇからな。エルフの件を、適当に誤魔化しておこう。
「そのことだけどさ、お前ら、エルフをスカウトしようと思って、ここまで来たんだろ?」
「あ?なんであんたが知ってんだよ、そんなこと」
「いや、前に俺も少し話を聞いたんでな。やっぱそうなのか。じゃあ、あのにやけ面に、お前から伝えといてくれよ」
「何をよ?」
「エルフってのは、呆れるくらいおっとりしてて、とても戦えるような連中じゃねぇってさ。スカウトしても、無駄だと思うぜ」
「おっとりしてるかぁ?」
 フゥマは、ちらりとエミリーに目をくれる。
「いや、その姫さんが特別なんだ。他の連中なんて、俺達を見ただけで慌てて逃げてくんだぜ」
「まぁ、確かに向いてるようにゃ見えないけどさ」

375 :CC 14-8/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:11:25 ID:yw9pV+PF0
「なんの話じゃ?」
 エミリーが口を挟んでくる。
「いや、エルフは喧嘩が嫌いだって話だよ」
「うむ。わらわ達は喧嘩など好かぬのじゃ」
「それに、姫さん以外のエルフは、人間が大嫌いなんだ。協力なんて、してくれないと思うぜ」
「ふぅん……ま、いちおう伝えておくけどさ」
 バカは素直で助かるが、伝えるのを忘れやしねぇだろうな。
「頼んだぜ」
 いちおう、念を押しておく。
「ところで、お前ら一体、何者なんだ?」
 こいつ、口が軽そうだし、ついでにいろいろ聞き出してやるか。
「強いヤツを集めてるとか聞いたけど、何が目的だ?」
「いや〜?オレ様も、詳しいこた知らないんだけどね」
 フゥマはやっと俺の首を開放して、立ち上がりながら答える。
「オレ様達は、魔王を倒す為に集められてんのよ」
「はぁっ!?」
 返ってきたのは、全く予想外の答えだった。
 それが本当なら――こいつら、どっちかっつーと、敵じゃなくて味方なのか?
「それって、どういう――その、なんだ。誰が、お前らを雇ってるんだ?」
「いや、だから詳しいこた知らねって」
「はぁ?」
「いンだよ、細けーコトは。魔王ったら、この世でイチバン強い魔物っしょ?そいつをぶちのめすなんて、すげぇ燃えるじゃんかよ。男なら、そんなハナシにゃ乗らなきゃウソでしょ」
 格好良いつもりか、ニヤリと笑う。阿呆丸出しにしか見えませんが。
「いや、あのな。誰に雇われてるのか知らないってこたねぇだろ」
「ん〜、でも、別に困んねぇしなぁ。あんたも会ったろ?あのフード被ったヤツ。あいつが連絡役みたいのしててさ。命令とかも全部あいつを通じて伝えられるから、その上のこた良く知らねんだよ」
 お前、大雑把にも程があるだろ。
「それに、雇われてるっても、まだ駒が揃ってないとかでさ。タマに今回みたいな召集がかかる程度で、普段はそれぞれ勝手に暮らしてんだ」
 自分が騙されてる可能性とか、考えねぇのかよ……考えねぇんだろうなぁ。
 このバカは、詐欺で身持ちを崩すに違いない。
 どうも、こいつの話を鵜呑みにするのはマズそうだ。敵か味方かってのも、今は保留しておいた方が良さそうだな。

376 :CC 14-9/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:14:04 ID:yw9pV+PF0
「あの……」
 いつの間にか近くまで来ていたシェラに、いきなり背後から声をかけられて、フゥマは文字通り跳び上がった。
「は、はい!?」
 お前、声が裏返ってるぞ。
 ぎこちなくフゥマが振り向くと、シェラは手にした薬草を差し出した。
「これ、少ないですけど使ってください。薬草、残ってないんですよね?」
「え?いや、いいスよ。平気ッス」
「でも、助けてもらったから……お礼です。受け取ってください」
「あ、はい。じゃあ……」
 へこへこ頭を下げながら、薬草を受け取るフゥマ。
「あの……本当にありがとうございました」
「い、いや、いいんですって。全然、大したことじゃないスから」
「それで、あの、私――」
 ヒドく思いつめた顔で何かを言いかけたシェラを見て、フゥマはぎくりとする。
「あ、あの、オレ、そういうつもりで助けたんじゃないですから。全然、期待とかしてないし――」
「いえ、そうじゃなくて――」
 シェラが言い募ろうとした時だった。
「ん〜……っ」
 目を覚ましたリィナが、床でもぞりと動いて伸びをした。
「あ、あの、薬草もらっときます。ありがとう。それじゃあ、また今度!」
 フゥマは片手を上げて踵を返すと、逃げるように出口に向かって走り去った。
「なんじゃ、あやつ急に」
 それはな、姫さん。あのバカは、フラれるのを怖がって逃げたんだよ。
 つか、また今度って。約束もしねぇで、どうやって会うつもりだ、あいつ。
「しかし、わらわや木々にしたことは許せぬが、思ったより悪いヤツでもなさそうじゃな。助けてくれた礼くらい、言ってやってもよかったのじゃ」
 そうね。悪いヤツじゃないかもな。ヘタレだけど。
「ふぁっ?」
 マグナも目覚めたようで、ぴくんと体を震わせた。
「……ちょっと、何やってんのよ」
 起きて早々、不機嫌な声を出す。

377 :CC 14-10/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:16:37 ID:yw9pV+PF0
「手」
「は?」
「どけなさいよ」
 そういや、立ち上がる気力が無くて、マグナを抱えたまま座り込んでたんだった。
 眠ってる間に、そこらに放り出すのを忘れてたぜ。
「ああ、悪ぃ」
 いや、別に何も悪かねぇか。胸に手を置いてた訳でもないしさ。
「……ヘンなことしてないでしょうね?」
 立ち上がって、全身の砂埃をぱたぱた叩きながら、そんなことを言う。
 ヒデェ言い草だな、おい。
「あれ?ボク、眠っちゃってた?――あ、二人で全部倒してくれたんだ。ゴメンね」
「いえ、あの――」
 シェラがリィナに歩み寄って、経緯を説明する。
「ヴァイス――あんた、その血は!?」
 袖と下履きに染みた血を見て、マグナが目を丸くした。
 今ごろ気付くなよ。
「もう治ってるよ」
「あ……うん」
「呑気の眠っていたお主を庇って、ヴァイスは傷ついたのじゃぞ」
「え?」
「へっぴり腰じゃったが、ヴァイスは一生懸命戦ったのじゃ」
 余計なこと言わなくていいから、姫さん。
「まず先に言うことがあるじゃろ」
 さっき自分が言われたことを、エミリーはそのまま口にした。
 両脇に転がっている魔狼の死屍をきょろきょろと見回してから、マグナは視線を落とす。
「……ありがと」
 いえいえ、どういたしまして。
 これで、からかった分をチャラにしてくれると嬉しいんだけどね。
 それにしても、マグナが目を覚ます前に、フゥマが消えてくれてよかったよ。
 また口喧嘩でもされて、さらに機嫌が悪くなられちゃ堪んねぇからな。

378 :CC 14-11/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:20:35 ID:yw9pV+PF0
 雑魚に思わぬ苦戦を強いられちまったが、キノコの相手は俺が呪文で一手に引き受け、マグナとリィナにはそれ以外の魔物を片付けてもらうことにして、その後は同じ轍を踏むことなく、俺たちはさらに奥へと向かった。
 洞窟は、かなり広かった。
 途中、石柱が環状に立ち並んだ奇妙な場所で休憩を取ったりしながら、どれくらい奥へと進んだだろうか。
 やがて、それまで真っ暗だった横穴のような通路の先に、うっすらと光が見えた。
 道は下り勾配なので、地上に繋がっているとは考え難いんだが。
 横穴を抜けると、そこには広大な空間が開けていた。
「まぶしい」
 呟いたマグナに習って、俺も額に手を当てて庇を作る。
 実際は、夕闇程度の明るさだろう。だが、手持ちランプの灯りひとつで洞窟を歩いてきた俺達には、空間全体を満たす光が少々目に痛い。
 地底湖と言うのだろうか。床面はほとんどが地下水に占領されていた。
 内側に湾曲した壁面は遥か上まで続いていて、眩しくてマトモに見れないが、尖端に開いた穴から地上の光が降り注いでいる。
 その真下辺りに浮かんだ出島に、それはあった。
 途中で見かけたのと同じような環状列石を覆い隠すようにして、大樹が生えている。
 根元につれて幹の膨らんだ、奇妙な形をしていた。覆い茂った蔦の隙間に入り口と思しい穴が見えるので、エルフの里のそれと同じように、中に居住できる空間がありそうだ。
 大樹の周囲には、もっと小振りの木々が沢山植えられていて、枝に果実を実らせていた。
「……すごいですね」
 シェラが、ぽつりと漏らす。
 地底深くに存在する巨大な円蓋の中心で、降り注ぐ光を浴びながら静かに佇む大樹。粟立つ肌は、ひんやりとした空気のせいばかりではないだろう。
 横に恋仲の女でもいれば、さぞかしいい雰囲気になりそうな光景だが、残念ながらそんなのは居ないので、俺は島へと続く橋みたいな道に向かって歩き出した。
「洞窟の中に、こんな場所があるなんてね」
 俺の後ろを歩くマグナの口調も、少し呆気に取られていた。
「ホント、びっくりだよね。エルフの里もそうだったけど、なんか、別の世界に来ちゃった気がするよ。お話の中っていうか」
 と、リィナ。
 まったくな。おとぎ話も、ほどほどにして欲しいぜ。

379 :CC 14-12/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:24:49 ID:yw9pV+PF0
「姉上が身を隠すとしたら、きっとここなのじゃ」
 一度は小走りに俺を追い越した姫さんは、後ろを振り返って心細げな顔で立ち止まる。
 すれ違い様に、ぽんと頭を叩いてやる。エミリーは、シェラと手を繋いで後からついてきた。
「でも、あんなに魔物が出るのに、こんなところまで来れたのかしら、姫様のお姉さん」
「おそらく、『消え去り草』を使ったのじゃ」
 マグナの疑問に、エミリーはそう答えた。
「ずっと昔に異国から持ち込まれた、姿を消すことのできる不思議な草なのじゃが、里では根付かなくてな。もうほとんど残ってなかった筈じゃが、『夢見るルビー』と一緒に姉上が持ち出したのであろ」
 大樹の根元に辿り着いた俺達は、絡み合った蔦を掻き分けて、その先の部屋に足を踏み入れる。
 ひとつしかない質素な室内には、誰も見当たらなかった。
 人の気配が無いのは外からでも分かっていたが、いきなり屍体とご対面、なんてことにならずに済んで良かったぜ。おそるおそる覗き込んだエミリーも、とりあえずは胸を撫で下ろす。
 部屋の隅には埃まみれのベッドが床から生えていて、反対側には板状に壁から直接迫り出した机と、木の瘤みたいな椅子があった。
 机の上には、デカい宝石が象嵌された装飾品――おそらく『夢見るルビー』――と、一冊の書物が投げ出されていた。
 積もった塵を払って、表紙を開く。
「なにそれ?」
 マグナが身を寄せて、横から覗き込んできた。
「……日記、みたいだな」
 あんまくっつくなよ。胸が腕に当たっても怒らねぇなら、俺は構わないけどさ。
「なになに?」
「姉上のものか?」
「私も見たいです」
 全員が押し合い圧し合い集まってくる。
 ちょっと待て。分かったから。
 俺はベッドの縁に腰掛けて、膝の上に姫さんを招き寄せて日記を手渡した。
 左右にマグナとシェラが座って、リィナが後ろから俺の背中にもたれかかって肩越しに覗き込む。
 これでサラシを巻いてなきゃ最高なんだが、とか考えていると、エミリーが頁を繰りはじめた。

380 :CC 14-13/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:27:39 ID:yw9pV+PF0
『今日から、私とロビーの本当の生活がはじまります。
 これからは、大好きなロビーとずっと一緒に暮らせるんです。とても幸せ。
 ここならきっと、お母様にも見つからないし、本当に、ずっと一緒。これも、夢見るルビーのお陰です。
 人間って、どうしてあんなに見る見る年老いてしまうんだろう。
 あなたは「そんなに変わったかな」なんていつも笑うけど、出会ってから本当にどんどん変わってしまうから、私はすごくすごく怖かったんだよ。
 気がついたら、あなたがお爺さんになっていて、そして、私の前から姿を消してしまったら――
 ああ、ダメ。そんなの、耐えられません。
 だから、夢見るルビーのことを話したの。すぐにでも、今のあなたとずっと一緒に居たかったから。
 あなたが頷いてくれた時は、本当に嬉しかった。天にも昇る気持ちです。
 あなたとは夢の中でしか会えなくなってしまうけど、でも、ずっと年老いることもなく、今のあなたのまま一緒に居てくれるんです。
 あなたが少し迷ったのは、村での生活があるからだよね。
 でも、あなたが淋しくないように、今までと同じ暮らしを送れるように、あなたの村の人達も、みんな一緒に夢の中で暮らせるようにしておきました。
 だから、何も問題ありません。
 ずっとずっと、一緒に居ようね』

 本人以外には意味不明な書き込みを除くと、大体そんなような文章だった。
 なにやら薄っすら怖さを感じてしまうのは、俺が男だからだろうか。
 エミリーが頁をめくっていく。
 しばらくは、益体もないのろけ話が続いていた。
 日記と言っても、特に日付は記されておらず、思いついた時に、その時の感情を書き散らしたように見える。
 頁を繰り続けると、次第に様子が変わっていった。

381 :CC 14-14/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:28:50 ID:yw9pV+PF0
『ひどいわ、ロビー。
 どうして、いつも昨日のことを覚えてないの?
 二人であの丘の上まで遊びに行って、一緒にお弁当を食べたじゃない。
 もう何回も行ってるのに。
 いつもはじめてって言うの。
 絶対に忘れないって言ったのに。
 やっぱり覚えてない。
 私だけ、どんどん思い出が溜まっていく。
 まるで、私だけ、どんどんあなたが好きになっているみたい。
 すごく淋しいです。
 私が思い出を話すたびに、きょとんとしないで。
 ずっと一緒に居るのに。
 そうじゃないみたい。
 ううん。でも、このままでないと、あなたはたったの何十年で居なくなってしまうもの。
 私は、昔の人とは違うもの。
 あの人とは違うもの。
 諦めたりなんてしない』

 今日はあれをしたこれをした、という具体的な記述が減って、不安や愚痴が増えてきた。
 それに伴って、文中のわずかな手がかりから察するに、日記をつける間隔がどんどん開いているように思える。
 エミリーが頁を捲る音が、やけに大きく聞こえた。

382 :CC 14-15/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:31:01 ID:yw9pV+PF0
『どっちが夢かなんて、分からなくなってしまえばいいのに。
 でも、目を覚ます度に、ぴくりとも動かないあなたがいて。
 あっちが夢なんだって思い知らされる。
 こっちのあなたは、キスをしても抱き締めてくれないの。
 いつも、あんなに優しいのに。
 どうして、何も言ってくれないの。
 どうして、あなたはエルフじゃないの。
 どうして、すぐに死んじゃうの。
 一緒に思い出を作りたいよ。
 私だけ、胸の中がどんどん重くなって。
 いつもあなたは慰めてくれるけど。
 今は、何も言ってくれません。
 一緒に思い出を作れるあなたは、慰めてくれません。
 抱き締めても冷たいまま。
 なんで動いてくれないの。
 嫌だよ。
 ずっと一緒に居るのに、すごく遠くに感じます。
 どうすれば、もっとずっと一緒に居られるの。
 こたえてよ。
 ずっと考えてるのに、分からない。
 すごく遠い』

 日付が無いので正確なところは判らないが、感覚的にはかなりの日数――ひょっとしたら、年単位の時間が経過していた。
 ノアニールの村人達の時を止めたのが、『夢見るルビー』の不思議な力なのだとしたら――そしてロバートも、この地で同様の状態に置かれていたのだとしたら。
 こんな処で、ずっと独りきりで暮らして――目が覚めたら、動きもしないし物も言わない恋人がいて――眠れば恋人と会えはするが、昨日のことは何も覚えていなくて――
 ダメだ。俺だったら、もっとずっと早く我慢できなくなってるわ。
 変化が無いことを苦にしないエルフだからこそ、これだけ保った気がするぜ。
 とは言え、普通のエルフは持たない感情が、次第にアンを限界に誘いつつあった。

383 :CC 14-16/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:32:39 ID:yw9pV+PF0
『もう、目が覚めなければいいのに。
 ずっと目が覚めなければ、ずっとロビーと一緒に居られるのに。
 ロビーも、私のことを忘れたりしないのに。
 ずっと眠ってたい。
 起きるのは嫌』

 短い文章が目立つようになっていた。この生活に、かなり疲れているようだ。
 だが、何頁か後の文章は、少々様子が変わっていた。

『ロビーったら、すごいわ。
 私、ぜんぜんそんなこと思いつかなかった。
 思い切って、打ち明けてよかった。
 すごく長くなっちゃったけど、目が覚める前に全部言えてよかった。
 そうだわ。
 ずっと目が覚めなければいいんだわ。
 二人とも、ずっと目を覚まさなければ、ずっと一緒に居られるもの』

 頁を繰る姫さんの手が止まった。
 多分、俺と同じ予感を抱いてるんだと思う。
 シェラが、エミリーの手を握る。
 いつしか俺の首に巻かれたリィナの腕に、少し力が篭る。
「捲って」
 マグナが言った。

384 :CC 14-17/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:34:23 ID:yw9pV+PF0
『ロビーはベッドで寝ています。
 夢の中じゃありません。
 今も、振り返ればロビーがいます。
 今、ちゃんと触れました。
 触ると暖かくて、眠ってるから少しだけど、ずっと動いてるのが分かります。
 私は、今、起きてます。
 さっき、ロビーに、もう一度全部打ち明けました。
 そうしたら、やっぱり夢の中と同じことを言ってくれました。
 私達がずっと一緒に居るには、こうするしかありません。
 ロビーは最初から、そのつもりだったみたいです。
 悩んでたのがバカみたい。
 ロビーは最初から、ずっと私と一緒に居てくれるつもりでした。
 ああ、ロビー。
 愛してるわ』

 そして、次の頁には、それまでよりもずっと丁寧な字で、短い文章が記されていた。

『お母様。先立つ不幸をお許し下さい。
 私達は、エルフと人間。
 この世で許される愛なら、せめて天国で一緒になります。
 ずっと一緒に。 アン』

385 :CC 14-18/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:37:08 ID:yw9pV+PF0
 しばらく、沈黙が部屋を支配した。
 やがてマグナが、はぁ、と息を吐いたが、何も言わなかった。
「こんな……ホントに、これしか無かったんですか?」
 シェラが声を震わせた。
「こんなの……イヤです」
 ぎゅっとエミリーの手を握る。
「……なん……なのじゃ……?」
 エミリーは日記を手にしたまま、呆然と呟いた。
 ぴんと立ってはいないが、力無く垂れてもいない長い耳が、内心の混乱を物語っているようだった。
「よく分からぬのじゃ……」
 俺の膝の上で、エミリーの体から次第に力が抜けていくのが分かる。
「この後、どうしたんだろ……?」
 さすがに、リィナの声も沈んでいた。
 多分、二人は湖の底だろうな。
 そう思ったが、口には出せなかった。
「……今日は、ここに泊まっていくか?」
 代わりに、そんな提案を口にする。時間的には、そろそろ夜中の筈だしな。
「そうね……それでいい?」
 マグナの視線上にいるエミリーとシェラは、返事も頷きもしなかった。
「そうだね。ちょっと眠くなってきたし」
 リィナが、欠伸を噛み殺す。多分、フリだろうという気がした。
「じゃあ、そうしましょ」
 マグナは立ち上がって、ぽんとひとつ手を打った。
「泊まるにしても、ちょっと掃除しないとダメね」
 自分でもとってつけたように聞こえたのか、マグナは小さく溜息を吐いた。

386 :CC 14-19/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:40:23 ID:yw9pV+PF0
 その夜、睡魔は、なかなか俺を襲わなかった。
 もともと寝つきが悪いってのもあるが――それ以上に、寒いからだろ、これ。
 地底湖に囲まれたこの島は、地面の近くが特にひんやりと肌寒い。
 部屋がひとつしか無いという理由で、俺だけ外に追い出されたのだ。掃除は手伝わせた癖によ。ヒデェ話だぜ。
 毛布に包まって寝転がっていたのだが、かなり体が冷えてきた。眠ったら死ぬほどじゃないが、このまま安眠するのは難しそうだ。
 地上にも短い夜陰が訪れたようで、辺りはすっかり真っ暗だった。
 俺は手探りで大樹の根元に移動して、膝を丸めて背を預けた。この体勢の方が、冷たい地面に接する部分が少なくて済むし、自分の体温で暖まる分、いくらかマシだ。腰が痛くなりそうだけどな。
 靴を脱いで毛布の上から冷え切った爪先をこねていると、横手で静かに蔦を掻き分ける音がした。
 大樹からやや離れて、手持ちランプの灯りがともされる。
 シェラだった。脇に例の日記を抱えている。
「どうした?」
 なるべく驚かせないように気をつけて、小声で言ったのだが。
「ひっ!?」
 危うくランプを取り落としそうになって、シェラはわたわたしてみせた。
「あ、ヴァイスさん――ごめんなさい。起こしちゃいましたか?」
 声を聞いた限りでは、少しは元気になったようだ。
 部屋を追い出される前の記憶では、らしくもなく、まるで無口になっちまった姫さんと一緒に、相当落ち込んでたからな。
「いや、まだ寝てなかった」
 ちょうどいいや。
 俺はシェラを手で招き寄せて、毛布の端を持ち上げた。
「早く入って」
「え?あ、はい」
 地面にランプを置いて、素直に俺の隣りに座るシェラ。
「もっとくっついてくれ」
「……ひゃっ!?」
「う〜……あったけぇ」
 シェラに抱きついて暖を取る。やれやれ、助かったよ。
「ヴァイスさん――すごい冷えてますよ?」
「だろ?寒くてさ。ほら、ほっぺたもこんな」
「ひゃぅっ!?あ、あの……ちょっと」
 頬をつけると、シェラは困ったような声を出した。

387 :CC 14-20/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:43:00 ID:yw9pV+PF0
「すごい冷たい……あの、私の毛布も持ってこれたらいいんですけど、姫様と一緒に使ってたから……」
「いや、構わねぇよ。そんかし悪いけど、ちょっとだけあったまらせてくれ」
「はい、いいですよ」
 シェラは苦笑交じりに微笑んだ。
「――で、どうした。眠れないのか?」
「ええ……ちょっと……」
 シェラは、毛布の隙間から日記の端だけ出してみせる。
「もう一回、これ、読んでみたくて……」
「そっか。邪魔しちまったな」
「いえ、そんな全然」
「俺のことは気にしないで――って、俺が言うのもなんだけどさ。読んでて構わないぜ」
「はい……」
 囁く声は、沈んでいた。
 頷いたものの、視線を落とすだけで、シェラは日記を開かなかった。
 会話が途切れると、辺りは耳が痛いくらいの静寂に包まれる。
 ここには魔物も近寄らないから、物音を立てるものが何も存在しないのだ。
 耳を澄ますと、部屋の中からリィナの鼾さえ聞こえる気がした。
「やっぱり……」
「ん?」
 ポツリと漏らしたシェラの顔を覗くと、何故か慌てて首を横に振った。
「な、なんでもないです」
「なんでもないこた無いだろ」
「いえ――ホントになんでもないですから」
 ランプの炎に陰影の揺れる横顔は、とても言葉通りの表情ではなかった。
「なんか言っちまいたい事があるなら、俺でよければ聞くけど」
「いえ、いいんです」
「なんだよ、水臭ぇな。前に俺も、愚痴聞いてもらっただろ。そのお返しだよ」
「だって……私の方が、聞いてもらってます」
「……ま、話したくないなら、別にいいけどさ」
 突き放したつもりじゃなかったんだが、シェラは毛布の上からがばっと膝を抱えた。

388 :CC 14-21/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:46:44 ID:yw9pV+PF0
「も〜……ごめんなさい。ホントに、いつもウジウジしてて、ご迷惑ばっかりかけてごめんなさい」
 毛布に顔を押し付けて、くぐもった声で言う。
 本当は話してしまいたいのに、自分の喋る内容が、相手の負担になることを怖れて切り出せない。そんな感じだった。
「別に迷惑とか思ってねぇよ。まぁ――」
 その気になったら、話せよ。
 そう言いかけて、喉の奥で言葉が詰まる。
 何かが引っかかっていた。脳裏に浮かんだのは――焚き火のイメージ。
 横にはシェラじゃなくて、マグナが座っていて――ああ、そうか。
 シェラの話を聞くのはいいが、俺はまた何も答えられないんじゃないだろうか。その思いが、俺の喉を塞いだのだ。
 情けないことに、多分、そうだろうという予感がある。
 黙ってた方がいいんじゃないかとも思う。
 でもさ。
「喋っちまえよ。呑み込んでるよりは、ちっとは気分が楽になるかも知れねぇしさ」
 結局、そんな事をほざいていた。
 俺って、まるで成長してねぇのかな。
 シェラは、毛布に顔を埋めたままだった。
 けど、こいつもさ――
 毛布に埋まった金髪を、ぽんぽんと軽く叩く。
 なんで、こんなに自分に自信が無いのかね。
「やっぱり……ダメですよね」
「ん?なにが」
 くぐもった声が続ける。
「やっぱり、普通と違うと、幸せにはなれないんです」
 そういう事か。
 俺は、シェラの頭の中を推測する。
 アンとロバートには種族の壁。
 そして、シェラには性別の壁。
 その違いはあるけれど、どちらも決して乗り越えられないという意味では、共通している。
 つまりシェラは、アンに自分を重ね合わせてしまったんだろう。

389 :CC 14-22/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:52:15 ID:yw9pV+PF0
「いや、でもな……シェラだったら、いいってヤツもいると思うけどな」
 後から考えると、俺のこの台詞はいかにも考えなしだった。
 これだけ可愛ければ――単純に、そう考えてしまったのだ。
「違うんです……」
「え?」
「そういう人は、違うんです。私のことを、女の子として見てくれる訳じゃないです」
 俺の受け答えは、軽いままだった。
「そうか?そりゃ、そういうヤツも居るだろうけどさ、中には――」
「だったら!!」
 シェラは顔を上げて、俺を見た。
「だったら、ヴァイスさんは、私の事を恋人って見れますか!?普通の女の子と同じように!?」
 間抜けな俺は、ここに至ってようやく、自分がいかに適当な口を利いていたかを思い知るのだった。
 だが、思い知ったところで、俺はしどろもどろに「なんとなくこう言った方がいいんじゃないか」みたいな言葉を継ぐことしかできない。
「急に言われても、分かんねぇけど……見れない事はないんじゃねぇかな。そういう仲になれば」
 ホント、俺ってバカだな。
 シェラは俺から瞳を逸らして、また下を向いた。
「嘘です。気持ち悪いこと言って、ごめんなさい。そんな風に思ってないですから、心配しないでください」
「……そんな言い方すんなよ」
「でも、気持ち悪いですから」
 なんでもないような口振りに、却ってこいつの抱える問題の根深さを認識させられる。
 あまりにも深くて――まるで届く気がしない。
 なんて言ったらいいのか分からない。
「ごめんなさい。ヴァイスさんは、何も悪くないです。こんな事、言うつもりじゃなかったんです。ホントにごめんなさい」
「もういいって。俺の方こそ……悪かったよ。よく考えもしないで、適当なこと言っちまった。ごめんな」
「いえ、私が悪いんです――なんて、謝ってばっかりじゃ、困っちゃいますよね。ホント、いつもウジウジして、後悔ばっかり……」
 だから、言わなきゃ良かった。
 多分シェラは、その言葉を呑み込んだ。
「今度会ったら、あの人にもちゃんと伝えないと……」
「あの人?」
「フゥマって人です。あの人も、きっと勘違いしてるじゃないですか?」
 シェラは、力無く笑った。

390 :CC 14-23/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 05:57:40 ID:yw9pV+PF0
「助けてもらった時、いくらでも言う機会はあったのに……バカみたい。何を期待してるんでしょうね?」
 自嘲を浮かべる横顔を、見ていられなかった。
「シェラ……」
「あ、ダメですよ。ここで優しくしたりとか、しないでください。そういうの、いいですから」
 冗談めかした口振りは、変に無理をしている風にも聞こえなかった。
 それがなんだか、一層痛々しいんだが――安易な言動も、俺には出来なくなっていた。
「でも、ほら。その日記を持って帰れば、あの女王様から神殿の話を聞けるかも知れないだろ?それが目的で、こんなトコまで来たんだしさ」
 ようやく、そんなことしか言えない。
「そうですね……」
 ヒドく小声で囁いてから、それを掻き消すように、シェラは明るい声で言い直す。
「そうですよね!」
 多分、俺が気を遣われたのだ。
 それが分かっても――
「そうそう」
 アホみたいな相槌を打つことしかできなかった。下手な言葉を口にしたところで、余計に気を遣わせるだけな気がして。
 エルフの女王が神殿の話を知っているのか、まだ分からないし、そもそも、その神殿の話からして、シェラの望みを叶えてくれる物かどうかも分かっていないのだ。
 俺がこいつにしてやれる事って、何かあるんだろうか。
 また静寂が俺達を押し包みかけた時、再びガサリと蔦を掻き分ける音が聞こえた。
「シェラ……どこじゃ?」
 眠そうに言って、部屋から出てきたのはエミリーだった。
 小さい体を毛布に包んで、よたよたと歩いてくる。
「姫様――」
「……ズルいのじゃ」
 ぼーっと俺達を見下ろしてから、エミリーは俺の毛布に自分のそれを重ねると、脚の間に潜り込んできた。
 今の今まで寝ていたらしく、体中がぽかぽかしている。こりゃあったけぇ。
「急に居なくなったから……淋しかったのじゃぞ」
 隣りで寝ていた筈の母親が、姿を消したのに気付いた子供みたいな声を出す。
「ごめんね。やっと眠れたのに、起こしちゃいましたね」
 シェラは、優しくエミリーの頭を撫でた。

391 :CC 14-24/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 06:01:02 ID:yw9pV+PF0
「……頭がぐるぐるするのじゃ」
 半分寝言みたいな喋り方だった。
「悲しいのとか、色んなのがぐるぐる回って……なんだかよく分からぬ……」
「姫様……」
「夢を見たのじゃ」
 長い耳がとろんと垂れる。気落ちしたから、というよりは、瞼と一緒に眠くて垂れたように思えた。
「姉上が、人間の男と幸せそうに暮らしてたのじゃ……」
「……よかったですね」
 シェラの微笑みはぎこちなかったが、寝惚けているエミリーの目には入っていないだろう。
「姉上は……幸せだったのじゃろうか?」
「それは――」
 わずかに間が空いた。
 おそらく、いくつかの言葉が外に出る前に、シェラの口の中で消えた。
「私にも……分かりません」
「……ヴァイスは、どうじゃ?」
 眠くて振り向くのを諦めたように、エミリーはもぞりと身じろぎをした。
「俺にも、分かんねぇな」
 他の言葉は思い浮かばなかった。なんか、気休めを言う気分じゃなかったしな。
「そうか……人間にも、分からぬのか……わらわも、ずっと考えておったのじゃが……」
 かくん、とエミリーの頭が落ちる。
「やっぱり……姉上の気持ちは……わらわには、良く分からぬのじゃ……」
 エミリーは、小さく欠伸をした。
「じゃが……姉上のような『好き』は……よいだけのものではないのじゃな……」
 最後は、ほとんど言葉になっていなかった。
 シェラは、なんともいえない表情で、息を呑んでエミリーを見つめた。
「そうですね……」
 少しして、頭を撫でていた手を止める。
「寝ちゃったみたいです」
 細くて薄いエミリーの背中が、寝息につれて微かに俺の胸を押す。
 睡魔の次の標的に定められて、俺の口からも盛大な欠伸が漏れた。

392 :CC 14-25/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 06:03:13 ID:yw9pV+PF0
「ヴァイスさんも、眠ってていいですよ」
 シェラは、くすりと笑った。
「私、読み終わるまで隣りに居ますから。それなら、寒くないですよね?」
 手にした日記を、ちょっと上げてみせる。
「いや、でも悪ぃよ」
「全然悪くないですよ。私、これを読む為に出てきたんですから」
 そういやそうだな。
「ホントは、もういいかなって思ったんですけど……女王様に渡したら、もう読めなくなっちゃうじゃないですか。だからやっぱり、もう一回読んでおきたいんです」
「そっか」
「はい。ちゃんと姫様も見てますから、安心して眠っちゃってください。それに隣りに居れば、私も寒くないですし。独りで読んでたら、さっきのヴァイスさんみたいに凍えちゃいます」
「そうだな。んじゃ、お互いに湯たんぽ代わりってことで」
 正直、シェラの提案はありがたかった。
 寝つきが悪いもんだから、一度睡魔を取り逃がしちまうと、なかなか次が襲ってこねぇんだ、俺の場合。
「もし姫様だけじゃ足りなかったら、私も抱えちゃっていいですよ。なにしろ湯たんぽですから」
 そう言って、含み笑いを浮かべる。
 うん、落ち込んだ顔してるより、そっちのが可愛いぜ。
「いや……充分、あったけぇよ……」
 毛布は二重だし、姫さんはぽかぽかしてるし、さっきまでとは大違いだ。
 瞼を落とすと、睡魔が一気に俺を夢の世界に手繰り寄せる。
「……おやすみなさい」
 眠りに落ちる寸前に、シェラの声が聞こえた。
 髪を撫でられた気がする。
 でも、返事をしたら、この睡魔が逃げちまうんだ。
 ごめんな――

393 :CC 14-26/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 06:05:54 ID:yw9pV+PF0
 目を覚ますと、辺りはもう明るかった。
 地上に比べりゃ暗いんだろうが――俺は下を向いて、眩しさに顔を顰めた。
 何度か力を込めて瞬きすると、次第に目が慣れてくる。
 正面に、誰かの足が見えた。
「おはよう」
 顔を上げると――マグナが腕組みをして、俺を見下ろしていた。
「ああ。おはよう」
 しゃがれた声で返事をする。
 左脚と右肩がやけにダルい。
 見ると、俺の脚を枕代わりにして、姫さんがヘンな体勢で丸くなっていた。
 肩にはちょこんと頭を凭せ掛けて、シェラがすやすやと寝息を立てている。
 うん、結構な絵面だろうな、これは。
「いや、あのですね……」
 マグナが何も言わない内に、勝手に言い訳が口をついて出る。
「夜中、日記をもう一回読んでおきたいって、シェラが部屋から出てきてだな。で、寒かったから、くっついてお互いに暖まってたんだけどさ……」
 視線が上を向かない。もちろん、朝日が眩しいからだが。
「そしたら姫さんが、シェラを探しにきてだな……二人とも、そのまま寝ちまったみてぇだな」
「ふぅん。まぁ、別にいいけど」
 思ったより、普通の声だった。
「だったら、姫様とシェラは、ちゃんと部屋に戻してよ。風邪でも引いたらどうすんのよ」
 俺はいいのかよ。
「あんたは、別にどうなってもいいけど」
 ああ、そう。
「んふぁ?――あ、おぁようございまふ」
 シェラも目を覚ました。
 もごもごと口の中で朝の挨拶をして、眩しそうに目を擦る。
「みんな、おっはよー。朝ご飯にしよう!」
 少し離れたところから、リィナが声をかけてきた。
 朝っぱらから、元気溌剌だな、お前は。
「あ、はい。すぐに仕度しますね」
 少しよろけながら身を起こし、部屋に戻りかけたシェラは、立ち止まってマグナを振り返った。

394 :CC 14-27/27 ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 06:08:29 ID:yw9pV+PF0
「昨日の夜は、ヴァイスさんが寒そうにしてたから、一緒に寝ちゃいました」
「あ……そう」
 悪びれた風もなくあっさりと言われて、マグナは少し意表を突かれた顔をした。
「独りで外に追い出すなんて、やっぱり可哀想ですよ。もう少し、優しくしてあげてくださいね」
「……そうね」
 シェラが部屋に消えると、何故か俺がマグナに睨まれるのだった。
 別に、何もしてねぇよ。してやれなかったっつーか。
「悪かったわよ」
 今度は、俺が意表を突かれる番だった。
「でも、寒かったんなら、そう言えばいいじゃない。そうすれば、あたしだって……」
 唇を尖らせる。
「そうだな。次からそうするわ」
 やっぱ、腰痛ぇし。
「ヘンな姿勢で寝るからよ。ほら、薪拾うわよ」
 腰を押さえる俺に悪態を吐いて、ぷいと踵を返す。
 はいはい、と。枯れ枝もそこそこ落ちてるし、朝飯分くらいはなんとかなりそうだな。
「んにゃ……」
 お姫様は、案外寝ぼすけだった。毛布でくるんで抱え上げても、まだ目を覚まさない。
 まぁ、飯の仕度が整うまでは、寝かせといてやるか。
 眠り姫を部屋に運ぶ途中で、調理道具や食材を抱えて出てきたシェラとすれ違った。
「マグナさん、怒ってました?」
「いや、別に」
「そうですか。良かった」
 安堵と悪戯っぽさが半々の微笑みを浮かべる。
 やっぱ、すげぇ可愛いんですが。
「さっさとしなさいよ!」
 慣れた手つきで食事の仕度をするシェラの後姿を、なんとなく眺めていると、木々の間からマグナに怒鳴りつけられた。
 お前は、部屋でぐっすり眠れたからいいよな。
 足で蔦を掻き分けて、姫さんを部屋の中で寝かせてから、俺は腰を叩いて薪を拾いに向かった。

395 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/18(月) 06:16:31 ID:yw9pV+PF0
>>368,372
ありがとうです。でも、怖いよ!w >>368

タマには雑魚にも苦戦しないとね、ということで、第14話をお届けしました。
今回は「書いたはいいけど、なんか違う」で削除追加上書きを繰り返して、
結局ピントが合わなかった気がしますが、多少はマシになったと信じたい。

次回は割りかし早くお届けできると思います。
ウチはしばらくひっそりと続けときますですよ。
分量的にひっそりしてなくて、申し訳ないですが(^^ゞ

396 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 06:32:46 ID:KG1FKeKUO
GJ!です 今回初のリアル遭遇だよ! 頑張ってるヴァイスがかっこいいよ

397 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 09:27:54 ID:BdSsZQdjO
何回か支援しようと思ったんですが…、仕事中なんで中途半端な支援になってしまってすみません。

とりあえず初リアルタイムは本気で感動しました。

398 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 09:52:11 ID:LXNzJzQ9O
GJ

399 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/18(月) 20:33:27 ID:EV4s2rZNO
CC氏GJです。
今回の話は切ないなぁ。そして姫様は今回もカワユス。
関係無いけどCC氏はいつも朝方に投下するから
その時間は準備が大変でなかなかリアルタイムで見れない…

400 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/19(火) 02:07:09 ID:6GB1fTLB0
漏れも姫様抱えて寝てえええ 

401 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/19(火) 07:55:07 ID:1wXK8SNF0
ヤバい、DATがもう400KB越えてるw

私、規制回避も兼ねて、最終チェックをしながら投下するので、
リアルタイムだと、多分いらいらするんじゃないかと思います(^^ゞ
いらいらする人がなるべく出ないように、
あんまり人がいないと思われる明け方を狙ってたんですが、
リアルタイムに出くわすのは、案外嬉しいものだったりするんでしょうか?w

今回、最初は姫さまいないバージョンだったんですが、
次回でお別れなので、やっぱ出しとこうと思って連れていきました。
次々回は、個人的にすげーたのしーことになりそうなんですが、
悪乗りし過ぎの感もあるので、どうしようか悩み中だったり

402 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/19(火) 14:27:12 ID:hw8VUMJt0
CCタン待ってました。
みんなで川の字はもうすぐだ!w

悪ノリ щ(゚д゚щ)カモーンщ(゚Д゚щ)カモォォォン



403 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/19(火) 20:56:02 ID:1wXK8SNF0
じゃあ、そうしよ〜ヽ(´ー`)ノ
その前に次回が先だったw

404 :144:2006/12/20(水) 04:59:24 ID:+ti4El2U0
保守ってどれくらいでするもんなんだろ?vipじゃないしなぁ…。
板の一番下のは日曜くらいだから後1日くらいダイジョブかな?保守

405 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/20(水) 07:52:27 ID:S4meQBSf0
手が空いてるので通学前の保守。
たまに授業中でもこのスレ開いてます。


406 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/21(木) 00:35:26 ID:9yy80hH2O
保守

407 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/21(木) 03:08:42 ID:cPaOayz20
*どこからともなく ぶきみな こえが きこえる……。
ゾーマ「わっはっはっ! わしは やみのせかいをしはいする だいまおうゾーマ じゃ。
ゾーマ「このわしがいるかぎり やがて この せかいも やみに とざされるであろう。
ゾーマ「さあ くるしみ なやむがよい。 そなたらの くるしみは わしの よろこび なのじゃ。
ゾーマ「わっはっはっ……………。
ゾーマ「べ、べつに ほしゅ しにきたわけじゃ ないんだからね!

408 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/21(木) 03:21:35 ID:UYyB4zZK0
その発想はなかったwww

409 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/21(木) 23:18:16 ID:jYsrL2XO0
ツンデレゾーマ様に萌え

410 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/22(金) 00:53:39 ID:UVVNDxWw0
思ったよりかかっちゃったけど、明日くらいに投下予定。
と、あえて自分を追い込んでみたりするw

411 :名前が無い@ただの名無しのようだ:2006/12/22(金) 04:03:13 ID:m+jbAHUR0
CC氏、wktk!
ヴァイス達が登場してから、このスレがますます好きになりました。
これからどうやってバラモス退治へと至るかに興味津々。
ちなみに自分はマグナが結構好みかもしれないっす。
身近に居そうで、案外居ないタイプのようなところが尚良いw

412 :CC ◆GxR634B49A :2006/12/22(金) 09:50:45 ID:UVVNDxWw0
マグナが好みとは、ちょー嬉しいですヽ(´ー`)ノ
つか、ここツンデレスレだったw
バラモス退治は、中盤で意外な展開をお見せできるのではないかと思っとります。
私の中では、そこが最大の盛り上がりになってて、ちょっと困ってたりw

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